ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。   作:一般通過社会人

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開戦前夜

 

〜バベルの塔〜

 

件の迷宮と同じ奇人が創り上げた塔の最上階に、美の化身と一人の猪人(ボアズ)が居た。継ぎ目の無い硝子の板を隔て、美の化身…フレイヤは今日も下の街(オラリオ)を見降ろしている。

 

「フレイヤ様、お尋ねしても宜しいでしょうか?」

 

「なに、オッタル?」

 

小雨の降る夜。フレイヤの視線の先には濃霧と暗闇に包まれたダイダロス通りがあった。

 

「神ヘルメスから提供された情報について、どのようにお考えですか?」

 

「例の『異端児』の事?そうね、18階層から帰ってきたアルフリッグ達の話とも整合性が取れているし、信用して良いんじゃないかしら」

 

遡る事2日前、此処を訪れたヘルメスによってフレイヤは全ての情報を提供されていた。『異端児(ゼノス)』や『人造迷宮(クノッソス)』、そして怪物達を救わんと二人の少年が立ち上がった事も。一驚はしたものの、ただそれだけ。フレイヤの関心は変わらず一人の少年だけだった。もう一人の少年については、アストレア・ファミリアに入り、居場所を見つけた時点で既にフレイヤは諦めている。奪うのではなく、見守る。大抗争で思わぬ所で名を挙げ、魂の輝きが最高潮に達したときは正直迷ったが、ロキの目もあったので我慢した。

 

「ヘルメスも打算があって私に話したみたいだけど…」

 

「アストレア・ファミリアに看破され、全て取り上げられたようです」

 

「でしょうね。万が一ソレが無かったとしても、ロイが見破って何かしらしていたでしょう」

 

あの男神(おとこ)が彼の生存含めた情報を秘匿していた事と、イシュタルの時にされた事を考えた事を考えたら正直腹が立ったけど…自分が介入しなくてもどうやら良い感じに着地しそうだったので放置しても問題無いような気がした…いやしかし、やはりあの子で遊んでいいのは自分だけ、それに最近構ってあげられていないのだし、というか恐らくコレはあの男神(おとこ)に対する嫉妬…いやいやいや。

フレイヤは表情を変えず、指で髪の毛をくるくると巻いた。

 

「ベル・クラネルは、どうしますか?」

 

オッタルが再度口を開く。

 

「ロイが居るとはいえ、それなりに同業者と住民達から敵意を向けられ弱っている様子。このままでは……」

 

「あの子なら、立つわ」

 

猪人(ボアズ)の従者の言葉を遮り、女神は事実を告げる。欠片も疑っていない様子で。

ちょうどその時だった。不意に視線を下に下げれば、輝きを取り戻した魂が二つ、動き出していた。

――ほら。来た、と。待っていたのよ?と。美の女神は恋する少女のように微笑を漏らした。静観を破る時が来た。感慨深そうに、何処か懐かしむように、二つの魂を見つめた後、銀の瞳は一度瞼を降ろす。そして。

 

「オッタル。いいかしら?」

 

「はっ」

 

「動くわ。でも、これから言うことは無駄になるかもしれない。一体どうなるのか、私もこの先を見通せない」

 

「たとえそうだとしても、貴方の神意を叶えましょう」

 

ありがとう――と、銀の女神は笑みを返し、命じる

 

「これから言う事を、アレン達にも通達して」

 

 

 

 

〜ダイダロス通り〜

 

「僕達ロキ・ファミリアの注意をベル・クラネルもしくはロイに惹きつける…と相手は考えているだろう」

 

迷宮街の一角。ロキ・ファミリアは街全体を見渡せる……筈だった塔の上に本陣を置いていた。アイズ・ヴァレンシュタインを除く幹部を含めたほぼ全ての団員が揃っていた。

 

「ベル・クラネル、ロイを陽動に使い、武装したモンスター達はクノッソスに侵入しようとする筈だ。其処で僕達は別の場所に罠を張っておく。何だったら相手の思惑に引っ掛かったフリをしても良い。注意を割くべきは彼らとは真逆の方向だ」

 

点灯する魔石灯がキャンプさながらに団員達の顔を照らす。フィンの口から告げられる今後の展開に、銘々がざわついた。

 

「おいフィン。本当に兎野郎は怪物共と繋がっているのか?」

 

「機嫌が悪そうだな、ベート」

 

「てめぇが言うなァ!」

 

「少なくとも、ベル・クラネルは利用される立場にある。彼の意志ではあるのだろうけど…どちらにせよ、今回ベル・クラネルは僕らの味方になり得ないと考えてくれ。」

 

苛立ちを隠しきれないベートに、何処か不機嫌なリヴェリアが問う。確かにその通りだった。そして、この不機嫌はこの二人だけのものでは無い。苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる者もいれば…。

 

………………!

 

「レ、レフィーヤ、何かあったんすか?めちゃくちゃ怖いんすけど…」

 

「知らないわよ…」

 

般若のような顔を浮かべる者も居る。皆が皆、思い思いの顔を浮かべていた。

 

「ん〜…、良く分かんなかったけど、アルゴノゥト君だけに気を取られてたらダメってこと?」

 

「そうだね。アイズの弟…ロイに関してはリヴェリアに一任するけど、ティオナは今回ベル・クラネルの監視だ。くれぐれもそれを忘れないようにしてくれ」

 

「りょーか〜い」

 

「いっその事何かされる前に捕まえておけばどうですか?団長」

 

「ん〜、いくら二人が今悪者扱いされているとはいえ、何もしていないのに実力行使に出たら僕達が非難される、かな。彼等二人合わせての人脈の広さを考えると、思わない所で顰蹙を買う可能性があるのも怖い」

 

フィンがアマゾネス姉妹の質問に答えていく。その他に質問が無い事を確認すると、話題を切り替えた。

 

「何より留意しておかなければならないのは、あの黒いミノタウロス…アレの突破力は手負いだとしても油断できない」

 

「あの時はアイズが居たけど、今は居ないからね」

 

「というか、ティオネがキレてなければ早く倒せてたよね〜」

 

「あァ!?」

 

「『技』は…そこら辺の第一級よりかは大したことねー。懐に入っちまえば幾らでもやりようはある。だが…今までぶち殺してきたどのモンスターよりも、能力(ちから)が抜けてやがる」

 

「確かにあの打たれ強さは異常だったな。ティオネ達が叩いてもまるで堪えた様子を見せなかった。アイズの『風』でようやく、と言った所か…」

 

「ロイからは流石にモンスター達の情報は送られてこんかったし…ブラックライノスの亜種と言ったところかのう。アレの皮は元々硬い。それが強化されたと考えれば、何も不思議では無かろうて」

 

ティオネ、ティオナ、ベート、リヴェリア、ガレスが各々の意見を口にする。

 

「あのミノタウロスだけは此処で仕留める。放置すれば、大きな脅威になるだろう」

 

フィンは事件の全容を掴んだ今でも、アレだけは異常事態(イレギュラー)であると断定していた。ロイからの情報ではアレにも理性の類はあるとなっているが、それを差し引いても第一級冒険者四人と交戦して手負いで済ませた実力は無視できない。敵対してしまう以上、此処で排除しておく必要がある。

 

「18階層から地上…モンスターの経路から言って、敵は間違いなく『鍵』を持っている筈だ。発見したクノッソスへの入り口は全て閉鎖する」

 

小人族(パルゥム)の首領は顔を上げ、命じる。

 

「ダイダロス通りに各団員を配置し、罠を張る」

 

フィンは其処で、一呼吸置く。

 

「…だが、この場合、第三の勢力が現れるだろう」

 

「……第三の勢力?」

 

ティオナが首を傾げる。

 

「闇派閥だ」

 

「「「!!」」」

 

フィンの言葉にアマゾネス姉妹とベートは納得とも驚愕ともつかない表情を浮かべた。

 

「モンスター達に鍵が渡っている現状は、闇派閥にとっても看過できない状況の筈だ。相手は籠城したいのに、ソレを不可能にするようなアイテムが僕達に渡る可能性が高いからね」

 

「…確かになァ」

 

ベートが同意する。

 

「数時間前、アストレア・ファミリアから連絡があった。『闇派閥の対処については全面的に協力する』とね」

 

「闇派閥の対処については、ねぇ…。やっぱりモンスターはノータッチって事ですね?」

 

「ああ。恐らく彼女達は、モンスターに釣られて出てくる闇派閥の方を優先したいのだろう。モンスターはロイに任せ、自分達は闇派閥…役割分担だね」

 

「アリーゼ達にしては冷たくな〜い?」

 

「いやそうでも無い。闇派閥はロイの仇でもあるからね。恐らく、ロイをこれ以上闇派閥に関わらせたくないというのが本音じゃないかな」

 

「甘い女共だぜ。本人の意志で冒険者続けてるんだ、関わらせてこき使えば良いだろうが」

 

「ベートは更に冷たーい!」

 

「けッ…!」

 

リヴェリアが咳払いをし、場を再び引き締める。

 

「あ、あの団長。幾らアリーゼさん達が対処してくれるとは言え、限界もあるのでは?アストレア・ファミリアは少数精鋭ですし…」

 

「そうだね…ガネーシャからも応援は来るらしいが、象神の詩(ヴィヤーサ)指揮下の直属部隊だけだ。もしかしたら、『事故』は起きるかもしれない」

 

「『事故』って…」

 

「こっちに擦り付けられる可能性もあるって事だ」

 

ティオナの疑問にベートが答える。団員達の顔が一気に強張った。

 

「だ、団長、つまりそれって板挟みになるんじゃ…」

 

「ああ。従って、今回の作戦はかなり高難易度の物になる…が、皆、覚えているか?クノッソスで散った仲間の顔を。覚えているなら、僕達は不可能をも可能にし、理不尽をも打ち破る…違うか?」

 

『『はいっ!!』』

 

勇者は未だ健在であった。クノッソスで散った仲間の生命さえも利用し、団員達に猛々しい戦意を約束させる。既に彼等の瞳には曇りは存在しなかった。

十分に上昇した指揮に頷くフィンは、改めて留意事項を確認する。

 

「もし異常事態(イレギュラー)を引き起こすとしたら、間違いなくあの『二人』だ。油断はするな。彼等は僕達の想像を優に超えてくるぞ」

 

「団長、それって…」

 

「――ああ」

 

フィンは二人の冒険者の名を呼ぶ。

 

「ベル・クラネル、ロイ・ヴァレンシュタイン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜ダイダロス通り リリルカ視点〜

 

「ああもうっ……恨みますよロイ様…!【貴方の刻印(きず)は私のもの。私の刻印(きず)は私のもの】っ…!」

 

 





〜原作との差異〜

アイズ→今の所は留守番。

ロキ・ファミリア→ロイ君のせいでアイズ抜きで始める羽目になった。とは言え闇派閥はアリーゼ達が『殆ど』対処するので原作よりもちょい不利くらい。

フレイヤ・ファミリア→特に変わりなし。

闇派閥・クノッソス勢力→本作最大の被害者()。描写が無いだけで死ぬ程焦っている。主人公が暴れまくったせいでアストレア・ファミリアが生存√に突入してしまい、原作よりも早めに出陣せざるを得ない(こいつら視点ではアストレア・ファミリアと異端児達の繋がりなんて見えていないので、等級Sのファミリア二つに攻められる異端児達→あっという間に戦いが終わっちゃう!?と言う考えになる為。)

リリルカ・アーデ→本作戦最大の被害者()このあと馬車馬の如く働く事になる。可哀想なリリ…ひとえにてめぇが出来過ぎるせいだが。

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