ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。   作:一般通過社会人

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うーん纏め方がムズい。

誤字報告ありがとうございます。修正しました。




邪悪胎動 弐

〜ロイ視点〜 

 

……この神は。

 

「すごいねぇ、正義の冒険者は」

 

黒髪の短髪をぶっきらぼうに流した、何処にでも居そうな男神。だが不自然なまでの存在感を放っていた。

 

「いやぁ、急に後ろからタックルされちゃってさぁ〜。ビックリしちゃったよ」

 

…やはり、妙な男神(おとこ)だ。気だるげな見た目に反して、妙な雰囲気を纏っている。恐らく猫を被っているのだろう。怪しいヤツだ。

 

「大丈夫ですか、神様?お怪我は?」

 

「大丈夫だよ、可愛い女の子。サイフを取り戻してくれて、ありがとうね」

 

…アーディを見ても二つ名どころか名前ですら呼ばない。俺は最近レベルアップしたばかりだからまだしも、アーディはLv.3になって俺よりも長い。加えてあの、ガネーシャ・ファミリア団長、シャクティ・ヴァルマの妹。かなりの有名人で、似顔絵も主にファンクラブのせいで多く出回ってる。それを見ても眉一つ動かさない…下界に降りたばかりか、あるいは誤魔化しているか…。

 

「俺の名前はエレン。君達は?そっちの子は【ガネーシャ・ファミリア】って聞こえたけど…」

 

「私はアリーゼ・ローヴェル!【アストレア・ファミリア】の団長よ!」

 

「……リオンと名乗らせてもらってます。アリーゼと同じく、【アストレア・ファミリア】です」

 

「ロイだ。以下同文」

 

胡散臭い神だ。善神か、それとも邪神か?どちらにせよ碌な奴ではあるまい。フルネームを明かすのはリスクがあり過ぎるな。

 

「【アストレア・ファミリア】…正義の女神の眷属……」

 

俺達の自己紹介を聞き、何かを考えるかのように此方の顔を覗いてくるエレン。そして暫くすると、唇の端を吊り上げた。

 

「…なるほど、な〜るほど。まさに『正義の使者』だったわけだ。いいね、実に良い。俺達のこの出会いは」

 

「……?何を言っているのですか?」

 

リオンが怪訝そうに顔を顰める。気付いた…訳でもないな、怪しみ始めたってところか。

 

「なに、君達に助けてもらって良かったって話さ。繰り返すけど、ああ、見事だ。本当にお見事」

 

「何がお見事って、みんなが『正義』を探してるって事。単なる勧善懲悪じゃない落としどころ、本当に感動しちゃったよ。……特にエルフの君、面白いなぁ」

 

「私が……?」

 

「ああ。潔癖で高潔、だが未だに確たる答えは無く。まるで雛鳥だ。正しくありたいと言う心は誰よりも純粋なのに」

 

妙に周りの者を惹きつけるような声色に、下界の住人達は聞き入っていた。茜色に染まる空に、滔々と語られる言葉が響く。

 

「こんな時代だからこそ、君がどう考え、どう染(・)ま(・)る(・)のか。ああ、興味がありまくりだよ」

 

リオンをじっと見つめ、そしてこちらを向く。

 

「そして君。中々面白い子だね。正義の女神の眷属だと言うのに、余りにも中庸的だ」

 

「俺?……まあ、中庸的なのは認めるが」

 

実際アストレア・ファミリアにはただ神の恩恵(ファルナ)目的で入っただけだしな。正義や正しさを求めて入ったんじゃない。

 

「だいぶ染まってるねぇ…正義にも、悪にも。魂に色を着けるとすれば……君は中庸的なのに灰色じゃない、白と黒がハッキリと別れた…マーブルだ」

 

「言い得て妙だな。気に入った」

 

マーブル模様か。確かにそうかもしれない。

 

「……待ちなさい、彼はそのようなふしだらな色はしていない。確かに信用ならない所はありますが…彼は尊敬に値するヒューマンだ」

 

「ふしだらって…お前自分で人の傷抉ってるの気付いてるか?」

 

「………はっ!?」

 

だからポンコツって言われるんだぞお前。俺じゃなかったら殴ってた。そのとき、団長が身を翻した。

 

「何だかいやらしいわ、その言い方!二人とも離れて!きっとこの神様も『フヒヒ』とか言い出す変態よ!」

 

「あ、やめて、本気で傷つくから止めて!俺そーいうモブ神とは違うからぁん!」

 

「神様は皆そう言いますよね!」

 

「ぐふっ!イイ笑顔で腹を抉るコークスクリュー・ブロー!ボーイッシュ元気っ子ちゃんだと思ってたけど、さては天然だな!」

 

ウチの愚姉よりはマシだろ。

 

両腕を広げて俺達を庇う団長に、満面の笑みで追撃するアーディ。そのやり取りの間に、この男神のただならぬ気配はすっかり霧散していた。

 

「……と、もうこんな時間か。もっと君達と騒ぎたかったけど、そろそろ行かせてもらうよ。用事もあるしね」

 

「……お一人で大丈夫ですか?お付きの眷属もいらっしゃらないようですし、せめて送迎を…」

 

リオンの申し出に、「そこまでしてもらったら悪いよ」と笑みを返してくる。……うーん。

 

「じゃあ――またね」

 

軽く片手を挙げ、その神は去っていった。石畳に伸びる影が、建物の影に呑まれていく。

 

「神々は一柱(ひとり)で行動するな、ってギルドは言っているのに。ま、自由神ばっかりだからどの神もほっつき歩いているけど」

 

「神々など、えてしてそのような存在だと分かっていますが…それにしても捉えどころのない神だった」

 

「自由過ぎるのはウチの主神もだろ…今日もまた孤児院だろ?」

 

「アストレア様は…!アレです、その…慈善活動ですから!」

 

「護衛は?」

 

「………」

 

やっぱりか。あの人も神だからなぁ…。

 

「…まあ兎も角、あの2ndヘルメスは置いておいてだな。何か伝えたい事があるんだろ、アーディ?」

 

「……あ、そうそう。リオン」

 

リオン関連と言えば…『枝』か?

 

「君の里の『大聖樹の枝』、やっぱりオラリオに出回ってるみたい。品は押収できなかったけど、逮捕した商人たちが吐いたよ」

 

「……!本当ですか……?」

 

「うん。君の里に限らず何だけど、闇派閥が仕入れて捌いてるみたいなんだ…エルフの里を荒らして」

 

「成る程?だからか。だからあの悪人共の違法市(ダーク・マーケット)にもエルフが沢山居たのか」

 

「なっ……ロイ、貴方が潰しに行ったのは魔石製品の取引現場では…?」

 

「いやそれがな?奴等小規模だったが悪人共の違法市(ダーク・マーケット)も開いていやがった。旅の途中で襲われたのか、それとも金目的で近づいて騙されたのかは知らないが…人身売買もしていたよ」

 

「同胞が……ロイ、何と感謝したら良いか…」

 

「今回は本当に偶然だ、お前に感謝される筋合いはねぇよ。大聖樹の枝は無かったが…」

 

「ロイが昨夜潰してくれたマーケットにエルフが居たって事は…そう言う事だろうね。里を出たばかりのエルフを襲って、枝と金目の物だけ奪って本人は奴隷にして人身売買…酷い話だよ、全く」

 

アーディが憤る。本当に酷い話だ。たぶん再起不能になったエルフも居るだろうな。一応ポーションは飲ませたが…。

 

「彼、彼女達にも回復次第話を聞くとして…ごめんねリオン、君の里の枝を取り戻せなくて」

 

「……いえ、私はもう故郷の森とは縁を切った。同胞や里がどうなろうと、思う所はありません……」

 

「思う所がない奴は同胞とは言え他のエルフの人身売買に関してとやかく言わねぇよ。何言ってんだお前」

 

「本当よ!そんな顔で良く言うわ、しっかり感傷的になってるじゃない!」

 

「リオンは優しいから。仲間思いなんだよ!」

 

「……///」

 

そんな顔を赤くされても。

 

「それじゃ、私行くね!リオン、君の里の枝、必ず取り戻すからね〜っ!」

 

「アーディ!私は本当に気にしては――……言ってしまった…」

 

「アーディの厚意、素直に受け取っておきましょ?誰かを笑顔にしたいって思い、絶対に間違ってないんだから!」

 

「……はい」

 

明るく、誰にでも優しいアーディ。俺には無い物を持っている。その思いは、何よりも尊いのかもしれない。

 

「さ、巡回の続きよ!アーディ達と一緒に、必ず都市を平和に…」

 

「アリーゼ」

 

「?」

 

ライラさんだ。屋根伝いに駆けてきたらしい。

 

「あら、ライラ? そっちの巡回はもう終わったの?」

 

「ああ、終わった。終わって、『別件』だ。「きな臭え動きがあるから網を張れ」だとよ」

 

その『指令』を伝えるためにこちらを探していたのだと察し、リオンの眼差しが鋭くなる。

 

「指示は誰から?」

 

「決まってんだろ」

 

意識を切り替えるリオン達を前に、ライラさんは唇をつり上げた。

 

「アタシの愛しの『勇者』からだ」

 

 

 

〜黄昏の館 ロキ・ファミリア視点〜

 

「団長、【ガネーシャ・ファミリア】との定期連絡、行ってきました!詳細、この羊皮紙にまとめてあります!」

 

若い少年の声が部屋に響く。

オラリオ真北に位置する 【ロキ・ファミリア】 本拠『黄昏の館』その執務室にて、小人族のフィンは報告書を受け取った。

 

「あぁ、ご苦労。ありがとう、ラウル」

 

「いえ! じゃあ自分はこれから、ノアールさん達と巡回行ってくるっす!」

 

団長の労いに、団員のラウルは年相応の笑顔を返した。そのまま執務室を後にしようとするが…。

 

「ラウル。君は今年、いくつになった?」

 

「………? 十四っすけど……?」

 

それを聞いたフィンは、夜の湖面を彷佛とさせる碧眼を僅かに細め、すぐに笑みを作った。

 

「そうか……いや、何でもない。呼び止めて悪かったね、行ってくれ」

 

「はぁ……失礼します」

 

首を傾げながらラウルが今度こそ退室すると、その場にいる長身のエルフが口を開いた。

 

「フィン、何故ラウルの年齢を?」

 

「他意はないよ。ただ…少し麻痺していると、ふと思ってしまった。自分達の頭が」

 

美しい背翠色の長髪を背に流す王族、リヴェリアの問いかけに、フィンはかけている椅子に寄りかかって、ギシリと重い音を鳴らした。

 

「息をするように人が死に、 人が死に、悲鳴が絶えることのない無法地帯に、成人もしていない子供まで駆り出さなくてはならない、この状況が」

 

「致し方ない…と済ませていい問題では確かにないだろう。だが、ラウルはアキと同じく裏方だ。戦わせている訳では無い」

 

戦うことに明け暮れた冒険者の顔で、この暗黒期(じだい)を評するフィンの真意を正しく理解し、リヴェリアは事実かつ、気休めの言葉をのべた。

 

「……それに、ラウルは14、最年少ではない。戦闘もこなす冒険者としての最年少は…」

 

「……ロイ、か」

 

ロイ・ヴァレンシュタイン。アイズの弟で、齢六歳にして茨の道を選び、自分達の元から離れていってしまった子供。リヴェリアは眉を顰めた。

 

「六歳だ…六歳だぞ?そんな子供が…!」

 

「アイズもアイズで今日もダンジョンに行っておるしのう」

 

「アイズの場合はモンスターに当たりに行っているだけじゃないかな?」

 

「アキ達を置いていかなければ良いが…」

 

「無理じゃろうなぁ…。そろそろアキに泣き付かれるのも覚悟せねばなるまいて」

 

リヴェリアとて第一級冒険者。常に面倒を見れる訳では無い。忙しい時はエルフの団員か、アナキティのような比較的歳の近い団員を目付役として複数人付いて行かせる事もある。が、其処はアイズ。結果はお察しである。

 

「ロイの改宗(コンバージョン)先である【アストレア・ファミリア】の彼女達もラウルと同じ年齢だった筈だよ、リヴェリア」

 

「…あの娘達は、特別だ。優れた戦闘経験を持ち、何より信念を持っている。この先も、必ず台頭してくるだろう」

 

Lv.5――――現オラリオ最強戦力の一角であるリヴェリアをして『特別』と言わしめるのはリュー達だ。先日も『正義』の名の下に工場襲撃を防いだ【アストレア・ファミリア】の活躍は、民衆の希望として広まりつつある。

頭角を現している今よりもさらなる躍進を遂げることを、王族(ハイエルフ)の王女は確信していた。

 

「そうだな。ロイを含め、あの娘っ子共は希望の一つに違いない。秀でた後進、優れた冒険者を遊ばせておく余裕は、今のオラリオには無いからのぅ」

 

蓄えた髭を扱くのは、この部屋に居るロキ・ファミリア三傑の最後の一人、ドワーフのガレスだ。

破格の前衛(ウォール)として知られる第一級冒険者は、年季の入った戦士の笑みを見せる。

 

「ラウル自身もそんな冒険者になる為にオラリオに来たのだからな。まぁ、当時はえらい時期に来てしまったと青褪めておったが」

 

「あったね、そんな事も」

 

思い出し笑い……否、思い出し苦笑いを浮かべるフィンに対して、ガレスは持論をぶつけた。

 

「それにフィン、お主がロキと【ファミリア】を立ち上げたのも似たような年頃だったろうに。戦士に年齢は問われん……いや、それにしても一桁は色々とマズいが」

 

「あはは…僕の時とは状況が違うよ、ガレス。でも、そうだな…今は戦士の教えに寄りかかって、感傷なんてものは殺しておこう」

 

苦笑を続けるフィンは、ガレス達の言葉を借りて、悲嘆の苗を断ち切る。三人は顔を見合わせて笑い合い、すぐに戦う者の顔を纏い直した。

 

「さて、【ガネーシャ・ファミリア】の定期連絡の方だが……」

 

執務机の上に置いておいた数枚の羊皮紙を手に取り、フィンは視線を走らせる。共通語(コイネー)で綴られた内容を一字一句取りこぼさず追っていく瞳に、ガレスが疑問を投げかけた。

 

「此処の所、やけに密にシャクティ達と情報を交換しとるな。何か気になる事でもあるのか?」

 

「街から悲鳴は確かに消えていない。が、それでも八年前の『暗黒期』初期と比べれば、遥かに持ち直した。混沌(イヴィルス)の勢力を削ぎ続け、ギルド傘下の秩序側(われわれ)が優勢……現状、不安の種は無いように思えるが」

 

ガレスの意見にリヴェリアが追従する。フィンは報告書に目を落としたまま、答えた。

 

「最近の敵の動きが気になる。今まで通り都市の東西南北、あらゆる区画を無差別に攻撃しているように見えるが…明らかに自分達の『意図』を隠そうとしている。そしてそれに僕達が気づくと分かった上で、『思う存分探れ』と嘲笑っている」

 

「敵の参謀(ヴァレッタ)のやり口か?」

 

「十中八九。見破られる筈が無いと驕っているのか、見破られても問題無いと思っているのか…」

 

挙がった名は、闇派閥(イヴィルス)の中でも特に危険視されている幹部のモノ。ギルドの要注意人物一覧(ブラックリスト)に名を連ね、観測可能な範囲でもっとも冒険者を殺害しているであろう女のモノ。三日月の如く唇を吊り上げる女の顔を思い浮かべながら、フィンはガレスの推察に同意を示す。

 

「……シャクティ達の連絡によると、襲撃された工場からは魔石製品の『撃鉄装置』が奪われていたらしい」

 

「また訳の分からぬ物を…魔道具(マジックアイテム)の材料にもならんだろうに」

 

「悪人共の違法市(ダーク・マーケット)の方は?エルフとしての個人的な感情を抜きにしても、『大聖樹の枝』が取引されているのは気になる」

 

フィンが報告書を読み上げると、ガレスはしかめっ面を浮かべ、リヴェリアは翡翠の双眸を細めて問題提起をする。

 

「それに関連して…昨夜、ロイが潰した闇派閥の取引現場で、大量の火炎石が見つかったそうだ」

 

「……火炎石に、撃鉄装置か」

 

「おいフィン、闇派閥の奴等はもしや…」

 

「ああ。恐らく、闇派閥が作ろうとしているのは……『爆弾』だろうね」

 

火炎石は44階層に出現する岩石のゴーレムのようなモンスター、フレイムロックのドロップアイテムである。その件の火炎石は強い発火性と爆発性を持ち、冒険者の間では投擲などで即席の手榴弾として使われる事も少なくない。それに撃鉄装置をつければ…完全に爆弾としての機能を持った魔道具になるだろう。

 

「投擲か、それとも矢に括り付けるか…」

 

「地雷、という線もあるのう」

 

「アレを喰らえば恩恵持ちだとしてもダメージは免れない。各派閥に対策を呼びかけるとしよう。あと、それと紐付いて、じゃないけど…都市外にもきな臭い動きがある。恐らくは闇派閥に加担する組織の仕業だろう」

 

他方、敵側の『もう一つの不穏な動き』にもフィンは目を向けていた。

 

「どうする?当然だが、全てに手を回す事はできない」

 

「……都市外の調査は【ヘルメス・ファミリア】に任せる。僕達は――」

 

警戒すべき敵の動向が点在する中、リヴェリアに指示を求められたフィンは、一考を挟んで方針を打ち出そうとした。

 

「話し合いの中すまんのやけど、ダンジョンでまた『冒険者狩り』が出たらしいでー」

 

が、そこで、主神のロキが一報とともに執務室にやって来た。

 

「またか?地上でも地下でもことごとく・・・・・・全く見境のない連中よ。これも嫌がらせの一環か?」

 

途切れない闇派閥(イヴィルス)の悪さに、ガレスが顔をしかめる。リヴェリアは、壁に立てかけてある長杖に手を伸ばした。

 

「フィン、向かうか?」

 

「ああ、そっちは必要ない」

 

しかし、フィンはあっさりそれを止める。淡々とした口振りから利発さと、そして先見の識を窺わせながら、言った。

 

「もう来る頃だと思っていた。――『彼女達』に任せてある」

 

 

〜アストレア・ファミリア視点〜

 

鮮やかに、そして激しく血の飛沫が飛ぶ。

 

「うあああああああああっ!?」

 

迷宮(ダンジョン)の中でありながら美しい青空が広がる楽園で、余りにも似つかわしく無い殺戮の腐臭が蔓延していた。

 

「い…闇派閥(イヴィルス)だぁぁぁ!?」

 

「『冒険者狩り』!?ちくしょう、おちおち迷宮も探索させてくれねぇのか、アイツらは!?」

 

「に、逃げろぉぉぉぉお!?」

 

地面に瞬く間に広がっていく血溜まりに、Lv.2の上級冒険者達が悲鳴を連ねて逃げ惑う。

場所はダンジョン18階層。モンスターが生まれない安全階層(セーフティポイント)であり、『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』とも呼ばれる所に、ひと際異彩を放つくすんだ血の色をした髪の男が立っていた。

 

「おやおや?逃げるのですか?亡骸(なかま)を置いて?本当に?それでよろしいので?」

 

左右に闇派閥(イヴィルス)の兵を従え、歌うように、あるいは悲しむように逃げ惑う冒険者達に問いを投げかける。

右に持つ短剣は――余(・)り(・)に(・)も(・)人(・)を(・)斬(・)り(・)す(・)ぎ(・)て(・)赤黒く変色した事を除けば、何の変哲もない普通の短剣だった。

男は足元に転がる死体の側を歩み、まだ息のある冒険者の首をし(・)っ(・)か(・)り(・)踏(・)み(・)折(・)り(・)な(・)が(・)ら(・)――口端を裂いて加虐の笑みを描いた。

 

「そこは戦うべきでしょう!『英雄』とは言えないまでも、せめて『冒険者』の名に恥じぬように!」

 

男の正体は『残虐』であった。

 

あるいは『異端』だった。 

 

そして「強者」にして『狂者」であった。

血の海の中でなお双眼を輝かせ、嘆き悲しむ素振りを見せながら命を踏みにじる、「悪」の象徴の一つだった。

 

男の名は――ヴィトーと言った。

 

「それができないと言うのなら……失望する私を、どうか血の宴で楽しませてもらいたい!」 

 

「う、うわぁああああああああ!??」

 

歌劇のごとく振る舞い、地を蹴りつける。 

血に飢えた悪魔のごとく迫りくる男の影に、冒険者達が絶望を叫んだ瞬間。 

 

「「させるか、阿呆」」  

 

「!」

 

鋭い刀と戦鎚の一閃が、血濡れの短剣と男の身体を弾き飛ばす。 

 

「まーた当たったぜ、フィンの読み!どうなってんだアイツの頭!マジで結婚してやってもいいぜ、一族の勇者様ぁ!」 

 

「超絶無理に決まっています、ゲスな笑みを浮かべる狡い小人族などと。――――あとロイの教育に悪い。うるさいから黙れ」 

 

「……」

 

戦鎚を咄嗟に防御した男が素早く飛び退く中、駆けつけたライラが歓呼し、先行して切り込んだ輝夜が猫を被ると見せかけて痛烈に吐いた。

 

艶やかな戦用着物(バトル・クロス)を纏う彼女の眼はライラを見ず、正面の敵を射抜いたままだ。

 

「ここは私達に任せて、早く逃げて!」

 

「す、すまねえ!」 

 

急行した最後の一人、アリーゼの声に従い、冒険者達は階層の西方へ向かった。

 

「はて、貴方がたは……?」

 

「非道の行いを見過ごすわけがない、正義の味方よ!」 

 

目の前に立ちはだかる三人の少女と一人の男児(おのこ)に、ヴィトーが首を傾げる。

 

アリーゼが堂々と『正義』の名をかざすと、

 

「正義……? あぁ、【アストレア・ファミリア】の」 

 

男は納得した風に頷き、柔和で、それでいて侮蔑を込めた笑みを浮かべた。 

 

「なるほど、なるほど。実に小賢しく、叶いもしない、ご大層な信条を掲げる愚人の方々でしたか」  

 

「安心しろ。我々が愚物なら、貴様等は屑だ。唾を吐きかけてやった後、この愚かな足で踏み潰してやる」  

 

「ふふっ…………! 正義の味方だというのに、随分と口が悪く、容赦がない。聞いていたより面白い方々のようだ」 

 

本性を隠しもしない輝夜が、まさに男の口もとに唾を吐きかねない勢いで言い返す。

  

ヴィトーは何がおかしいのか、何度も肩を揺すった。 

 

特徴のない男だ。捉えどころがない。僅かな隙さえも。 

 

相対する輝夜は油断なく男を見据え、心中で呟く。

 

その目は狐のように細く、唇には常に上辺だけの笑みが張り付いている。武器は短剣一振りのみ。身に纏う黒の戦闘衣(バトル・クロス)はいっそ神官が着るような祭服に見えなくもない。 

 

そこまで考えて、輝夜は笑えない冗談だと胸中で吐き捨てた。 

 

教会の奥で目の前の男に懺悔したところで、返ってくるのは罪を愉しむ嘲笑と、名ばかりの救済を名乗る凶刃だけだろう。 

 

「………どうして『冒険者狩り』なんてするの?お金や魔石が目的?」

 

今も地面に横たわる死体に目を伏せながら、アリーゼが問いかける。 

それに対し、ヴィトーは心底不思議そうに、問い返していた。 

 

「何故、と問われても……困りますねえ。貴方たちは美しいモノを観るのに、理由を必要としますか?」 

 

「あぁ?」

 

訝しむライラを他所に、ヴィトーは大仰な振る舞いで自らの頭上を、そして地面を示す。 

 

「澄みわたる青空を仰ぎたい。色とりどりに咲く花々を愛でたい。私の欲望は、それと同じ。この不完全な世界で……最も鮮かな血というものが見たいだけ」

 

不気味な笑みを浮かべる男に、輝夜は多大な嫌悪とともに、その言葉を吐いた。

 

「……破綻者だな」

 

 

「『破綻者』…………嗚呼、実に歪で、心を打つ響きです。ええ、ええ、きっと永劫私に付き纏う愛しき称号なのでしょう!」

 

笑う。笑う。 愉快極まりないと言わんばかりに、道化を彷彿とさせながら、男は嗤う。その狂気的な笑みはその場に居る者達の不快感を煽った。

 

「……ああ、それと…貴方」

 

「……また俺か。今日は呼ばれる事が多いな」

 

輝く銀髪とワインレッドの髪が対峙した。

 

 

〜ロイ視点〜

 

「……ああ、それと…貴方」

 

「……また俺か。今日は呼ばれる事が多いな」

 

目の前の破綻者(イカれ野郎)と言葉を交わす。正直話したくないが、話しかけられてしまったからには仕方ない。

 

「彼女達から話は聞いていますよ。いやぁ、今日は本当に運が良い。次世代の英雄候補にお会いできるとは…!」

 

「……あぁ、あのドブカス共か」

 

あのドブカス姉妹にはもうウンザリだ。俺の行くとこ行くとこ付いてきやがって。厄介ファン(ストーカー)って奴だろもう。

 

「それと同時に…安心しました。コレで『彼女達』に殺されないで済みます」

 

「…………あ?」

 

その言い草は。

 

「久しぶりね!ロイ!」

 

「見つけたわ!ロイ!」

 

その場が凍り付く。団長も輝夜さんもライラさんも、全ての人物が驚愕の視線を向けていた。

 

「相変わらず素敵!さすが私達の旦那様よ!でも、だからこそ…!」

 

「その綺麗な顔も、髪も!全てグチャグチャにして…!」

 

武器を抜く。もはや返事(ことば)は要らず。

 

 

「「殺して殺して(あいしてあいして)ブッ殺し(あいし)抜きたいの!!!」」

 

「やってみろや、クソ妖精(エルフ)っ!!!」

 

戦乱の火蓋が切られた。

 

 

 

 




ロイ・ヴァレンシュタイン(ろくさい)
厄介な女全自動引っ掛けマッスィーン。最早呪いの類。愛ほど歪んだ呪いは無いよ(冗談抜き)。女難の相は恐らく生涯に渡って消える事は無いだろう。

リヴェリア
悩めるマッマ。相変わらず姉弟の仲を何とか修復しようと模索中。もうロイには危ないことして欲しくない(判断が遅い!!)

ディース姉妹
因縁の相手(因縁の内容はもう少し先で)。ロイ君が会った瞬間に殴りかかる唯一のエルフ。姉妹からは当然ロイ君の事を殺しに来てるが、ロイ君自身も周りの制止が無ければ殺そうとする。それが良くなかったんだけどね()

ゴジョウノ・輝夜
師匠兼姉兼保護者兼仲間。ロイ君に向けてる感情は色々と属性過多。周り(一部の神々とアストレア・ファミリア)によれば、師匠よりも師匠してるし(リヴェリア「!?」)、姉よりも姉してるし(アイズ「!?」)、保護者よりも保護者してるし(ロキ、リヴェリア「!?!?」)、仲間よりも仲間してるらしい。だいぶロイ君にお熱。

ライラ
まだフィンにお熱。が、元々色々気にかけていた弟分なので常に頭の片隅に置くくらいには意識している。ロイ君に色々とずる賢い事を教えまくった。ロイ君の口の悪さの七割はライラと輝夜のせい。残り三割?ロキのせいに決まってんだろ。
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