ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。   作:一般通過社会人

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邪悪胎動はこれまでにします。原作ではもうちょい続きますが、次回から別タイトルで…。



邪悪胎動 伍

〜闇派閥視点〜

 

「ギルドの『内通者』から連絡が入った」

 

それは。

 

ギルドでの対策会議の5時間後の事。とある廃墟にて、並の冒険者ならば震え上がるような面々が集まっていた。

 

「敵の『掃討作戦』は…三日後」

 

伝言紙(メモ)をそっと閉じた瞬間、オリヴァスの口が吊り上がった。

 

其処は闇派閥の隠れ家。夜の闇より黒く、絵の具の黒より純朴な暗闇が広がっていた。

 

「ハハッ!でかしたぜあの女(アバズレ)!闇派閥の『信者』様々ってなあ!」

 

オリヴァスの隣で膝を打つのはLv.5。【殺帝(アラクニア)】の二つ名を持つ女、ヴァレッタ・グレーデ。

 

自分の策が結実した事を知らされ、不適な笑みを浮かべていた。

 

「敵の懐にもぐり込ませてから何の報告もさせねえ、一度っきりの『密告』。五年前から仕込んでた甲斐があったぜ」

 

「フフ、問者を放ってきながら今日まで連絡を絶っておくとは……普段は型破りそのものの癖に、随分と辛抱強い一面もお持ちですね」

 

幹部であり闇派閥の指揮官……否、『指揮者』でもある女の喜びに、感嘆するのはヴィトー。普段は『顔無し』と呼ばれている特徴のない相貌の中でうっすらと片瞼を開き、その眼の奥を光らせた。

 

「ば〜か。ここぞって時に切るから「切り札」っつうんだよ。ましてや、フィンはもとより神々を出し抜くんだ、怪しい真似して目をつけられた時点で、嘘なんて見抜かれる。なら目につかねえほどコソコソさせるしかねえだろう。その時までな」 

 

事実、頻繁に情報をやり取りするならフィン、もしくは怪しく思ったロイマン等に見抜かれていただろう。だがそれを考慮したヴァレッタは敢えて一切連絡を取らず、それでいて指示も出さぬ一方通行の連絡網を構築する事で、周囲の監視の目を掻い潜る事に成功したのだった。

 

そして、美酒に酔うように語っていたヴァレッタはそこで一転、鋭い眼差しをヴィトーに向ける。 

 

「それよりも『顔無し』、てめえの主神はどこに行った?『計画』の発起人だろうが。大事な会議に発起人が不在ってどういう事だバカ!」 

 

彼女が言及するのは『邪神』の一柱だった。 

 

それは彼女をして驚愕させ、震慄させ、興奮させた、『邪悪の化身』そのものに違いない存在だった。 

 

己の主神の所在を尋ねられたヴィトーは、肩を竦める。 

 

「さてさて、あの方も御多分に漏れず神なので。今も一人でふらついているのではないでしょうか?」 

 

「ちッ、黒幕は黒幕らしく玉座の上で踏ん反り返ってやがれ。……まぁいい」 

 

舌打ち混じりに、しかし笑みを浮かべるヴァレッタはそこで、奥の闇へと呼びかけた。 

 

「―――つぅーわけだ。「宴」は三日後。準備をしといてくれよ?『本当の切り札』さん方よぉ」  

 

闇に浮かび上がるは、ローブを纏った二つの影。 

 

一つは見上げるほどの総軀を誇る男。 

 

もう一つは、長い灰髪の女。 

 

紛れもなく、冒険者達が警戒を払う謎の人物達だった。 

 

「細かいことは関知せん。その時になったら呼べ。どうせこの身は戦場でしか役に立たん」 

 

ヴァレッタの呼びかけに、口を開いたのは男の方だった。 

 

その重々しい声一つとっても、腹の底に響くかのような威圧感。 

 

はっきりと次元の異なる存在に、ヴィトーは片眼を開き、妖しく笑う。 

 

「フフフ、百を語らず一刀のみで存在を証明する戦餓鬼……恐ろしい御仁がいたものです」 

 

「てめえ等がいねえと話にならねえからなぁ。あの出鱈目な猪野郎と、道化の連中をブッ潰して――」 

 

そしてヴィトーの後に、ヴァレッタが機嫌の良さを滲ませていると、  

 

「五月蠅い」 

 

全てを断ち切る静かな声に、遮られた。 

 

「……は?」 

 

「耳障りを通り越して汚泥そのものだ、貴様の声は。気分が悪い。吐き気がする。悪臭さえ感じる。すぐに口を閉じろ」 

 

『指揮者』であるヴァレッタに対し、凄まじい暴言が飛び出す。百を語らず一言のみで相手を罵倒する灰髪の女…協調性は其処に無ければ無いようだった。

 

流石に度が過ぎる言い様に面食らうヴァレッタに、ローブの女の侮蔑は止まらない。

 

害蟲にでも向けるような忌避の指弾に、瞬く間にヴァレッタの顔が真っ赤に染まった。

 

「こ、この女ぁ……!」  

 

「我々は粛々と利用されてやる。ならば貴様等も、黙って利用されろ」 

 

憤激するヴァレッタに対し、女の要求は一つ。  

 

『余計な真似も、余計な面倒も増やすな』 

 

決して群れ合うつもりなどないと言外に告げる『絶対強者』の真意に、ヴァレッタは歯を噛みながら睨みを利かせる。 

 

飛びかかっても八つ裂きにされるのは自分の方だと確信し、胸中で冷や汗を流しながら。 

 

「その辺りにしておけ。我々は既に同志。目的はそれぞれ違えど、辿る過程を同じくする者なのだから」 

 

協力もままならない『悪』の者達に、笑みを浮かべて仲裁するのはオリヴァスだった。 

 

「不正(アパテー)、不止(アレクト)の派閥にも準備をさせている。あの狂戦士どもも舞い狂うというのなら、都市が災禍の炎に包まれることはもはや必定……」  

 

くすんだ白髪を揺らすオリヴァスは、歓喜さえ滲ませながら、野望の成就を確信した………

 

「ついに我が主神の念願叶う時。オラリオの崩壊はすぐそこだ………と、言いたい所だが」

 

かに思えたが。

 

「あ?」

 

「例の小僧……【未完の新星(リトル・ルーキー)】の方はどうなっている?」

 

「…っち!」

 

ヴァレッタが盛大な舌打ちをする。眉間に皺を寄せ、悪党にしてはやけに整った顔を歪ませた。

 

「先日、ディース姉妹と共に下(・)見(・)兼嫌がらせに赴きましたが…結果は報告の通りです。傷一つ与えられない始末でした」

 

「『宴』の前だ、無理はするなとは言ったが……アイツらLv.5だろうが!Lv.3相手に傷一つ付けられずに帰ってくるとか何やってんだ!?あの姉妹はよ!!」

 

「今回合わせて3回目…いえ、あの姉妹の事です、報告していない戦闘もありそうですからねぇ…彼も慣れてしまったのでしょう」

 

「他人事みてぇに言うなよ『顔無し』!アイツのせいで必要な物資集めるのにどれ程苦労したと思ってんだ!!」

 

目を細めて他人事の様に言い放つヴィトーに、ヴァレッタが罵声を浴びせる。

 

「っち!!苛つくぜあのクソガキ…突然ポッと現れて暴れ散らかしやがって。火炎石もあまり数は調達できなかったしよ…!」

 

「しかし、目標数には届いたのでしょう?」

 

「目標数にはな!それでもギリギリだ、あまり無駄遣いはできねぇ!お陰で一部の信者は恩恵(ファルナ)与えて武装させる羽目になった!武器や神の血(イコル)だってタダじゃねぇんだぞ!」

 

件の少年…ロイ・ヴァレンシュタインが闇派閥に与えた損害はまさに甚大であった。悪人共の違法市(ダーク・マーケット)を彼に片っ端から襲撃されたせいで、本来例(・)の(・)装(・)置(・)を渡す筈だった非武装の信者にまで装置が行き届かず、結果闇派閥は要らぬ出費を増やされる羽目になったのである。

 

「………未完の新星(リトル・ルーキー)、か」

 

「おや?貴方も興味がお有りで?」

 

「個人的に…少し、だがな」

 

ローブのフードを揺らし、長身の男は微笑を作る。闇派閥に単騎で多大な損害を与えたと言う傑物に、興味を隠せないようだった。

 

「私はもう顔を合わせた」

 

「あ?聴いてねぇぞ!?」

 

「五月蝿い。言っていないのだから当然だろう」

 

歯に着せぬ物言いに、再び舌打ちを増やすヴァレッタ。

 

「ほう?どんな奴だった?」

 

「唯の小僧に見えた。最初はな」

 

「最初は…と、言いますと?」

 

「言葉を交わした。不思議と惹き込まれるような魅力があった」

 

やはり淡々と告げる灰髪の女に、長身の男は視線を送る。

 

「………これ以上は自分で見て確かめろ。五月蝿くてかなわん」

 

「つれない奴だ…が、楽しみが増えたな」

 

男は笑う。まだ見ぬ兵(つわもの)を観て。女は夢想する。直ぐ其処にまで迫った再戦(さいかい)を観ながら。辺りの闇が、少し揺らいだ……気がした。

 

 

 

〜星屑の庭 団欒室 ロイ視点〜

 

ガサ入れから4日。太陽が沈み、通りが橙色に染まる頃に団長からお呼出しがあった。通達との事だが…。

 

「……と、言う事で!私達【アストレア・ファミリア】は第六区画の闇派閥の拠点の一つを叩く事になったわ!」

 

「………」

 

「ロイ?どうしたの?」 

 

「あ、いや何でも」

 

……嫌な予感がする。と言うか4日前のガサ入れ以来、闇派閥の動きが一切無いのが不吉だ。あんな特級戦力がバレたんだ、普通はもう少し焦っても良い筈。

 

「ちゃんと聞け馬鹿者。……その作戦においてのお前の役割だが…」

 

「突撃ですか?」

 

「最後まで黙って聞け馬鹿者。………その役割だが、お前は待機だ」

 

「………何で?」

 

「『何で?』じゃないわ!4日前に例の魔導師にブッ飛ばされたばかりなのに、無理させられないからに決まってるでしょう!」

 

……いや、ちゃんと治療師のお世話になったし。マリューさんにもオッケー貰ったし。

 

「いや、ソレはおかしいでしょう。マリューさんも大丈夫って言ってたんですよ?」

 

「それに、だ」

 

輝夜さんが話を遮る。続けてライラさんが口を開いた。

 

「アタシの愛しの勇者(ブレイバー)からのお達しだ。『ロイは予備戦力。何かあったら、自由に動いてくれ』だとよ」

 

「……さいですか」

 

……これ、凄く遠回しに『確実に何か起きるから待機しておけ』って言われてないか?あの人がそう言うって事は、例の指が疼いたんだろう。此処は…。

 

「分かりました。待機しておきます」

 

「待機と言っても、私達とは別行動だ。常にオラリオを見渡せる所に潜伏しておけ」

 

「分かってます」

 

塔(バベル)……は高すぎるから、何処にしようか。兎に角今日は寝て、明日下見に行くか。

 

 

 

〜翌日〜

 

翌日、再び夕暮れのオラリオにて。二つの影が橙色に染まる商店街を歩いていた。

 

「……おい」

 

「……何ですか」

 

「……いや、何でもない」

 

待機場所の下見…下見の筈だった。いや、最初はクソ真面目にやっていたのだ。だが、途中でリオンにばったり会って…コレだ。特に話題も無いのに一緒に歩いている。

 

「…………はぁ、何で一緒に歩いてんだ俺達?」

 

「……知りません。そっちが付いてきているのでは?」

 

「……あっそ」

 

左を向き、リオンとは別方向に歩き出す。

 

「………何故付いてくる?」

 

「……私も、丁度此方に行こうと思っていました」

 

「………」

 

「……!」

 

再び進路を戻す。と、やはりリオンも付いてきた。……。

 

「……何か用か?」

 

「……何も」

 

「………分かった、じゃあ何処に行くつもりだ?」

 

「巡回です。特に目的地はありません」

 

「……そうか」

 

会話が続かない。だから嫌いなんだよなコイツ…。オマケに金髪ロングの風魔法使いだし。態度も見た目も気に食わない。だが、今日は何かあるのだろう。顔色が悪い。 

 

「……………貴方は」

 

「あ?」

 

「貴方は、正義とは何だと思いますか?」

 

「……急にどうした」

 

「…答えてください」

 

…………正義か。

 

「えっとだ――」

 

「リオーン!見つけた!」

 

そんな時、不意に後ろから明るい声が響いてリオンが前に押し出される。…アーディか。助かった。

 

「あれ、ロイも一緒?丁度良かった!」

 

「アーディも何か用なのか…?」

 

「ううん?話したかっただけ!」

 

どいつもこいつも、俺を何だと思ってるんだ…。

 

「大切な仲間兼弟分だよ!」

 

「思考読むなよ…」

 

「アーディ?」

 

「そうだよ!犬みたいに抱き着くのが得意でそれでも猫も大好きって言ったらガネーシャ様に『象もいいゾウ!』って勧められたアーディだよ!じゃじゃーん!」

 

「何故貴女は登場する度に自己紹介するのですか!」

 

「しょーもな」

 

いきなり飛び出して両腕で抱き締めてきたアーディに、かなりビックリしているリオン。

 

「いきなり抱き着くのは止めてくださいっ、危険だ」

 

「ごめんごめん、どうしても抱き着きたくなっちゃって」

 

ロキの言っていた百合って奴だろうか。だいぶお似合いな気がする。エルフの里じゃ同性婚も割と有るらしいし、将来結ばれるんじゃなかろうか。

 

「今は二人きり?」

 

「…二人きりと言うか」

 

絡まれただけと言うか…。アーディがリオンに頬ずりしながら此方に視線を向けてくる。

 

「あ〜…合流した感じかな?私はね!さっきまで仕事してたんだ!制圧した悪人共の違法市ダーク・マーケットの調査書の作成!やっと終わったよ〜!」

 

「……ああ、例の『倉庫』か」

 

「うん!あ、聞いて聞いてリオン!押収した品の中に、君の里の『大聖樹の枝』が……」

 

喜びを分かち合おうとにこやかな声をかけるアーディだったが、リオンの顔色に気づく。今の会話も耳に入っていないような、心此処に有らずと言った面持ち。

 

「……何かあったの?」

 

「…いや知らんよ。会ってからずっとこの調子でな」

 

アーディが素早く身を翻し、此方に向かい小声で話してくる。今回ばかりは本当に知らん。

 

「うーん…リオン!何かあったの?顔色が悪いよ?」

 

「いいえ…何も…少し考え事をしていただけなので」

 

尋ねると、リオンは目を伏せて首を横に振った。あまり指摘して欲しくなさそうな横顔に、アーディは明るい笑みで更に追求する。

 

「そういうのはいいから!リオンは嘘はつけないし、隠し事も下手なんだからさ!」

 

「言い方」

 

いや、うん、否定はしないしできないけどさ。もうちょっとその…うーん。

 

「ア、アーディ……」 

 

今にも消え入りそうな表情を浮かべるエルフに、ヒューマンの少女は、やはり人懐こい笑みで返す。 

 

「話してみてよ。それで、私達と一緒に悩もう?」 

 

その後俺達は通りの脇、ちょうどいい高さの花壇の煉瓦に腰を下ろした。リオンはポツポツと語り出す。それはちょうど三日前、炊き出しがあった日。 

 

隣で黙って耳を傾けていたアーディは、話が終わると眉を下げて謝罪した。

 

「………」 

 

「炊き出しがあった日に、そんなことがあったなんて……。ごめんね、あの時、力を貸してあげられなくて」 

 

「貴方やシャクティ達は【勇者】の指示で敵の別部隊を叩いていた。罪悪感を抱く必要はありません」

 

何か夜勤ばっかりだと知らない間に色んな事が起きてついて行けなくなりそうだ。炊き出しを襲撃…性根の腐った闇派閥(イヴィルス)らしいと言えばらしいが。

 

「それにしても、エレン様って……なんだか思ったより、意地悪な神様?」 

 

「意地悪で済むのでしょうか……。下界を愉しむ神の酔狂と言えば、確かにそうなのでしょうが……」  

 

「私は好きな女の子にちょっかいを出す男の子!みたいに感じたけどな。リオンの話を聞いたら」 

 

「やめろバカ。14にちょっかい出す数億歳とかグロ過ぎるわ」

 

いや、神々の場合人間と恋人になろうとしたら皆例外無くそうなっちゃうんだが。それはそれ、コレはコレである。

 

「どうしてそうなるのですか!」

 

軽い調子のアーディの物言いに、ついつい声を荒らげてしまうリオン。真面目だな。

 

「あれは、決してそんなものではない……そんなものでは……」 

 

リオンが再び思考の海に沈む。当時の事を思い出しているのだろうか。   

 

「……アーディ。真の『正義』とは、何だと思いますか?」 

 

「ん〜……難しいなぁ。答えは人それぞれだと思うんだけど、神様は違うのかな?」 

 

アーディの返答も確たる響きを持っていない。 

 

「ロイは、どう思う?」

 

「知らん。『自分の正義』とかならまだしも、真の、とか絶対、とか言われるとな」

 

というか、そんな物あるのだろうか?人が生み出した答えなんて些細な事で変わる物だし。

 

「神も……、正直良く分かんない人達だと思ってるよ。あの人達テキトーだからな」

 

アストレア様は……あの人が異端なだけだろう。良い意味で。

 

「そっか…」

 

アーディは細い顎に添えていた手を離し、目を瞑って、言葉を続ける。 

 

「私はお姉ちゃんより頭が良くないし、こういうのって、考えれば考えるだけ沼にはまっちゃうような気がする」

 

「………………」 

 

アーディの言っていることは的を射ているように聞こえる。 こんな状況でなければリオンも納得していただろう。だが、『正義』について問いを投げかけられたらしい今、それを見て見ぬ振りも、先送りにするわけにもいかなくなった。少なくとも考え続けなければならないのだ。 

 

「だからさ、こんな正義はどう?『全ての武器を楽器に』」

 

だが、其処でアーディは鬱蒼とした気分を吹き飛ばすかのように明るい言葉を放った。

 

「すまんけど、何言ってんだお前」

 

「…………………武器を楽器に……?」

 

「そう!剣や槍は吊して金属鐘、盾は二枚揃えて打楽器代わり! 大砲なんかは空砲で太鼓にならないかなー」 

 

面食らっている俺達に、アーディは身振り手振りを交えて語る。 双眸を弓なりにして、まるで子供のように。 

 

「誰かを傷付ける武器も、みんなを笑顔にする何かに変えちゃう。リオンもそれくらい簡単に考えればいいんだよ! 私みたいにさ!」 

 

そんな風に気楽に、優しく肩の力を抜くように慰めてくれるアーディに。 

 

リオンは少し間を挟み、少女の言葉を否定した。 

 

「………………アーディ、それは嘘だ」 

 

心優しい少女の瞳を見つめ返し、独白するかのように言葉を綴る。 

 

「私なんかより、貴方の方がずっと深く、重く、『正義』について考えている。……あの時もそうだった」 

 

……あ、七日前のアレか。あの男が男神の財布を奪った事件。 秩序に従って厳しく取り締まるべきだと主張したリオンに対し、アーディは優しく諭したのだ。 

 

「おじさんがさっき言ってたことも間違いじゃない。私達が『正論』を言えるのは、私達が力を持ってるから」 

 

「だからじゃないけど……リオン、赦すことは『正義』にならないかな?」 

 

他ならないあの時、リューは自分が抱いていた「正義」に戸惑いを覚え、見つめ直すこととなった。 

 

「私が杓子定規の『正義』を妄信し続けようとしていた一方で、貴方は普遍の『正義』の在りどころを……ずっと探っていた」 

 

茜色の夕焼けが二人の少女を照らす。  

 

リオンの発言に、アーディはおちゃらけた振る舞いを止めた。 

 

「そうだね……『正義』って難しいよ、リオン」  

 

そして、どこか寂しそうに笑う。 

 

「押し付けてはいけない、背負ってもいけない。そして秘めているだけでも、何も変えられない時がある。真の『正義』なんか本当はないんじゃないかって、そう思っちゃう」 

 

「アーディ……」 

 

普段おちゃらけたアーディが、妙に大人びて見える。暗黒期…厳しい時代になればなるほど、人は馬鹿では居られなくなる。良い事のように見えるが、よくない事だろう。何もない虚空を眺めるアーディの姿を、リオンもまた切なげに見つめていた。  

 

「難しいことなんか考えないで、誰も傷付かないで…みんなが笑顔で、幸せになれればいいのに」  

 

「………それは賛成だな」

 

誰もがのびのびと、笑顔で暮らせる世界。それは子どもっぽくとも、下手にあれこれ考えなければいけない世界よりは余程マシな筈だ。

 

「―――でもね、こんな風に立ち止まっちゃう時、私は自分に正直になることにしてる」 

 

正直? 

 

と。次の瞬間、アーディの唇には、笑みが蘇っていた。 

 

「えっ?」 

 

「今、自分が何をやりたいんだろうって」 

 

そのまま、勢いよく花壇から立ち上がる。

 

「だから、私の今の『正義』はやっぱり、リオンを笑顔にすることかな!」 

 

「――――」 

 

振り返って投げかけられたその言葉に、空色の目が見開かれる。 

 

アーディは破顔して、リオンの手を取った。    

 

「リオン、踊ろう!ここで!」 

 

「はっ?ア、アーディ?いったい何をっ――!??」 

 

そして、通りの真ん中へ躍り出る。 

 

驚くリオンの両手に指を絡めて、即興の舞踏を始めた。

 

先導する自分がリーダー、ひたすら狼狽えるしか無いリオンがパートナー。 

 

アーディが笑みを弾けさせ、軽快なステップを踏めば、周囲からたちまち注目を集めた。 

 

「なんだ、なんだ?」 

 

「道の真ん中で、エルフとヒューマンがいきなり……」 

 

「冒険者さまが、おどってるー!」 

 

ドワーフの労働者が、覇気のないヒューマンの男が、目を輝かせる獣人の少女が、思い思いの声を上げて視線を送る。 

 

やがてそれは喧騒を生み出し、道行く人々の足を次々に止めていった。 

 

そんな周囲の反応に、覆面越しでもわかるほど赤面するのはリオンである。 

 

「ア、アーディ! 待ってください!どうしてこんなことを!??」

 

「昔の英雄は言ってたらしいよ!童話の『アルゴノゥト』に書いてあった!」

 

リオンが悲鳴も同然の叫び声を放つと、アーディから返ってくるのは童心に戻ったかのような笑顔だった。

 

「「さぁ、踊りましょう、麗しいお嬢さん。愉快に舞って、私に笑顔を見せてください」ってね!」

 

「は、はぁ??」

 

「私の好きな物語!みんなみんな、笑顔になればいい!そうさ、これが私の「正義」の実践!」

 

アルゴノゥト。原初の英雄のお話。道化のように、されど確かに輝いていた英雄の冒険譚の一文を唐突に出されたリオンの混乱は加速する。

 

普段では考えられないほど素っ頓狂な声を出すエルフは、ただただヒューマンの少女に巻き込まれた。

 

まるで道化の喜劇に巻き込まれる娘のように。

 

「変な奴等……なんて思ってたけど……」

 

「ああ……なんか、いいな!いいぞ、姉ちゃんたちー!」

 

「冒険者さま、きれー!」

 

周囲にも変化が生まれる。

 

鬱蒼な目を向けていた大人が、少女の笑みに釣られるように強張った顔をほぐしていき、歓声と口笛、あるいは冗談交じりの野次を飛ばすようになる。後に続くのは子供達がはしゃぎ、飛び跳ねる音だ。

 

いつの間にか、リオン達を囲むように、人垣ができていた。

 

「ほら、みんなも笑い出した!手拍子、足拍子、どんどん盛り上がる!」

 

「しゅ、衆目に晒されている!あられもない姿を!こんなもの、私にはただの辱めです!止めてください、アーディ!」

 

「だーめー リオンが笑うまで踊っちゃうもんねー!」

 

「そ、そんな……ロイ!何とかしてください!」

 

「できると思うか?」

 

「……すみません」

 

謝るくらいなら言うなっての…。訴えを受け付けてもらえず、リオンは困り果てた。そうしている間にも不格好なステップを踏まされていると、通りかかった一人の冒険者が、人込みの中から顔を出す。

 

「やけに賑やかな声が聞こえてくると思えば……何をやっているのですか、貴方達は」

 

「あ、アスフィ!君もどう?リオンと一緒に踊ってるんだ!」

 

「アスフィさん…お勤めご苦労さまです!」

 

「やめてください、ロイ…。私はヤクザではありません」

 

だって目の下の隈が…本当にご苦労さまです。どうせあのヘルメスと2ndヘルメスに振り回されているのだろう。

 

呆れた表情のアスフィさんに、アーディが振り向く。 

 

「私は遠慮しておきます。故郷の王城で舞踏はもう散々踊ったので」 

 

「ア、アンドロメダ、助けなさい!」 

 

リオンがこれ幸いと言わんばかりに助けを求めるが、アスフィさんは無慈悲に肩を竦めた。 

 

「無理です。私にはアーディを止められません。それに……珍しい貴方を見たいので、じっくり見物させてもらいます」 

 

「アンドロメダ〜〜〜〜〜〜〜!!」 

 

最後にはしっかり悪戯な笑みを作るアスフィさんに、リオンは叫んだ。 

 

踊りは続く。そこに弦楽器の音色はない。管楽器が奏でる伴奏もない。だが、それと同時に、人々の喜びの声に勝る曲もまたどこにもない。悲しみも苦しみも吹き飛ばすように、少女達の影は愉快に踊り続ける。

 

「――リオン!『正義』は巡るよ!」

 

「えっ?」

 

「――――」

 

正義は、巡る。

 

「たとえ真の答えじゃなかったとしても、間違っていたとしても!姿形を変えて、私達の『正義』は巡る!」 

 

それはアーディが想っている『正義』の源流(オリジン)。 

 

リオンや俺が求める答えではなかったとしても、自分が見て、感じ、胸に秘めているものを明かす。 

 

「柔らかいものが頑固なものになってたり、優しかったものが冷たいものに変わっているかもしれない!それでも私達が伝えた正義は、きっと違う花になって咲く!もしかしたら花じゃなくて、星の光になってみんなを照らすかも!」 

 

リオンの空色の瞳は、いつの間にか見開かれていた。 

 

「私達が助けた人が、他の誰かを助けてくれる!今日の優しさが、明日の笑顔をもたらしてくれる!」 

 

それは、取るに足らないちっぽけな願いかもしれない。 

 

それは、アーディが願うただの夢なのかもしれない。 

 

「私は、そう信じたいんだ!」  

 

しかし、それはとても尊く、翼のように羽ばたく希望のように聞こえた。 

 

「アーディ……」  

 

「だからリオン、笑おう!巡っていく『正義』のために、今日を笑おう!」 

 

舞踏が一瞬、止まる。  

 

立ち止まったリオンは、静かに覆面を取った。  

 

そして自分を見つめる少女に向かって、彼女が望んでくれた笑顔を見せる。  

 

「…………………ええ!」  

 

アーディもまた満面の笑みを浮かべていた。 

 

少女達の舞いが再開する。周囲の声のみだった旋律には、いつの間にか楽器の音色も加わり、穏やかな夕焼けの舞踏会はどこまでも続く。  

 

人々のもとから笑顔が生まれ、幸福の音がいつまでも響いていく。  

 

「正義は巡る……」 

 

思考の奥に新たに刻まれた、この言葉。妙に頭にへばりついて離れない、この言葉。 

 

「………俺の正義も、巡るのかな」 

 

東から夜刻が迫り、暗闇が訪れるその時まで、『正義』を願う歌と舞踊は少女達を包んだ。 

 

 

――――大抗争まで、あと一日。

 

 

 




ロイ・ヴァレンシュタイン(ろくさい)
陰険キチガイ黒フード蛮族。味方には何処までも甘い男だが、敵には死ぬ程容赦が無い男。たぶん某ハイパー無慈悲とか某任〇堂のピンク玉とかと気が合う。その内「大将首だろうおまえ?首置いてけ!」とか言い出すかもしれない。たまたま秩序側に居るだけ。例の喋る帽子を被せられたら問答無用でスリザリンか最悪の場合アズカバン行きになる。蛮族。

ヴァレッタ・グレーデ
被害者1。たぶん原作よりも生え際が後退している。ロイ君のせいで嵩みまくった余計な出費と尽く失敗する取引にだいぶご立腹。漸くスッキリできると内心はしゃいでいるが、この後更に泣く事になる。かわいそう。

灰髪の女
いったい何フィアなんだ…?ちょっと興味あり。後でボコボコにしたりされたりする。

長身の男
いったい何ルドなんだ…?大いに興味あり。間接的にボコボコにされたりする。

ディース姉妹
被害者2。(今回から)蚊帳の外。でも此処で蚊帳の外にしちゃったお陰で後々のロイ君が割を食う羽目になる。でも誑かしたのはロイ君なので自業自得。

ヴィトーの主神様
ロイ君とポンコツの為にテキトーにぶらついてるのに中々出会えなくてちょっとしょんぼりしている。でも面白そうだから見かけたらちょっかいかけるつもりで居る。

ヴィトー
あんまり絡まない。と言うか周り(主に輝夜)が絡ませたがらない。でもヴィトーからは好印象()。

ポンコツ
6歳男児(蛮族)にストーカーするエルフ。何か凄く悩んでいるし曇っているが、まだまだ序の口。かわいそう。まあそれはそれとしてストーカーは止めとけ。捕まるぞ。

アーディ
(精神が)チート。この暗黒期に生まれて殆ど曇らない文句無しの英雄。え?曇る前に爆散しただけだって?人の心とか無いんか?

アスフィ
(魔道具製作の)お師匠。くたびれたOL。でも団長が死んでいないのでコレでも最終進化では無い。レット〇ルの代わりに回復ポーションとか送ると喜ぶかもしれない。


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