ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。 作:一般通過社会人
よぉ、
闇派閥を襲撃する。付き合わないか?
ガネーシャの連中、ヌルすぎる。
暗黒期など、結局は殺すしかないのさ。
だろう?
〜アーディ視点〜
倉庫に居た
ライラが警戒を払う先、激しい戦闘を繰り広げる
「あ、あああああ!」
「っ!?」
甲高い叫び声。悲壮を通り越して哀れに聞こえるその叫喚に、私は振り向きざま剣を薙いだ。己の背を狙った一撃を弾いた私は、次には目を見開いていた。
「なっ………子供??」
視界に飛び込んでくるのは、周囲で戦う間派閥の戦闘員と同じく、白濁色の頭巾とローブを纏う少女だった。
リュー達以上に幼く、ロイと同じくらいの年齢なのは瞭然で、しかしその背丈は私の胸に届くか届かないか程度。ヒューマンと思しき少女はナイフを持つ手を押さえ、瞳に涙を浮かべていた。
「あ、ああ……!」
「こんな幼い子まで巻き込んで……!」
お腹の内側から湧き上がってくる、溶岩を更に煮詰めたかのような怒り。
年端もいかない子供が打ち震える姿は、戦場にそぐう筈もない光景だった。無力な少女をも駆り出す目の前の
「ナイフを捨てて!戦っちゃダメだ!君みたいな子に武器を持たせる大人の言うことなんか、聞いちゃいけない!」
私は声を放った。自分が信じる『正義』に従って、震えるだけの子供を救おうとする。呼びかけられたヒューマンの少女は瞳を見張り、それから顔をぐしゃぐしゃに歪め、ぼろぼろと涙をこぼした。
私は笑みを浮かべた。
「私は君を傷付けたりしないよ? さぁ、こっちへ――」
少女の目の前で、剣を下ろして、もう片方の手を差し伸べる。
こんな小さな子供を斬り捨てるなんて、私にはできなかった。目の前の少女はぼうっとその手を見て、己の右手を伸ばし、左手で小さな胸を握りしめる。
「ヒャハッ」
何処かで、誰かが、嗤った気がした。
「…………かみさま」
瞳から光を消し、声からも感情を消し、少女は唇を震わせる。目に見える敵意も、殺意も、『正義』も『悪』も抱くことなく。
「おとうさんとおかあさんに、会わせてください……」
胸に隠していたおぞましい
「――――――――――――――――」
自分の手を震えながら握る孤独の指を、私は、振り払えなかった。
直後。凍りついた永遠にも近い一瞬は、凶悪な轟音によって粉々に打ち砕かれた。
炸裂。
衝撃。
震動。
爆熱。
死。
混乱と爆炎、死への恐怖で全てが流される。そして、私の意識は闇に葬られた。
〜リオン視点〜
アーディと、少女が、目の前で、爆ぜた。何が?いや、それよりも、アーディは、何処…?
「………???」
脳が、理解を拒んだ。
「………アー、ディ…?」
「……うそ、だ」
私も、声が、漏れる。
「うそだっ、うそだうそだうそだっ……!!」
蛇口を捻ったかのように、溢れて止まらない。
「アーディっ!?」
目の前の状況を受け入れ切れない未熟な脳が、その情報を身体の中に吐き出して、暴走させる。
「よせっ!リオンっ!!!」
ライラが、渾身の力でこの身を縫い止めた。ダメだ、だって、早く…アーディ………を…?
「アリーゼ、輝夜ぁ!倒れてる連中から離れろォ!」
ライラが叫ぶ。何を、言って…?
「
「「――――――――――ッッッ!!?」」
倒れている、確かに制圧した筈の兵たちが次々と爆ぜ、その役割を終えていく。爆風に晒されながら、私は数々の生命が消えていくのを見ていた。
〜ロイ視点〜
ダイダロス通りのとある塔。一人の冒険者が辺りを見渡していた。その時。
「っ…!?」
住宅街で、路地で。都市のあらゆる所で閃光が上がる。連鎖的な爆発。おおよそ個人の物では無い、組織的犯行。
「……何が、いや…」
兎に角、行こう。もう待機などしていられない。
「……っ!!」
眼下の路地にフードを纏い、飛び込んだ。
〜星屑の庭 アストレア視点〜
私は、本拠で祈りを捧げていた。
「―――――――――!!」
立ち上がる。どうしようもない嫌な予感が、背筋を逆立てた。
「………リュー?みんな……?」
取るに足らない神の予感が、剣となって自分の胸を突き刺す。ざわつく胸に愕然としていた私に、次の瞬間。
ズズゥゥゥン…!!
「っ…!?」
館の外が、オラリオが……震えた。
〜黄昏の館 ロキ・ファミリア視点〜
「なんや……何が起きとる!あの煙は何や!?」
長邸と呼ばれる本拠から飛び出し、各塔を繋ぐ空中回廊から身を乗り出すロキは、見た。
夕暮れが終わり、闇夜が訪れる中、遥か離れた都市南方、そして南西にかけて、黒い煙が立ち昇る光景を。
「ロ、ロキ!都市から、『爆発』が起きて……」
「なんやと?まさか、フィン達が攻め込んだ拠点からか!?」
夜の闇が邪魔をして状況が判別しにくく、必死に目を凝らしていると、ラウルが駆け込んできた。
振り向いたロキが声を上げると、まだ十四歳の少年は肩で息をしながら、呟いた。
「違うッス……」
「……ラウル?」
ひたすらに血の気を失って。全身という全身から汗を垂れ流して。少年のその異常な様子に気が付いたロキが動きを止めていると、ラウルは絞り出すように、告げた。
「
〜都市第五区画 フレイヤ・ファミリア視点〜
耳をつんざく爆発音が建物を貫く。
衝撃と震動が石床に残る最中、剛剣で破られた壁の奥から【フレイヤ・ファミリア】の団員が続々と脱出していく。
「………………被害は?」
分厚い壁面をまさに粉砕した大剣を肩に担ぎ、悠然と闇派閥の拠点から歩み出てきたオッタルは、背後を振り返りながら尋ねた。
煙を上げる敵拠点は侵入時と比べて跡形もなく、潰れた木箱のような様相を呈していた。
周囲では
「二人殺られた。ちッ、よくもあの方の
彼の隣に着地し、答えるは長槍の穂先を紅に染めるアレン。
敵幹部の逃走を許さず仕留めたにもかかわらず、彼の眉間からは苛立ちが消えない。
施設内の闇派閥は一人余さず『全滅』。文字通りの『自爆』で……事前に
厳のようにたたずみ、オッタルが錆色の瞳を細めていると ――猫の耳と猪の耳が、同時に揺れる。自分達を襲った爆発音が、再び響き、続いたのだ。
「…………………おい、待て。この『爆発』……いつまで続いてやがる?」
アレンの目が、ばっと周囲を見る。
オッタルもまた、その双眼に一驚を孕んだ。
「―――まさか」
〜ロキ・ファミリア視点〜
「負傷者はリヴェリアの魔法円まで移動!治療を済ませろ!部隊を再編する、急げ!」
間断なく、迅速に出されるのはフィンの指示だった。
突入した闇派閥の拠点――そこから離れた広場の一角。走り回る団員達の足音が絶え間なく響き、その中心では詠唱を奏で続けているリヴェリアが居た。
瞼を閉じる彼女が行使するのは全体回復魔法。
翡翠色の輝きを放つ魔法円は半径六M。その範囲内まで移動し、膝をつく負傷者達の傷が見る見るうちに癒えていく。
攻撃、 防御、そして治療にまで精通する『都市最強魔導士』の名は伊達ではない。
だがそんなリヴェリアをして、その顔をしかめずにはいられなかった。
「まさか『自爆』と来るとはな。お主が敵の装備に気付いとらんかったら、
「装備は兎も角、
命を『特攻兵器』に変える闇派閥のやり方に嫌悪感を顕にさせているハイエルフを横目に、ガレスが煙を吐き、所々が欠けたボロボロの大盾をサポーターに預ける。フィンは指示を出しつつも、事前の対策が出来た遠因となったある一人の少年に賛辞を送った。
負傷者は数えきれないが、それもリヴェリアの『魔法』が傷の度合いを無視して癒す。
三つの突入部隊の中で被害を最小限にとどめ、いち早く戦況を立て直したフィン達は、しかしその横顔から焦燥を取り除くことができなかった。
「だが、フィン……これは……!」
「ああ……街の様子がおかしい!」
彼等の耳朶に届くのは衝撃の嘶き。オッタル達が捉えたものと同じ爆発音に、フィンの碧眼が険しさに歪む。
「敵が拠点に仕掛けたのは「罠」じゃない……『狼煙』だ!」
全てを察した【勇者】は、総指揮を執ったであろう女の笑みを脳裏に浮かべ、言い放った。
「狙いは
〜都市南部 ヘルメス・ファミリア視点〜
都市が燃えていた。
山脈を熱風と爆炎で撫でる山火事のように、或いはこの世の苦しみを全て煮込む地獄の大釜のように。都市はおどろおどろしい爆炎の色に彩られていた。
「敵の標的は……『都市』、そのもの?」
アスフィは、呆然と呟く。
通りで、広場で、建物の中で、火が噴いては周囲に破壊をまき散らす。
一斉蜂起のごとく突如姿を現した闇派閥の兵隊が暴れ、冒険者に迎撃されたのなら躊躇なく『装置』を押し、命の灯火を咲かせる。
巻き起こるのは悲鳴だ。男達の苦悶の声に、女子供の絶叫だ。
オラリオが、英雄の都が。炎上し、燃え盛る。
繁華街、見晴らしのいい大賭博場の屋上で周囲の警戒に努めていたアスフィは、隣に立つ虎人のファルガーともどもあってはならない光景を目の当たりにし、そして震慄をあらわにし、叫んだ。
「オラリオが?」
『悪の宴』が、今、開宴した。
〜ロイ視点〜
何が起きている?何が?団長達は、フィンさんは失敗したのか?
「死ね!無知なる罪人共よ!」
「きゃーッ!?!?」
目の前では闇派閥の兵が女性を襲っていた。殺らせるかボケ。
「お前が死ね」
「がっ…ぁ…?」
ドサリ。闇派閥の兵が倒れる。
「ぁ……え?」
「もう大丈夫です。立てますか?」
「は、はい…!」
「走って
「分かりましたっ…!」
女性が行く。ダイダロス通りからは既に脱出した。あんな狭い所で闇派閥の兵の相手は御免被る。今は南西部、第6区画を重点的に当たり、逃げ遅れた住民を
「神よ!愛する者に会わせたまえぇぇ!!」
「させるか」
「ぐあっ!?」
そして、自爆兵。恐らく、装置自体は撃鉄装置と火炎石を組み合わせた物だろう。スイッチを押される前にボウガンで手を撃ち抜き、素早く接近。
「くっっ!」
「恨むなら恨めよ」
手刀を首筋に打ち込み、気絶させた。装置を剥ぎ取る。
「……単純だな」
ま、特に技術が無くても扱えて、量産が容易な魔道具となると機構も単純にならざるを得ないんだろうが。
「次だな…」
火の色に染まる通りを駆ける。兎に角、時間が無い。一分一秒でも早く、一人でも多く助けて誰かと合流しよう。
〜闇派閥視点〜
「さぁ、宴の始まりだ! いい声で哭け! そして……死ね!!」
ヴァレッタの雄叫びが燃え狂う都市に木霊する。
建物の屋根に立つ彼女の眼下、広がるのは容赦などない殺戮の光景だった。
「や、やめてくれええええええええええええ!?!?!?」
「死ねぇ、無知の罪人どもぉ!消え去れえ、オラリオぉ!」
それは怒りに取り憑かれた男の働哭だった。
部族を奪った理不尽によって「悪」に堕ち、世界を恨むようになった獣人の凶刃が、同族の男を命乞いもろともめった刺しにする。
「助けてえええええええ!」
「我が命の炎をもって、灰燼に帰せえ!!!」
それは宿命なんて言葉に踊らされる女の金切り声だった。邪神を崇拝するエルフの瞳が狂気に染まり、あっさりと自爆装置の引鉄を引いて、泣き叫ぶ小人族の少女と一緒に多くの命を巻き添えにした。
「お、お前はっ、ぎゃああああああ!?!?!」
それは純粋な弱肉強食。
力任せに振るわれた拳が、『正義』を標榜する冒険者を殴殺する。陥没した頭は潰れた赤茄子のように潰れ、抗おうとしていた同じ冒険者の意志を直ちに挫き、白髪の男は己が背負う『悪』の闇に酔いしれた。
とうに血塗れになった拳具に舌を這わせ、血肉を味わうオリヴァスは、その瞳を卑しく細めた。周囲で怖気づく下級冒険者達に襲いかかり、死刑を言い渡す。
「やれ。オラリオに真の絶望をもたらすのだぁ!!」
「「「はっ!」」」
崇高な使命のごとく命を摘み取っていく 【白髪鬼】は顔を振り上げ、命じた。男の号令に従う閤派閥の兵士は、冒険者という「盾」を失った民衆に襲いかかった。
数えきれない悲鳴と怒号、殺意と恐怖。荒ぶる業火が貪欲に物も人も呑み込んでは紅蓮の喝采を上げる。
路傍に倒れた幾つもの亡骸に火が燃え移る光景は、無念と屈辱の火葬だ。遺灰など残らない。燃える都市の嵐に巻かれ、轟き渡る痛哭と獣のような咆哮の中に、全てが攫われ、溶けていく。
「いい
ヴァレッタは陶酔の声を上げる。
この最高に狂った景色はどうだ。
人が塵のように死んでいく。
加虐と嗜虐の雄叫びが途切れない。
それは、秩序なんてものから解放された蹂躙だ。
閤派閥の軍勢は理性を解き放ち、暴走しては、暴力に酔っていた。
それは世界への不平と不満、大切なものを奪った不条理への怨恨、そんな愉快な大義名分で武装した彼等彼女等は自分達の『正しさ』を疑わない。自分達が最も可哀想だと思っている男達と女達は、その行いが歴とした『悪』でありながら自分達の『正当性』を主張する。
「なんて美しいんだ!」
「なんて滑稽なんだ!」
「人とは何と醜怪か!!」
そんな風に邪神達が都市のあちこちで指を差し、ゲラゲラと嗤い転げる。
人のカタチをしているのに、その嗤いはまるで人理の外側に居るかのような有様であった。
これが人間、これが下界の住人。不完全で愚かな子供達。こんな傷つけ合う行為が悪いことなんてわかっているのに、自分達のために、どんな時だって歴史を繰り返す。
これこそ人の本質。
正邪の境界。
やっぱり「正義」と「悪」は表裏だと。
自分達が煽動した事実など綺麗に忘れて、邪の神々は何度も手を叩いた。
「主神様達も歌って踊ってんのかぁ?ごちゃごちゃうるせえ!!てめえ等の上から目線のご意見なんてどうでもいい〜んだよぉ! この景色の前ではなァ!!」
そんな邪神達と歓喜を等しくするヴァレッタは、神々が嗤う感情とか、哲学とか、人が持つ業なんてものに興味はない。
彼女がただただ興奮を覚えるのは、この『殺戮』という現象そのものだ。許されざる禁忌はこうも人の心を壊す。こうも血をときめかせる。
思想や動機など些末。そんなものは炎を燃やす薪、吹けば飛ぶ塵芥に過ぎない。今、殺戮の大火は彼女の目を爛々と輝かせていた。
「ヴァ、ヴァレッタ様ぁ!!」
と、殺戮に酔っていた女を呼び止める声があった。配下の兵士である。
「あぁ!?」
「ご、ご報告です!南西部第六区画にて
「っち!あのクソガキ…そんな所に居たか…!!」
殺戮の熱に浮いていたヴァレッタの脳が急速に冷え、思考を巡らせる。西部第六区画は住宅街。このオラリオに混乱と絶望を広げるなら、民衆が集中しているこの第六区画を放置する訳にはいかなかった。
「あの灰色の魔女に殺らせろ!」
「ロキ・ファミリアの相手は…」
「Lv.3が一人増えた所で変わんねぇよ!行け!」
「は、はっ!!」
伝令兵は駆け出した。
〜とある建物の屋上〜
「………ほう」
男は微笑った。
「アレか。例の
「…あぁ」
それに答えるは灰色の魔女。戦場には似つかわしく無い灰色のドレスを靡かせ、石の天井の上に立っていた。
「成る程、確かに傑物だな。だが、
「あぁ。未だに成って居ない。故に、
目線の先には黒い影が恐るべき速度で白いローブの自爆兵を刈り取っていた。
「とは言え、アレを放っておく訳にも行くまい。俺はフレイヤの所のクソガキを相手にせねばならん、位置からして、奴の相手はお前だ……」
「伝令です!」
「…噂をすれば、か」
その時、闇派閥の伝令兵が登ってきた。
「五月蝿い。もう少し声を下げろ」
「す、すみません…緊急の伝令でして…」
「それで、伝令とは何だ?」
「南西部第六区画にて暴れ回っている
「……そうか、行け」
「失礼します!」
伝令兵は素早く去っていった。
「どうする気だ?」
「先ずはロキの眷属共だ。態々命令に従い、
「その分、俺達が暴れ回れば良いだけ…か」
「それでは、な。抜かるなよ?」
「誰に言っている?」
男は再び微笑を返すと、一瞬で消えた。
「………ダンジョンの子、血筋に踊らされる子供か、或いは……」
女の呟きは熱風に混ざり、溶けていった。
〜ロイ視点〜
駆ける。駆ける、駆ける。ひたすらに路地を駆け抜ける。そして、目の前には闇派閥の自爆兵。
「「神よ!我が命を…!!」」
「させないって」
「「ぐあっ!?」」
スイッチを押される前に、手刀で意識を刈り取る。本来非戦闘員だった奴を無理矢理戦闘員にしたツケだ。自爆装置以外に脅威は無い。
「……っと、此処か」
住宅街の中で一際目立つ戦闘の跡。焦げた布、積もった瓦礫。そう、団長達と【ガネーシャ・ファミリア】が突入したアジトだ。
「念の為…だがな」
この惨状だ、碌に救護なんてできなかった筈。万が一救けられる命が有ったら、救けておきたい。
「ふんっ…!」
進路を塞ぐ自分の背丈以上もある大きな瓦礫を、力を入れて押し始めた。
〜アストレア・ファミリア視点〜
悲鳴は止まらない。
爆発も止まらない。
涙すら枯れ果てた民衆は、剥き出しの感情をそのまま悲鳴に変えて、次々と果てていった。
「あ………ぁぁぁ……」
リオンは立ち尽くした。
悲運の感情を収められぬまま戦場に駆り出されたエルフは、自身の周りで広がる景色に掠れた声の破片を落とすしかできなかった。
「うわああああああああああああ!?」
「そっちに行っちゃダメ!こっちに――」
グシャッ。ノインの呼びかけも虚しく、死への恐怖で半狂乱になり逆方向へと駆けて行った
「助けてぇ!冒険者様ぁぁぁぁ!」
「こっちだ!急げ!都市の中央に行けば――」
斜め後ろ。顔を涙と汗でぐちゃぐちゃにしながら走って来る女性に、ライラが決死の想いで避難誘導をする。が、不幸にも横から殴るように吹き上がった自爆の炎に呑まれ、その女性は姿を消した。
「………クソ、ちくしょぉおおおおおおおおお!!」
ライラの全身から放たれる叫喚。他の皆もそうだった。【アストレア・ファミリア】の面々が決死の防衛と救助活動を行なっては、手の中から零れていく命の砂に、涙にならない叫びと血を吐き出し続ける。
「うあああああああんっ…!」
「誰か、誰かぁ…!」
親を失った少女が泣いていた。
建物の倒壊に巻き込まれた商人が助けを求め、間も無く瓦礫の奥で静かになった。
秩序に穴が空き、混沌が謳う。
リオン達が守っていた平和はいとも簡単に崩れ去った。
燃える都市が赤い。炎の色か血の色なのかも、もうわからない。
まさに地獄のような光景が、周囲という周囲を埋めつくす。
「あぁぁぁ……うあああああ………!!」
ぐるりと辺りを見回すだけで溢れていく死の数に、リオンは絶望の表情で立ち竦んだ。
すると、
「突っ立っているな、間抜けぇ!」
伸ばされた手が胸ぐらを掴み、もう片方の手がリオンの頬を張った。
「………………か、輝夜………………?」
「さっさと剣を執れ! 何を木偶と化している!今、私達が愚図でいることは許されない!」
こちらへ駆けつけ、正面に立つのはヒューマンの少女だった。
輝夜はその柳眉を逆立て、平静さなどかなぐり捨てた怒声を撒き散らす。
頬の痛みを自覚し、双眸に正気の色を取り戻すリューは、それでも混乱の声をぶちまけた。
「し、しかし、でもっ、だって…こんなこと、あっていい筈がない!こんな地獄絵図が!」
許容範囲を超えていた。
潔癖なエルフの生娘には目の前の現実が認められない。
一途に『正義』を信じ続けてきたリュー・リオンにとって、この『悪』の大逆は、あまりにも重過ぎて、惨過ぎた。
「現実から目を逸らすな、たわけぇ!!!絶望の虜になるな、青二才!」
しかし輝夜はそんな泣き言を許さない。
胸ぐらを引き寄せ、額と額がくっつこうかという距離で、驚愕する空色の瞳に激声を叩きつける。
「考えるな!動け!戦え!一人でも多くの命を救え!」
そして、眺に涙の輝きを必死にとどめながら、訴えた。
「これ以上――アーディの二の舞を増やすな!!」
その名前と、切なる想いが引鉄だった。
かっとリオンの眼が見開かれ、どうしようもない感情が胸の奥から迸り、絶望を忘れさせる劇薬となる。
「ッッ………!!うあああああああああああああァァァアアアアアァッ!!」
木刀の柄をあらん限りに握りしめ、人々に襲いかかろうとしていた闇派閥に斬りかかる。 輝夜の刀閃とともに敵を遮二無二に斬り捨てるリューは、激情の言いなりとなった。
〜ロイ視点〜
「っ…くっそ、この人も…!」
瓦礫を必死に退け、生存者を探す。が、現実は余りにも無情で有った。身体の一部が抉れているもの、四肢が吹き飛んだ亡骸。鮮血と血の焼ける匂いが、此処を地獄と教えてくれる。
「誰か………?」
ふと、違和感。倉庫の一角にて、片手剣が落ちている。見覚えのある物だ。
「………これは」
セイクリッド・オース。アーディの愛剣だ。煤ぼけ、刀身は所々欠けている。武器としての機能はおおよそ失ったソレが、此処で起きた事を物語っていた。
「……まだ生きてるよな?」
アーディには『保険』を持たせてある。俺の言ったとおりに装備してくれていれば、自爆含め闇派閥の攻撃では死ぬ事は無いはず。
「………」
周囲を見渡す。爆発によって吹き飛んだ建物の一角、辛うじて壁が残っていた其処に、人一人がすっぽり入れそうな、妙な形で積もった瓦礫の山が有った。
「……!」
急いで駆け出し、セイクリッド・オースをバールのように使い瓦礫を退ける。すると、見慣れた顔が目に入った。アーディだ。
「っ!おいっ、アーディ!起きろっ!」
「………」
「っち…!!」
アーディの胸の中央に耳を当てる…………心臓は動いてる、呼吸も異常なし。だが、頭からの出血がある。血は止まりかけているが、早めに治療しないとマズい。アミュレットは……ひしゃげて砕けているのを見るに、きちんと仕事はしたらしい。恐らくその後の瓦礫か他の自爆に耐えられなかったか…。
「おい、おいっ!起きろっ!!!」
「…………」
肩を強めに叩く。やはり反応はない。ポーションはある…が、飲ませるには目覚めて貰わないといけない。ポーションの欠点。それは、自力で飲めない人間には無力。
「治療師……いや」
無理だ。この動乱の中で、幾らガネーシャ・ファミリアの主戦力と言えど治療師を此処まで連れてくるなんて。掘り起こしてしまった以上、このままアーディを放置すれば取り返しのつかないことになりかねない。
「………」
アーディの全身に目をやる。見える範囲でも火傷と打撲痕、破片による切傷が肌を覆っていた。何時も上に着ていた青い
「やっぱり問題は、中だな…」
内臓の損傷は素人目では分からない物も多いし、この状態で下手に動かしたくない。が、放置も論外。
「仕方ない」
瓦礫の中を漁る…。よし、縄が有った。恐らくは闇派閥の捕縛用に【ガネーシャ・ファミリア】が持ってきていたモノだろう。アーディの身体に巻き付け、背負って固定する。
「よっ……ととっ…!」
少しよろめく。
「さて…!」
腰を挙げる。目指すは中央広場。第六区画の避難誘導は道中であらかた済ませた。後はなるべく早くアーディを送り届け、戦線に復帰する。
「持ち堪えてくれよ…!」
背中のアーディに呼びかけ、地面を蹴った。
〜原作との相違点&なぐり書き〜
ロイ・ヴァレンシュタイン(ろくさい)
闇派閥の天敵ムーヴ&オリチャー発動!未だに現状を把握しきれていないが、兎に角闇派閥が悪さしてるのは明らかだし殴っとけ!的なノリ。うーんこれは蛮族。スキルのお陰で大暴れ。
アーディ
吹っ飛んだ。例のアミュレットのお陰で死んではいないが、爆発で意識を刈り取られ、爆風で壁際に吹っ飛ばされた挙句瓦礫に埋まると言うトリプルパンチで敢え無くダウン。ファルナパゥワーが無ければ死んでいた。かわいそう。
またしても何も知らないリュー・リオン
アーディが死んだと思ってる。幾らファルナ持ちとは言え、あの爆発の嵐の中即座に現状把握などできる筈もない。これから沢山泣かされる。かわいそう。
アストレア・ファミリアの皆様
アーディが死んだと思ってる。メンタルボロボロ。しかしまだまだしっかり働いてもらう。オラリオの秩序側は案外ブラックなのかもしれない。かわいそう。
ヴァレッタ
ぽっと出のガキにいきなり出鼻を挫かれた人。おのれディケ〇ド…
アルフィア
ちょっと戦犯。とは言え本人がバカ強いのでヴァレッタのストレスが溜まる以外は問題無い。大抗争でのラスボス。
民間人の皆様
原作よりも大勢助かっている。たぶん死者が数百人単位で減る。良かったね。
フレイヤ&ロキ・ファミリア
主人公のせいで事前に火炎石の存在がバレているので対策として