ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。 作:一般通過社会人
やったね皆!アーディ生存ルートだよ!(ロイ君の所業から目を逸らしつつ)
〜??? ???? ?? ????視点〜
「――――――――」
眩しい。あれ、私は…?
「―――――――」
そうだ、私は、アーディ・ヴァルマ。それで、えっと……何をしてたんだっけ…?
「――――――」
………あ、そうだ私は、闇派閥の掃討作戦に参加して…。
「―――――」
私……死んじゃった?
「――――」
残念だな……もっとしたい事はあったし……リオン達ともお別れしたくないし……。
「―――」
寒いな……冷たい……。体も、心も凍えてく。わたし……………・このまま…?
「――」
……あれ?どうして、わたし、こんなに……?
「―」
眩しいって感じるんだろ……?
「………!」
あ…?あったかい。寒さが消えていく…!
「!!」
そうだ、私……!
「!」
起きなきゃ…!
〜バベル 治療施設 病室 アーディ視点〜
「……………………………アーディ?」
目を覚ますと、柔らかな日光とシャクティお姉ちゃんの顔。でも、様子がおかしかった。信じられないようなモノを見る目。
「おねえ、ちゃん………?あれ、わたし…?」
声を発し、身体を起こした瞬間に再び視界は変わる。金髪と、新緑色の
「わぁ!?リ、リオンっ?君が熱い抱擁!?どうしたの!?」
「ふざけないでくださいっ!ふざけ、ないでっ…………!!」
抱き着くなり肩を震わせ、さめざめと泣き始めるリオン。いきなりの事に、頭に情報が入ってこない。
「………よかったっ、あなたが生きててっ……………よかった……………!」
「リオン……」
リオンの頭をそっと撫でると、その後ろから元気な声が響いた。
「『アーディ!生きてたのね!ヤッター優勝!!』って私が
「先を越されなくてもすんなバカ」
「あそこから一命をとりとめるとは……ロイの活躍が有ったとはいえ、頑丈すぎると喜んでおくべきなのか……まったく」
「アリーゼ、ライラ、輝夜……ここは?」
「バベルの治療施設だ」
シャクティお姉ちゃんが素早く声を挟み、状況を把握させてくれる。治療施設……やっぱり、私は…。
「闇派閥が仕掛けた『自爆』戦術を被り……瀕死だったお前を、ここへと運び込んでくれた。………ロイがな」
「!!?!」
ロイが…?あれ、でも、ロイは待機って…?
「現状を説明するぞ。現在、オラリオは都市全体に闇派閥の襲撃を受け、都市機能は完全に麻痺している」
「そん………な………」
私が寝てる間に、そんな事が…?
「四つの主要施設に避難民達を分け、冒険者達が護衛に当たり『決戦』の準備をしている」
「『決戦』?」
「ああ。闇派閥は現在、オラリオの市壁を取り囲むように部隊を展開し、援軍含めた物資や人員の流れを徹底的に封鎖している」
「まさに、『兵糧攻め』だ。日が経てば経つ程に我々は物資が枯渇し、我々は戦いどころか明日の生活すらままならなくなるだろう。オマケにいつ爆ぜるかも分からない民衆と言う爆弾付きだ」
「………」
思ってたより、事態は深刻なようだ。思わず顔が暗く沈む。
「………しかし、コレでもまだマシな方なのだ。あの馬鹿弟子……ロイのお陰でな」
「………ロイが?何をしたの…?」
また危険な事をしてないと良いけど…。
「お前が眠ったあと、オラリオ全体が闇派閥の襲撃を受けてな。一般兵だけでなく、自爆兵も混じえた大規模なもんだ。オマケに闇派閥の奴ら、【ゼウス・ファミリア】と【ヘラ・ファミリア】の眷属、【静寂】のアルフィアと【暴食】のザルドを連れてきて【重傑】と【九魔姫】、【猛者】もブチのめして無力化しやがったんだ」
「ゼウスに、ヘラ…!?」
そんな、最強のファミリアまで…!?
「私達も闇派閥の兵士の相手で手一杯、誰も助けになんて行けなかった。しかしどうやら、闇派閥の目的はその後だったらしい。護衛を失い無力になった秩序側の神々を送還しようと邪神を差し向けたのだ」
「……もう、ダメなのかな…?」
涙が溢れそうになる。私達冒険者の力の源である、
「でも安心して!ロイが邪神の
「……………………………………へ?」
えっ、え?ロイが、邪神を、脅して……脅し…?
「その後、意気揚々と表に出てきた相手の黒幕に、バチコーン☆っと演説かまして盛大に喧嘩売っちゃったんだから!!いや〜、アレはカッコよかったわねぇ〜!!」
「まあ、言葉選びはアレだったがな」
「お前のせいだぞ輝夜。かなりお前のせいだぞ」
「2回言わなくても分かっている!!」
脅し…?え、演説…喧嘩…????
「アーディ……?っ!?大変ですアリーゼ!アーディが情報過多で頭の中に星空を思い浮かべている猫のような顔に!!」
「いやいやそんな事……えっ本当じゃない!!?戻ってきなさいアーディ!?」
「アーディ、しっかりして下さい!!今助けを…エーセーヘー!!」
「アリーゼ、リオン落ち着け。こりゃもうちょいかかりそうだな…」
「ああ。だが取り敢えず一命は取り留めたのだ、良しとしよう」
アリーゼ達の騒ぐ声を耳に受けながら、暫くの間固まってしまった…。
〜バベル 治療施設 談話室〜
アーディはアレから何とか復帰したものの、更に混乱を加速させていた。
「ねぇ、皆。その…えっと…」
「アーディ。貴方の疑問は最もだ。何故一番活躍した筈の『彼』があんな目に遭っているのか、でしょう?」
……アーディの視線の先には、(´・ω・`)した顔で女神の前で正座しているロイが居た。
〜バベル 治療施設 談話室 ロイ視点〜
………はい、ロイです。大抗争開始から既に一夜が明け、現在は談話室で正座をしています。
「………」
「ロイ?反省してるの?」
「うす……」
「返事ははい、でしょ?」
「はい……」
ヒエッ……怖いッ、怖いよっ……。そんな神威マシマシ怒気カタめにしないでアストレア様……。
「良い、ロイ?私はね、人を救っちゃダメ、とは言っていないのよ?でもやり方を考えてって言ってるの」
「で、でもアストレア様以外の名前は出してないですよ?誰も傷ついて無いですし……」
「貴方自身は?」
「…………」
「あなた、内臓傷ついてる状態で大声出したから危なかったのよ?ただでさえ全身ボロボロなのに……」
「……あのまま闇派閥放置する方がアレなんじゃ…それに、一般人に対してのご機嫌取りも必要ですし…」
「ふふっ、そうね。でも、それでロイが死んじゃったら私悲しいわ」
「すいません……」
ソレを言われると何も言えない。
「インファント・ドラゴンに、闇派閥の
「はい……
バァン!!!
…ピッ!?!!!!?」
アストレア様がソファーの横にあるサイドテーブルに拳をめり込ませる。ちびるかと思った。
「ほ ん と う に わ か っ て る ?」
「分かってますっ、分かってますから神威抑えてくださいお願いしますッッッ!!!!」
「あら、うっかり……でもロイ、次は無いわよ?もうこの台詞も5回目だけど。5回目だけどね?」
「はいっ、すみませんでした……」
うっ、脚が痺れて……脚を引きずりながら何とかアストレア様の斜め右のソファーに辿り着くと、腰をかけようとした…が。
「ロイ。隣」
「え?」
「早く」
「えっ、あ、あの…」
「は や く」
「ひゃいっ!!!」
再び大量の神威が漏れ出したので、慌てて隣に移動して座る。……人一人分の間隔を空けて。
「巫山戯てる?」
「………今行きます…」
「よろしい」
クソっ、容赦が無い…本当に容赦が無い。どうして俺がこんな目に……俺はなにも悪いことしてないのに…!
「え、えーっと……ロイ?」
「…アーディか。もうちょい寝てた方が楽だったのに」
「つんでれ、って奴ね!相変わらず可愛いわ!流石私達の弟分!!」
「いや、ツンデレでも冗談でもないですよ。今の状況じゃ、気絶してたほうが楽だ」
「…………確かに、そうね」
団長の顔が沈む。水を差してしまったが、事実だ。実際に今の状況では、寝ていた方が遥かに楽だったりする。
「えっと……取り敢えず、ね?お礼が言いたくて…」
「出来れば全部終わってからにしてくれ……。あと素直に感謝の意を受け止められるような気分じゃない」
「あはは…」
アーディが苦笑い。その光景を見て団長達は微笑ましそうに笑っている。平和そのものだ…外を見なければ。
「よいしょっ…」
「………何で隣に座る?」
「気分。あと、ロイの隣は落ち着くから…」
……まあ怪我人を無理には振り払わないけどさ。
「あら、ラブラブじゃない!うらやましいわ!」
「なっ!?破廉恥です、ロイ!」
「何故この状況を見て俺に文句が飛んでくるんだ??喧嘩売ってるのか??」
「そうでは無いですが!!そうでは無いですがっ!!!」
「じゃあ何なんだよっ…!!」
クッソこのエルフめ……何が気に入らないんだっ…!!
「はいはいやめろ其処のルーキー二人。兎に角、ロイとアーディは暫く戦闘は禁止だ」
「「何で?」」
「ロイ?私言ったばかりよね?」
「はい……無茶しません……」
「………ま、そう言う事だ。お前等二人は後方支援…雑用とかをしてもらう。特にロイ、お前アーディ運ぶ時にかなり無茶したろ。魔法で全部治っているとはいえ、念の為だ」
「はい…」
「……ね、ねぇ、その無茶って一体どんな…?」
「………聞かないほうが良い。と言うか思い出したくないから聞くな」
「せめて、内容だけでも…」
「……左腕骨折左脚にヒビ、内臓と鼓膜にダメージが入った+お前背負った状態で闇派閥の兵士迎撃しながら
「……ぅ……ご、ごめっ……!」
「あ〜泣くなってほら…お前は悪くないんだから…」
だから言いたくなかったのに。
「…兎に角、お前のお陰でアーディは助かった。本当に、ありがとう。この恩は姉として、一生をかけて返させてもらう」
「重いですよシャクティさん……」
「言ってくれるな…お前には、本当に助けられた」
「しかし、何故彼処から助かったんだ?言っちゃ悪いが、もう死んだとばかり……」
「………さぁ?」
「………おい、何だロイその目は。何故目をそらす?」
やべ……そう言えばアミュレットの効果言ってなかった…。何とか誤魔化そ…
「…………じ、実はですね」
隣のアストレア様から発せられる悍ましい圧にあっさり屈した。
〜説明中〜
「………本当に、本当にありがとう」
「……………ロ、イっ…!!」
「ごめんだけど其処の姉妹二人ともちょっと黙ってて隣のアストレア様からの圧が凄いから。俺死ぬから」
「………………アーディが助かってるし、良しとするわ」
「……あざっす」
許された。死ぬかと思った。
「兎に角、私とロイ、アーディで避難民への手当てと炊き出しをするわ。皆は各々出来る事をお願いね」
「「「「はい!」」」」
各々が動き出す。オラリオには、黒い煙の柱が昇っていた。
〜市壁の外 闇派閥本陣 闇派閥視点〜
一方その頃、闇派閥は。
「冒険者達は四つの主要施設に陣を構築し、防衛しております。メレンのニョルズ・ファミリア含めた戦力の謀略も確実に潰せており、包囲は盤石な物になりました」
市壁を占領した闇派閥は、市壁の外に部隊を展開し仮の本陣を築いていた。
「ソレは良い。あのクソガキ、
「……それは」
「……暗殺どころか、陣の内部すら入れていない始末だ」
「…………ハーッ…!」
ヴァレッタが大きな溜息を吐く。
「っち!!!っとによぉっ!あのクソガキはッッッ!!」
ヴァレッタが椅子を蹴り飛ばす。
「……ヴァレッタ、落ち着け」
「落ち着いてられるかぁ!?この状況で!あのクソガキのせいでだいぶ兵も減っちまった!元々自爆兵にする予定だった奴も居たが、ちゃんと調練モドキだがしてやった兵士だって居たんだぞ!!」
悪人達の兵と言えど、訓練無しでは常日頃から命のやり取りをしている冒険者達を相手取るのは厳しい。ヴァレッタは最低限使える兵士にする為の教育も兵達に施していた。
「ソレを大勢殺られた!コッチは唯ですら人手不足だってのによ…!」
「秩序側の神を4柱しか送還できなかったのが痛手でしたね。お陰でオラリオにはまだ大量の戦力…冒険者達が立て籠もっています」
「覇者二人が居るとは言え…痛手には変わり無いか」
元々秩序側の神々の送還にて覇者二人を除いた一般兵の戦力差を埋めるつもりだったヴァレッタは、作戦失敗をもって大いに焦っていた。幾ら覇者二人が強力とはいえ、都市としては他の街よりも遥かに広大なオラリオを破壊するには二人だけでは人手が足りない。冒険者の殲滅だけでは無く、その後の事も考えればやはり人手は必要だ。だが、ソレを大きく減らされた。
「市壁は占領した!だがオラリオに住む民衆どもの混乱は想定以上に少ねぇ!」
「ですがヴァレッタ、アチラは冒険者だけでは無く民間人も養わなければならないのです。足手まといが増えたと考えれば……」
「その足手まといが足手まといとして機能してねぇんだよ!もっと混乱を大きく広げなきゃならねぇ!」
一応、食糧の問題もあるのだが…それは闇派閥も同じ。裏の商人達から仕入れているとは言え、時間をかけられればオラリオの外の戦力達が其処を特定、突いてくるだろう。故に、リミットはある。
「っち…兎に角、妨害は続ける。どうせ冒険者共の言う事聞かなかった馬鹿な連中が居るからな。其処を徹底的に突いて、ジワジワ絞め殺す!」
「
「無駄な事に戦力は割けねぇ。止めだ止め。その分の人員は諜報に専念させろ」
「了解しました、それでは…」
ヴィトーがくすんだ血の色をした髪を揺らし、幕をくぐる。オリヴァスも後に続いた。
〜迷宮都市オラリオ〜
銀の閃光が、奔り抜ける。
「ぐあああっ!?!?」
鋭い斬撃がヒューマンの男を斬り伏せ、地面に転がした。僅かな抵抗も許されなかった兵士が瓦礫の上に倒れる中、その「剣士」は、美しい長髪をなびかせ風のごとく駆け抜けた。
「待て、出過ぎるな!――――止まれ、アイズ!」
敵の悲鳴はおろか、味方からも叫喚を浴びせられるのは、一人の少女だった。
金髪金眼。幼いながらも人形のように整い過ぎた顔立ち。しかし、その美貌の頬は今、跳ねた返り血で赤く染まっている。
小柄な体軀には不相応な銀の剣を持ち、戦場を縦断する齢九歳の少女。アイズ・ヴァレンシュタインは、リヴェリアの制止の声を置き去りにした。
「平気……行けるっ!」
彼女が疾走する先は、闇派閥の複数の部隊。無力な都市民を嗜虐的に弄ぼうとしていた悪徒どもである。
「き、金髪金眼の娘……? それにこのデタラメな動き――まさか『人形姫』!?」
こちらへ迫りくるアイズの正体を一人の兵士が察した瞬間。
「――――ぐあっ!?」
瞬く間に斬り伏せられ、無力化されていく。
敵の一団は、恐怖の雄叫びを上げた。
「せ、戦姫だああああああああああああああ!?!?!!」
それに対してアイズは、一言。
「……よくも、わたしの弟をッッッ!!!」
目に見えた
踏み込むと同時に、袈裟斬り。
小さな体をいっぱい使った剣撃が、獣人の巨軀を切り裂く。
瞬時に切り返される二の斬撃が、横から飛びかかろうとしていた女戦士を武器もろとも斬断した。
「がああああああああああああああっ!?!?」
一人、また一人と悪の眷族が崩れ落ちていき、闇派閥の陣形は瞬く間に意味のないものに成り果てる。
その剣技は、未だ短い手足に似合わないほど精密で、苛烈だった。
彼女はLv.4である。
十にも満たない年齢でありながら、少女は第二級冒険者に名を連ね、その実力を遺憾なく発揮する。金色の髪をきらめかせる残像はまさに小さな嵐と化し、悲鳴の渦を巻き起こした。
纏うのは蒼一色で統一された《戦塵のアリスドレス》。小人族の戦鎧から数度の変遷を経て軽量性と魔法耐性を突き詰めた、上級冒険者用の戦装束。来たる日のために小人族の勇者が指示し、一切の遊びを削ぎ落した対人戦特化装備である。
様々のものが奪われた都市の廃墟の中で、幼い剣の姫君が、無垢に、淡々と、悪の痛哭を引きずり出す。
「ど、同志が一瞬で……!しかも誰も殺さず、悉く「無力化」…………?」
部隊を預かる闇派閥の小隊長は、眼球をあらん限りに剥くしかなかった。
壮烈な剣舞でなお恐ろしいのは、誰一人として命を奪っていない事。
全力で抵抗する敵や、手負いの獣の命を断ち切らず再起不能にとどめるのは、ただ殺害するより遥かに困難極まる。多くの者を淀みなく切り裂いておきながら、その剣は決して血に酔っていない。
他の第二級冒険者とは隔絶した、圧倒的な技量。
ただただ、ひたすらに『敵を
「止まれと言っているだろう、アイズ!くそ、人の気も知らないで……!」
一方で、少女に殺生の厳禁を命じた当の本人、リヴェリアは焦りの声を飛ばす。
前例がある……できてしまった、とは言え彼女は未だ幼い少女を血生臭い戦場―――――モンスターを屠るダンジョンとも異なる人間同士の殺し合いに参加させることに最後まで反対していた。
そして少女は禁じて年若い団員達は認めるのか、というフィンの鋭い指摘に、何も言い返せなかった。
諭された通り、副団長であるリヴェリアとて理解している。
あの夜に…彼女の弟に助けられたとはいえ、大敗を喫した今、『手札』を温存できる段階はとっくに過ぎているのだ。
「恨むぞ、フィン……!」
だが、理屈と感情は別。
少女の面倒を誰よりも見続けてきたハイエルフは、怪我の体に鞭を打って追いかけながら、一人の小人族に向かって悪態をつく。
「ヴァ、ヴァレッタ様に与えられた三つの部隊が、壊滅……………!?!?!」
『戦姫』が暴威を振るう渦中で、運の無い闇派閥の小隊長は呻く。
そして次には、眺を引き裂き、決意を固めた。
『火炎石』が仕込まれている己の懐に手を伸ばし、自決装置を起動させようとしたのだ。
「主よっ!!!我が命を天に捧げ――――」
己の命を道連れの爆弾に変えようとした彼の「特攻」は、しかし徒労に終わる。
剣の音色とともに、より凄烈な「神風」に阻まれ、静まる。
「…………え?」
金の影が己の脇を過ぎ去り、銀の光が瞬いた。
呟きの破片を転がす闇派閥の小隊長は、気付いた。
自決装置に伸ばした手を動かせないことに。どころか四肢を動かせないことに。
斬られたことに気付かなかったことに、気が付いた。
「フィンから話、聞いた。『爆弾』……でしょ?」
男の背後で、少女が抑揚なく告げる。
「対策済み」
現実を受け止め、男の手足から血が噴き出す。
(手足、斬られて―――爆弾に触れず斬撃を――自爆できな、い――)
走馬灯のごとく脳内で単語が駆け巡る悪の眷族は、正しく状況を理解し、時を止める。
顔色一つ変えず、針の穴を通すほどの精密斬撃を一瞬で繰り出した少女に、戦慄した。
「ば、馬鹿なっ」
どしゃっと音を立てて、最後の敵兵が崩れ落ちる。
激しい戦闘の音が鳴り止む。
辺り一面に広がる瓦礫の海には、風のような静けさだけが横たわった。
「終わり……」
自身の身の丈ほどもある愛剣《デスペレート》を振り鳴らし、血を飛ばして、アイズが背の鞘に収めた次の瞬間、ドゴッッ!と。
「ふぐっ!?」
凄まじい拳骨が、脳天に叩き落とされる。
「終わり、ではない、馬鹿者!今のオラリオはダンジョンより危険な戦場と化しているっ!迂闊な真似はするな!」
怒りの形相で雷のような声を浴びせるのは無論、リヴェリアだった。
何を言っても聞かなかった
「痛い……」
アイズはというと、頭を両手で押さえ、涙目でリヴェリアを睨んだ。
戦場での活躍が嘘だったかのような年相応の仕草で。
主神がこの場にいれば「涙目の幼女愛くるしいいー!お持ち帰りやー!」などと気持ちの悪い……否、筆舌し難い顔で騒いでいただろう。
「そんな目で睨んでも無駄だ!どうして私の言うことを聞かなかった、アイズ!」
無論の無論、そんな少女の反逆など
今にも長い翡翠色の髪が揺らめき、鬼の角が生えそうな彼女に、怯えるアイズは睨むのを止めて、ぼそぼそと言う。
「………………全員、私一人で倒せたから」
人差し指を突き合わせて、アイズは理由を並べた。
「お前というやつは……!」
「……それに、リヴェリア、怪我してる。ロイも、ガレスも、みんな沢山怪我をした」
「っ…!」
その言葉に、リヴェリアは動きを止めた。
長杖を持ち、今も武装している彼女の体には、どこかのドワーフと同じように包帯や綿布の治療痕が痛々しく残っている。第一級冒険者に見合う翡翠の外套と白と黒を基調にした魔法衣――《師境のエルフ・モンタント》もまた、魔女戦の損傷を修繕しきれていない。
アイズは戦闘に参加していなかった為にその攻防の激しさは分からなかった。だが、これだけは分かる。今は皆が苦しい。
その姿を見上げながら、アイズは子供心のまま言った。
「だから、私がやらなきゃって……そう思った。リヴェリアが、皆が苦しいのは…………嫌」
そこには確かに愛があった。
家族を想い、労らんとする「親愛」が。
仲間を案じ、助けようとする「優しさ」が。
まだ幼い少女は口数が少なく、表情も乏しい。
だから、胸の中のありのままの気持ちを差し出す。
動きを止めていたリヴェリアは、一度目を瞑り、ややあって地面に片膝をつく。
「……アイズ、その気持ちは嬉しい。だが、私もお前と同じ思いだということを、忘れないでくれ」
まだ小さい少女と目線を合わせながら、一言一言を噛みしめるように告げた。
リヴェリアの翡翠の瞳が、アイズの金の瞳と視線を絡める。
「私は、お前が傷付けば悲しい。自分のこと以上に」
「……うん。わかった、リヴェリア」
言葉を交わし、頷く。彼女達の姿は何てことのない、絆で結ばれた、ただの母子のようだった。
「こっちに来い。血を拭く」
「んっ……」
刺のなくなった声色に、もう怒っていないと悟ったのかアイズはとことこと近付く。
白く清潔な布で顔を拭われ、素直な猫のようになされるがままになる。目を瞑りながら丸い頬をむにむにと変形させるアイズに、思わず微笑していたリヴェリアは――赤く染まる布を見て、すぐに笑みを消した。
「アイズ……血の臭いに、慣れるな。……人を斬ることに、抵抗をなくすな」
憂いを宿す睫毛とともに、リヴェリアは僅かに目を伏せる。
「相手はモンスターではなく、同じ人だということを、忘れるな……」
それは聡明で気高い彼女には似つかわしくない、哀願にも取れる響きを帯びていた。まるで、何処かに居るもう一人を想うように。
顔を拭われたアイズは、すぐには答えなかった。思う所があったのか、ただ透明な瞳でリヴェリアを見つめ、口を開いた。
「ねえ、リヴェリア……どうして、人同士で、殺し合ってるの?」
「――――――」
リヴェリアの双眸が見開かれ、固着する。
「闇派閥の話、知ってる。ロイの活躍から聞いてたし、他からも…悪い人達だって、聞いてた。でも……私達が戦う相手は、他にいるよ?」
無垢な目は、ありのままの事実を問うた。
「私達の敵は、モンスターじゃないの?」
崩れた都市の廃墟の一角に、冷たい風が過ぎ去る。黙りこくっていたリヴェリアは口を開いて、認めた。
「……ああ、そうだな。お前の言う通りだよ、アイズ……」
子供の尋ねる『正しさ』が間違っていないとわかっていながら、現実を何も変えられない大人のように、ハイエルフは天を仰いだ。
「愚かなまでに……我々は、同胞の血を流し合っている」
虚しさと、人の愚かさが残酷なまでに青い空に響いた。
ロイ・ヴァレンシュタイン(ろくさい)
報連相ができないクソガキ。また、滅多に怒らない人を怒らせる天才。恐らく下界でアストレアをガチギレ説教させられる唯一のヒューマンで、これまでも沢山無茶してアストレアを怒らせている。それでもって学習しない。愚兎よりも愚兎。
アストレア
説教係1。堪忍袋の緒が限界とか言ってるが、これまでも切れてるのでたぶん強度自体が劣化していると思われる。怒ったときの顔はロイ君のトラウマ。神界屈指の武闘派は伊達ではない。言葉九割、鉄拳制裁一割。
輝夜
説教係2。説教係とは銘打っているが、実際は叱る時は鉄拳制裁が圧倒的に多い。基本的には拳骨だが、ロイ君の顔面を前が見えねェしたことも。言葉三割、鉄拳制裁七割。
アリーゼ
説教係3。とは言え他三人と比べるとロイ君に対して怒った率は圧倒的に少なく、余りに酷いとラスボスとしてガン詰めして叱るタイプ。手は出さない。
マリュー
説教係4。回復魔法の使い手としてロイ君が無茶した時はほぼ毎回尻拭いをさせられている。怒る率は輝夜とアストレアに比べれば少ない。手は出さない。でも出しても良いと思う。
アーディ
爆殺を免れた人。ロイ君とのイチャコラは次回から。文字数が足りねぇ。
アイズ・ヴァレンシュタイン
ブラコン。弟やマッマをズタボロにされて怒り心頭。原作よりも闇派閥への当たりが強い。でも弟に中々会えない寂しさもかなりある。
リヴェリア
マッマ。クソ過ぎる現実と痛む傷に曇りっぱなし。アイズにはロイ君みたいになって欲しくないと思ってるけど、それはロイ君をダメって言ってるみたいで……って感じの思考に陥ってる。だいたいロイ君のせい。ちなみにロイ君に泣きながらビンタした事がある。説教はする前にロイ君が離れていったので無い。