ダンジョン潜って5年、地上に出たら色々変わってました。   作:一般通過社会人

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なんだかなぁ。

 

〜祈祷の間 ヘスティア視点〜

 

「人類と…モンスターの共存!?」

 

あまりの内容に頭が混乱する。いや、今日は驚かされてばっかりだけど…。

 

「君は…自分が何を言っているのか分かっているのか!?」

 

「無論だ。」

 

人類とモンスターの共存…口に出す事さえ憚られる禁忌。外界の住人とモンスターは殺し合う。これは必然だ。しかし、目の前の男神はそれを…。

 

「だが、彼ら『異端児(ゼノス)』は本能のままに襲いかかるのではなく、人との対話を望んでいる。」

 

「!!」

 

「その爪と牙ではなく、言葉と理性を持って訴えているのだ。地上に出たいと。子供達を…人間達を知りたいと。」

 

脳裏にウィーネ君の顔がよぎる。

 

「理性を宿した『異端児』達は通常のモンスターにさえ襲われる。疎外と排斥だ。彼等の居場所は地上にも、迷宮にも存在しない。」

 

「…。」

 

「聞き耳を持たず、モンスターであるからこそ葬り去ると言う選択肢は簡単だ。だが彼らは意思を備え、それを伝える術を持っている。我々の子と同じように。」

 

彼らを知ってしまった…と、ウラノスは僅かに目を伏せる。

 

「ダンジョンに『祈祷』を捧げる存在として…もはや彼等の慟哭を受け付けず、滅ぼす事はできそうに無い。」

 

真面目だね…と茶化す言葉を出そうとして、出来なかった。ボクももはや知ってしまった側だ。果たして自分は、ウィーネ君を…あの竜の娘を切り捨てる事ができるのか。眷属(ベル)達の為に、悪逆と欺瞞の女神になる事が本当に出来るのか。懊悩と選択肢の渦に囚われ、しばし無言を貫いたあと…ウラノスに再度問いかけた。

 

「…本気で、彼等との融和を図る気かい?」

 

「神意は定まっている。だが…はっきり言えば無理難題だ。持て余している…と言うのが実情に違いない。」

 

あっさりと白状するウラノス。

 

「子供達との共存を目指すと言うのならば、我々は怪物(かれら)の存在意義を問いたださなければならない。」

 

『怪物』は生まれながらにして正常から逸脱した、特異な容貌という負の烙印が押される。威嚇的な体軀、血を象徴する爪や牙、死を招く炎、獣性を帯びた咆哮…挙げればキリがない。そして、それらによって成されてきた蹂躙と殺戮の歴史を覆すには…彼らの『存在意義』を示すしかない。

 

「…つまり、その存在意義とやらを示す為に、ベル君達と言う媒介(かけはし)に可能性を見出したって事かい?」

 

「その通りだ。」

 

もはや開き直りにも等しい打ち明けの数々に力無く頭を振るしかできない。…だが、ウラノスの言い分は分かった。少女(ウィーネ)を知る自分としても叶うなら慈愛を恵んでやりたい。だが、その道にはベル君達の破滅が両隣に存在している。もしも怪物に加担したことが公になればベル君達はこのオラリオ…、いや、世界から居場所を失うだろう。とてもでは無いが天秤を傾けるような真似はしたくない。それに…。

 

「彼は…ロイ君はどうする。彼はボク達の眷属じゃない。」

 

「……彼は、もはや関わってしまった。ほぼ事故ではあったが、既に異端児達と関わってしまったのだ。巻き込むしかあるまい。」

 

「…じゃあせめて、アストレアだけでも話しておくべきだ。これは義理であり、礼儀だ。」

 

「ダメだ。アストレア・ファミリアの等級は既にS。これ程のファミリアが関わるとなると、事が大きくなり過ぎる。万が一が起きた時の『落とし所』が無くなる。それは彼も理解してくれている。」

 

「彼が理解してくれていると言う問題じゃない!彼の周りがどう思うかなんだ!アストレアは口が固い!バラしたりなんてしないさ!」

 

「それでもダメだ。」

 

「何で!」

 

「彼女達が、この都市の『英雄』だからだ。」

 

「……っ!」

 

『このオラリオで、最も人気なファミリアと言えば?』こう都市の住人に質問したとしよう。『勇者(ブレイバー)』含め、多くの有力冒険者が所属しているロキ・ファミリア。黒い噂はあるものの、それでも実力は圧倒的な『猛者』オッタル率いるフレイヤ・ファミリア。『象神の杖(アンクーシャ)』を筆頭にLv.5が12人も在籍するガネーシャ・ファミリア。皆そこそこは名前が挙がるだろう。しかし…。

 

「彼女達の民衆からの支持は圧倒的だ。アストレア・ファミリア。その都市の英雄達が万が一にも怪物に加担したとなれば…。」

 

アストレア・ファミリア。Lv.6、『紅の正花(スカーレット・ハーネル)』アリーゼ・ローヴェル率いる都市の英雄と言っても過言では無い、支持率トップのファミリア。彼女達が圧倒的多数で1位になるだろう。

 

「仮に話はして加担はさせなかったとしても…確かに彼か私が話せば理解はしてくれるだろう。だが、街で事が起きているのにアストレア・ファミリアが動かない……それだけであらぬ噂が立つ。」

 

「っ……。」

 

……彼女達は、人気すぎるんだ。偽装するにしても民衆の注目を浴びすぎて必ず綻びが出るし、しなかったら都市は大きな混乱に陥る。2次、3次被害を考えれば幾つ犠牲が出るか分からない。

 

「彼は…一人になってしまうよ……。」

 

「……我々の罪だ。一人の少年を、巻き込んでしまった…我々の。」

 

ごめん…ごめんな、ロイ君…。

 

 

〜ロイ視点〜

 

グロスにイケロスファミリアの事を伝えた。わざわざ隠す必要も無いからな。

 

「…良いだろう。あの娘を動かす時は暫く護衛を倍にする。イケロスファミリアか…。」

 

「拠点の場所も分からないからな…何処から仕掛けてくるかも分からない。頼んだ。」

 

拠点の場所さえ分かれば皆で叩きに行けるが…無い物ねだりしても仕方ない。皆の所に戻った。

 

〜隠れ里〜

 

「俺っちは、あの夕日の見える世界でもう一度生きたい。」

 

「私は、光の世界で羽ばたいて、誰も抱きしめられないこの翼の代わりに…愛する人に抱きしめられたい。半分はもう叶ってしまいましたけど…。」

 

「隙あれば惚気るの止めてくれません?」

 

「糖分過多だな。」

 

「えへへ…///」

 

レイが照れながら惚気ている所に合流する。

 

「何だ来てたのか愚者(フェルズ)。」

 

「ロイ。久しぶり…でもないか。」

 

眼晶(オクルス)あるからな。借り物だが…。」

 

一応俺も持ってるからな。あくまで借りてる奴だから壊したらヤバいけど。

 

「貸しているとは言え、君ならその気になればコピー品なら作れるだろう?」

 

「アビリティ無いから無理に決まってんだろ…。」

 

昔はコピー品ならよく作ってたが、今は神秘のアビリティ無い上に器用も高くないからな。どっかの万能者(ペルセウス)さんやフェルズには遠く及ばない。そして俺のはあくまでもコピー品。頑張っても全く同じ物しかできない。

 

「私の魔道具をコピー出来るだけで凄い事だ。」

 

「魔道具製作者なんて開発してナンボだろ。お世辞は良いから話を進めろ。」

 

「連れない男だな。」

 

うっせぇ800歳。どうせ孫感覚だろうが。

 

「…わかってるんだ。どうせ俺っち達は日陰者。中途半端で、人がらもモンスターからも嫌われる。……ただ、それでも夢だけは見ていたいんだ。」

 

夢だけは…か。

 

「この『隠れ里』も、ひょっとしたら母ちゃんが、オレっち達みたいな半端者の為に用意してくれたんじゃないか…そう思う時があってよ。」

 

「母ちゃん…?」

 

「母ちゃんだよ母ちゃん。つまり…。」

 

「つまり、迷宮(ダンジョン)です。」

 

レイの言葉にベルが驚く。

 

母親(マザー)が私達の事をどのように見ているか…未だに分かりません。私達は同族に襲われ命を狙われる。ですが同時に、存在する事を許されている。そう思う時があります。」

 

リドとレイが物言わぬダンジョンに視線を移し、問いかける。

 

「だからさ、前も…握手だけだったとはいえ、ベルっち達と知り合えて嬉しかったんだ。」

 

レイと共に視線を戻し、ベル達に向ける。同じ頃、ウィーネ達が立ち上がってこちらに帰って来た。嬉しそうに自分の名前を呼ぶウィーネに、ベルは一度振り返り、再度リド達を見る。

 

「協力してほしいとか、どうして欲しいとかそう言う事じゃないんだ。ただ、俺っち達を受け入れてくれる人間が増えた…それが嬉しかったんだ。」

 

立ち尽くすヘスティア・ファミリアを、フェルズが見守り、レイが微笑みかける。そしてリドは、照れ臭そうに鼻をさすった。

 

「ベルっち達に会えて、良かったぜ。」

 

 

〜未開拓領域〜

 

『異端児達の隠れ里』では宴が終わろうとしていた。伴って、俺達の帰還の準備が始められている。リド達も他の隠れ里に移るらしい。

 

「……。」

 

ベルが命さん達が異端児達と握手を交わす姿を見て黙り込む。…迷ってるな。そりゃそうだ。俺みたいに直ぐ割り切れる方が少ないだろう。モンスターにも憧憬があると知った。夢があると知った。今までと同じように、モンスターに刃を向けられるかどうか…。

 

「ベルっち。」

 

そんなベルを見つめていたリドが近づく。やっぱり、リドって人見るの上手いよな〜…リーダーの器というか…。

 

「これ、何か分かるか?」

 

「魔石…ですよね?」

 

ああ。と、リドは頷く。そして、爪で摘まんでいた魔石を口に放り込んだ。

 

「!」

 

「俺っち達モンスターが魔石を食うと…どうなるか、知ってるか?」 

 

見せつけるように魔石を噛み砕くリドに、ベルは呆然とする。だが、直ぐに頭を回し始めた。

 

「『強化種』…ですよね?」

 

「ああ。俺っち達は同胞以外のモンスター達を殺す。そして抜き取った魔石を喰う。」

 

「!!」

 

「知ってるだろ?他のモンスター達は俺らを問答無用で襲うって。俺っち達も黙ってやられる訳にはいかない。生きる為に殺す。生きる為に喰う。」

 

第一級冒険者並みのポテンシャルに、通常のリザードマンよりも遥かに鍛えられた剣技。佇まいだけでそれを分からせる事で、その言葉に一切の嘘偽りが無い事をベルに突きつけた。青ざめる事しかできないベルに、リドが諭すように言う。

 

「だから、躊躇わないでくれ。俺達に変に気を使って、迷わないでくれ。同族達は怖い。躊躇したらこっちがやられちまう。ベルっち達が、殺されちまう。」

 

「リド、さん…。」

 

「例えそいつが喋ったとしても、襲いかかってきたら殺してくれ。そして…絶対に死なないでくれ。また、会いたい。」

 

リドの説得に立ち尽くすベル。あんまり無い事だろうからな。『お前に生き残ってほしいから俺の同胞を殺せ』なんて。

 

「ベルっち。」

 

「…?」

 

「握手。」

 

何とか笑いながら手を取るベル。ん〜…納得はしてないんだろうな。けど、やってもらわなきゃ困る。

 

「…結局、どうしてリリ達とあの方々を引き合わせたのですか?」

 

おや。こっちはこっちで盛り上がってるな。

 

「彼等を知って欲しかった。それだけさ。……今の所はね。」

 

うーわはぐらかした。ほれみろリリに睨まれてるじゃん。厄介事を持ち込むなって顔だ。

 

「分かっていると思うが、此処で見たことはくれぐれも内密に頼む。」

 

「話したって信じて貰えるわけないじゃないですかっ!」

 

怒りながらヴェルフ達の方に歩いていくリリ。ベルもまたリドと共に、クォーツの柱に足を運んだ。俺も。

 

「ベルっ、帰ろう?」

 

すっかり異端児達に懐いたウィーネがベルに気づく。振り返り、笑みを咲かせ、手を取ろうとした。……だが、それはダメだ。

 

「お前はこっちだ。ウィーネ。」

 

「…えっ?」

 

腕を引かれ、異端児達の元に連れて行かれた。唖然としていたウィーネは、咄嗟に腕を振り払おうとする。

 

「リドっ、ヤダっ、離してっ!

 

「ダメだ。お前は此処に残るんだ。」

 

「いやっ!ベルと一緒が良いっ!」

 

しかし、ウィーネの細い腕では振り払える筈もなく、ウィーネの瞳に涙が溜まっていく。……っと。こっちも来たか。

 

「…。」

 

「レイ…また、会えるって。」

 

「はい…分かってます…。」

 

それでも抱きついて離れない。…はぁ。

 

「ほら。」

 

「…っ。」

 

抱きしめ返す。俺よりも大きい、レイの背が今だけは小さく感じた。ちょっと泣いてもいる。暫く抱き合い…。

 

「……っ、はい、もう大丈夫です。」

 

「またな。」

 

「……死なないで下さいね。」

 

「勿論。」

 

最後に強く抱きしめ返し、離した。あっちも終わったらしい。

 

「…じゃあな、ベルっち。先に行くぜ。」

 

リド達が暗闇の奥に姿を消していく。涙が止まらない様子のウィーネに、ベルが叫ぶ。

 

「会えるから!…またっ、会えるから!」

 

気休めじみた約束が口から出る。やがて、異端児達は完全に姿を消した。

 

「…。」

 

背中を仲間達に見守られながら、ベルはその場に立ち続けた。

 

 

〜バベルの塔〜

 

朝靄が立ち込めている。昨夜は雨でも降ったのか、辺りの石畳は濡れていた。まだ眠っている街は静寂に包まれている。門前には、ヘスティア神がベル達の事を待っていた。……静かだな。あの娘が居ないだけで、こんなに変わるのか。

 

「…おかえり。」

 

悲しそうに眉を下げながら微笑むヘスティア神。

 

「神様…。」

 

「……何だい、ベル君?」

 

誰も居ない中央広場(セントラルパーク)の中で、唯一口を開くベル。

 

「…ダンジョンって、何なんですか?」

 

目を伏せ、ゆっくり口を開くヘスティア神。

 

「ダンジョンは、ダンジョンだよ……。」

 

やり切れない思いだけが、辺りに残った。……なんだかなぁ。

 

 

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