バジリスク伊賀転生帖~天膳殿は異世界でもまた死んでおるぞ!~ 作:onakatarumi
「隠れても無駄じゃあ!」
隠れ潜むは
「『ばすたーどそーど』をくれい!」
荷物の中からバスタードソードを投げ渡された
「フフフ。なかなかにやりよる——ゴフッ!?」
ゴブリンの別動隊に背後から刺されて天膳が死んだ!
今の取柄は死にタンク!
「ええい! 天膳のヤツめ、また死によったわ! これではいつまで経っても『れべる』が上がらんではないか!」
体毛で握ったバスタードソードを振るい、天膳に群がるゴブリンを蹴散らす念鬼!
戦い済ませてゴブリンたちの討伐証明部位である耳を切り取りながら、陣五郎が不満げに語る!
「のう、念鬼よ。『ぱーてぃ』として役割は分担できておるのだから、もう天膳の『れべりんぐ』は諦めて次の街に向かわぬか?」
マイナスレベルに達してしまった天膳をどうにかするため、日々ダンジョンに挑んでいた一行!
しかし天膳は最弱のゴブリンにすら殺されてしまう始末!
現在レベルはマイナス360! まさに天井知らず!
自らを殺した仇である
「ぬう、確かに。天膳の『れべる』はむしろ下がるばかり。上がったのはワシらの冒険者『らんく』ばかりじゃ」
Fランクより始まった二人の冒険者ランクは念鬼がB! 陣五郎がDへと達してい
た! なお天膳はFランクである!
冒険者としてランクが上がるは
次に向かうかと陣五郎に同意する念鬼!
「そうこなくては! 『くえすと』達成報告を済ませたならば、すぐさま次の街に向かおうぞ!」
二人はせっせとゴブリンの耳を集める!その間、天膳は死んでいた!
◆ ◆ ◆
野を越え山を越えたどり着いたるその街は聖なる都!
転生した甲賀卍谷十人衆がひとり、霞刑部《かすみぎょうぶ》が居する街であった!
「さあて。ここらで三人、春の聖都見物にでも参ろうかい。霞刑部の骸を肴になあ! フハハハハ!」
意気揚々と聖都の門をくぐらんとする
だがしかし天膳の身体は見えない壁にでもぶつかったかのようにはじき返される!
後頭部を強打して天膳は死んだ!
「なにごとじゃあ!」
「ううむ、そういえば聞いたことがある。聖都には邪なるものを跳ねのける結界が張られていると」
「なに?我ら
「いやまて陣五郎よ。ワシらは問題なく入れておる。弾かれたのは天膳だけじゃ!」
軽死だった天膳が蘇るのを待ち、念鬼たちは原因を探る!
「これじゃ! これが原因じゃ!」
天膳のステータス・ウィンドウを開いてみれば原因はすぐに判明した。
「天膳、おぬし『あんでっどもんすたー』と判定されておるぞ!」
ステータス・ウィンドウに記されしは「薬師寺天膳 レベル:- 371 種族:アンデッド」との文字!
「『あんでっどもんすたー』とな?あのような骨や腐肉と同列扱いとは! なんとも業腹!」
猛る天膳を憐れみこもった目で見る念鬼と陣五郎!
「『あんでっど』を連れて街に入ろうとすればワシらまで冒険者『らいせんす』を剥奪されかねん」
「そうじゃな。おい天膳よ。おヌシはそこらの河原で寝転がって時間でも潰しておれ」
しばらく腹立たし気に唸っていた天膳であったがフンと二人を冷笑する!
「まあよい。一度負けた相手に二度負ける無様をするでないぞ陣五郎よ」
「当然じゃ!」
こうして陣五郎と念鬼は二人のみで霞刑部に挑むことを決め聖都へと足を踏み入れる!
「あっ! 先ほど転んだ、髪がピョロリの人は大丈夫でした?」
天膳が結界に弾き飛ばされた様を見て、転んだと勘違いしていた門番がその身を案じる!
「うむ。ぴょろりは大事ない」
「びょろりは少し風に当たってくるとのことじゃ」
笑いをかみ殺しながら答える陣五郎と念鬼!
「おおそうじゃ! この街には霞刑部なる偉丈夫がおるとか! 何か知っておられる
かな門番殿?」
ついでとばかりに尋ねる念鬼に門番は勢い込んで答える!
「もちろんですよ! どんなダンジョンでも単身で奥底まで潜り偵察を行えるユニークスキルをお持ちの方です! あの方のおかげで完全攻略されたダンジョンは数知れません!」
霞刑部の能力は壁や地面にその身を溶け込ませること! ダンジョン攻略にはうってつけである!
「実はワシらは同郷でのう。一目顔を見ておきたいのだが住まいはどこか分かるかね?」
一目見たあと屠るつもりは伏せて、嘘はつかずに尋ねる陣五郎!
「分かりますとも。孤児院です!」
◆ ◆ ◆
「ここであったが百年目! 観念せい霞刑部よ!」
果たして霞刑部は孤児院のすぐそばにいた!
刃を構える陣五郎を前に、呼ばれた刑部は臆することなく歩み出る!
その背後には孤児院で預かる子供たち!
「いつか来るとは思っておったぞ伊賀者よ。それもワシに敗れた陣五郎とはな」
「ええい! ここは海の上とは勝手が違うぞ! 前と同じと思うなかれ!」
いまにも斬りかからんとする陣五郎!
だがその顔面に泥団子がぶつけられる!
投げたるは霞刑部の背後に控える子供たち!
「な、なにをするかあ!この餓鬼め!!」
「お、おい陣五郎、なにやら様子が」
直接の仇を前にした陣五郎に口上を任せんとしていた念鬼!
周囲の様子の異常なことにすぐ気づく!
「あんたら! 刑部さんをどうするつもりだ!」
「私財をなげうって子供たちのために孤児院を開いているこの街の名士をどうこうするつもりなら、俺たちが黙っちゃいねえぞ!」
刑部の背後の
その迫力に押し黙る伊賀鍔隠れの
「伊賀者よ。ヌシらは甲賀が憎かろう。ワシも伊賀をば憎んでおる! だが今や、親を失い涙する
かつての滾る熱情を、固めて鉄が如き
「ぬかせ! わしは海に溶けたのじゃぞ!? 水に流されたる恨みを流すとは笑止千万! いざアタタタタ!?」
かつて水洗されたる陣五郎! 水に流せの言葉に再び刀を振りかぶる!
だがそこに住民たちから投げつけられるは石ころにはじまり腐った卵、果実に器に、それから塩壺!
「や、止めよ! 塩壺は、あがががっ!?」
頭から塩を被り、みるみる萎む陣五郎! その有り様に悲鳴が上がる!
「スライムだ! ここにモンスターがいるぞ!」
「人間に擬態してやがったんだな! 討伐してやる!」
冒険者たちが武器を掲げ、スキルを発動せんとする!
「い、いかん陣五郎! 一時撤退じゃ!」
しなびた陣五郎をひっつかみ、体毛伸ばして離脱する蓑念鬼!
その背中に霞刑部が言葉を投げる!
「余人を交えぬならいつでも相手になろうぞ伊賀者よ! そして隣町に行ってみるが良い!
◆ ◆ ◆
「情けない。それで逃げ帰ってきたというわけか」
河原に寝そべり石投げをしていた子どもに「左じゃ! 右じゃ! 中じゃ!」と指示を飛ばして煙たがられていた薬師寺天膳!
聖都から逃げ出した陣五郎と念鬼を鼻で笑う!
「仕方無かろうて! 『もんすたー』二体の世話をするワシの身にもなれ!」
「『もんすたー』とはなんじゃ! お主も『おーく』と似たようなものだろうに!」
川に飛び込み元の身体に戻った陣五郎が念鬼の言いざまに噛みつく!
対して念鬼はどこ吹く風! 陣五郎がスライム扱いされるのは一度二度のことではない!
気を取り直したように提案する!
「どちらにせよ、あの騒ぎでは霞刑部を討つのは容易ではあるまい。罪人あつかいで冒険者『らいせんす』を取り上げられるのも厄介じゃ。しばし間を置いて密かに討ち取るが吉!」
それを聞き考え込む天膳! ややあって顔を上げて頷く!
「よかろう。では、次なる目標は隣街にいるという
霞刑部を討つことを後回しとし、甲賀卍谷十人衆が一人、鵜殿丈助《うどのじょうすけ》を討つべく三人は旅立つ!
三人旅の終わりが近いことを知る由もなく!
次回! バジリスク伊賀転生帖! 最終話! 『鬼哭収拾』!
次話で完結です。