朝焼けが、海辺の臨海公園を淡い朱色に染めていた。
潮風が吹く。
静かな波音の中、向かい合う二人の少女――高町なのはとフェイト・テスタロッサ。
その間には、言葉では埋めきれないほど多くの想いがあった。
フェイトの傍らにはアルフ。
なのはの隣にはユーノと、少し後ろに立つ高町さくら。
誰も口を開かなかった。
いや、開けなかった。
その沈黙を最初に破ったのは、フェイトだった。
「……どうして」
風に消えそうなほど小さな声。
「どうして、そこまで私に関わろうとするの……?」
なのはは、まっすぐフェイトを見る。
悲しみを押し隠した赤い瞳。
優しさを諦めようとしている顔。
壊れそうなほど細い肩。
なのはは知ってしまった。
この子が、本当は泣きたいことを。
「放っておけないから」
即答だった。
「フェイトちゃんが苦しそうだから」
「……」
「友達になりたいって言ったの、本気だから」
フェイトの瞳が揺れる。
その横で、アルフが唇を噛み締めた。
フェイトは俯く。
「私は……母さんのために戦ってる」
「うん」
「母さんを助けたい」
「うん」
「だから止まれない」
なのはは静かに頷いた。
「わたしも、止めるつもりはないよ」
フェイトが顔を上げる。
「え……?」
「逃げればいいってわけじゃない。捨てればいいってわけでもない」
なのはは、自分の胸に手を当てた。
「大切なものを大切にしたいって気持ち、わたしにも分かるから」
フェイトの目が大きく見開かれる。
「だから――」
なのははレイジングハートを掲げる。
『Stand by. Ready set up.』
紅い宝玉が輝き、桜色の光がなのはを包み込む。
白いバリアジャケット。
風になびくリボン。
その姿は、朝焼けの中でどこまでも真っ直ぐだった。
「全部ぶつける」
フェイトも静かにバルディッシュを構える。
『Setup.』
黄金の雷光が走る。
黒衣のマントが翻り、金髪が風に揺れた。
互いに視線を外さない。
逃げない。
誤魔化さない。
全部、ぶつけ合うために。
「ジュエルシード、全部賭ける」
なのはが言う。
「わたしたちの全部を賭けて」
フェイトは小さく息を呑む。
「……全部?」
「うん」
なのはは笑った。
「わたしたちの全ては、まだ始まってもいない」
その言葉に、フェイトの胸が強く揺れる。
「だから――」
なのはは空へ飛び上がった。
「本当の自分を始めるために!」
桜色の魔力光が海上へ伸びる。
フェイトも雷光を纏って飛翔する。
二つの光が空へ昇る。
「始めよう!」
なのはが叫ぶ。
「最初で最後の――!」
フェイトの瞳に、初めて確かな感情が宿った。
恐れでも諦めでもない。
真正面から向き合おうとする意志。
「本気の勝負!!」
瞬間。
桜色と金色の魔力が激突した。
轟音。
爆風。
海面が弾け飛ぶ。
ディバインシューターとフォトンランサーが無数の光跡を描き、空中で炸裂する。
高速機動。
回避。
射撃。
斬撃。
互いの全力がぶつかり合う。
だが。
なのはは笑っていた。
フェイトもまた、どこか晴れやかな顔をしていた。
初めてだった。
誰かと真正面から向き合って戦うことが。
孤独ではない戦いが。
「フェイトちゃん!!」
「なのは!!」
名前を呼び合う。
それだけで、胸が熱くなる。
その様子を、地上からさくらは静かに見上げていた。
茶色の髪が潮風に揺れる。
その右手。
人差し指には赤い宝石――嵐のリング。
中指には藍色の宝石――霧のリング。
薬指には紫色の宝石――雲のリング。
だが今日は、どのリングにも炎は灯していない。
ただ、妹の戦いを見守っていた。
「……よかったね、なのは」
小さく微笑む。
今のなのはは、もう誰かに守られるだけの子ではない。
自分の意志で進める。
誰かの痛みに手を伸ばせる。
そんな強さを、もう持っている。
空では。
なのはとフェイトが、さらに高高度へと舞い上がっていた。
レイジングハートが桜色の魔力を収束する。
バルディッシュに黄金の雷光が集束する。
『Divine Buster.』
『Thunder Smasher.』
空が震える。
海が鳴動する。
そして――。