模擬戦が終わった頃には、空はすっかり夕暮れ色へ染まっていた。
結界の中。
なのはは芝生の上へ大の字になって倒れている。
「はぁ……はぁ……むりぃ……」
全身ぼろぼろ。
ユーノが苦笑する。
「お疲れ様、なのは」
「お姉ちゃん強すぎるよぉ……」
なのはは半泣きだった。
結局。
模擬戦の間、一度もさくらへ有効打を与えられなかった。
近付けばトンファー。
離れれば鎖。
空へ逃げても追ってくる。
しかも途中からは、トンファー側面から鉤や棘まで展開され始めた。
「模擬戦で使う武器じゃないよぉ……」
「実戦仕様だから」
涼しい顔で返される。
なのははぐったりした。
やがて、ユーノが結界を解除する。
夕方の公園へ静けさが戻った。
その時だった。
なのはがふと首を傾げる。
「……そういえば」
「ん?」
「鎖」
さくらが視線を向ける。
なのはは思い出すように言った。
「途中から、どんどん長くなってなかった?」
ユーノもハッとした。
「あ……!」
確かにそうだった。
最初は普通の長さだったはずだ。
だが戦闘中、鎖は明らかに伸びていた。
しかも異常なほど。
トンファー内部へ収納できる量ではない。
ユーノが真剣な顔になる。
「空間圧縮系の技術……?」
「でも、あの武器には魔導機構が……」
そこまで言って止まる。
そもそも、さくらの力は普通の魔法ではない。
なのはも不思議そうに言った。
「どうなってるの?」
すると。
珍しく、さくらが少し考えるような顔をした。
そして静かにポケットへ手を入れる。
取り出したのは、二つのリング。
赤い宝石の付いたリング。
藍色の宝石の付いたリング。
すでに薬指には、紫色の宝石が付いたリングが嵌められている。
さくらは赤いリングを人差し指へ。
藍色のリングを中指へ嵌めた。
次の瞬間。
三つのリングへ、それぞれ異なる色の炎が灯る。
人差し指――赤。
中指――藍。
薬指――紫。
揺らめく三色の炎。
ユーノが息を呑む。
「炎の色が……違う……」
なのはも目を丸くする。
「綺麗……」
さくらは静かに自分の手を見つめながら言った。
「この炎には、それぞれ特性がある」
紫色の炎がゆらりと揺れる。
「紫……雲属性の炎の特性は、増殖」
ユーノが思わず聞き返す。
「雲属性……?」
聞いた事のない分類だった。
魔法体系とも違う。
さくらは気にした様子もなく続ける。
「鎖を増やしたのはこれ」
なのはが「へぇぇ……」と感心する。
続いて、中指の藍色の炎が揺らめく。
「藍は霧属性」
「霧……」
なのはが呟く。
「特性は、構築」
その瞬間。
藍色の炎が霧のように広がり、小さな紅い宝石を形作った。
待機状態のレイジングハート。
ユーノが目を見開く。
「また……!」
だが次の瞬間、それは霧となって崩れた。
「イメージしたものを構築する」
「だから、武器も作れる」
なのはは森で見た戦いを思い出していた。
桃色の魔法陣。
レイジングハート。
全部、本物みたいだった。
最後に、人差し指の赤い炎が揺れる。
「赤は嵐属性」
炎が少し激しく燃え上がった。
「特性は分解」
短い説明。
だが危険さだけは伝わる。
ユーノは完全に混乱していた。
「属性ごとに能力が違う……?」
「そんな体系、聞いた事ない……」
さくらは静かに炎を見つめながら言った。
「この炎の事を、私は“死ぬ気の炎”って呼んでる」
「死ぬ気の炎……」
なのはが小さく復唱する。
夕暮れの中。
三色の炎が静かに揺れていた。
だが数秒後。
「うぅ……でも疲れたぁ……」
なのはがそのまま芝生へ倒れ込む。
一気に空気が緩んだ。
さくらは小さく溜め息を吐く。
そしてリングの炎を消し、ポケットへ戻した。
「ほら」
しゃがみ込む。
なのはが顔を上げる。
「……おんぶ?」
「帰るんでしょ」
なのはは嬉しそうに笑った。
「えへへ……」
そのまま背中へ飛びつく。
さくらは軽く持ち上げ、そのまま歩き出した。
ユーノは肩へ乗りながら、その後ろ姿を見る。
夕焼け。
帰り道。
姉に背負われたなのはは、すでに半分眠そうだった。
「お姉ちゃん……」
「なに?」
「次は勝つからね……」
さくらは少しだけ口元を緩める。
「頑張りなさい」
海鳴市の夕焼けの中。
三人はゆっくりと帰路を歩いていった。