その日の夜。
高町家は静かな眠りに包まれていた。
模擬戦で完全に体力を使い切ったなのはは、夕食とお風呂を終えた直後、そのままベッドへ倒れ込むように眠ってしまった。
「すぅ……すぅ……」
気持ちよさそうな寝息。
布団へ顔を半分埋めながら、幸せそうに眠っている。
そんななのはを見て、さくらは小さく息を吐いた。
「……お疲れ様」
部屋の明かりは控えめ。
窓の外からは月明かりが差し込んでいる。
さくらは机の椅子へ腰掛け、手に持ったグラスの麦茶を一口飲んだ。
氷が小さく鳴る。
静かな夜だった。
その時。
ベッドの横から、小さな足音が聞こえる。
ユーノだった。
フェレット姿のまま、机の近くまでやって来る。
「……起きてたんですね」
「なのはなら寝た」
「みたいですね」
ユーノは苦笑した。
あれだけ動けば当然だ。
しばらく沈黙。
窓の外では、夜風に木々が揺れている。
やがて、ユーノが真剣な顔になった。
「さくらさん」
「なに?」
「昼間の話です」
さくらが静かに視線を向ける。
ユーノは続けた。
「死ぬ気の炎」
「雲属性や霧属性……あんな力、僕は聞いた事がありません」
「魔法とも違う」
「だけど、確かに現実へ干渉している」
ユーノは困惑していた。
魔法体系。
ミッドチルダ式。
ベルカ式。
そういった既存理論へ、まるで当てはまらない。
なのに、力として成立している。
「一体、何なんですか?」
月明かりが差し込む。
その中で、さくらは静かに麦茶を飲んだ。
そして、小さく言った。
「秘密」
「えっ」
あまりにも即答だった。
ユーノが呆気に取られる。
だが、さくらは少し考えたあと、静かに続けた。
「……でも、死ぬ気の炎についてなら説明できる」
そう言って、机の引き出しを開く。
中から取り出されたのは、いくつものリング。
橙色。
赤色。
青色。
紫色。
黄色。
緑色。
藍色。
月明かりに照らされ、それぞれ異なる色の宝石が静かに輝いていた。
ユーノが息を呑む。
「こんなに……」
さくらはリングを机へ並べながら話し始める。
「人間の体には、血液とは別に、目に見えない生命エネルギーが流れてる」
「生命エネルギー……?」
「波動みたいなもの」
「それが全身を巡ってる」
ユーノは真剣な顔で聞いていた。
さくらは続ける。
「波動は七種類ある」
そう言って、リングを一つずつ軽く指で触れる。
「大空――橙」
「嵐――赤」
「雨――青」
「雲――紫」
「晴――黄」
「雷――緑」
「霧――藍」
「リングは、自分の素質と合った波動が通ると反応する」
「そして、高密度エネルギーへ変換、生成する」
ユーノが目を見開く。
「変換装置……?」
「多分」
さくらは静かに頷く。
「私は、その高密度エネルギーを“死ぬ気の炎”って呼んでる」
そして。
さくらは三つのリングを手に取った。
赤。
紫。
藍。
それぞれを、人差し指、中指、薬指へ嵌める。
次の瞬間。
ボッ――
赤い炎。
紫色の炎。
藍色の炎。
三色だけが静かに灯った。
ユーノが目を見開く。
「三種類……?」
「私はこれしか使えない」
そう言って、机へ置かれた他のリングを見る。
橙。
青。
黄。
緑。
それらは静かなまま、反応しない。
「素質が合わないと、炎は出ない」
藍色の炎がゆらりと揺れる。
「霧は構築」
「イメージしたものを形にする」
紫色の炎が揺らぐ。
「雲は増殖」
「増やす性質」
赤い炎が強く燃え上がる。
「嵐は分解」
「壊して崩す」
ユーノは真剣な顔で聞いていた。
さらに、さくらは机へ置かれた他のリングを見る。
「大空は調和」
「推進力が強くて、他の属性とも合わせやすい」
「全部の匣兵器を使えるらしい」
青いリングへ視線を移す。
「雨は鎮静」
「弱体化とか抑制」
「動きを鈍らせたり、痛みを和らげたりできる」
黄色。
「晴は活性」
「強化と治癒」
「成長を促す性質もある」
最後に緑。
「雷は硬化」
「防御と貫通が強い」
「痺れさせたりもできる」
ユーノは完全に驚いていた。
「全部、能力の方向性が違う……」
「まるで属性というより、“現象”だ」
月明かりの中。
三色の炎が静かに揺れていた。
その時。
「んぅ……お姉ちゃぁん……」
なのはが寝言を漏らす。
二人がそちらを見る。
なのはは幸せそうに眠ったままだった。
ユーノが少しだけ笑う。
「本当に仲いいですね」
「昔から」
さくらは短く答える。
静かな部屋。
月の光。
そして――
誰にも知られていない、七つの炎。
その秘密だけが、静かに揺れていた。