夕日は沈み。
海鳴市は、完全に夜の帳へ包まれていた。
高層ビルの窓明かりが夜景のように輝き、道路には車のライトが流れていく。
そんな都市部の一角を、なのはたちは歩いていた。
「うーん……見つからないね」
なのはが少し疲れた声で言う。
肩にはユーノ。
その少し後ろを、さくらが静かについて来ていた。
現在時刻は二十時過ぎ。
学校も終わり、夕食も済ませた後の捜索だった。
ユーノが周囲へ視線を巡らせる。
「反応はあるんだけど、弱いんだ」
「ジュエルシードが休眠状態に近いのかも」
「うぅ……難しい……」
なのはが小さく肩を落とす。
そんな時だった。
ゴロォォン……
遠くで雷鳴が響いた。
なのはが空を見上げる。
「……あれ?」
夜空は晴れている。
雲も少ない。
なのに、雷だけが鳴っていた。
ユーノの顔色が変わる。
「この感じ……!」
次の瞬間。
ドクン――
空気そのものが震えた。
凄まじい魔力反応。
ビル街の向こう側から、暴力的な魔力が噴き上がる。
そして――
バリィッ!!
金色の雷が夜空を裂いた。
「っ!?」
なのはが目を見開く。
雷は自然現象じゃない。
魔力だ。
しかもジュエルシードの。
ユーノが即座に叫ぶ。
「まずい! 結界を張る!」
魔法陣が展開される。
淡い光が周囲へ広がっていく。
都市部だからこそ、一般人を巻き込む訳にはいかない。
結界が閉じる。
ビル街の一角が静かに隔離された。
だが、ユーノは険しい顔のままだった。
「向こうも気付いてる……!」
「あっちも戦闘前提だ」
さくらは静かに空を見る。
雷鳴。
空気の震え。
そして暴走した魔力。
「……無理やり起こした」
ユーノが頷く。
「多分、ジュエルシードを強制活性化させたんだ」
「回収を急いでる」
ゴロォォォン――!!
再び雷鳴。
今度は近い。
なのははレイジングハートを握った。
『Stand by ready.』
桃色の魔法陣が足元へ展開される。
三人は反応地点へ急いだ。
◇
高層ビル群の中心部。
大通り。
本来なら人や車で賑わっているはずの場所。
だが結界の中では、静寂だけが支配していた。
そして。
バチバチと金色の雷が暴れている。
道路標識。
街灯。
信号機。
周囲の金属へ雷が走り、火花が散っていた。
暴走したジュエルシードの影響だ。
その中心。
一人の少女が静かに立っていた。
黒衣。
長い金髪。
赤い瞳。
そして手には、大鎌型デバイス。
フェイト。
なのはが立ち止まる。
フェイトも静かになのはを見る。
夜風が吹き抜けた。
雷光が二人を照らす。
数秒の沈黙。
そして。
フェイトが静かに口を開く。
「また来たんだ」
冷たい声。
なのはは一歩前へ出た。
「ジュエルシード……危ないんでしょ!?」
「こんな無理やり暴走させたら!」
フェイトの表情は変わらない。
「必要だからやっただけ」
「っ……!」
なのはが言葉を詰まらせる。
ユーノが小声で言った。
「なのは、来る!」
その瞬間。
フェイトが消えた。
「速っ――!?」
金色の閃光。
次の瞬間には、なのはの目の前。
バルディッシュが振り下ろされる。
ガギィンッ!!
レイジングハートで受け止める。
衝撃。
なのはの身体が大きく押し込まれた。
「くぅっ!」
重い。
速い。
以前よりも鋭い。
フェイトはそのまま連撃へ移行する。
金色の斬撃。
なのはは必死に防御。
火花が夜空へ散る。
その戦いを、少し後方からさくらが静かに見つめていた。
ポケットへ手を入れる。
その時だった。
「そっちの嬢ちゃんは、動くんじゃないよ」
低い声。
さくらが視線を向ける。
ビルの上。
そこには、大柄な女性が立っていた。
獣の耳。
鋭い眼光。
フェイトとは違う、荒々しい魔力。
アルフ。
彼女はビルから飛び降りる。
ドンッ!!
アスファルトが砕けた。
ユーノが目を見開く。
「使い魔……!」
アルフはなのはとフェイトの戦闘をちらりと見て、舌打ちする。
「フェイトの邪魔はさせないよ」
さくらは静かにアルフを見る。
「そっちも」
短い返答。
アルフが笑った。
「へぇ……怖がらないんだ?」
さくらは答えない。
ただ、静かにポケットへ手を入れる。
赤。
紫。
藍。
三つのリングへ指先が触れた。
一方。
空中では、なのはとフェイトの高速戦闘が激化していく。
桃色と金色の光。
そして地上では――
さくらとアルフが、静かに睨み合っていた。