魔法少女リリカルなのは ~~   作:ぬっく~

14 / 34
魔法少女リリカルなのはA’s
第1話「はじまりは突然になの」


6月――。

 

静まり返った家の中。

 

車椅子の少女、八神はやては、一人で本を読んでいた。

 

広い家には人の気配がない。

 

両親を亡くしてから続く静かな日常。

 

それでも明日は九歳の誕生日だった。

 

「もうこんな時間かぁ……」

 

時計を見上げた、その時だった。

 

本棚の一角。

 

一冊の本が淡い光を放ち始める。

 

黒い表紙。

 

幾重もの鎖に封じられた本。

 

だが、その鎖は次々と砕け散っていった。

 

「な、なんや……!?」

 

驚くはやての前で本は浮かび上がり、ひとりでにページを開く。

 

そして静かな声が響いた。

 

「封印を解除します」

 

その瞬間。

 

運命の歯車が動き始めた。

 

――――――――――

 

12月。

 

海鳴市。

 

朝の訓練場。

 

高町なのはは魔力弾を自在に操りながら飛行していた。

 

「シュートコントロール!」

 

幾つもの魔法弾が複雑な軌道を描く。

 

その隙間を縫うように飛ぶのは、高町さくら。

 

なのはの姉であり、最強の模擬戦相手だった。

 

「だいぶ良くなったわね」

 

「ほんと?」

 

「でもまだ甘い」

 

次の瞬間。

 

なのはの死角から現れたさくらが軽く額を弾く。

 

「あうっ!」

 

「実戦ならやられてるわ」

 

「うぅ……」

 

頭を押さえるなのは。

 

それでも笑顔だった。

 

春に起きたジュエルシード事件。

 

ユーノとの出会い。

 

管理局との出会い。

 

フェイトとの出会い。

 

その全てが、なのはを少しずつ成長させていた。

 

「フェイトちゃん、元気かな」

 

「裁判が終われば会えるんじゃない?」

 

「うん!」

 

なのはは大きく頷いた。

 

――――――――――

 

一方その頃。

 

時空管理局本局。

 

アースラではフェイト・テスタロッサの最終裁判を翌日に控えた会議が行われていた。

 

無罪判決が出れば、ようやく自由になれる。

 

そして、なのはに会いに行ける。

 

その未来を思いながらフェイトは静かに微笑む。

 

しかし。

 

管理局に緊急警報が届いた。

 

一級捜索指定ロストロギア。

 

長年消息不明だった危険遺産。

 

その起動反応が確認されたのだ。

 

会議室に緊張が走った。

 

――――――――――

 

その夜。

 

海鳴市上空。

 

赤い髪の少女、ヴィータが管理局の捜査員を襲撃していた。

 

「悪いな」

 

グラーフアイゼンの一撃で捜査員を戦闘不能にする。

 

そして取り出した一冊の本。

 

闇の書。

 

魔力光が吸い上げられ、本のページが埋まっていく。

 

「まだ足りねぇな」

 

ヴィータは夜空へと消えた。

 

――――――――――

 

翌日。

 

学校帰り。

 

月村すずかは図書館で一人の少女と出会う。

 

車椅子の少女。

 

八神はやて。

 

本好き同士の二人はすぐに打ち解けた。

 

「また会えるとええな」

 

「うん!」

 

笑顔で別れる二人。

 

その後。

 

高い本棚の前で本を取ろうとしていたはやては困っていた。

 

「あー……届かへん」

 

すると横から一本の手が伸びる。

 

目的の本が抜き取られた。

 

「これ?」

 

振り返ったはやての前に立っていたのは、高町さくらだった。

 

「ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

本を受け取ろうとした瞬間。

 

さくらの視線がはやての足へ向く。

 

そして。

 

「……随分と嫌な呪いを抱えているのね」

 

その一言で空気が変わった。

 

はやてが目を丸くする。

 

「え?」

 

迎えに来たシグナムとヴィータも足を止める。

 

さくらははやての足を見ながら続けた。

 

「足だけじゃない。身体全体に広がっている」

 

シグナムの目が鋭くなる。

 

「何を知っている」

 

「見れば分かるわ」

 

さくらは平然と答えた。

 

ヴィータが一歩前へ出る。

 

「お前、何者だ?」

 

「ただの小学生」

 

そう言いながら、さくらはポケットから五つの指輪を取り出した。

 

橙。

 

赤。

 

青。

 

黄。

 

紫。

 

それぞれ異なる宝石が埋め込まれている。

 

「マーレリングよ」

 

シグナムは受け取らない。

 

警戒を崩さないまま見つめる。

 

さくらもそれを予想していたようだった。

 

「その呪いを完全に消すことはできない」

 

「……」

 

「でも進行を遅らせることくらいならできるかもしれない」

 

かもしれない。

 

断言はしなかった。

 

「どういうつもりだ」

 

シグナムが問う。

 

「別に」

 

さくらは肩をすくめる。

 

「呪いって嫌いなのよ」

 

それだけ言うと、五つのリングを近くの机の上へ置いた。

 

「使うか使わないかは君たちの判断に任せる」

 

はやてたちを見渡す。

 

「大空、嵐、雨、晴、雲。それぞれ相性は考えてあるから」

 

それだけ告げると、さくらは踵を返した。

 

「待て」

 

ヴィータが呼び止める。

 

だが、さくらは振り返らない。

 

「じゃあね」

 

軽く手を振り、そのまま図書館の出口へ消えていった。

 

残された五人は無言だった。

 

机の上には五つのマーレリング。

 

怪しい。

 

危険かもしれない。

 

だが――。

 

「もし、本当に……」

 

はやてが橙色のリングを見つめる。

 

その瞳には、小さな希望が宿っていた。

 

――――――――――

 

その夜。

 

ヴィータとザフィーラは魔力探索を行っていた。

 

そして。

 

シャマルによる解析の結果、マーレリングに危険性がないことが判明していた。

 

さらに。

 

はやての侵食速度がわずかに低下していることも確認されていた。

 

完全には信用できない。

 

だが希望はあった。

 

ヴィータの指には紫色の雲のマーレリング。

 

シグナムは赤い嵐。

 

ザフィーラは青い雨。

 

シャマルは黄色い晴。

 

はやては橙色の大空。

 

夜天の騎士たちはリングを装着したまま行動を開始していた。

 

「行くぞ」

 

「ああ」

 

そしてヴィータは広域結界『封鎖領域』を展開する。

 

街が結界に包まれた。

 

――――――――――

 

結界の中。

 

なのはは異変を察知する。

 

「この感じ……!」

 

レイジングハートを起動。

 

夜空へ飛び立つ。

 

やがてビルの屋上でヴィータと対峙した。

 

「お前か」

 

会話は続かない。

 

グラーフアイゼンが振り下ろされる。

 

激しい戦闘。

 

なのはも応戦する。

 

だが。

 

なのはの攻撃がヴィータの帽子を吹き飛ばした瞬間。

 

空気が変わった。

 

「あたしの帽子……」

 

ヴィータの額に青筋が浮かぶ。

 

「よくもやってくれたなぁぁぁぁ!!」

 

グラーフアイゼンが唸る。

 

『Kartusche Laden』

 

薬莢が炸裂する。

 

さらに。

 

ヴィータの右手にはめられた雲のマーレリングが輝いた。

 

「増やせ!!」

 

紫の炎が噴き上がる。

 

グラーフアイゼンを包み込んだ炎は、巨大な追加ブースターを形成した。

 

雲の炎による増殖。

 

本来一つしかない推進機構が複数に増え、爆発的な加速力を生み出す。

 

「なっ!?」

 

なのはが驚愕する。

 

「行くぜぇぇぇぇ!!」

 

ラケーテンハンマー。

 

増殖された推進機構によって威力はさらに増幅される。

 

轟音。

 

衝撃。

 

なのはのバリアが砕け散った。

 

「きゃああああっ!」

 

バリアジャケットが大きく損傷する。

 

レイジングハートも悲鳴を上げる。

 

『Damage. Severe Damage.』

 

ヴィータは着地しながら拳を握る。

 

「これが雲の力だ」

 

夜天の騎士たちはまだマーレリングを完全に使いこなせてはいない。

 

だが、それでも戦闘能力は以前より大きく向上していた。

 

倒れたなのは。

 

ヴィータはとどめを刺そうとする。

 

その瞬間。

 

――ギィィィィン!!

 

鋼がぶつかる高音。

 

ヴィータの一撃を受け止めた金髪の少女。

 

フェイト・テスタロッサ。

 

その後ろにはユーノ・スクライアの姿もあった。

 

「お前……仲間か?」

 

ヴィータが問う。

 

フェイトは倒れたなのはを見つめる。

 

そして静かに答えた。

 

「――――友達だ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。