ユーノの説明が終わる頃には。
庭園には静かな空気が流れていた。
リンディはティーカップを静かに置く。
「……なるほど」
「事情は理解しました」
その表情は穏やかだが、瞳は真剣だった。
クロノも腕を組みながら考え込んでいる。
そして。
リンディは静かに告げた。
「ジュエルシードの回収任務は、時空管理局が正式に引き継ぎます」
なのはが少し驚いた顔をする。
「えっ……?」
「本来、ロストロギア案件は管理局の管轄です」
「危険性を考えても、民間協力者へ任せ続ける訳にはいきません」
優しい口調だった。
だが、それは実質的な撤退勧告でもあった。
なのはは少し困った顔になる。
ユーノも複雑そうだった。
そんな中。
さくらが静かに立ち上がる。
「なら、帰るよ」
あまりにも自然な口調だった。
なのはがきょとんとする。
「え?」
さくらはなのはへ視線を向ける。
「帰る」
そこで、なのははようやく理解した。
自分も含まれている。
「えぇっ!?」
なのはが慌てて立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待ってお姉ちゃん!?」
クロノも僅かに眉を寄せた。
リンディは苦笑しながら口を開こうとする。
「あのね、さくらさん――」
だが。
その前に。
さくらが言った。
「なのはに、手伝って欲しいって言わせるつもり」
場の空気が止まる。
リンディが一瞬だけ目を丸くした。
さくらは淡々と続ける。
「戦力確認」
「ジュエルシード回収の経験あり」
「戦闘能力も確認済み」
「管理局は、あれだけ戦える人間を手放すほど馬鹿じゃない」
クロノが目を細める。
リンディは小さく苦笑した。
図星だった。
なのはの性格なら。
困っていると言われれば、協力すると言う。
リンディはそこまで計算していた。
「……鋭いわね」
「別に」
さくらは無表情のままだった。
そして。
そのまま踵を返す。
「なのは、行くよ」
「う、うぅ……」
なのはが困ったようにリンディたちを見る。
だが。
リンディは静かに問いかけた。
「本当にいいの?」
「このままだと、またあの子たちと戦う事になるわ」
フェイト。
アルフ。
危険な戦い。
なのはは少しだけ迷った顔をした。
だが。
さくらは足を止めない。
「なのはが決める事」
「私は関係ない」
その言葉に。
異議を唱えたのは、クロノだった。
「待て」
低い声。
さくらが足を止める。
クロノは真っ直ぐさくらを見る。
「お前には力がある」
「なら、責任もあるはずだ」
空気が張り詰める。
なのはが不安そうに二人を見る。
クロノは続けた。
「力ある者には義務がある」
「危険を放置せず、人を守る責任だ」
「現に、お前は戦える」
「なら、逃げるべきじゃない」
真っ直ぐな言葉だった。
管理局執務官としての考え。
だが。
その言葉を聞いた瞬間。
さくらは――
鼻で笑った。
「……は」
クロノの眉が動く。
さくらはゆっくり振り返った。
その瞳は冷たい。
「知らない」
「私が戦う理由を、他人に決められるつもりはない」
「義務?」
「責任?」
「そんなものの為に戦うほど、暇じゃない」
クロノの表情が険しくなる。
「なら、お前は見捨てるのか?」
「必要なら助ける」
「でも、それは私が決める」
「管理局の命令じゃない」
空気が重くなる。
クロノとさくら。
互いに一歩も引かない。
リンディが小さく息を吐いた。
「……価値観の違い、ね」
完全な平行線だった。
クロノは職務と責任を重視する。
さくらは、自分の意思以外で動かない。
根本的に噛み合わない。
数秒の沈黙。
そして。
クロノが口を開く。
「なら、実力で示せ」
なのはが目を見開く。
「えっ!?」
クロノは静かにデバイスを構えた。
「お前の考えが正しいなら」
「僕を納得させてみろ」
さくらは数秒、クロノを見つめる。
そして。
ポケットへ手を入れた。
取り出したのは。
藍色の宝石が付いたリング。
中指へ嵌める。
ボッ――
藍色の炎が灯る。
クロノも静かに魔力を展開した。
庭園の空気が張り詰める。
なのはが慌てる。
「ちょ、ちょっと待って!?」
だが。
止まらない。
管理局執務官。
そして。
死ぬ気の炎を操る少女。
互いの視線が、真っ直ぐぶつかっていた。