魔法少女リリカルなのは ~~   作:ぬっく~

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第十九話 有幻覚

「これは……!」

 

指令室の空気が張り詰める。

 

巨大モニターに映るのは、歪んだ鏡の世界。

 

無数の反射。

 

どこまでも続く幻影空間。

 

クロノがその中で戦っている。

 

リンディが即座に指示を飛ばした。

 

「対幻術フィルターを最大出力で展開!」

 

「映像補正急いで!」

 

「はい!」

 

オペレーター達が慌ただしく動く。

 

通常の幻術対策。

 

魔力波長の解析。

 

視覚補正。

 

認識阻害解除。

 

管理局の技術は高い。

 

並の幻術なら、即座に解析可能だった。

 

だが――

 

「……え?」

 

オペレーターが固まる。

 

モニター映像が、一切変わらない。

 

フィルターを通しても。

 

解析を重ねても。

 

映し出されるのは、あの異様な空間のまま。

 

ユーノが息を呑む。

 

「そんな……」

 

リンディの表情も険しくなる。

 

「フィルターが効いていない……?」

 

エイミィが青ざめた顔で解析画面を見る。

 

「違います!」

 

「フィルター自体が騙されてる!」

 

「映像システム側が“これが現実”だと認識してるんです!」

 

その言葉に、指令室の空気が凍った。

 

高度すぎる。

 

視覚だけではない。

 

認識。

 

観測。

 

システムそのものへ干渉している。

 

さくらの幻術は、既に通常の幻術の域を超えていた。

 

なのはがモニターを見る。

 

「お姉ちゃん……」

 

そこに映る戦場は、もう意味が分からなかった。

 

 

戦闘空間。

 

クロノは空中へ跳んだ。

 

その瞬間。

 

重力感覚が狂う。

 

「っ!?」

 

視界が回転した。

 

いや。

 

空間そのものが歪んでいる。

 

本来、平面だったはずの空間。

 

それが今は――

 

巨大な円柱状に丸まっていた。

 

床。

 

壁。

 

天井。

 

その境界すら曖昧。

 

上下感覚が完全に崩壊している。

 

クロノが即座に姿勢制御魔法を展開。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

ゴォォォォッ!!

 

床から赤い火柱が噴き上がった。

 

「っ!!」

 

クロノが回避。

 

だが掠めた。

 

ジュッ――

 

腕が焼ける。

 

クロノの目が見開かれた。

 

熱い。

 

痛覚。

 

焼損。

 

全部、本物。

 

ただの幻ではない。

 

有幻覚。

 

幻覚でありながら、現実へ干渉する炎。

 

クロノが舌打ちする。

 

「冗談だろ……!」

 

赤い火柱が次々と噴き上がる。

 

しかも。

 

空間が歪んでいるせいで、回避軌道すら狂う。

 

右へ飛んだつもりが、上へ落ちる。

 

距離感覚も狂わされる。

 

そして。

 

鏡の中。

 

無数のさくらがこちらを見ていた。

 

静かに。

 

感情の薄い瞳で。

 

クロノが魔法陣を展開する。

 

「ブレイズ――」

 

だが。

 

言葉の途中。

 

背後から殺気。

 

「っ!」

 

振り返る。

 

そこに、さくら。

 

三叉槍が振り下ろされる。

 

ガギィィンッ!!

 

防御。

 

だが重い。

 

さらに。

 

別方向からも槍撃。

 

「な――!?」

 

二人。

 

いや三人。

 

同時に存在している。

 

しかも全部、質量がある。

 

クロノが距離を取る。

 

だが。

 

着地した場所から、再び火柱。

 

「ぐっ!」

 

熱風。

 

視界が揺れる。

 

空間そのものが敵だった。

 

指令室。

 

ユーノが険しい顔になる。

 

「ここまで来ると、もう幻術じゃない……」

 

リンディも静かに呟く。

 

「現実改変に近い……」

 

なのははモニターを見つめていた。

 

いつものお姉ちゃん。

 

無口で。

 

少し不器用で。

 

静かな人。

 

なのに今、そこにいるさくらは。

 

まるで。

 

世界そのものを書き換えているように見えた。

 

そして。

 

歪んだ戦場の中央。

 

藍色の炎を揺らしながら。

 

さくらは静かに槍を構える。

 

その背後で。

 

『霧フクロウ(グーフォ・デッラ・ネッビア)』が、ゆっくり羽を広げていた。

 

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