時空管理局本局。
執務室ではリンディとレティが通信を繋ぎ、現在の捜査状況について話し合っていた。
「フェイトさんはどうですか?」
レティの問いに、リンディは柔らかく微笑む。
「事件に付き合わせちゃって申し訳ないんだけど、なのはさんやお友達と一緒で、とても楽しそうにやっているわ」
その言葉にレティも微笑んだ。
フェイトが海鳴に来てから数日。
すでに学校にも馴染み始めていた。
――――――
休み時間。
なのは、フェイト、そしてさくらは教室の一角で話していた。
「携帯電話かぁ」
なのはが呟く。
「フェイトちゃん、まだ持ってないんだよね?」
「うん」
フェイトが頷く。
「どんなのがいいかな」
そんな話で盛り上がる三人。
さくらは苦笑しながら言った。
「なのは、機種選びで一日潰さないようにね」
「うぅ……」
図星だった。
フェイトが小さく笑う。
以前なら見せなかった自然な笑顔だった。
――――――
放課後。
リンディも合流し、フェイトは携帯電話を購入した。
新しい端末を手にしたフェイトは少し嬉しそうだった。
「これでいつでも連絡できるね」
なのはの言葉にフェイトも微笑む。
「うん」
さくらも頷く。
「これで連絡が取りやすくなるね」
穏やかな時間。
だが、その裏では闇の書事件が確実に進行していた。
――――――
その頃。
本局・無限書庫。
果ての見えない書架が広がる巨大空間を、ユーノは歩いていた。
案内役はリーゼアリアとリーゼロッテ。
「ここが無限書庫」
「世界中の知識が詰まってる場所だよ」
膨大な本の山を見てユーノは感心する。
「すごい……」
リーゼロッテが笑った。
「でも必要な資料を探すのは大変だよ?」
「それなら大丈夫です」
ユーノは胸を張る。
「捜し物は得意なんです」
スクライア一族。
古代遺跡の発掘と調査を生業とする一族。
資料探索は彼の得意分野だった。
「じゃあ期待してるよ」
リーゼアリアが笑う。
ユーノは力強く頷いた。
――――――
海鳴市。
リンディたちのマンション。
フェイトの部屋では、なのはとフェイトがくつろいでいた。
そこへ買い物帰りのエイミィが現れる。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
エイミィは荷物を置きながら言った。
「クロノ君もリンディさんも本局だから、今は私が指揮代行ね」
クロノは上層部との会議。
リンディはアースラの整備立会い。
そして新たに搭載される艦載兵器――アルカンシェル。
「ちょっと物騒なのよねぇ」
エイミィは苦笑する。
その時だった。
警報が鳴り響く。
「反応確認!」
モニターに映し出されたのは砂漠世界。
シグナムとザフィーラだった。
「行く!」
フェイトが立ち上がる。
アルフも頷いた。
――――――
砂漠世界。
巨大な砂竜を倒した直後。
シグナムは呼吸を整えていた。
その瞬間。
砂中から無数の触手が飛び出す。
「っ!?」
拘束されるシグナム。
そこへ金色の閃光が走った。
サンダーブレイド。
砂竜を粉砕したフェイトが現れる。
「大丈夫?」
「……助かった」
シグナムは短く礼を言った。
――――――
少し離れた場所。
ザフィーラとアルフが対峙する。
「お前も主のために戦うのだな」
ザフィーラが静かに言う。
アルフも頷く。
「当然だよ」
互いに主を想う獣同士。
だからこそ分かるものがあった。
――――――
フェイトとシグナム。
二人は向かい合う。
「闇の書を止めたい」
フェイトが言う。
「私は主を救う」
シグナムが返す。
互いに譲れない。
バルディッシュが唸る。
レヴァンティンが炎を纏う。
そして。
フェイトの右手。
雷のマーレリングが輝いた。
緑色の雷の炎が弾ける。
「雷の炎……」
シグナムが目を細める。
対する右手には赤色の炎。
嵐のマーレリング。
「さくらか……」
シグナムが低く呟く。
フェイトも頷いた。
「あなたたちが持っているリングも、さくらから貰ったものなんだね」
「否定はしない」
シグナムは静かに答える。
「だが理由を話すつもりもない」
フェイトは小さく息を吐いた。
やはり答えは得られない。
だが少なくとも、リングを渡したのがさくらであることは確定した。
「そう……」
「それでも私は止める」
「私も退くつもりはない」
二つの炎が激突する。
轟音と共に砂漠が揺れた。
――――――
同時刻。
岩壁世界。
ヴィータの前に現れたなのはは、レイジングハートを構えていなかった。
「話を聞かせて」
真っ直ぐな言葉。
ヴィータは眉をひそめる。
「今さら何だよ」
「闇の書を完成させたい理由」
なのはは一歩前へ出る。
「それと……」
視線はヴィータの右手。
紫色の雲のマーレリングへ向いた。
「お姉ちゃんから貰ったリング」
「どうして使ってるの?」
ヴィータが目を細める。
「あんたには関係ねぇ」
「関係あるよ」
なのはは静かに答える。
「あのリングはお姉ちゃんが渡したものだから」
ヴィータは一瞬だけ黙る。
だが首を振った。
「話す義理はねぇよ」
「これはあたしたちが決めたことだ」
そのまま閃光魔法を放つ。
「またな!」
逃走。
――――――
だが。
なのはは追撃した。
「レイジングハート!」
『Buster Mode』
巨大な魔法陣。
超長距離砲撃。
ディバインバスター・エクステンション。
光が空間を貫いた。
「届くかよ!」
ヴィータは叫ぶ。
しかし。
光は届いた。
直撃――
そのはずだった。
突如現れた仮面の戦士が片手をかざす。
カード型デバイスが展開。
障壁が砲撃を受け止めた。
「なっ!?」
さらに拘束魔法。
なのはの身体が縛り上げられる。
「急げ」
仮面の戦士がヴィータへ告げる。
「闇の書を完成させるのだろう」
ヴィータは戸惑いながらも撤退した。
――――――
砂漠。
フェイトとシグナムの戦いは続いていた。
雷と嵐。
緑電と紅炎。
互いに譲らぬ死闘。
その時だった。
空間が歪む。
仮面の戦士。
誰も気付けなかった。
一瞬。
本当に一瞬だった。
「――――ッ!?」
フェイトの身体が震える。
胸を貫く腕。
リンカーコアへ伸びる手。
シグナムの目が見開かれる。
「貴様!」
仮面の戦士は静かにフェイトのリンカーコアを掴み出した。
そして。
シグナムへ差し出す。
「奪え」
静寂。
だが。
シグナムは即答した。
「断る」
仮面の戦士が動きを止める。
シグナムはレヴァンティンを構えた。
「騎士に、不意打ちで奪った力を受け取る資格はない」
その声には怒りがあった。
誇りがあった。
そして。
フェイトを守ろうとする意志があった。
仮面の戦士は沈黙する。
砂漠を吹き抜ける風だけが、その場を支配していた。
次の瞬間。
事態は誰も予想しなかった方向へと動き始めるのだった――。