気を失ったまま、フェイト・T・ハラオウンはアースラへと収容された。
なのはの時と同じく、リンカーコアに深刻な損傷を受けていたものの、肉体的な負傷そのものは軽傷だった。
回復には時間が必要だが、命に別状はない。
その報告に、リンディたちはひとまず安堵していた。
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試験航行中のアースラ。
ミーティングルームでは緊急会議が開かれていた。
「なのはちゃんが出撃した直後、駐屯所のシステムがハッキングされたの」
モニターを操作しながらエイミィが説明する。
「指揮系統も通信も一時的に全部ダウン。すぐに復旧させたけど……」
その先は言わなくても分かった。
復旧した時には、すでにフェイトは倒されていた。
「ごめん……」
珍しく落ち込むエイミィ。
「私がもっと早く対応できてたら……」
「あなたのせいじゃないわよ」
リーゼロッテが肩を叩く。
映し出された映像には仮面の戦士の姿。
なのはの新型ディバインバスターを防御し。
超長距離バインドを成立させ。
さらに砂漠世界へ転移。
シグナムにもフェイトにも気付かれず、完全な不意打ちを成功させた。
常識外れの実力だった。
「少なくとも、私たちより上だと思った方がいいわね」
クロノの言葉に、一同は重い沈黙で応えた。
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一方、八神家。
朝食前の食卓には重苦しい空気が流れていた。
仮面の戦士。
敵なのか味方なのか。
闇の書完成を望んでいることだけは確かだ。
だが理由が分からない。
「今後は、なるべくはやてちゃんの傍を離れないようにしましょう」
シャマルの提案に全員が頷く。
その時だった。
ヴィータがぽつりと呟く。
「なあ……」
皆が振り向く。
「闇の書が完成してさ」
「はやてが真の主になってさ」
ヴィータは拳を握った。
「それで、本当に幸せになれるんだよな?」
シグナムは即答した。
「当然だ」
「闇の書の主は絶大な力を得る」
シャマルも同意する。
それが彼女たちの知る常識。
だが。
ヴィータの胸の奥には消えない違和感が残っていた。
何かがおかしい。
何か大切なことを忘れている。
そんな感覚だけが拭えなかった。
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その日の昼。
病院へ向かう準備をしていたはやては、いつものようにベッドから車椅子へ移ろうとした。
その瞬間。
胸を激痛が貫いた。
「っ……!」
呼吸が止まる。
身体から力が抜ける。
床へ崩れ落ちるはやて。
異変に気付いた守護騎士たちは慌てて駆け寄った。
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海鳴大学病院。
診察を終えた石田医師は、はやて本人を安心させた後、シグナムとシャマルを別室へ呼んだ。
「検査結果だけを見るなら問題ありません」
だが。
石田医師の表情は厳しかった。
「ただ、あの痛がり方は普通じゃない」
「念のため入院を勧めます」
二人は静かに頷いた。
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その頃。
アースラ医務室。
フェイトが目を覚ました。
最初に見えたのはリンディの顔だった。
事情を聞かされる。
自分が仮面の戦士に襲われたこと。
リンカーコアを奪われたこと。
ずっとアルフが傍にいたこと。
そして。
リンディが眠っている間ずっと手を握っていてくれたこと。
「うなされてたみたいだったから」
そう微笑むリンディ。
フェイトは照れながら視線を逸らした。
温かかった。
母親の温もりというものを、初めて知った気がした。
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病室へ戻ったはやては、一人になると右手を見つめた。
右手の中指。
そこには広げられた翼の装飾がされた指輪。
大空のマーレリング。
その姿を見て、はやては昔の出来事を思い出す。
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それは管理局との戦いが始まる前。
高町さくらが八神家を訪れた日のことだった。
テーブルの上には五つのマーレリング。
嵐。
雲。
雨。
晴。
そして大空。
さくらは大空のマーレリングを手に取った。
「これはあなたが持ちなさい」
「うちが?」
「ええ」
はやては驚きながら受け取る。
「右手を出して」
言われるまま差し出した右手。
さくらは中指へリングをはめた。
「これでいいわ」
「どうやって使うん?」
さくらは静かに答えた。
「炎は心から生まれる」
「何を守りたいのか」
「何を願うのか」
「何を貫きたいのか」
「その覚悟が炎になる」
そして。
はやての胸に手を当てる。
「この炎は、あなたの覚悟で灯るわ」
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はやては目を閉じた。
思い浮かべたのは家族だった。
シグナム。
ヴィータ。
シャマル。
ザフィーラ。
ずっと一緒にいたい。
皆で笑っていたい。
その願いが胸を満たした瞬間。
ぽうっ、と。
リングに橙色の炎が灯った。
暖かく。
優しく。
包み込むような光。
「それが大空の炎」
さくらは微笑んだ。
「調和の炎よ」
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それからの日々。
はやては大空の炎を灯し続けていた。
調和の炎は闇の書の呪いを和らげていた。
完全に消すことはできない。
だが確かに進行を遅らせていた。
しかし最近。
その炎でも抑えきれなくなっていた。
侵食速度が上がっている。
まるで闇の書自身が完成を急いでいるかのように。
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その頃。
無限書庫。
ユーノの調査はついに核心へ辿り着いていた。
闇の書。
その本当の名前。
夜天の書。
本来は研究と記録のための魔導書だった。
しかし長い歴史の中で改造され。
歪められ。
破壊され。
現在の闇の書となった。
完成後。
主に力を与える。
だがそれは一瞬。
その後すぐに暴走。
主を食い殺し。
周囲を破壊する。
それこそが闇の書の真実だった。
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数日後。
なのはたちはすずかから聞かされた。
友達のはやてが入院したことを。
「じゃあ、お見舞いに行こうよ!」
アリサの提案に皆が賛成した。
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病室。
はやては笑顔で迎えた。
なのは。
フェイト。
アリサ。
すずか。
五人はすぐに打ち解けた。
話は尽きない。
病室には笑い声が響いていた。
そんな時だった。
ふと。
なのはの視線が止まる。
はやての右手。
右中指。
そこにある指輪。
大空のマーレリング。
なのはの表情が固まる。
「……え?」
フェイトも気付いた。
「なのは……」
小さな声。
二人は見つめ合う。
間違いない。
見覚えがある。
さくらが持つ霧のマーレリング。
フェイトちゃんが持つ雷のマーレリング。
ヴィータたちが持っていたマーレリング。
しかも。
「大空……」
フェイトが呟く。
はやては不思議そうに首を傾げた。
「どうかしたん?」
「ううん!」
なのはは慌てて笑顔を作った。
だが内心は大きく揺れていた。
ヴィータ。
シグナム。
シャマル。
ザフィーラ。
そして。
はやて。
全員がマーレリングで繋がっている。
偶然なはずがない。
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病室を出た後。
廊下。
なのはとフェイトは立ち止まった。
「見た?」
「うん」
フェイトが頷く。
「あのリングの形は、間違いなくマーレリングだった」
そして。
二人は同じ結論に辿り着いていた。
八神はやて。
彼女こそ。
ヴィータたちの主。
闇の書事件の中心人物なのではないか。
だが。
病室で見た少女の笑顔が脳裏から離れない。
優しくて。
明るくて。
誰かを傷付けるような子には見えなかった。
だからこそ。
二人は困惑していた。
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その夜。
シャマルは病室で眠るはやてを見つめていた。
調和の炎は今も灯っている。
だが侵食は止まらない。
計算する。
予測する。
結論は一つ。
このままでは。
もって一か月。
シャマルは唇を噛み締めた。
「急がないと……」
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雨の降る異世界。
巨大な海獣へ向かってグラーフアイゼンを振り上げるヴィータ。
胸に残る違和感。
それでも。
今は蒐集を続けるしかない。
それだけが、はやてを救う道だと信じて。
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そして深夜。
管理局本局。
応接室で事件資料を見つめるギル・グレアム。
現れるリーゼ姉妹。
静かに報告を聞いたグレアムは窓の外を見る。
封印の切り札。
デュランダル。
準備は整っている。
「今度こそ……」
その呟きは誰にも聞こえない。
闇の書事件は。
誰も知らぬ真実を抱えたまま。
さらに大きく動き始めていた。