魔法少女リリカルなのは ~~   作:ぬっく~

21 / 34
第8話「悲しい決意、有機の選択なの」

気を失ったまま、フェイト・T・ハラオウンはアースラへと収容された。

 

なのはの時と同じく、リンカーコアに深刻な損傷を受けていたものの、肉体的な負傷そのものは軽傷だった。

 

回復には時間が必要だが、命に別状はない。

 

その報告に、リンディたちはひとまず安堵していた。

 

---

 

試験航行中のアースラ。

 

ミーティングルームでは緊急会議が開かれていた。

 

「なのはちゃんが出撃した直後、駐屯所のシステムがハッキングされたの」

 

モニターを操作しながらエイミィが説明する。

 

「指揮系統も通信も一時的に全部ダウン。すぐに復旧させたけど……」

 

その先は言わなくても分かった。

 

復旧した時には、すでにフェイトは倒されていた。

 

「ごめん……」

 

珍しく落ち込むエイミィ。

 

「私がもっと早く対応できてたら……」

 

「あなたのせいじゃないわよ」

 

リーゼロッテが肩を叩く。

 

映し出された映像には仮面の戦士の姿。

 

なのはの新型ディバインバスターを防御し。

 

超長距離バインドを成立させ。

 

さらに砂漠世界へ転移。

 

シグナムにもフェイトにも気付かれず、完全な不意打ちを成功させた。

 

常識外れの実力だった。

 

「少なくとも、私たちより上だと思った方がいいわね」

 

クロノの言葉に、一同は重い沈黙で応えた。

 

---

 

一方、八神家。

 

朝食前の食卓には重苦しい空気が流れていた。

 

仮面の戦士。

 

敵なのか味方なのか。

 

闇の書完成を望んでいることだけは確かだ。

 

だが理由が分からない。

 

「今後は、なるべくはやてちゃんの傍を離れないようにしましょう」

 

シャマルの提案に全員が頷く。

 

その時だった。

 

ヴィータがぽつりと呟く。

 

「なあ……」

 

皆が振り向く。

 

「闇の書が完成してさ」

 

「はやてが真の主になってさ」

 

ヴィータは拳を握った。

 

「それで、本当に幸せになれるんだよな?」

 

シグナムは即答した。

 

「当然だ」

 

「闇の書の主は絶大な力を得る」

 

シャマルも同意する。

 

それが彼女たちの知る常識。

 

だが。

 

ヴィータの胸の奥には消えない違和感が残っていた。

 

何かがおかしい。

 

何か大切なことを忘れている。

 

そんな感覚だけが拭えなかった。

 

---

 

その日の昼。

 

病院へ向かう準備をしていたはやては、いつものようにベッドから車椅子へ移ろうとした。

 

その瞬間。

 

胸を激痛が貫いた。

 

「っ……!」

 

呼吸が止まる。

 

身体から力が抜ける。

 

床へ崩れ落ちるはやて。

 

異変に気付いた守護騎士たちは慌てて駆け寄った。

 

---

 

海鳴大学病院。

 

診察を終えた石田医師は、はやて本人を安心させた後、シグナムとシャマルを別室へ呼んだ。

 

「検査結果だけを見るなら問題ありません」

 

だが。

 

石田医師の表情は厳しかった。

 

「ただ、あの痛がり方は普通じゃない」

 

「念のため入院を勧めます」

 

二人は静かに頷いた。

 

---

 

その頃。

 

アースラ医務室。

 

フェイトが目を覚ました。

 

最初に見えたのはリンディの顔だった。

 

事情を聞かされる。

 

自分が仮面の戦士に襲われたこと。

 

リンカーコアを奪われたこと。

 

ずっとアルフが傍にいたこと。

 

そして。

 

リンディが眠っている間ずっと手を握っていてくれたこと。

 

「うなされてたみたいだったから」

 

そう微笑むリンディ。

 

フェイトは照れながら視線を逸らした。

 

温かかった。

 

母親の温もりというものを、初めて知った気がした。

 

---

 

病室へ戻ったはやては、一人になると右手を見つめた。

 

右手の中指。

 

そこには広げられた翼の装飾がされた指輪。

 

大空のマーレリング。

 

その姿を見て、はやては昔の出来事を思い出す。

 

---

 

それは管理局との戦いが始まる前。

 

高町さくらが八神家を訪れた日のことだった。

 

テーブルの上には五つのマーレリング。

 

嵐。

 

雲。

 

雨。

 

晴。

 

そして大空。

 

さくらは大空のマーレリングを手に取った。

 

「これはあなたが持ちなさい」

 

「うちが?」

 

「ええ」

 

はやては驚きながら受け取る。

 

「右手を出して」

 

言われるまま差し出した右手。

 

さくらは中指へリングをはめた。

 

「これでいいわ」

 

「どうやって使うん?」

 

さくらは静かに答えた。

 

「炎は心から生まれる」

 

「何を守りたいのか」

 

「何を願うのか」

 

「何を貫きたいのか」

 

「その覚悟が炎になる」

 

そして。

 

はやての胸に手を当てる。

 

「この炎は、あなたの覚悟で灯るわ」

 

---

 

はやては目を閉じた。

 

思い浮かべたのは家族だった。

 

シグナム。

 

ヴィータ。

 

シャマル。

 

ザフィーラ。

 

ずっと一緒にいたい。

 

皆で笑っていたい。

 

その願いが胸を満たした瞬間。

 

ぽうっ、と。

 

リングに橙色の炎が灯った。

 

暖かく。

 

優しく。

 

包み込むような光。

 

「それが大空の炎」

 

さくらは微笑んだ。

 

「調和の炎よ」

 

---

 

それからの日々。

 

はやては大空の炎を灯し続けていた。

 

調和の炎は闇の書の呪いを和らげていた。

 

完全に消すことはできない。

 

だが確かに進行を遅らせていた。

 

しかし最近。

 

その炎でも抑えきれなくなっていた。

 

侵食速度が上がっている。

 

まるで闇の書自身が完成を急いでいるかのように。

 

---

 

その頃。

 

無限書庫。

 

ユーノの調査はついに核心へ辿り着いていた。

 

闇の書。

 

その本当の名前。

 

夜天の書。

 

本来は研究と記録のための魔導書だった。

 

しかし長い歴史の中で改造され。

 

歪められ。

 

破壊され。

 

現在の闇の書となった。

 

完成後。

 

主に力を与える。

 

だがそれは一瞬。

 

その後すぐに暴走。

 

主を食い殺し。

 

周囲を破壊する。

 

それこそが闇の書の真実だった。

 

---

 

数日後。

 

なのはたちはすずかから聞かされた。

 

友達のはやてが入院したことを。

 

「じゃあ、お見舞いに行こうよ!」

 

アリサの提案に皆が賛成した。

 

---

 

病室。

 

はやては笑顔で迎えた。

 

なのは。

 

フェイト。

 

アリサ。

 

すずか。

 

五人はすぐに打ち解けた。

 

話は尽きない。

 

病室には笑い声が響いていた。

 

そんな時だった。

 

ふと。

 

なのはの視線が止まる。

 

はやての右手。

 

右中指。

 

そこにある指輪。

 

大空のマーレリング。

 

なのはの表情が固まる。

 

「……え?」

 

フェイトも気付いた。

 

「なのは……」

 

小さな声。

 

二人は見つめ合う。

 

間違いない。

 

見覚えがある。

 

さくらが持つ霧のマーレリング。

 

フェイトちゃんが持つ雷のマーレリング。

 

ヴィータたちが持っていたマーレリング。

 

しかも。

 

「大空……」

 

フェイトが呟く。

 

はやては不思議そうに首を傾げた。

 

「どうかしたん?」

 

「ううん!」

 

なのはは慌てて笑顔を作った。

 

だが内心は大きく揺れていた。

 

ヴィータ。

 

シグナム。

 

シャマル。

 

ザフィーラ。

 

そして。

 

はやて。

 

全員がマーレリングで繋がっている。

 

偶然なはずがない。

 

---

 

病室を出た後。

 

廊下。

 

なのはとフェイトは立ち止まった。

 

「見た?」

 

「うん」

 

フェイトが頷く。

 

「あのリングの形は、間違いなくマーレリングだった」

 

そして。

 

二人は同じ結論に辿り着いていた。

 

八神はやて。

 

彼女こそ。

 

ヴィータたちの主。

 

闇の書事件の中心人物なのではないか。

 

だが。

 

病室で見た少女の笑顔が脳裏から離れない。

 

優しくて。

 

明るくて。

 

誰かを傷付けるような子には見えなかった。

 

だからこそ。

 

二人は困惑していた。

 

---

 

その夜。

 

シャマルは病室で眠るはやてを見つめていた。

 

調和の炎は今も灯っている。

 

だが侵食は止まらない。

 

計算する。

 

予測する。

 

結論は一つ。

 

このままでは。

 

もって一か月。

 

シャマルは唇を噛み締めた。

 

「急がないと……」

 

---

 

雨の降る異世界。

 

巨大な海獣へ向かってグラーフアイゼンを振り上げるヴィータ。

 

胸に残る違和感。

 

それでも。

 

今は蒐集を続けるしかない。

 

それだけが、はやてを救う道だと信じて。

 

---

 

そして深夜。

 

管理局本局。

 

応接室で事件資料を見つめるギル・グレアム。

 

現れるリーゼ姉妹。

 

静かに報告を聞いたグレアムは窓の外を見る。

 

封印の切り札。

 

デュランダル。

 

準備は整っている。

 

「今度こそ……」

 

その呟きは誰にも聞こえない。

 

闇の書事件は。

 

誰も知らぬ真実を抱えたまま。

 

さらに大きく動き始めていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。