夕食を終えた後。
なのはとさくらの共同部屋には、穏やかな空気が流れていた。
机の上には、開かれた大きな箱。
中には色とりどりのリングが整然と並んでいる。
なのはは、その光景を何度見ても驚いていた。
「やっぱり多いよぉ……」
ベッドに座りながら、なのはが呟く。
ユーノも机の上のリングを見ながら苦笑していた。
「これだけあると、コレクションみたいだね……」
さくらは椅子へ座ったまま、静かに麦茶を飲む。
「消耗品だから」
「壊れるし」
さらっと言う。
なのはは、今日壊れた紫色のリングを見る。
「でも、リングってそんな簡単に壊れちゃうんだね」
「リングには等級があるの」
さくらが静かに説明する。
「A〜Dまであって、低いほど壊れやすい」
ユーノが興味深そうに聞く。
「じゃあ、この箱のリングは?」
「ほとんどCとD」
「量産品だから」
なのはが目を丸くする。
「えぇっ!?」
「じゃ、じゃあお姉ちゃんが普段使ってるリングは!?」
「霧はB」
「嵐はC」
「雲もC」
ユーノが少し引きつった顔になる。
「C級であれだけ戦えるの……?」
アルフ戦。
フェイト戦。
どれも尋常ではなかった。
だが。
さくらは淡々としている。
「クロノとの戦いで使ったのは別」
なのはが思い出す。
羽のような装飾が付いた、特別な霧のリング。
「あのリング?」
「A+」
「通称、マーレリング」
「世界に一つしかない特別製」
ユーノが固まった。
「世界に一つ……!?」
なのはも目を輝かせる。
「すごい……!」
さくらは静かに箱を閉じる。
「普通のリングとは違うの」
「炎の出力も、強度も別格」
なのはは少し考えてから。
ぱっと顔を上げた。
「わたしも使ってみたい!」
ユーノが苦笑する。
「でも、なのはの属性が分からないよ?」
死ぬ気の炎には属性がある。
大空。
嵐。
雨。
雲。
晴。
雷。
霧。
どれに適性があるかは人それぞれ。
すると。
さくらは箱から一つリングを取り出した。
赤い宝石。
嵐のリング。
それをなのはへ差し出す。
「え?」
なのはがきょとんとする。
ユーノも不思議そうだった。
「なんで嵐?」
さくらは静かに答える。
「波動って血縁に近いから」
「家族なら、同じ属性が流れてる可能性が高いの」
「私は嵐だから、なのはも可能性が高い」
「へぇ……」
なのはは少し緊張しながらリングを受け取った。
赤い宝石が灯りを反射して輝く。
なのははそっと中指へ嵌めた。
静寂。
……何も起きない。
「あれ?」
なのはが首を傾げる。
炎は出ない。
ユーノも困った顔をした。
「やっぱり簡単には……」
だが。
さくらは静かに言った。
「死ぬ気の炎は、覚悟で灯るから」
なのはが顔を上げる。
「覚悟?」
「自分を押し通す力」
「譲れない意思」
「それが炎になる」
静かな声。
なのはは真剣に聞いていた。
さくらは少しだけ、なのはを見る。
「なのはは、戦うの怖い?」
「……うん」
なのはは素直に頷く。
「でも、やめたくない」
「助けたいから」
「フェイトちゃんとも話したいから」
その言葉を聞いて。
さくらは静かに言う。
「なら、それを離さないこと」
「怖くても、逃げない」
「それが覚悟」
なのははリングを見る。
赤い宝石。
自分の指。
そして。
ぎゅっと拳を握った。
「……わたし、負けたくない」
「もっと強くなりたい」
「みんなを助けたい」
その瞬間。
ボッ――
小さな赤い炎が灯った。
「――っ!?」
なのはが目を見開く。
中指。
嵐のリング。
そこに、小さいながらも確かに赤い炎が揺れていた。
ユーノが驚いて立ち上がる。
「で、出た!?」
なのはは驚きながら、自分の炎を見る。
まだ小さい。
弱い。
でも。
確かにそこに存在していた。
さくらは静かに麦茶を飲む。
「……適性ありだね」
なのはの顔に、ぱっと笑顔が広がった。
「お姉ちゃん! 出たよ!」
赤い炎が、小さく揺れていた。