「お姉ちゃん! 見て見て!」
なのはは嬉しそうに、中指に灯る小さな赤い炎を見せていた。
まだ弱々しい。
それでも確かに存在している。
なのははまるで宝物でも見つけたように笑っていた。
「ほんとに出た……!」
「なんか、あったかい……!」
ユーノも感心したように頷く。
「初めてでここまで出せるのは凄いと思うよ」
なのははさらに嬉しそうに笑った。
そんな中。
ユーノは、ふと机の箱へ視線を向ける。
大量のリング。
赤。
青。
黄。
緑。
紫。
藍。
だが――
一つだけ無い。
ユーノが首を傾げた。
「あれ?」
「そういえば……」
なのはが炎を消しながら振り向く。
「どうしたの?」
ユーノは箱を指差した。
「大空のリングが無い」
その言葉になのはも気付く。
「あっ、本当だ」
七属性。
大空。
嵐。
雨。
雲。
晴。
雷。
霧。
だが、箱の中には六種類しか存在していなかった。
すると。
さくらは静かに麦茶を置いた。
「大空は特殊だから」
「特殊?」
ユーノが聞き返す。
さくらは静かに答える。
「大空の素質持ちはかなり少ない」
「他属性と違って、適性者がほとんどいないの」
なのはが少し驚く。
「そんなに珍しいんだ……」
「それに、大空のリングは高等級しか存在しない」
「低ランク品が作れないから」
ユーノが目を細める。
「……それだけ特別ってこと?」
「うん」
さくらはそう言うと、机の別の引き出しを開けた。
取り出されたのは、薄い箱。
先ほどの大箱とは違う。
かなり丁寧に保管されている。
なのはとユーノが自然と身を乗り出す。
カチッ――
箱が開く。
その瞬間。
「……わ」
なのはが声を漏らした。
中には。
七種類全てのリング。
橙。
赤。
青。
黄。
緑。
紫。
藍。
だが。
数が少ない。
全部合わせても十数個程度しかない。
そして、明らかに作りが違った。
宝石の輝き。
リング本体の質感。
箱の中で静かに存在感を放っている。
ユーノが驚く。
「これって……」
「上がAランク」
「下がBランク」
さくらが静かに説明する。
上段。
Aランク。
各属性一〜二個。
下段。
Bランク。
三〜四個ずつ。
なのはが目を輝かせる。
「すごい……!」
ユーノもリングを見ながら呟いた。
「さっきのリングと、雰囲気が全然違う……」
さくらは静かに頷く。
「高等級リングは炎の伝導率が高い」
「壊れにくいし、出力も安定する」
なのはが薄い箱の中央を見る。
そこには。
橙色の宝石が付いたリング。
大空のリング。
他のリングより、どこか特別に見えた。
なのはが小さく呟く。
「これが……大空」
すると、なのはがふと思い出したように言った。
「でも、お姉ちゃんが全部使えたら、もう何でもありだよね」
その言葉に、さくらは小さく首を横に振る。
「そんな単純じゃないよ」
「死ぬ気の炎は、適正が複数あっても扱えるけど、その分、ひとつひとつの波動は弱くなる」
ユーノが納得したように頷く。
「なるほど……器用貧乏になりやすいんだ」
「そういうこと」
さくらは淡々と答えた。
そこでユーノが別の疑問を口にする。
「でも、それならどうしてAランクのリングを普段使わないの?」
「高等級の方が安全なんじゃ……」
さくらは静かに答えた。
「壊れにくいだけで、絶対じゃない」
「高出力同士がぶつかれば、Aランクでも普通に壊れる」
なのはが「あっ」と思い出す。
「じゃあ、クロノくんと戦った時のマーレリング使えばいいんじゃない?」
その言葉に、さくらは静かに首を横に振った。
「マーレリングは別」
「適正があっても、基本的に使えない」
ユーノが目を細める。
「え?」
「持ち主を選ぶ特殊なリングだから」
さくらは静かに続ける。
「普通のリングは適正があれば使える」
「でも、マーレリングは違う」
「リング自身に認められないと反応しない」
なのはが少し驚く。
「じゃあ、お姉ちゃんしか使えないの?」
「少なくとも、今は」
さくらはそう答えた。
「霧のマーレリングも、最初から使えたわけじゃない」
「かなり時間がかかった」
ユーノが箱を見ながら呟く。
「本当に別格なんだね……」
そんな話をしているうちに、なのはの中指の嵐の炎が少しずつ安定していく。
最初は小さく揺れていた炎が、今では一定の形を保っていた。
さくらはそれを見て、小さく頷く。
「次の段階にいけそう」
「次?」
なのはが顔を上げる。
「本来は武器に炎を纏わせる」
ユーノが興味深そうに反応する。
「強化型か」
「うん」
さくらはそこで少し考え込む。
だが。
数秒後、微妙そうな顔をした。
「……なのは、砲撃型だった」
「あっ」
なのはも同時に気付いた。
レイジングハートを使うなのはの戦闘スタイルは、中遠距離砲撃型。
近接武器へ炎を纏わせるさくら式とは相性が違う。
ユーノも考え込む。
「魔力砲に嵐の炎を乗せられれば理想だけど……」
「それが出来れば一番いい」
さくらも頷く。
「でも、流石に私でも分からない」
なのはが少し残念そうにする。
「そっかぁ……」
すると。
さくらは少し考えた後、机の横へ手を伸ばした。
取り出したのは、小さな匣。
嵐属性の匣兵器。
それを、なのはへ差し出す。
「これ使って」
「え?」
なのはが目を丸くする。
ユーノも驚いた。
「それって……嵐トラ!?」
さくらは普通に頷く。
「なのはの戦い方なら、補助火力があった方がいい」
なのはは慌てる。
「え、でも大事なものじゃ……」
「別に」
さくらはあっさり言う。
「匣兵器は使ってこそ意味があるから」
なのはは恐る恐る匣を受け取った。
小さな金属製の匣。
だが、その中にはあの嵐トラが入っている。
なのはは少し緊張しながらも、嬉しそうに笑った。
「……ありがとう、お姉ちゃん!」
その笑顔を見て、さくらはほんの少しだけ目を細めた。