海鳴市上空。
闇の書から切り離された防御プログラムは、黒い球体のような姿で静かに脈動していた。
だが、その内部では莫大な魔力が暴走を始めている。
このまま放置すれば、やがて世界を呑み込む災厄となる。
一方。
光に包まれた精神空間の中で、はやてはかつての闇の書の意志――新たに「リインフォース」と名付けた存在と向き合っていた。
「リインフォース……」
「はい、主はやて」
優しく微笑む少女。
その姿に、はやてもまた微笑み返した。
「騎士のみんなを、帰してあげたいんや」
「承知しました」
夜天の書が輝く。
魔法陣が展開される。
そして。
病院屋上で消滅したはずの守護騎士たちの身体が再構成されていく。
赤い光。
緑の光。
金色の光。
青い光。
光の中から現れたのは――
シグナム。
ヴィータ。
シャマル。
ザフィーラ。
四人だった。
「主はやて……」
「おかえり」
たったその一言で。
騎士たちの瞳から涙が溢れた。
「お帰りや、みんな」
誰も言葉が続かなかった。
ただ、そこには再会の喜びだけがあった。
その後。
はやてはリインフォースを正式起動する。
純白の騎士甲冑。
夜天の書。
騎士杖。
夜空色のマント。
新たな夜天の主として、はやては皆の前へ姿を現した。
なのはとフェイトは笑顔を向ける。
「よかった……」
「うん……本当に」
だが。
そこへクロノが現れる。
「感動の再会を邪魔するようで悪いが、時間がない」
全員の表情が引き締まる。
モニターに映し出される暴走反応。
闇の書の闇。
完全暴走まで、あと僅かだった。
会議の途中。
はやては静かに右手を見つめる。
そこには闇の書の意志から回収した五つのマーレリングがあった。
大空。
嵐。
雨。
晴。
雲。
かつて守護騎士たちへ託された大切な力。
はやては微笑む。
「みんな。これ、返しとくな」
シグナムへ嵐。
ヴィータへ雲。
シャマルへ雨。
ザフィーラへ晴。
そして自らは大空。
それぞれが右手の指へリングをはめる。
嵐の炎は赤色。
雨の炎は青色。
晴の炎は橙色。
雲の炎は紫色。
大空の炎は空色。
五色の炎が輝いた。
その時だった。
転送魔法が展開される。
現れたのは――
高町さくら。
「お姉ちゃん!」
なのはが笑顔になる。
さくらは苦笑した。
「久しぶりね、なのは」
そして懐から小さなケースを取り出した。
「これを渡しに来たわ」
中に入っていたのは、一つのリング。
そして一つの匣。
「これは……?」
「あなた専用よ」
リングを受け取るなのは。
右手にはめた瞬間。
赤色と橙色。
二つの炎が同時に灯る。
嵐の炎。
そして大空の炎。
二色が混ざり合い、美しい赤オレンジ色の炎となった。
「すごい……!」
「そのリングは大空と嵐を同時に扱うために作ったオリジナルリング」
続いて匣を渡す。
「そして、そのリングでしか開けない匣よ」
なのはは頷く。
炎を流し込む。
「開匣!」
咆哮。
巨大な炎が噴き上がる。
現れたのは――
ライオンの威厳。
虎の俊敏さ。
二つを併せ持つ巨大な獣。
天空嵐ライガー。
赤オレンジ色の炎を纏う伝説の匣兵器だった。
「かっこいい……」
なのはは思わず見惚れる。
さくらは微笑む。
「きっと力になってくれるわ」
その直後。
闇の書の闇が完全覚醒した。
海上。
巨大な黒い異形が姿を現す。
無数の触手。
無数の魔法陣。
巨大な咆哮が世界を震わせた。
「来るぞ!」
クロノの声。
戦闘開始。
ユーノとアルフが拘束魔法を展開。
ザフィーラが前衛を支える。
シャマルが後方支援。
そして。
シグナム。
ヴィータ。
フェイト。
なのは。
クロノ。
はやて。
全員が突撃する。
シグナムのレヴァンティンが赤い嵐の炎を纏う。
「紫電一閃!」
ヴィータのグラーフアイゼンに紫色の雲の炎。
「ぶっ飛べぇぇぇ!!」
フェイトのプラズマランサー。
クロノのスティンガーブレイド。
連続攻撃が闇の書の闇を叩く。
しかし。
瞬時に再生。
「速い!」
「再生が追いつかない!」
さらに敵は反撃する。
空色の大空の炎。
触れた海面が石化していく。
赤い嵐の炎。
あらゆる物質を崩壊させる。
青い雨の炎。
魔力を封じる。
橙色の晴の炎。
異常活性化による暴走。
紫の雲の炎。
分裂増殖。
五属性が次々と襲い掛かる。
「厄介すぎる!」
なのはが叫ぶ。
だが。
その時。
赤オレンジ色の炎が空を駆けた。
天空嵐ライガー。
「行くよ!」
なのはが飛ぶ。
天空嵐ライガーが咆哮。
嵐による破壊。
大空による石化。
二つの特性が同時発動する。
闇の書の闇の再生速度が鈍った。
「今や!」
はやてが叫ぶ。
デュランダル発動。
極大凍結魔法。
エターナルコフィン。
巨大な氷が闇の書の闇を包み込む。
その瞬間。
三人が空へ舞い上がる。
なのは。
フェイト。
はやて。
全魔力集中。
「スターライト――」
「プラズマ――」
「ラグナロク――」
三つの魔法陣。
巨大な光。
「ブレイカー!!」
「ザンバー!!」
「ラグナロク!!」
三方向から放たれる砲撃。
その中心へ。
天空嵐ライガーが突撃した。
轟音。
爆発。
そして――
コア露出。
「今だ!」
ユーノ。
アルフ。
シャマル。
三人の転送魔法が発動。
コアが軌道上へ転送される。
アースラ艦橋。
リンディが静かに命令する。
「アルカンシェル、発射」
黄金の光。
反応消滅砲。
閃光。
そして。
闇の書の闇は完全消滅した。
再生反応なし。
暴走反応なし。
戦いは終わった。
誰もが安堵する。
アリサとすずかも無事に街へ戻る。
なのはたちはようやく笑顔を見せた。
だが。
その直後だった。
「はやて!」
なのはの声。
さっきまで立っていたはやてが崩れ落ちる。
シグナムが抱き止める。
意識はない。
リインフォースも驚愕する。
「主はやて!?」
夜天の書事件は終わった。
だが。
はやての身体には、まだ誰も知らない異変が残されていた。
静かな夜空の下。
新たな運命が、再び動き始めようとしていた。