アースラのブリッジ。
緊張感が空気を支配していた。
モニターには、激しく荒れる海域が映し出されている。
雷鳴。
高波。
そして――
暴走する膨大な魔力反応。
オペレーターが叫ぶ。
「海底ジュエルシード群、連続活性化を確認!」
「出力上昇しています!」
リンディが険しい表情でモニターを見る。
「……フェイトさん達ね」
ここまで。
アースラの索敵能力により、大半のジュエルシードは回収済みだった。
残るのは、海底へ沈んだ分。
そしてフェイト達は、それを一気に回収しようとしていた。
強制活性化。
危険な手段だ。
当然、反動も大きい。
ユーノが焦った声を上げる。
「こんなの無茶だ!」
「暴走したら海域ごと吹き飛ぶかもしれない!」
クロノも険しい顔をしていた。
「フェイトは魔力で無理やり抑え込むつもりか……」
だが。
リンディは静かだった。
むしろ、冷静すぎるほどに。
「……このまま監視を続行します」
その言葉に、なのはが振り返る。
「え……?」
リンディは静かに続ける。
「この規模の暴走を一人で抑え続ければ、いずれ限界が来ます」
「フェイトさんは自滅するでしょう」
「同時に、ジュエルシードも回収できる」
「時空管理局としては、最善の選択です」
静まり返るブリッジ。
なのはは目を見開いていた。
「そんな……!」
今にも飛び出しそうになる。
だが。
クロノが前へ出た。
「待つんだ、なのは」
「今行けば君まで巻き込まれる」
「でもっ!」
なのはは唇を噛む。
モニターの向こう。
フェイトは一人で戦っている。
限界を超えながら。
それでも。
誰も助けようとしていない。
その時だった。
「なのは」
静かな声。
さくらだった。
なのはが振り返る。
さくらは壁際に寄り掛かったまま、静かに言った。
「行ってきなさい」
「お姉ちゃん……」
「周りの言葉なんて無視して行きなさい」
静かな声だった。
だが。
その一言には、強い意志があった。
リンディが目を細める。
「さくらさん」
「これは管理局としての判断です」
「今動くべきでは――」
だが。
さくらは遮った。
「最善の選択?」
その声に。
ブリッジの空気が変わる。
さくらはゆっくりと前へ出た。
薬指には紫のリング。
中指には藍色のリング。
人差し指には赤色のリング。
三色の炎が静かに灯る。
誰も動けない。
それだけで、圧力だった。
「確かに、管理局から見れば最善かもしれない」
「でもね」
さくらは、なのはを見た。
「なのはは選択したの」
「あの子――フェイトちゃんを助けるって」
なのはが目を見開く。
さくらは続ける。
「だから、なのはの道は誰にも塞がせない」
次の瞬間。
ゴォッ――
三色の炎が強く燃え上がった。
ブリッジ中の空気が震える。
クロノが息を呑む。
魔力ではない。
だが。
AAA+魔導士であるクロノですら、本能的に理解してしまった。
危険だと。
さくらは静かに告げる。
「文句があるなら――」
その瞬間。
背後の空間が歪む。
霧。
雲。
嵐。
三種の炎が空間を侵食する。
「私の屍を超えていきなさい」
誰も動けなかった。
クロノも。
ユーノも。
リンディですら。
理解していた。
このアースラで。
高町さくらを突破できる者は、誰一人として存在しない。
重苦しい沈黙。
その中で。
なのはがゆっくり前へ出る。
「……ありがとう、お姉ちゃん」
そして。
レイジングハートを握る。
桃色の魔法陣が展開。
なのはは振り返らなかった。
真っ直ぐ前を見る。
助けたい人がいる。
だから行く。
それだけだった。
次の瞬間。
なのはは、桃色の光となってブリッジから飛び出した。