魔法少女リリカルなのは ~~   作:ぬっく~

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第二十七話 黒幕

海が唸る。

 

空が軋む。

 

海底から噴き上がる異常な魔力反応。

 

回収されたジュエルシード同士が共鳴し、不気味な光を放っていた。

 

なのははフェイトを支えながら、その光景を見上げる。

 

「なに……これ……」

 

フェイトも顔を青ざめさせていた。

 

「そんな……」

 

「まだ、終わって……」

 

その時だった。

 

空間が歪む。

 

まるでガラスが砕けるように、夜空へ亀裂が走った。

 

そこから現れたのは――

 

一人の女性。

 

長い金髪。

 

鋭い瞳。

 

圧倒的な魔力。

 

フェイトの目が大きく見開かれる。

 

「……母さん」

 

プレシア・テスタロッサ。

 

今回の事件、その黒幕だった。

 

なのはが身構える。

 

だが。

 

身体が動かない。

 

スターライト・ブレイカー。

 

その消耗は、想像以上だった。

 

フェイトも同じ。

 

魔力はほぼ空。

 

バルディッシュも沈黙したまま。

 

プレシアは冷たい目で二人を見下ろした。

 

「フェイト……」

 

「まだ終わっていなかったのね」

 

その声に、フェイトの身体が強張る。

 

なのはが思わず前へ出た。

 

「フェイトちゃんを傷つけないで!!」

 

だが。

 

プレシアはなのはを一瞥しただけだった。

 

次の瞬間。

 

紫電のような魔力が放たれる。

 

「っ――!」

 

なのはは咄嗟にフェイトを庇った。

 

爆発。

 

海面が揺れる。

 

だが。

 

防ぎ切れない。

 

消耗した身体では限界だった。

 

二人まとめて吹き飛ばされる。

 

「なのはっ!!」

 

フェイトが叫ぶ。

 

プレシアは無表情のまま、フェイトへ近づいた。

 

そして。

 

フェイトが回収していたジュエルシードへ手を伸ばす。

 

フェイトが必死に掴もうとする。

 

だが。

 

力が入らない。

 

「母さん……!」

 

プレシアは冷たく言い放った。

 

「それは必要なものよ」

 

次の瞬間。

 

フェイトが持っていたジュエルシードだけが、プレシアの周囲へ集まった。

 

膨大な魔力。

 

空間そのものが軋む。

 

クロノがブリッジで叫ぶ。

 

「転移反応!」

 

リンディも険しい顔になる。

 

「まずい……!」

 

プレシアの背後へ巨大な魔法陣が展開される。

 

次元転移。

 

フェイトが必死に手を伸ばした。

 

「母さん……!」

 

だが。

 

プレシアは振り返りもしない。

 

その姿は、まるでフェイトなど最初から見えていないようだった。

 

フェイトの表情が凍り付く。

 

そして。

 

プレシアは消えた。

 

静寂。

 

海上に残されたのは。

 

消耗しきったなのはとフェイトだけだった。

 

なのはは、力なく海へ落ちそうになる。

 

その瞬間。

 

桃色の身体がふわりと浮いた。

 

「え……?」

 

藍色の炎。

 

霧。

 

気付けば、なのはの身体は支えられていた。

 

同時に、フェイトの身体も静かに浮かび上がる。

 

そこへ。

 

空間を歩くように、一人の少女が現れた。

 

高町さくら。

 

藍色の炎を灯した霧のマーレリングが、中指で静かに輝いていた。

 

その背後では、『霧フクロウ(グーフォ・デッラ・ネッビア)』が翼を広げている。

 

クロノが息を呑む。

 

「いつの間に……」

 

さくらは海上へ降り立つ。

 

そして。

 

倒れそうななのはを受け止めた。

 

「お疲れ、なのは」

 

「……お姉ちゃん」

 

なのはは安心したように目を細める。

 

その横で。

 

フェイトは、完全に意識を失っていた。

 

さくらは静かにフェイトを見る。

 

そして。

 

そっと抱き上げた。

 

その目は、海の向こう――プレシアが消えた空間を冷たく見つめていた。

 

 

アースラ医務室。

 

フェイトは別室の病室で眠っていた。

 

激しい戦闘。

 

魔力枯渇。

 

さらにプレシアからの攻撃。

 

今は治療と休息が必要だった。

 

なのはは医務室の椅子へ座っている。

 

ユーノも静かに隣に立っていた。

 

部屋へ入って来たのは、リンディ。

 

その表情は重い。

 

クロノも一緒だった。

 

リンディは静かに口を開く。

 

「……今回の事件について、説明します」

 

空気が張り詰める。

 

「プレシア・テスタロッサ」

 

「かつて“大魔導師”として名を馳せた、優秀な魔導工学研究者でした」

 

なのはが静かに聞き入る。

 

リンディは続ける。

 

「ある日、彼女は新型大型魔力駆動炉の開発プロジェクトで、“設計主任”に抜擢されました」

 

「ですが……実際には、名ばかりの役職だったそうです」

 

クロノが補足する。

 

「実権を握っていたのは、“主任補佐”とその関係者達だ」

 

「プレシアは、実機に触れることすら許されず、書類上でしか指示を出せなかった」

 

ユーノが目を見開く。

 

「そんな……」

 

リンディは静かに頷く。

 

「しかも、その指示も実際には無視されていた」

 

「安全性を無視した開発」

 

「強行された稼働実験」

 

「そして――暴走事故」

 

医務室が静まり返る。

 

リンディの声が少しだけ重くなる。

 

「その事故で、プレシアの娘……アリシアが亡くなりました」

 

なのはが息を呑む。

 

「娘さん……」

 

「さらに、使い魔のリニスも失っています」

 

クロノが苦々しく言った。

 

「だが、会社は責任を全てプレシアへ押し付けた」

 

「違法研究者」

 

「危険思想の研究者」

 

「そういう形で処理された」

 

ユーノが悔しそうに拳を握る。

 

「そんなの……!」

 

リンディは静かに続けた。

 

「プレシアは会社を告訴しました」

 

「ですが結果は、事実上の敗訴」

 

「娘も、使い魔も、名誉も……全て失った」

 

重い沈黙が流れる。

 

なのはは、隣の病室を見る。

 

眠っているフェイト。

 

その小さな背中を思い浮かべながら、静かに呟いた。

 

「フェイトちゃん……」

 

その時だった。

 

ユーノが、ふと顔を上げる。

 

「……待って」

 

全員の視線がユーノへ向いた。

 

ユーノは少し迷うように口を開く。

 

「プレシアの家族構成って……」

 

「娘さんは、アリシアさんだけなんですよね?」

 

リンディの表情がわずかに変わる。

 

クロノも眉をひそめた。

 

「……ああ」

 

「記録上、家族はアリシア・テスタロッサのみだ」

 

なのはが小さく瞬きをする。

 

「……あれ?」

 

「でも、フェイトちゃんは……」

 

そこで。

 

部屋の空気が変わった。

 

全員が気付く。

 

フェイト・テスタロッサ。

 

その存在。

 

しかし。

 

時空管理局の記録に、“フェイト”という存在は一切残っていない。

 

リンディが静かに端末を操作する。

 

表示されるデータ。

 

だが。

 

何度確認しても同じだった。

 

「存在しない……」

 

クロノが低く呟く。

 

「戸籍記録も、出生記録も無い」

 

「まるで、突然現れたみたいだ」

 

なのはが困惑した表情になる。

 

「そんな……」

 

ユーノも険しい顔をしていた。

 

「じゃあ、フェイトって……」

 

答えは出ない。

 

プレシアはフェイトを娘として扱っていた。

 

だが。

 

その接し方は、あまりにも歪だった。

 

愛情というより。

 

何か別のものを見ているような。

 

なのはは、戦いの時のフェイトを思い出す。

 

『母さん』

 

そう呼んだ声。

 

認めてもらいたいという願い。

 

捨てられることへの恐怖。

 

あれは間違いなく、本物だった。

 

だが。

 

記録上。

 

フェイト・テスタロッサという少女は存在しない。

 

リンディが静かに目を閉じる。

 

「……現時点では、情報不足ね」

 

「ただ、一つだけ確かなのは」

 

その視線が、隣の病室へ向く。

 

「フェイトさんもまた、プレシア事件の被害者だということ」

 

誰も否定しなかった。

 

なのははぎゅっと拳を握る。

 

そして。

 

静かに立ち上がった。

 

「私……フェイトちゃんと、もっと話したい」

 

その言葉に。

 

ユーノが小さく頷く。

 

クロノも何も言わなかった。

 

部屋の隅。

 

壁へ寄り掛かっていたさくらだけが、静かに目を閉じていた。

 

その表情は、どこか複雑だった。

 

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