第Ⅰ話 空への翼
空港火災――。
爆炎と黒煙に包まれた空港施設の中で、幼いスバルは崩れ落ちる天井を呆然と見上げていた。
逃げ遅れた人々の悲鳴。
焼ける鉄骨の軋む音。
熱風の中、幼い身体は恐怖で動かない。
――その時だった。
轟音と共に、燃え盛る煙を切り裂く白い閃光が舞い降りた。
純白のバリアジャケット。
夜空のように深い瞳。
桃色の光を纏う、一人の魔導師。
その魔導師は、周囲を見渡しながら静かに着地する。
右中指には、美しい二つの宝石が嵌め込まれたリング。
そこから炎が灯る。
揺らめく、大空の炎と嵐の炎。
魔導師は静かに匣を取り出した。
表面には大空と嵐の紋章。
リングの炎を匣へと流し込む。
瞬間――匣が展開した。
咆哮。
飛び出したのは、赤橙色の炎を纏う巨大な獣。
ライオンとトラの混合種。
大空と嵐の混合匣兵器。
天空嵐ライガー『ペター』。
燃える鬣。
鋭い牙。
雷鳴のような低い唸り。
だが、その黄金の瞳には確かな知性と優しさが宿っていた。
「ペター。天井に向かって咆哮して」
魔導師の声に応え、ペターが大きく息を吸い込む。
同時に、魔導師の杖へ膨大な魔力が収束していく。
桜色の魔力光。
嵐の炎。
大空の炎。
三つの力が重なり合い――。
「ディバイン――バスター!!」
「グルオオオオオオオオオオオッ!!」
砲撃と咆哮が同時に放たれた。
轟ッ!!
桃色の奔流と炎の衝撃波が崩落寸前だった天井を一撃で吹き飛ばし、炎ごと空へ撃ち抜いていく。
崩壊は止まり、避難経路が生まれる。
その姿を、スバルは呆然と見上げていた。
傷つくことを恐れず。
誰かを守るために空を駆けるその姿。
まるで、本当に――。
「……かっこいい……」
それが、スバル・ナカジマと“空のエース”との、最初の出会いだった。
――そして、四年後。
時空管理局陸士訓練校。
グラウンドでは、二人の少女が激しい模擬戦を繰り広げていた。
銀髪の少女、スバル・ナカジマ。
黒髪の少女、ティアナ・ランスター。
二人は現在、陸戦魔導師ランク昇格試験の真っ最中だった。
「ティア、右っ!!」
「わかってる!」
カートリッジロード。
炸裂する魔力弾。
高速機動。
接近格闘。
息の合った連携で、次々と試験課題を突破していく二人。
その様子を、上空のヘリから見守る者たちがいた。
一人は、本局陸上部隊二佐――八神はやて。
もう一人は、時空管理局執務官――フェイト・T・ハラオウン。
「ええ感じやねぇ」
「連携も悪くない。特にスバルの突破力はかなり高い」
順調に見えた試験。
だが――不意の事故が起きた。
爆発。
試験用ガジェットの誤作動。
「きゃあっ!?」
ティアナが爆風に巻き込まれ、地面へ叩きつけられる。
「ティア!!」
駆け寄るスバル。
しかし、試験終了まで残り時間はわずかだった。
このままでは失格。
ティアナは歯を食いしばる。
「もう……無理よ……」
だが、スバルは首を振った。
諦めない。
絶対に。
脳裏に浮かぶのは、あの日見た白い魔導師。
炎と光を纏い、空を駆けた憧れの存在。
――あの人なら。
――こんなところで、絶対に諦めたりしない。
「行こう、ティア!」
「スバル!?」
ティアナを抱え、限界まで加速するスバル。
足が悲鳴を上げる。
魔力が軋む。
それでも止まらない。
ゴール目前。
だが勢いがつきすぎていた。
「わああああああっ!?」
二人の身体が、そのまま外周エリアへ飛び出していく。
落下。
その瞬間――。
ふわり、と優しい魔力が二人を包み込んだ。
「――試験終了。二人とも、よく頑張ったね」
聞こえた声に、スバルの瞳が大きく見開かれる。
抱き止めていたのは、一人の女性。
純白のバリアジャケット。
優しい桜色の魔力光。
時空管理局武装隊。
航空戦技教導隊。
空の魔導師たちのエース・オブ・エース。
高町なのは。
四年前からずっと憧れ続けた、その人だった。