アースラ医務室。
フェイトが眠る病室の扉が静かに閉じられる。
なのはは、まだフェイトの側に残っていた。
さくらはその様子を少しだけ見てから、静かに踵を返す。
廊下。
そこにはクロノとリンディ、ユーノ、そしてアルフがいた。
アルフは壁へ背を預けたまま、険しい顔をしている。
クロノが腕を組んだ。
「なのはには話さないのか?」
さくらは短く答える。
「今のなのはには必要ない」
「フェイトの側にいた方がいい」
アルフが舌打ちする。
「……チビ助には甘いねぇ」
だが、その声には以前ほど刺々しさは無かった。
リンディが静かに口を開く。
「プレシアの居場所について、確認を取りたいのだけれど」
アルフは少し黙る。
だが。
観念したように目を閉じた。
「……隠し切れないか」
そして、低く呟く。
「時の庭園(アルハザード)だよ」
その瞬間。
ブリッジの空気が変わった。
クロノが即座に反応する。
「ロストテクノロジー級の次元拠点か」
ユーノも驚いていた。
「まだ存在してたの……!?」
アルフは眉をしかめる。
「正確には、残骸みたいなもんだけどね」
「母さん……プレシアは、そこを拠点にしてた」
リンディが端末へ視線を向ける。
オペレーター達が慌ただしく動いていた。
『艦長。解析完了しました』
『先程の転移反応から座標特定完了』
『時空座標固定できます』
クロノが目を細める。
「もう割れていたのか」
リンディが静かに頷く。
「プレシアが借りていた部屋から、空間転移痕跡を既に回収済みだったの」
「後は確証だけだった」
つまり。
場所の特定自体は、既に終わっていた。
アルフは驚いたように顔を上げる。
「……あんたら、そこまで調べてたのかい」
クロノが淡々と言う。
「管理局を甘く見るな」
その言葉に、アルフは苦々しく鼻を鳴らした。
だが。
次の瞬間。
その表情が曇る。
「……でも、フェイトは」
「母さんを止めようとしてるだけなんだ」
「悪いのは、全部――」
そこまで言って、口を閉ざした。
リンディは静かに言う。
「分かっています」
「だからこそ、止めなければならない」
空気が張り詰める。
クロノが前へ出た。
「アースラはこれより時の庭園へ突入する」
「プレシア・テスタロッサの身柄確保」
「及びジュエルシードの回収を行う」
その言葉に、ユーノが息を呑む。
ついに。
決着の時が来る。
その時だった。
リンディがさくらへ視線を向ける。
「さくらさん」
「あなたはアースラに残ってもらいます」
クロノも頷いた。
「なのはとフェイトの護衛だ」
「今の二人を狙われたら危険すぎる」
ユーノも小さく頷く。
「……お願いします」
さくらは少しだけ黙る。
そして。
静かに頷いた。
「分かった」
反対はしない。
なのはも。
フェイトも。
今は動ける状態ではない。
その時。
病室の方を見たアルフが、小さく拳を握った。
「……フェイト」
その声は、とても小さかった。
リンディが静かに命令を出す。
「アースラ、時空転移準備」
『了解』
『次元航行開始します』
艦内へ警報音が響く。
光が走る。
巨大なアースラが、次元空間へ突入していく。
その中で。
さくらは静かに病室の扉を見る。
なのは。
フェイト。
二人が眠る部屋。
そして。
ポケットの中へ手を入れる。
触れたのは、羽の装飾が施された藍色のリング。
霧のマーレリング。
さくらは静かに目を閉じた。
「……無茶しないでよ」