アースラ。
ブリーフィングルーム。
モニターには過去の「闇の書事件」の記録が並んでいる。
クロノが低く言う。
「共通点は一つだな」
エイミィが頷いた。
「はい……どの事例でも、“闇の書の持ち主は最終的に侵食されている”んです」
リンディが静かに補足する。
「持ち主の魔力と精神は、時間と共に闇の書に取り込まれます」
「そして最終的には制御を失い、暴走状態へ移行する」
モニターには過去の暴走記録。
都市を飲み込むような魔力災害の痕跡。
それを見ながらフェイトが小さく息を呑む。
「……止められなかった、んだね」
ユーノは通信越しに続ける。
『そして今のケースも同じ進行をしてる』
画面には現在の侵食進行データ。
ゆっくりだが確実に悪化している。
なのはが拳を握る。
「じゃあ……もう時間がないってこと?」
その問いに場の空気が重くなる。
だがクロノは、別の一点を見ていた。
「問題はそこじゃない」
モニターが切り替わる。
高町さくらの行動ログ。
守護騎士への支援。
管理局の介入妨害。
そしてなのはとフェイトへの戦力補助。
リンディが静かに言う。
「彼女の行動には一貫性があります」
「“崩壊までの流れを制御するための調整”です」
クロノが目を細める。
「制御?」
そこでユーノが、少し慎重に言葉を選びながら続けた。
『さくらさんから聞いた“死ぬ気の炎”の性質が関係してる』
エイミィが首を傾げる。
「それって魔法じゃないんだよね?」
ユーノは頷く。
『うん。魔法じゃない』
『現象そのものの“性質”を変える力なんだ』
モニターに属性一覧が表示される。
『嵐:分解』
『雨:沈静』
『晴:活性』
『雷:硬化』
『雲:増殖』
『霧:構築』
そして――
『大空:調和』
ユーノは続ける。
『大空の調和は、“対立する流れを共存できる形に整える性質”』
『そして今回、それが闇の書の侵食に対して使われてる』
なのはが小さく呟く。
「侵食を……止めてる?」
ユーノは首を振る。
『完全に止めてるわけじゃない』
『“進行している侵食と、調和の力をぶつけて相殺してる”状態なんだ』
モニターには二つの波形。
侵食の流れと、調和の流れ。
ぶつかるのではなく、重なり合って一定の安定を保っている。
ユーノが続ける。
『だから結果として、侵食はそれ以上進まないように見える』
クロノが低く言う。
「延命か」
ユーノは頷く。
『そう』
『暴走までの時間を稼いでる』
リンディが静かに整理する。
「そしてその時間は、単なる待機ではありません」
モニターが切り替わる。
なのはとフェイトの戦闘データ。
以前より明らかに上昇している出力と制御精度。
リンディは続ける。
「高町さくらは、その時間を使って」
「なのはさんとフェイトさんの戦力向上も同時に行っています」
なのはが目を見開く。
「私たちの……?」
ユーノは静かに頷く。
『うん』
『戦わせながら、成長できる環境を作ってる』
モニターには戦闘回数と成長曲線。
不自然なほどに効率的な上昇カーブ。
クロノが眉をひそめる。
「偶然にしては出来すぎているな」
リンディが静かに言う。
「意図的に“戦力が揃う時点”へ収束させていると考えるべきでしょう」
沈黙。
なのはは視線を落とす。
戦っていると思っていた。
止めていると思っていた。
だがその裏で、自分たちは“完成へ向かう要素”として組み込まれているようにも見える。
フェイトが小さく呟く。
「それって……守られてるのかな」
それとも。
作られているのか。
クロノは低く言う。
「現時点では判断できない」
「だが一つだけ確かなのは」
視線を上げる。
「この流れは、既に完成に向かって動いている」
静寂。
時間は稼がれている。
侵食は止まっていない。
そして戦力は、確実に“整えられている”。
まだ誰も、その先にある結末の形を知らない。