魔導師ランク昇格試験終了後――。
空港上空を吹き抜ける風の中、スバルとティアナは、試験官を務めていた白い魔導師と向き合っていた。
「ふたりとも、お疲れさま」
柔らかな笑顔でそう告げるなのはに、スバルは興奮を隠しきれなかった。
「あ、あのっ! 本当に高町なのは一等空尉ですよね!? エース・オブ・エースの!」
「もう、その呼び方は恥ずかしいんだけどなぁ……」
困ったように笑うなのは。
だが、スバルの瞳は憧れそのものだった。
幼い頃。
炎と煙に包まれた空港火災の中、自分を救ってくれた白い魔導師。
右中指のリングから灯った、揺らめく大空の炎と嵐の炎。
そして――。
ライオンとトラの混合種。
大空と嵐の混合匣兵器。
天空嵐ライガー『ペター』。
あの日からずっと、スバルにとってなのはは憧れだった。
その本人が、今こうして目の前にいる。
興奮しない方が無理だった。
一方、ティアナは少し警戒したような視線を向ける。
「……それで、わざわざ私たちを呼び止めた理由は?」
なのはは微笑んだまま頷く。
「うん。実は、ふたりに会ってほしい人がいるんだ」
その瞬間――。
上空で待機していた管理局ヘリのハッチが開いた。
「ほな、こっち来てもらおかー!」
元気な声と共に現れたのは、小柄な少女。
栗色の髪を揺らし、にこやかに手を振っている。
時空管理局本局陸上部隊二佐――
八神はやて。
さらにその隣には、金髪の女性が立っていた。
鋭さと優しさを併せ持つ紅い瞳。
黒衣を纏った執務官。
フェイト・T・ハラオウン。
「えっ……!」
ティアナが息を呑む。
フェイト・T・ハラオウン。
若手執務官の中でもトップクラスの実績を誇る、本局期待のエースだった。
ヘリ内部へ案内された二人に、はやては楽しそうに笑った。
「単刀直入に言うで。ウチの新部隊に来ぇへん?」
「……新部隊?」
ティアナが眉をひそめる。
はやては端末を操作し、空中モニターを展開した。
そこに表示されたのは、新設部隊の概要。
――古代遺物管理部・機動六課。
「ロストロギア関連事件専門の独立機動部隊や」
説明を引き継ぐフェイト。
「次元世界全域で発生する古代遺物事件に対応するための部隊。少数精鋭の高速対応部隊になる予定よ」
「当然、危険も多い」
なのはも静かに続ける。
「でも、その分だけ得られるものも大きいよ」
スバルは思わず身を乗り出した。
「それって……なのはさんから直接訓練してもらえるってことですか!?」
「うん。わたしは前線フォワード担当の教導を受け持つ予定」
「やったぁぁぁっ!!」
勢いよく立ち上がるスバル。
ヘリが揺れるほどの歓声に、なのはは苦笑し、フェイトとはやても笑う。
一方でティアナは静かに資料を見つめていた。
「……執務官育成カリキュラム?」
フェイトが頷く。
「あなた、執務官志望なんでしょう?」
ティアナは驚いたように顔を上げる。
「資料を見たわ。優秀な成績だった」
フェイトは静かに微笑んだ。
「よかったら、私が教える」
その言葉に、ティアナの瞳が揺れる。
執務官。
それは兄が目指し、そして果たせなかった夢。
自分が継ぐと決めた夢。
そのための最短距離が、今目の前に差し出されていた。
だが――。
「……機動六課って、かなり危険な部隊なんですよね」
ティアナの問いに、はやては真っ直ぐ頷いた。
「せやな。かなりハードや」
軽い口調のまま、しかし瞳は真剣だった。
「古代遺物絡みの事件は、下手したら世界一つ沈む。せやから、集める人材も自然と一級品になる」
「つまり、エリート部隊ってことですか」
「超、が付くくらいにはな」
沈黙。
スバルは不安そうにティアナを見る。
だがティアナはしばらく考えた後、小さく息を吐いた。
「……スバル」
「え?」
「ここで逃げたら、きっと後悔する」
ティアナは静かに言った。
「私は執務官になる。そのために必要なら、どんな環境でも飛び込む」
そして小さく笑う。
「アンタだって、なのはさんに教わりたいんでしょ?」
「もちろん!」
即答だった。
その返事に、ティアナは呆れたように笑う。
「……じゃあ、決まりね」
その瞬間、はやてがぱっと顔を輝かせた。
「よっしゃ! 交渉成立や!」
「歓迎するよ」
なのはも優しく笑う。
こうして、新部隊『機動六課』へ、新たな二人が加わることになった。
――その頃。
別次元世界から、ひとつの輸送船がミッドチルダへ向かっていた。
船内の座席で、小柄な少年が緊張した様子で窓の外を見ている。
銀色の髪。
真面目そうな青い瞳。
エリオ・モンディアル。
その少し後方では、桃色の髪の少女が大きな荷物を抱えておろおろしていた。
キャロ・ル・ルシエ。
どちらもまだ十歳。
高い魔力資質を持ちながらも、世間にはあまり慣れていない子供たちだった。
そして――。
輸送船が大きく揺れた瞬間。
「あっ――!」
キャロの荷物が宙を舞う。
飛び散る大量の資料と荷物。
慌てるキャロ。
そこへ、とっさに飛び込んだのがエリオだった。
「危ない!」
抱き留められる荷物。
だが勢い余って、今度はエリオ自身がバランスを崩す。
「あっ」
「きゃっ!?」
結局、二人そろって床へ転倒。
散乱する荷物。
沈黙。
そして――。
「ご、ごめんなさいっ!」
「い、いや! 僕こそ!」
同時に頭を下げる二人。
周囲の乗客たちが思わず笑い出す。
そんな少し騒がしくて、少し不器用な出会い。
それが、後に機動六課の未来を支えることになる、二人の最初の出会いだった。