# 第二十九話 託された雷
時の庭園。
崩れかけた古代遺跡の内部で、激しい爆発が響き渡る。
魔力砲撃。
誘導弾。
次元障壁。
時空管理局の魔導師達が次々と突入していた。
だが。
進軍速度は異常なほど遅い。
「くっ……また来るぞ!」
無数の機械兵器。
プレシアが配備した警備ロボット群。
さらに古代防衛システムまで起動し、通路そのものが罠と化していた。
クロノが高速詠唱で砲撃を叩き込む。
爆発。
だが、すぐ次が現れる。
「数が多すぎる……!」
リンディもブリッジで険しい表情を浮かべていた。
『動力炉周辺に高エネルギー反応!』
『プレシア・テスタロッサ、ジュエルシードを使用中!』
時間が無い。
だが。
プレシア最後の足掻きは、想像以上に苛烈だった。
◇
アースラ医務室。
なのはがゆっくりと目を開ける。
「……ん」
ぼやけた視界。
白い天井。
そして。
椅子に座り、窓の外を見ているさくらの姿。
「お姉ちゃん……?」
さくらが振り返る。
「起きた?」
なのはは身体を起こそうとして顔をしかめた。
まだ全身が重い。
だが。
艦内へ響く警報音で、ただ事ではないと理解する。
「何かあったの?」
さくらは隠さず答えた。
「管理局がプレシアの所へ突入してる」
その瞬間。
なのはの表情が変わった。
「フェイトちゃんは!?」
「まだ寝てる」
少しだけ安心した表情。
だが、すぐになのはは真剣な顔になる。
「……私、行かなきゃ」
さくらは何も言わない。
なのはは続ける。
「聞きたいことがあるの」
「プレシアさんに」
「フェイトちゃんのこと」
その瞳に迷いは無かった。
さくらは少しだけ目を細める。
そして。
静かに立ち上がった。
「なら、行ってきな」
なのはが驚く。
「え……?」
「お姉ちゃん、止めないの?」
さくらは肩を竦めた。
「なのはが決めたことでしょ」
「だったら私は背中押すだけ」
その言葉に、なのはは嬉しそうに笑う。
すぐにレイジングハートを握り締めた。
「うん!」
◇
だが。
時の庭園内部は、想像以上の激戦だった。
「ディバイン――」
砲撃。
ロボット群が吹き飛ぶ。
だが。
次の瞬間、天井から新たな機械兵器が降下する。
「なのは!」
ユーノの結界が炸裂。
それでも数が多すぎる。
なのはは歯を食いしばった。
「これじゃ先に進めない……!」
プレシアの元まで辿り着けない。
その時だった。
アースラ医務室。
静かだった病室で、小さく布団が揺れる。
フェイトがゆっくりと目を開けた。
「……なのは」
ぼんやりとした視界。
最初に見えたのは、ベッドの横に立つ少女。
黒髪。
静かな瞳。
フェイトは、ぼんやり呟く。
「なのは……?」
だが。
その少女は小さく首を傾げた。
「残念、ハズレ」
そこでようやくフェイトの意識がはっきりする。
「……さくら?」
さくらは特に気にした様子もなく、水の入ったコップを渡した。
フェイトは身体を起こしながら周囲を見る。
「ここは……」
「アースラ」
そして。
さくらは今起きていることを、簡潔に説明した。
プレシア。
時の庭園。
管理局の突入。
なのはも向かったこと。
それを聞いた瞬間。
フェイトの表情が変わる。
「母さん……!」
すぐに立ち上がろうとする。
だが、身体がふらついた。
さくらが支える。
「無理しない」
「でも……!」
フェイトは唇を噛む。
「止めないと……!」
その瞳には、もう以前の迷いは無かった。
逃げるでもなく。
認められたいでもなく。
ただ。
止めたい。
その想いだけだった。
さくらは静かにフェイトを見る。
そして。
問いかける。
「フェイト」
「あなたはどうしたい?」
フェイトは真っ直ぐ顔を上げた。
そして。
ハッキリと言った。
「お母さんを止めます」
その声に、迷いは無い。
その瞳を見て。
さくらは静かに目を細めた。
――この子なら、大丈夫。
そう確信した。
さくらはポケットへ手を入れる。
取り出したのは。
銀色の箱。
そして。
緑色の雷光を宿したリング。
羽の装飾が施された、特別なリング。
雷のマーレリング。
さらに。
もう一つ。
小型の匣。
さくらはそれらをフェイトへ差し出した。
「選別」
フェイトが目を見開く。
「これ……」
「雷のマーレリング」
そして、もう一つの匣を軽く持ち上げる。
「匣兵器『雷キツネ(ヴォルペ・デル・フルミネ)』」
フェイトは静かにそれを受け取った。
その瞬間。
微かに。
リングの宝石へ雷光が走った。