魔法少女リリカルなのは ~~   作:ぬっく~

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第三話 最初のお願い

朝。

 

海鳴市には、いつも通りの穏やかな時間が流れていた。

 

高町家の食卓にも、焼きたてのパンの香りが広がっている。

 

「なのは、眠そうだな」

 

恭也がコーヒーを飲みながら言う。

 

「ふぁ……うん……」

 

なのはは半分寝そうな顔で返事をした。

 

昨夜の出来事が頭から離れない。

 

魔法。

 

レイジングハート。

 

ジュエルシード。

 

そして、空を飛んだ事。

 

全部夢みたいだった。

 

「昨日遅かったの?」

 

美由希が不思議そうに首を傾げる。

 

なのははびくっと肩を震わせた。

 

「えっ!? い、いや!? そんな事ないよ!?」

 

露骨に怪しい反応。

 

その横で、さくらが静かに味噌汁を飲んでいた。

 

「……なのは」

 

「は、はいっ!」

 

「顔に出すぎ」

 

「うっ……」

 

なのはが小さく唸る。

 

さくらは小さく息を吐いた。

 

昨夜、なのはが家を抜け出した事には気付いていた。

 

だが、止めなかった。

 

もう物語は始まってしまったから。

 

なら、なのはは自分で進んでいくしかない。

 

「まあ、ほどほどにね」

 

「う、うん……」

 

なのはは何故か気まずそうに頷いた。

 

その時。

 

テーブルの下。

 

なのはの足へ、ふわふわした感触が触れる。

 

「ひゃっ!?」

 

慌てて下を見る。

 

そこには、フェレット姿のユーノがいた。

 

『後で話したいんだ』

 

念話。

 

なのはが目を丸くする。

 

『え、今!?』

 

『お願い』

 

真剣な声だった。

 

なのははこくりと小さく頷く。

 

その様子を、向かい側のさくらが静かに見ていた。

 

何も言わない。

 

ただ、分かっているような目だった。

 

 

朝食後。

 

なのははユーノを連れて、自室へ戻っていた。

 

ドアを閉める。

 

すると、ユーノが真剣な顔でなのはを見上げた。

 

「昨日はありがとう」

 

「う、ううん! わたしもよく分かってないけど……」

 

なのはは困ったように笑う。

 

ユーノは小さく頭を下げた。

 

「改めて説明するね。僕はユーノ・スクライア。遺跡発掘の仕事をしてる」

 

「遺跡?」

 

「うん。そして、そこで見付かったロストロギア――ジュエルシードを回収していたんだ」

 

ユーノの表情が少し曇る。

 

「でも、輸送中の事故で、この街へ散らばってしまった」

 

なのはは静かに話を聞いていた。

 

昨夜見た化け物を思い出す。

 

「あれって……ジュエルシードのせいなんだよね?」

 

「うん。ジュエルシードは持ち主の願いを暴走させる危険なロストロギアなんだ」

 

だから回収しなければいけない。

 

ユーノは真っ直ぐなのはを見た。

 

「お願い、なのは。僕に力を貸してほしい」

 

その言葉に、なのはは少しだけ目を瞬かせる。

 

魔法少女。

 

昨日までの自分とは全く違う世界。

 

怖くないと言えば嘘になる。

 

でも。

 

困っている人がいる。

 

助けを求められている。

 

それなら。

 

なのはは小さく笑った。

 

「うん。わたし、頑張る」

 

ユーノの表情が少し柔らかくなる。

 

「ありがとう」

 

その時だった。

 

コンコン。

 

部屋のドアがノックされる。

 

なのはがびくっと肩を震わせた。

 

「は、はいっ!」

 

ドアが開く。

 

そこに立っていたのは、さくらだった。

 

「母さんが、そろそろ学校行きなさいって」

 

「あっ、う、うん!」

 

なのはが慌てて返事をする。

 

だが。

 

さくらの視線は、ユーノへ向いていた。

 

静かな目。

 

ユーノも小さく身体を強張らせる。

 

「……フェレット」

 

「えっ?」

 

「学校連れてくの?」

 

なのはが固まった。

 

ユーノも固まる。

 

数秒の沈黙。

 

「あ、あははは……」

 

なのはが乾いた笑いを漏らす。

 

その反応を見て、さくらは小さく息を吐いた。

 

「ばれてないと思ってるなら、隠すの下手すぎ」

 

「うぇっ!?」

 

なのはが真っ赤になる。

 

ユーノも驚いたように目を丸くしていた。

 

さくらは少しだけ困ったように笑う。

 

「別に言いふらしたりしないから安心して」

 

そう言って、なのはへ視線を向ける。

 

「でも、無茶はしない事」

 

その言葉だけ、少し真剣だった。

 

なのはは小さく頷く。

 

「……うん」

 

さくらはそれ以上何も言わず、静かに部屋を出て行った。

 

ドアが閉まる。

 

部屋の中へ沈黙が落ちた。

 

そして。

 

ユーノがぽつりと呟く。

 

「……さくらさん、鋭いね」

 

なのはは苦笑いした。

 

「お姉ちゃん、昔から勘いいんだよね……」

 

だが。

 

なのははまだ知らない。

 

その姉が、これから先、自分以上に危険な戦いへ足を踏み入れる事を。

 

そして。

 

運命が、少しずつ変わり始めている事を。

 

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