魔法少女リリカルなのは ~~   作:ぬっく~

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第三話 街は危険がいっぱいなの?

 ジュエルシード集めは、順調だった。

 

 夜の学校。

 

 誰もいない廊下を、桜色の光が駆け抜ける。

 

「ディバインシューター!」

 

 放たれた魔力弾が、黒い影を撃ち抜いた。

 

『Sealing mode.』

 

「封印!」

 

 眩い光。

 

 そして。

 

 五つ目のジュエルシードが、静かになのはの手の中へ収まった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 だが。

 

 封印が終わった瞬間、なのははその場へ座り込む。

 

 息が上がる。

 

 身体が重い。

 

 まだ魔法に慣れていない身体には、連日の戦いはかなり堪えていた。

 

「大丈夫ですか、なのは?」

 

「う、うん……」

 

 笑おうとして。

 

 でも、少しだけふらつく。

 

 その様子を。

 

 校舎屋上から、さくらは静かに見下ろしていた。

 

「……無茶してる」

 

 小さな呟き。

 

 けれど、止めには行かない。

 

 なのはが、自分で選んで進んでいるから。

 

 だから。

 

 さくらは、ただ見守る。

 

 翌朝。

 

 日曜日。

 

「んぅ……」

 

 寝坊気味になりながら、なのははベッドの上で集めたジュエルシードを眺めていた。

 

 五つ。

 

 淡く輝く宝石。

 

『今日は休みましょう』

 

 ユーノの声が聞こえる。

 

「え?」

 

『なのは、かなり疲れてます』

 

 図星だった。

 

 なのはは苦笑する。

 

「そんな顔してた?」

 

『してました』

 

 きっぱり言われた。

 

「うぅ……」

 

 なのはが肩を落としていると、ユーノは少し優しく続ける。

 

『今日は普通の日曜日にしましょう』

 

「普通の日曜日……」

 

 その言葉に、なのはは少しだけ笑った。

 

 今日は。

 

 父・士郎がオーナー兼コーチを務めるサッカーチーム、『翠屋JFC』の試合の日だった。

 

 河川敷のグラウンド。

 

 青空。

 

 吹き抜ける風。

 

「いけーっ!」

 

 なのは達の応援が飛ぶ。

 

 ゴール前。

 

 相手チームの強烈なシュート。

 

 だが。

 

「止めたぁっ!!」

 

 キーパーの少年が、見事なセーブを決めた。

 

 歓声が上がる。

 

 試合は、そのまま二対零で翠屋JFCの勝利に終わった。

 

「やったぁ!」

 

 なのは達も飛び跳ねる。

 

 その少し後ろ。

 

 ベンチ近くで、一人の少女が優しく微笑んでいた。

 

 チームマネージャー。

 

 彼女は、キーパーの少年へ暖かな視線を向けている。

 

 その様子を見て、なのはは少しだけ笑顔になった。

 

 そして。

 

 観客席の端。

 

 木陰に座るさくらもまた、静かに試合を見ていた。

 

「平和……」

 

 ぽつりと呟く。

 

 その表情は、どこか穏やかだった。

 

 試合後。

 

 翠屋で食事会が開かれることになった。

 

「わぁ……!」

 

 テーブルに並ぶケーキ。

 

 楽しそうな笑い声。

 

 なのは達も、その輪に混ざっていた。

 

 その中で。

 

 アリサがじーっとユーノを見る。

 

「……ねぇ」

 

「きゅ?」

 

「このフェレット、絶対普通じゃないわよね?」

 

「わ、わたしもそう思う……」

 

 すずかまで頷いた。

 

 なのはは慌てる。

 

「え、えっと!」

 

 話題を逸らそうと、ユーノを抱き上げる。

 

「ユーノくん、お手!」

 

「きゅっ!?」

 

 困惑しつつも、ユーノは芸を披露した。

 

「わぁー!」

 

「かわいい!」

 

 結果。

 

 二人になで回されることになった。

 

『た、助けてくださいなのは……』

 

 精神通話越しの声が、妙に疲れていた。

 

 食事会も終わり、解散。

 

 その時。

 

 なのはは、不思議な感覚を覚えた。

 

「……あれ?」

 

 視線の先。

 

 あのキーパーの少年が、バッグから何かを取り出していた。

 

 小さな石。

 

 それをポケットへ入れ、マネージャーの少女の元へ駆け寄る。

 

 その瞬間。

 

 微かな魔力反応。

 

 ジュエルシード。

 

「……気のせい?」

 

 だが。

 

 何も起きない。

 

 だから、なのはは二人を見送ってしまった。

 

 帰宅後。

 

 なのははベッドへ倒れ込んだ。

 

「つかれたぁ……」

 

 ユーノが心配そうに近付く。

 

『ごめんなさい』

 

「え?」

 

『なのはに苦労をかけてしまって』

 

 なのはは、少しだけ驚いた顔をした。

 

「そんなことないよ」

 

『でも――』

 

「わたし、自分でやるって決めたから」

 

 なのはは笑う。

 

 その笑顔に、ユーノは少しだけ安心した。

 

 同じ頃。

 

 帰り道。

 

 キーパーの少年とマネージャーの少女は、並んで歩いていた。

 

「今日、すごかったね!」

 

「へへ……」

 

 照れ臭そうに笑う少年。

 

 そして。

 

「これ、拾ったんだ」

 

 ポケットから、小さな宝石を取り出す。

 

「綺麗だから、あげる」

 

 少女が受け取った瞬間。

 

 ジュエルシードが、光った。

 

「え……?」

 

 次の瞬間。

 

 爆発的な魔力が、街を包み込んだ。

 

 巨大な樹木。

 

 地面を割り。

 

 建物を砕き。

 

 無数の根が街中へ広がっていく。

 

『ジュエルシード反応!』

 

「っ!」

 

 なのはとユーノは飛び出した。

 

 だが。

 

 現場へ辿り着いた時には、街はすでに侵食されていた。

 

「そんな……」

 

『人間が発動させてしまったんです』

 

 ユーノが苦しそうに言う。

 

『強い想いを持つ人間が使うと、ジュエルシードは最大級に暴走します』

 

 なのはは、唇を噛んだ。

 

 気付いていた。

 

 あの時。

 

 でも、止められなかった。

 

「わたし……」

 

 胸が痛む。

 

 ユーノは周囲を見回した。

 

『核を探さないと封印出来ません。でも、これだけ広いと……』

 

「どうすればいい?」

 

『え?』

 

「こういう時、どうしたらいいの?」

 

 なのはの声は、真剣だった。

 

 ユーノは答えに詰まる。

 

 その時。

 

 なのはの魔力が高まった。

 

 レイジングハートが呼応する。

 

『Searcher.』

 

「探索……」

 

 なのはは迷わなかった。

 

「見つける!」

 

 桜色の光が街中へ広がっていく。

 

 そして。

 

「いた!」

 

 巨大樹木の中心。

 

 二人の姿。

 

『でも接近しないと――』

 

 ユーノが言い終わる前に。

 

 レイジングハートが変形した。

 

『Shooting mode.』

 

 長距離砲撃形態。

 

 なのはは杖を構える。

 

「ディバイン――」

 

 魔力が収束する。

 

「――バスター!!」

 

 極大の桜色の閃光。

 

 一直線に放たれた砲撃が、巨大樹木を貫いた。

 

 轟音。

 

 そして。

 

『Sealing mode.』

 

「封印!」

 

 光が弾ける。

 

 巨大樹木が、静かに消滅していった。

 

「すごい……」

 

 ユーノは呆然としていた。

 

 なのはの才能。

 

 魔力量。

 

 その成長速度。

 

 全てが規格外だった。

 

 だが。

 

 なのはは、その場へしゃがみ込む。

 

「なのは?」

 

「……止められたかもしれなかった」

 

 小さな声。

 

「気付いてたのに」

 

 ユーノは慌てる。

 

『なのは、それは――』

 

「わたしがもっとちゃんとしてれば……」

 

 その時。

 

 遠くで。

 

 怪我をしたキーパーの少年が、少女に肩を借りながら歩いている姿が見えた。

 

 壊れた街。

 

 砕けた道路。

 

 その光景を見て。

 

 なのはは、ゆっくり立ち上がる。

 

「……決めた」

 

 レイジングハートを握り締める。

 

「ユーノくんのお手伝いじゃない」

 

 真っ直ぐ前を見る。

 

「わたし、自分の意志でやる」

 

 もう。

 

 二度とこんなことを起こさないように。

 

「ちゃんと、本気で頑張る」

 

 その言葉を。

 

 少し離れたビル屋上で、さくらは静かに聞いていた。

 

「……うん」

 

 小さく頷く。

 

 妹は、ちゃんと前へ進んでいる。

 

 だから。

 

 今はまだ、見守るだけでいい。

 

 さくらは夜風の中、静かに目を細めた。

 

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