魔法少女リリカルなのは ~~   作:ぬっく~

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第17話 覚醒の夜

夜風が、病院の屋上を吹き抜けていた。

 

空は黒く沈み。

 

雲は重い。

 

まるで、これから訪れる災厄を予感しているかのようだった。

 

屋上の中央。

 

ベッドに横たわるはやての周囲へ、複数の魔法陣が展開されている。

 

なのは。

 

フェイト。

 

クロノ。

 

そして、高町さくら。

 

全員が張り詰めた表情で、中央を見つめていた。

 

守護騎士たちは、はやての傍から離れない。

 

シグナムは剣を握り締め。

 

ヴィータは苛立ちを隠せず。

 

シャマルは祈るように目を閉じ。

 

ザフィーラは静かに周囲を警戒していた。

 

その中心で。

 

はやての右手。

 

大空のマーレリングだけが、弱々しい炎を灯している。

 

宝石から揺れる、オレンジ色の炎。

 

だが、その光は、今にも消えてしまいそうなほど小さい。

 

クロノが低く問う。

 

「……本当にやるんだな」

 

さくらは静かに頷いた。

 

「ああ」

 

「もう時間がない」

 

なのはが、はやてを見る。

 

苦しそうな呼吸。

 

青白い顔。

 

闇の書の侵食は、既に生命維持領域へ到達していた。

 

フェイトが静かに呟く。

 

「間に合って……」

 

その願いに。

 

さくらは静かに言う。

 

「間に合わせる」

 

短い言葉。

 

だが、そこに迷いはなかった。

 

クロノが目を細めた。

 

「始めるぞ」

 

結界が展開される。

 

病院全域を包み込む、巨大な封鎖結界。

 

外部への被害を防ぐためのものだ。

 

さくらは、はやての額へそっと手を置いた。

 

「聞こえてる?」

 

静かな声。

 

「持ち主」

 

返事はない。

 

だが。

 

右手のリングの炎が、小さく揺れた。

 

それだけで十分だった。

 

さくらは静かに目を閉じる。

 

「――闇の書」

 

低い声。

 

その瞬間。

 

世界が、震えた。

 

黒い魔力が噴き上がる。

 

空気が悲鳴を上げる。

 

闇。

 

闇。

 

闇。

 

はやての身体から、膨大な黒い奔流が噴出した。

 

シャマルが息を呑む。

 

「始まった……!」

 

シグナムが剣を構える。

 

ヴィータが鉄槌を握り締める。

 

ザフィーラが低く唸った。

 

そして。

 

空間が裂ける。

 

巨大な黒い魔法陣。

 

その中心から、“何か”が目を開いた。

 

赤い瞳。

 

無機質な視線。

 

圧倒的な魔力。

 

闇の書の管理人格。

 

世界を滅ぼす災厄。

 

その存在が、今、完全に目覚めた。

 

瞬間――

 

守護騎士たちの身体が、光へ変わった。

 

「な――」

 

ヴィータが目を見開く。

 

シグナムが歯を食いしばる。

 

シャマルが息を呑む。

 

ザフィーラが低く唸った。

 

管理人格の覚醒。

 

それは、守護騎士システムの一時停止を意味していた。

 

「主……!」

 

シグナムが最後にはやてを見る。

 

ヴィータが悔しそうに叫ぶ。

 

「はやてぇぇぇ!!」

 

そして。

 

四人の姿は、粒子となって消滅した。

 

静寂。

 

残されたのは。

 

暴走する黒き災厄だけ。

 

なのはが息を呑む。

 

フェイトがバルディッシュを握る。

 

クロノが前へ出る。

 

その中で。

 

さくらだけは、静かに管理人格を見上げていた。

 

赤い瞳が、さくらを見下ろす。

 

そして。

 

機械のような声が響いた。

 

『……収集、継続』

 

『対象世界、侵食開始』

 

その瞬間。

 

黒い波動が空へ放たれる。

 

世界そのものを呑み込もうとする、絶望の魔力。

 

だが――

 

「なのは!」

 

さくらが叫ぶ。

 

「撃ち落として!」

 

「うん!」

 

なのはの魔法陣が展開される。

 

桜色の光。

 

レイジングハートが唸る。

 

『Divine——』

 

巨大な砲撃が、夜空を裂いた。

 

轟音。

 

衝撃。

 

黒い波動と激突し、空そのものが揺れる。

 

フェイトも飛び出す。

 

「行くよ、バルディッシュ!」

 

『Yes, sir』

 

雷光が迸る。

 

クロノも同時に魔法陣を展開。

 

三方向からの同時攻撃。

 

だが。

 

管理人格は止まらない。

 

黒い魔力が膨れ上がる。

 

空間が悲鳴を上げる。

 

そして。

 

さくらは静かに言った。

 

「ここからが本番よ」

 

なのはが振り向く。

 

フェイトも息を呑む。

 

さくらの瞳は、真っ直ぐ管理人格を見据えていた。

 

「眠ってるはやてを起こす」

 

「管理者権限を使ってもらう必要がある」

 

その言葉と共に。

 

夜空へ、巨大な黒い翼が広がった。

 

闇の書の闇。

 

世界を滅ぼす戦いが――今、始まる。

 

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