## 第Ⅷ話 願い、ふたりで
ホテル・アグスタでの戦闘終了後。
機動六課の医務室には重い空気が流れていた。
ティアナは俯いたまま、黙って座っている。
あの時。
自分の判断ミス。
焦り。
そして無理な突撃。
結果として、スバルたちを危険に晒した。
なのはは静かにティアナの前へ立つ。
怒鳴るわけではない。
責めるわけでもない。
だが、その声は真っ直ぐだった。
「ティアナ」
「……はい」
「ティアナは、一人で戦ってる訳じゃないんだよ」
ティアナの肩が小さく震える。
なのはは続ける。
「センターガードはね、前も後ろも左右も全部味方なの」
スターズ分隊。
その中心。
それがティアナの立ち位置。
仲間を支え。
仲間に支えられる。
それが本来の戦い方だった。
「今回のミスがどういう意味だったのか、ちゃんと考えて」
なのはの瞳は優しい。
だが、厳しい。
「そして、同じ失敗を二度と繰り返さないで」
ティアナは唇を噛み、深く頭を下げた。
「……はい」
「約束できますか?」
少しだけ間が空く。
そして。
「……約束します」
その答えを聞き、なのはは静かに頷いた。
六課へ戻った後。
ヴィータは腕を組みながら、なのはたちへ問いかける。
「で? あいつ、なんであそこまで無茶する」
なのはとフェイトは顔を見合わせる。
答えたのはフェイトだった。
「ティアナのお兄さん……ティーダさんのこと、知ってる?」
ティーダ・ランスター。
管理局の魔導師。
優秀な執務官候補だった。
だが、任務中の事故で殉職した。
そして。
その任務には“失敗”の記録が残った。
「ティアナは、兄さんの誇りを守りたいんだよ」
フェイトは静かに言う。
「兄さんが叶えられなかった夢……執務官になるために」
ヴィータは難しい顔で息を吐いた。
「……真面目すぎんだよ、あいつ」
その頃。
訓練場では、ティアナが一人で射撃訓練を続けていた。
何度も。
何度も。
魔力切れ寸前まで。
そこへヴァイスがやって来る。
「おいおい、無茶しすぎだろ」
「……」
「休めって」
「まだ足りません」
ヴァイスは眉をひそめた。
「焦って強くなれるほど、魔導師って単純じゃねぇぞ」
だが、ティアナは止まらない。
クロスミラージュを構え続ける。
その背中には、焦燥しかなかった。
そんなティアナの前へ、スバルが現れる。
「ティア」
「……何?」
スバルは笑った。
「一緒にやろう」
「え?」
「ティア一人じゃないんだから」
真っ直ぐな笑顔。
ティアナは少しだけ目を逸らす。
だが。
その言葉は、確かに嬉しかった。
それから。
二人は秘密訓練を始めた。
通常訓練を終えた後。
夜遅くまで残って。
新しいコンビネーション。
連携。
技数の増加。
スバルの突撃に合わせた高速幻惑射撃。
クロスファイア。
そして。
新たな連携技。
何度失敗しても、二人は立ち上がった。
「もう一回!」
「うん!」
そんな二人を、なのはは遠くから静かに見守っていた。
そして迎えた。
模擬戦当日。
訓練フィールド。
対戦相手は―――高町さくら。
「本気で来なさい」
黒いコートを翻しながら、さくらが立つ。
対するスターズ隊。
スバルとティアナ。
「行くよ、ティア!」
「ええ!」
二人が同時に駆ける。
スバルの高速接近。
ティアナの幻惑魔法。
視界攪乱。
クロスレンジ射撃。
訓練してきたコンビネーションが次々決まる。
「ほう」
さくらが小さく感心する。
以前より遥かに連携が洗練されていた。
スバルが死角から飛び込む。
「いっけぇぇぇ!!」
拳撃。
だが。
さくらの姿が霧のように掻き消えた。
「幻!?」
ティアナが叫ぶ。
その瞬間。
背後。
「反応が遅い」
「っ!?」
さくらの蹴りを、スバルがギリギリで防御する。
衝撃。
吹き飛ばされるスバル。
だが。
「今!」
ティアナの魔力弾が炸裂。
さくらの周囲を封鎖する。
さらに。
幻影。
多重射撃。
スバルが再突撃。
「おおおおっ!!」
さくらの右手のリングから、紫色の炎―――雲の炎が灯る。
さらに、靄のように揺らめく霧の炎。
「開匣」
匣が開く。
飛び出したのは、紫色の炎を纏うハリネズミ。
雲の匣兵器。
ハリネズミは瞬く間に増殖を始める。
一体。
二体。
十体。
数え切れないほどに増えたハリネズミたちがフィールドを埋め尽くしていく。
「うそぉ!?」
スバルが声を上げる。
さらに。
霧の炎が戦場を覆った。
景色が歪む。
視界が狂う。
敵味方の位置感覚すら曖昧になる。
「ティア!」
「大丈夫、まだ見えてる!」
ティアナは歯を食いしばる。
クロスミラージュを構える。
(負けない……!)
(ここで止まったら、また同じだ!)
スバルがハリネズミの群れへ飛び込む。
ティアナが援護射撃。
増殖する雲の匣兵器。
霧による幻惑。
その猛攻の中。
スターズ隊は必死に食らいついていく。
そして。
霧の向こうで。
さくらがほんの少しだけ口元を上げた。
「……いい目になってきた」