第1話 夜天の影
海鳴市の夜は静かだった。
街の灯りが夜道を照らし、吹き抜ける風がわずかに冷たい。
そんな中、高町なのははふと足を止めた。
「……なんか、変」
胸の奥がざわつく。
理由は分からない。
けれど確かに、“何か”がいる。
なのはは空を見上げた。
夜空はいつも通り静かだ。
それなのに、空気だけが微かに歪んで感じる。
その時、首元のレイジングハートが小さく反応した。
《Warning》
なのはの表情が引き締まる。
「……行かなきゃ」
彼女は駆け出した。
夜の街を。
違和感の中心へ向かって。
---
同時刻。
時空管理局・次元航行艦アースラ。
艦は現在、次元航行中。
目的地は地球――海鳴市。
ブリッジには緊張した空気が流れていた。
モニターには異常魔力反応のデータが映し出されている。
クロノ・ハラオウンは険しい顔で画面を見つめていた。
「海鳴市周辺で高密度魔力反応を確認。反応パターンは過去のロストロギア案件と一部一致しています」
リンディ・ハラオウンが静かに腕を組む。
「ロストロギア絡みの可能性は高そうね……」
だが、まだ断定はできない。
反応が不安定すぎる。
情報も足りない。
クロノは小さく息を吐いた。
「現時点では正体不明です。ですが、危険度は高い」
その一方で、フェイト・テスタロッサは待機区画にいた。
まだ出撃命令は出ていない。
艦が到着するまで、動くことは出来なかった。
---
海鳴市郊外。
使われなくなった建物群。
なのははそこへ辿り着いた瞬間、空気が変わったことを理解した。
重い。
空間そのものが圧迫されているような感覚。
「ここ……」
レイジングハートを握りしめる。
その時だった。
「見つけたぜ」
低い声。
なのはが振り向く。
瓦礫の上。
赤髪の少女が立っていた。
幼い見た目とは裏腹に、その瞳には獰猛な光が宿っている。
巨大な鉄槌を肩に担ぎ、こちらを見下ろしていた。
その隣には、黒い狼のような巨体。
なのはは息を呑む。
「あなたたちは……!」
少女はニヤリと笑った。
「悪いな。ちょっと遊んでもらうぜ」
次の瞬間。
地面が砕けた。
ヴィータが一瞬で距離を詰める。
「っ!?」
なのはは反射的に後方へ跳んだ。
轟音。
さっきまで立っていた地面が粉々に吹き飛ぶ。
「レイジングハート!」
《Standby ready》
桃色の魔力光。
砲撃魔法が放たれる。
だがヴィータは正面から受けない。
凄まじい速度で横へ跳び、瓦礫を蹴り、さらに加速する。
「速い……!」
ジュエルシード事件の時とは明らかに違う。
純粋な戦闘能力。
経験。
圧力。
ヴィータは一直線になのはへ迫る。
その背後では、黒い獣――ザフィーラが退路を塞ぐように動いていた。
逃げ場がない。
「くっ……!」
なのはは防御魔法を展開する。
直後。
グラーフアイゼンが叩き込まれた。
轟音。
桃色の防御壁が大きく軋む。
「硬ぇな!」
ヴィータが笑う。
なのはは押される。
じりじりと。
圧倒的な近接戦闘能力。
このままでは押し切られる――
その瞬間だった。
空間が揺れた。
紫電。
雷光。
転移魔法。
ヴィータが舌打ちする。
「チッ……!」
光の中から、一つの影が現れる。
黒衣の少女。
金色の髪。
赤い瞳。
「なのは!」
その声に、なのはの表情が明るくなる。
「フェイトちゃん!?」
フェイト・テスタロッサ。
彼女は静かにバルディッシュを構えた。
《Blitz Action》
雷光が走る。
空気が震える。
ヴィータは二人を睨み、小さく笑った。
「へぇ……面白くなってきたじゃねぇか」
夜の海鳴。
そこで初めて――
なのは、フェイト、そして謎の騎士たち。
三つの力が激突する。
新たな事件は、静かに幕を開けた。