夜の病院上空。
黒い暴風のようだった管理人格の魔力が、突然揺らいだ。
「……止まった?」
フェイトが空中で体勢を立て直す。
雷の炎がまだ全身を覆っているが、その中に困惑が混じる。
クロノが即座に魔力解析を走らせる。
「内部制御系が……再構築されている」
なのはが息を呑む。
「じゃあ……成功したの?」
その瞬間。
空間が“割れた”。
黒い魔力の中心に、一本の光の裂け目が走る。
オレンジ色。
大空の炎。
そして――
「……っ!」
そこから、はやてとさくらが同時に現れた。
空中へ、ふわりと。
重力を無視したように、静かに落ちてくる。
「はやて!」
シグナムの声が響く。
次の瞬間、守護騎士たちの姿が再構成されるように戻ってくる。
赤・緑・銀・蒼。
四つの光が、はやての周囲へ集まった。
「主!!」
ヴィータが泣きそうな声で叫ぶ。
はやては、ゆっくりと目を開ける。
「……みんな」
その声は、もう機械的なものではなかった。
ただの、少女の声だった。
だが。
完全に終わったわけではない。
空間の奥で、まだ黒い魔力が蠢いている。
クロノが鋭く言う。
「まだだ。完全に分離しきっていない」
さくらも空を見上げたまま呟く。
「リンフォースは残ってる」
その言葉に、空気が引き締まる。
空間の裂け目の奥。
赤い瞳が、こちらを見ていた。
だが先ほどまでの暴力的な圧はない。
ただ“見ている”。
管理人格――リンフォース。
なのはが一歩前へ出る。
「まだ……戦うの?」
その問いに。
リンフォースは、ほんの僅かに揺れた。
そして。
低く、か細い声。
『……収集……終了』
沈黙。
クロノが息を呑む。
「終わり……?」
さくらは小さく息を吐いた。
「暴走モードはね」
「でも存在そのものは残る」
フェイトが問いかける。
「それって……危険じゃないの?」
さくらは首を振る。
「もう“敵”じゃない」
「ただの記録装置よ」
その言葉と同時に。
空間の裂け目が、ゆっくりと閉じていく。
赤い瞳が最後に、はやてを見た。
そこにあったのは――
敵意ではなく。
静かな、観測。
そして。
ほんの僅かな“安堵”だった。
裂け目が消える。
夜空が戻る。
沈黙。
数秒後。
なのはが力を抜くように息を吐いた。
「……終わったんだよね」
フェイトもゆっくり頷く。
クロノは警戒を解かずに空を見ていたが、やがて魔力を解除した。
そして。
はやてが、膝をつく。
「……っ」
シグナムがすぐ支える。
「主!」
はやては弱々しく笑う。
「ごめんな……心配かけてもうて」
ヴィータが涙を拭う。
「バカ……ほんとバカ主……」
シャマルも静かに泣いていた。
ザフィーラはただ、そっと頭を下げる。
その光景を見ながら。
さくらは小さく笑った。
「終わったわね」
なのはが振り向く。
「さくらお姉ちゃん……ありがとう」
フェイトも静かに頭を下げる。
「助けてくれて、ありがとう」
さくらは少しだけ視線を逸らす。
「別に」
短く言ってから。
一拍置いて。
「まだ、片付けは残ってるけどね」
空には、完全に静寂が戻っていた。
だが。
誰も気づいていない。
遠く。
消えたはずの“記録”の奥で。
リインフォースは、まだ静かに世界を見ていた。