「くっ……!」
なのはは空中を高速で飛び回っていた。
背後から迫る無数の鉄球。
その全てが、紫色の炎を纏っている。
雲の炎。
増殖の特性。
撃ち落としても増える。
避けても増える。
空そのものが鉄球で埋め尽くされていく。
「ディバイン――!」
砲撃でまとめて吹き飛ばす。
だが。
爆炎の中から、さらに数を増やした鉄球が飛び出した。
「うそぉっ!?」
轟音。
なのはは防御魔法ごと吹き飛ばされる。
ビル壁面へ激突。
コンクリートが砕け散った。
「なのは!」
フェイトが叫ぶ。
だが、そこへシグナムが割り込む。
紅い炎を纏うレヴァンティン。
「余所見をするな」
斬撃。
フェイトは咄嗟に受け止める。
だが重い。
嵐の炎を纏った斬撃は、一撃一撃が暴風のような衝撃を伴っていた。
ガギィン!!
火花が散る。
フェイトは押し返される。
「っ……!」
その瞬間。
フェイトの視線が、シグナムの右手へ向く。
羽の装飾が施されたリング。
中央で赤い宝石が揺れている。
嵐のマーレリング。
フェイトの表情が変わる。
「そのリング……!」
シグナムは答えない。
フェイトはさらに声を上げた。
「どうしてあなたたちが持ってるの!?」
一瞬。
シグナムの目が細くなる。
だが返答はない。
代わりに、レヴァンティンへ嵐の炎を流し込む。
暴風。
赤い炎。
剣圧が一気に跳ね上がる。
「くっ……!」
フェイトが後退する。
---
一方。
なのはは瓦礫の中から立ち上がった。
バリアジャケットは傷だらけ。
呼吸も荒い。
それでもレイジングハートを握り直す。
「まだ……!」
右手の中指。
赤い宝石の中で、小さな炎が揺れていた。
だが。
ヴィータの猛攻は止まらない。
「終わりだ!!」
鉄球が放たれる。
増殖。
増殖。
増殖。
空が完全に埋め尽くされる。
逃げ場がない。
なのはは歯を食いしばった。
「お願い……!」
リングへ魔力を流し込む。
さらに。
無理矢理、嵐の炎を引き出した。
赤い炎が噴き上がる。
だが、その出力は明らかに異常だった。
「なのは! 無理だ!」
フェイトが叫ぶ。
しかし、なのはは止まらない。
「負けたく……ないっ!!」
レイジングハートへ、嵐の炎を強引に流し込む。
桃色の魔力と赤い炎が混ざり合う。
暴風。
魔力奔流。
周囲の空気が激しく荒れ狂う。
ヴィータが目を見開いた。
「なっ!?」
なのはは叫ぶ。
「ディィィバイン――バスター!!」
超高出力砲撃。
桃色と赤色が混ざった奔流が、正面の鉄球群を飲み込む。
爆発。
轟音。
増殖していた鉄球群が一気に吹き飛んだ。
だが、その直後。
――ピシッ。
小さな音。
なのはの指輪に亀裂が走る。
「……え?」
赤い宝石へ、次々とヒビが広がっていく。
無理な炎放出。
Cランクのリングでは耐えきれなかった。
そして。
パリンッ――。
嵐のリングが砕け散った。
「っ……!」
なのはの目が揺れる。
赤い炎が霧散していく。
ヴィータがニヤリと笑った。
「壊れたか」
なのはは息を呑む。
大事に使っていたリング。
お姉ちゃんから貰った力。
それが、砕けた。
その瞬間だった。
――カンッ。
乾いた音。
空中で、鉄球の動きが止まる。
「……え?」
ヴィータが目を見開く。
鉄球が。
止まっている。
いや――
霧に包まれていた。
白い霧。
戦場へ、ゆっくりと広がっていく。
「これは……」
フェイトが目を見開く。
知っている。
この霧を。
ヴィータが舌打ちする。
「チッ……!」
霧の中。
ゆっくりと、一人の少女が歩いてくる。
茶色の髪。
なのはによく似た顔立ち。
だが、その瞳には静かな冷たさが宿っている。
右手の中指には、羽を模した装飾を持つ霧のマーレリング。
中央の藍色の宝石が淡く輝いている。
さくらだった。
「派手にやってるね」
その声は静かだった。
だが戦場の空気が、一瞬で変わる。
シグナムの目が細くなる。
「貴様……」
さくらは止まった鉄球へ視線を向ける。
霧がそれらを包み込んでいく。
次の瞬間。
パキンッ。
全ての鉄球が内部から砕け散った。
ヴィータが驚く。
「なっ……!?」
さくらは淡々と言う。
「雲の増殖」
「面白い使い方」
その時。
なのはが立ち上がり、叫んだ。
「お姉ちゃん!」
なのはの視線は、ヴィータとシグナムのリングへ向いていた。
どちらも、羽の装飾を持つ特別なリング。
間違いない。
マーレリング。
「なんで……そのリングを持ってるの!?」
フェイトも睨む。
「マーレリングは、そんな簡単に手に入るものじゃない!」
空気が張り詰める。
シグナムは静かにレヴァンティンを構えた。
ヴィータも警戒を強める。
だが。
答えたのは、さくらだった。
「……私が渡したから」
一瞬。
全員の動きが止まる。
なのはの目が大きく開く。
「えっ……」
フェイトも息を呑む。
「さくら……?」
ヴィータがニヤリと笑う。
「そういうことだ」
だがシグナムは、さくらを静かに見据えていた。
警戒。
いや――確認。
敵なのか。
味方なのか。
その答えを測るように。