魔法少女リリカルなのは ~~   作:ぬっく~

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第6話 新しい隣人

ある日の朝。

 

高町家の前が、妙に騒がしかった。

 

「引っ越し業者?」

 

なのはは窓から外を覗き込み、小首を傾げる。

 

家の隣。

 

ずっと空き家だった家へ、大量の荷物が運び込まれていた。

 

その時だった。

 

「なのはー!」

 

聞き慣れた声。

 

なのはが慌てて窓を開ける。

 

そこには――。

 

「フェイトちゃん!?」

 

私服姿のフェイトが立っていた。

 

その後ろでは、リンディが苦笑している。

 

「今日からお隣さんになります」

 

なのはは数秒固まり――。

 

「ええええええっ!?」

 

---

 

リビング。

 

高町家は朝から大騒ぎだった。

 

「いやー、びっくりしたわぁ」

 

桃子が笑いながら紅茶を出す。

 

士郎も穏やかに笑っていた。

 

「よろしくお願いします、リンディさん」

 

「こちらこそ」

 

リンディも笑顔で返す。

 

そして。

 

フェイトは少しだけ照れたように視線を逸らした。

 

「……あの事件のあと、正式に養子縁組してもらったんだ」

 

なのはの目が輝く。

 

「本当に!?」

 

フェイトは小さく頷く。

 

「うん」

 

「それで、学校もなのはと同じところへ通うことになったの」

 

「やったぁ!」

 

なのはが思わず抱きつく。

 

フェイトは少し驚き――。

 

そして、柔らかく笑った。

 

「わっ……」

 

「えへへ、これから毎日一緒だね!」

 

アリサとすずかが聞いたら絶対驚く。

 

なのはは朝から上機嫌だった。

 

だが。

 

その光景を少し離れた場所から見ていたさくらは、静かだった。

 

表情も変わらない。

 

ただ、紅茶を飲んでいる。

 

フェイトはそんなさくらへ視線を向ける。

 

霧のマーレリング。

 

あの者たちへ渡されたリング。

 

敵側へ立った姉。

 

聞きたいことは山ほどあった。

 

---

 

放課後。

 

なのは、フェイト、クロノ、リンディ。

 

そしてさくらは、隣家――ハラオウン家のリビングへ集まっていた。

 

空気は重い。

 

特にクロノは、最初から鋭い視線をさくらへ向けていた。

 

「単刀直入に聞く」

 

「なぜ、あの者たちへリングを渡した」

 

クロノの問い。

 

だが、さくらはソファへ座ったまま平然としている。

 

「必要だったから」

 

「理由になっていない」

 

即座に返される。

 

フェイトも静かに口を開いた。

 

「あの炎……」

 

「かなり使いこなしてた」

 

「普通、初めて使うリングじゃあんな風にはならない」

 

さくらは少しだけ目を細める。

 

「才能があったんじゃない?」

 

「誤魔化すな」

 

クロノの声が低くなる。

 

なのはも、真っ直ぐさくらを見る。

 

「お姉ちゃん」

 

「本当に、あの人たちの味方なの?」

 

静寂。

 

その問いに、さくらは少しだけ考えるように目を閉じた。

 

やがて。

 

「……違う」

 

静かな返答。

 

だが続く言葉は、さらに全員を困惑させた。

 

「でも、敵でもない」

 

「はぁ?」

 

クロノが眉をひそめる。

 

なのはも困ったような顔になる。

 

「どういう意味なの……?」

 

さくらは紅茶を一口飲み――。

 

そして、静かに言った。

 

「今のあなたたちは、まだ知らなくていい」

 

その言葉に。

 

クロノが立ち上がる。

 

「ふざけるな!」

 

魔力が僅かに漏れる。

 

だが。

 

その瞬間。

 

部屋の空気が変わった。

 

霧。

 

白い霧が、音もなく室内へ広がっていく。

 

クロノが即座にデバイスへ手を伸ばす。

 

「っ!?」

 

しかし。

 

気付けば、首元へ指が添えられていた。

 

さくらだった。

 

誰も、その動きを見えていない。

 

クロノの額へ汗が流れる。

 

さくらは静かに言う。

 

「……私は、別にあなたたちと敵対したい訳じゃない」

 

「でも、今の段階で無理矢理踏み込むなら――止める」

 

静かな声。

 

なのに、重かった。

 

リンディがゆっくり口を開く。

 

「さくらさん」

 

「あなたは、あの人たちが何をしているか知っているのですね?」

 

さくらは少しだけ視線を向ける。

 

そして。

 

「知ってる」

 

「でも、それを話す気はない」

 

即答だった。

 

クロノが悔しそうに歯を噛む。

 

だが、今の一瞬で理解した。

 

この場でさくらを無理に抑えるのは危険だと。

 

やがて、さくらは霧を消しながら立ち上がる。

 

そして、なのはの前へ歩いてくる。

 

「なのは」

 

「え?」

 

さくらは、赤い宝石を持つリングを取り出した。

 

以前の物より、強力な力を感じる嵐のリング。

 

「壊れたから、新しいの」

 

なのはの目が大きく開く。

 

「お姉ちゃん……」

 

さくらは静かに言う。

 

「前より少し上のランク」

 

「今度は壊さないように使って」

 

なのははリングを両手で受け取る。

 

そして、小さく笑った。

 

「……うん!」

 

その後。

 

さくらは今度はフェイトへ視線を向けた。

 

「フェイト」

 

「え?」

 

さくらは懐から、黒い匣を取り出す。

 

装飾のない、漆黒の匣。

 

フェイトは、その匣から漂う強力な力に目を細めた。

 

「これは……?」

 

「アップグレート匣」

 

さくらは静かに続ける。

 

「雷キツネに接続することで、“黒狐”へ変化する」

 

フェイトの目がわずかに見開かれる。

 

「黒狐……」

 

「雷キツネの強化形態」

 

「速度、出力、耐久、全部が跳ね上がる」

 

短い説明。

 

だが、その内容は凄まじかった。

 

フェイトは静かに黒い匣を見る。

 

それはつまり――。

 

今まで以上の力。

 

さくらはさらに続けた。

 

「ただし、消耗も激しい」

 

「使いどころは考えて」

 

フェイトは小さく頷いた。

 

「……うん」

 

その表情には、確かな決意が宿っていた。

 

だが、その直後。

 

さくらの目が、ほんの一瞬だけ鋭くなる。

 

窓の外。

 

遠くを見つめる。

 

まるで、何かを感じ取ったように。

 

「……もう動き始めたんだ」

 

小さな呟き。

 

だが、その意味を聞く前に――。

 

さくらは静かに部屋を出て行ってしまった。

 

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