森には、戦いの痕跡だけが残っていた。
折れた枝、えぐれた地面、歪んだ空気。
なのはは膝をつき、荒い呼吸を繰り返している。
「はぁ……っ、はぁ……」
レイジングハートを握る手が震えていた。
『Warning』
ユーノが叫ぶ。
「なのは、もう無理だ!」
「でも……まだ……!」
その視線の先。
金色の少女――フェイトは、ただ静かに立っていた。
乱れはない。
呼吸も揺らがない。
「……終わり」
短い声。
次の瞬間、雷光が収束する。
ドンッ!!
「きゃあっ!」
なのはのバリアが砕ける。
衝撃が体を貫き、空中へと弾き飛ばされた。
「なのは!」
ユーノの叫びが森に響く。
フェイトは追撃しない。
ただ、空中へ吹き飛んだなのはを見上げている。
◇
その少し離れた場所。
森の外縁。
高町さくらは、その戦いを“ずっと見ていた”。
最初から。
ずっと。
「……やっぱり、ここまで来たか」
小さく呟く。
さくらは踏み込まない。
踏み込めない。
なのはの物語に、自分が入るべきではないと理解している。
それは“守る側”としての距離だった。
「まだ……大丈夫」
自分に言い聞かせるように。
だが――
その瞬間だった。
空気が変わる。
なのはの身体が、森の空へと落ちていく。
バリアは崩壊。
制御は効かない。
「っ……!」
さくらの足が、一歩だけ動いた。
理性が止める。
“入るな”
そう言っている。
これはなのはの戦いだ、と。
だが――
なのはの小さな身体が、木々の間へと落ちていくのが見えた瞬間。
迷いは切れた。
「……っ」
さくらは走った。
森へ飛び込む。
一瞬で距離を詰める。
空中。
落下するなのは。
その軌道を読む。
「間に合え……!」
腕を伸ばす。
風を切る音。
そして――
「っ、なのは!」
衝撃。
落ちてきたなのはの身体を、さくらがしっかりと抱き止めた。
地面すれすれで支える形。
二人はそのまま、木々の間に着地する。
「……っ、はぁ……」
さくらが息を吐く。
腕の中のなのはは意識が朦朧としている。
「さ……くら……ちゃん……?」
「喋らない」
短く言う。
なのはの身体を確認し、深刻な損傷がないことを確かめる。
少しだけ、表情が緩む。
「……無茶しすぎ」
その言葉は、怒りではなかった。
完全な安堵でもない。
それでも、確かに“守れた”という実感がそこにあった。
森の奥では、金色の魔力がまだ残っている。
フェイトは動かない。
ただ一瞬だけ、さくらの方へ視線を向けていた。
しかし干渉はしない。
静かに、空へと消えていく。
戦いは終わった。
だが、物語はまだ始まったばかりだった。
さくらは腕の中のなのはを見下ろす。
「……もう、戻れないかもしれないね」
それは誰にも届かない独り言だった。