完敗だった。
あの日の戦い。
フェイトの速さ。
強さ。
そして、最後まで届かなかった言葉。
なのはは、ずっとそのことを考えていた。
「なのはー?」
「……へ?」
教室。
アリサの声で、なのはは我に返った。
「聞いてんの?」
「あ、ご、ごめん……」
またぼんやりしていた。
最近ずっとそうだ。
アリサが眉をひそめる。
「アンタ最近ずっと変よ」
「……」
「何かあるなら言いなさいよ」
「えっと……」
言えない。
魔法のことも。
ジュエルシードのことも。
フェイトのことも。
なのはが言葉を濁した瞬間。
アリサが机を叩いた。
「またそれ!?」
教室が静まり返る。
「ご、ごめん……」
「謝ってほしいわけじゃない!」
アリサは立ち上がる。
「なのはのバカ!」
そのまま教室を出て行ってしまった。
「アリサちゃん!」
すずかが慌てて追い掛ける。
残されたなのはは、小さく俯いた。
廊下。
すずかがアリサへ追いつく。
「アリサちゃん、あんまり怒っちゃ……」
「怒るわよ!」
アリサは振り返る。
「だって、絶対困ってるじゃない!」
「……うん」
「なのに、何も言ってくれない!」
悔しそうだった。
「どんな小さいことでもいいから、力になりたいのよ」
声が少し震える。
「何も出来なくても、一緒に悩むくらいしたいじゃない……」
すずかは、そんなアリサを見て微笑んだ。
「私も同じだよ」
「すずか……」
二人は、ふと昔を思い出す。
まだ三人が出会う前。
アリサは、わがままで自信家だった。
そして。
少し意地悪だった。
すずかは気弱で、大切なヘアバンドを取られても何も言えなかった。
そんな二人の間へ。
小さな女の子が割って入った。
高町なのは。
あの時。
なのはは、アリサの頬を叩いた。
『痛い?』
真っ直ぐな瞳。
『でも、大切なものを取られちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ』
それが。
三人の始まりだった。
「……懐かしいね」
すずかが小さく笑う。
アリサは、ふいっと顔を逸らした。
「……だから余計腹立つのよ」
「え?」
「親友が困ってるのに、何も出来ない自分に」
すずかは、優しく目を細める。
「なのはちゃん、きっと戻ってくるよ」
「……待つわよ」
アリサは小さく呟いた。
「いつものなのはに戻るまで」
放課後。
「じゃ、バイオリンあるから」
「うん」
並んで帰っていく二人。
なのはは、その背中を見送る。
アリサは最後まで目を合わせてくれなかった。
すずかは、精一杯笑ってくれていた。
でも。
その優しさが、逆に胸へ刺さる。
「……さみしいな」
小さな呟き。
夕暮れの風が吹き抜けた。
自宅。
「たいやきだよ、ユーノくん」
『ありがとうございます』
二人で半分こ。
少しだけ、気持ちが落ち着く。
だが。
『探索、行きますか?』
「……うん」
なのはは立ち上がった。
一方。
フェイト達の部屋。
アルフはドッグフードを美味しそうに食べ終えると、フェイトの様子を見に行った。
「フェイトー?」
部屋の中。
フェイトはベッドへ横になっていた。
用意された食事には、ほとんど手を付けていない。
「また食べてないのかい」
「……大丈夫」
フェイトは小さく笑う。
「私、強いから」
その笑顔が、無理をしていることくらい、アルフには分かっていた。
「母さんを待たせたくないの」
フェイトは静かに立ち上がる。
「行こう、アルフ」
金色の光が、夜へ溶けていった。
町中。
なのはとユーノは探索を続けていた。
『こちらは反応なしです』
「そっか……」
一度別れ、なのはは家へ戻る。
ふと。
携帯電話を見る。
「……あ」
いつもなら。
この時間には、アリサとすずかからメールが来ている。
でも。
今日は何もない。
胸が、少しだけ締め付けられる。
「……」
なのはは走り出した。
その瞬間。
周囲へ巨大な魔力流が発生する。
『ジュエルシード!?』
フェイトとアルフ。
二人が、強制発動を仕掛けたのだった。
結界展開。
ユーノが即座に周囲を隔離する。
なのはは戦闘態勢を取る。
そして。
遠くのビル屋上。
さくらが静かに見下ろしていた。
「……また始まった」
暴走するジュエルシード。
だが。
その瞬間。
桜色と金色、二つの魔法陣が同時に展開された。
「封印!」
「Sealing.」
同時発動。
暴走は一瞬で停止する。
静まり返る空間。
なのはは、ふと空を見上げた。
アリサ達とのことを思い出す。
最初は、わかりあえなかった。
でも。
ちゃんと話したから、今がある。
今日、アリサを怒らせたのも。
結局、自分が伝えなかったからだ。
その時。
フェイトとアルフが現れる。
なのはは、フェイトを見る。
そして。
「わたし、高町なのは」
静かに自己紹介した。
フェイトは答えない。
ただ。
光鎌を静かに振る。
なのはは、その瞳を見る。
綺麗なのに。
どこまでも暗い。
「……どうして、そんな淋しい目をしてるの?」
フェイトの眉が、僅かに動いた。
一方。
バイオリン教室帰りの車内。
すずかが携帯を開く。
「メール、送ってもいいかな」
アリサが少しだけ視線を逸らす。
心が揺れている。
けれど。
「……勝手にしなさい」
ぶっきらぼうな返事。
すずかは微笑み、メールを打つ。
『アリサちゃん、そんなに怒ってないよ』
『心配しなくて大丈夫』
『私たちは、いつでもなのはちゃんの味方だからね』
送信。
その頃。
市街地のビル群では、激しい空中戦が始まっていた。
「ディバインシューター!」
桜色の魔力弾。
フェイトが高速機動で回避する。
「フラッシュムーブ!」
なのはも高速移動で追従。
互角。
以前より、確実に戦えている。
至近距離。
二人の視線が交差する。
「フェイトちゃん!」
「……」
「言葉だけじゃ変わらないって言ってたけど!」
魔力光が交差する。
「話さないと、伝わらないこともあるよ!」
なのはは叫ぶ。
「わたしは、誰かが傷付くの嫌だからジュエルシード集めてる!」
フェイトの瞳が揺れた。
一瞬。
何かを言いかける。
だが。
「フェイト!」
アルフが叫ぶ。
「最優先はジュエルシードだ!」
「……っ」
フェイトは唇を噛む。
そのままジュエルシードへ飛ぶ。
「待って!」
なのはも追う。
そして。
二人の杖が、同時にジュエルシードへ触れた。
瞬間。
バキッ――!!
「え……?」
レイジングハート。
そしてバルディッシュ。
両方へ亀裂が走る。
『Damage.』
『System error.』
まばゆい閃光。
轟音。
爆発的な魔力が、結界内を飲み込んでいく。
「なのはっ!!」
遠くで。
さくらが、初めて焦った声を上げた。