森は魔力の衝突で崩れかけていた。
倒れたなのはの視界の先に、さくらが立っている。
「……お姉ちゃん……」
かすかな声。
さくらは一瞬だけ振り返る。
その目は優しいが、今は戦場のものだった。
「ここで待ってて」
短く告げる。
そしてフェイトへ向き直る。
「ジュエルシードは渡さない」
フェイトは即答する。
「回収するだけ」
雷光が森を裂く。
ドンッ!!
さくらは横に跳び、回避する。
着地と同時に、右手のリングに藍色の“炎”が灯る。
それは魔力ではない。
想像を現実の“認識”に変える霧の炎。
さくらは匣を取り出し、静かに開ける。
カッ……
中から現れるのは一体の梟。
霧フクロウ。
それは実体ではない。
だが、そこに「存在している」としか認識できない異常な感覚を生む。
ユーノは目を見開く。
「……なに、これ……?」
知らない。
魔法体系にも存在しない。
ただ“見える”。
その違和感だけがある。
霧フクロウが羽ばたく。
キィィィン……
空間がわずかに揺れる。
そしてさくらの前に、もう一つの“存在”が現れる。
レイジングハート。
それは本物ではない。
霧の炎によって作られた「なのはの武器の模倣」。
だが、見た目も動作も完全に一致している。
ユーノは息を呑む。
「レイジングハート……!?なんでここに……!」
なのはは眠ったままだ。
つまりこれは“本物ではない”。
だが、存在として認識されている以上、戦闘に影響する。
フェイトの目が鋭くなる。
「模倣……?」
さくらはそれを握る。
「これでいい」
次の瞬間、フェイトが動く。
雷撃。
ドンッ!!
さくらはレイジングハート“のように見える杖”を振る。
衝撃がぶつかる。
魔法と魔法の真正面衝突。
森が震える。
ユーノは混乱する。
「何が起きてるんだ……!?本物のレイジングハートじゃないのに……!」
そう。
これは“魔力の模倣”ではない。
「戦闘の認識そのものを一致させている現象」だった。
フェイトは踏み込む。
雷光の連撃。
ドンッ! ドンッ!
さくらは回避しながら距離を詰める。
完全な前衛戦闘。
霧フクロウが羽ばたくたびに、フェイトの認識がわずかにズレる。
攻撃のタイミングがほんの一瞬遅れる。
その差をさくらは突く。
ドンッ!!
拳が交差する。
魔力と身体の衝突。
フェイトの足がわずかに滑る。
「……っ」
フェイトは即座に距離を取る。
さくらは追わない。
レイジングハートを構えたまま静かに言う。
「あなたの目的は分かってる」
「でも、なのはのものは渡さない」
ユーノは理解できないまま立ち尽くしている。
「なんなんだ……あの杖も、あの鳥も……」
だが一つだけ確かなことがある。
そこには“確かに戦闘が成立している”。
そしてその中心で、なのはがかすかに目を開けていた。
「……お姉ちゃん……」
霧と雷が交わる戦場で、戦いは続く。