魔法少女リリカルなのは ~~   作:ぬっく~

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第九話 踏み込む勇気

森での戦闘を終えたあと、さくらとなのはは無言のまま帰宅していた。

 

夜道を歩く間も、二人ともほとんど喋らない。

 

なのはは何度も横を歩く姉を見た。

 

あの戦いが頭から離れない。

 

自分と同じ桃色の魔法陣。

 

雷の少女。

 

そして――さくら。

 

家に着いても、その空気は変わらなかった。

 

「ただいま……」

 

「おかえり」

 

いつも通りの言葉。

 

でも、いつも通りではない。

 

リビングで向かい合っても、妙な気まずさだけが残っている。

 

なのはは落ち着かない様子で視線を泳がせた。

 

さくらは普段と変わらない顔をしている。

 

それが逆に、なのはには落ち着かなかった。

 

結局、なのはは逃げるように自室へ戻る。

 

そして数分後。

 

コンコン。

 

部屋のドアがノックされた。

 

「……入っていい?」

 

さくらの声。

 

なのはは少し慌てながら返事をする。

 

「う、うん!」

 

ドアが開く。

 

さくらが静かに入ってくる。

 

その瞬間、ベッドの上にいたユーノが固まった。

 

「……え?」

 

フェレット姿のまま硬直する。

 

さくらは小さく息を吐いた。

 

「隠れなくていいよ」

 

「最初から知ってるから」

 

なのはとユーノの声が重なる。

 

「えっ!?」

 

「えぇっ!?」

 

さくらは椅子へ座りながら淡々と言った。

 

「なのはが夜に抜け出してた事も、魔法少女やってる事も知ってる」

 

なのはの顔が真っ赤になる。

 

「し、知ってたの!?」

 

「ばればれ」

 

即答だった。

 

ユーノも恐る恐る口を開く。

 

「じゃ、じゃあ僕の事も……」

 

「喋れるフェレット」

 

「うっ」

 

逃げ道がない。

 

なのはは頭を抱えた。

 

「うぅ……恥ずかしい……」

 

さくらは少しだけ困ったように笑う。

 

「隠すの下手すぎ」

 

その言葉に、少しだけ空気が柔らかくなる。

 

だが、なのははすぐに真剣な顔へ戻った。

 

「……お姉ちゃん」

 

「なに?」

 

なのははさくらを真っ直ぐ見る。

 

「今日の戦い……何だったの?」

 

静寂。

 

なのはは続ける。

 

「わたしと同じ魔法陣使ってたよね」

 

「あれ、どうして……?」

 

ユーノも息を呑む。

 

あの桃色の魔法陣は、確かになのはの魔法と酷似していた。

 

さくらは少しだけ視線を伏せる。

 

「見よう見まね」

 

短い返答。

 

なのははさらに聞く。

 

「お姉ちゃんも……魔導師なの?」

 

その問いに、さくらははっきり首を横に振った。

 

「違う」

 

即答だった。

 

なのはとユーノが同時に目を瞬かせる。

 

「え?」

 

「でも……」

 

ユーノが困惑したように言う。

 

「あれだけの魔法を使って……魔導師じゃないんですか?」

 

さくらは答えず、右手をゆっくり持ち上げた。

 

指にはめられたリング。

 

そこへ、藍色の炎が静かに灯る。

 

ユーノが目を見開く。

 

「その炎……!」

 

炎は揺らめきながら空中へ広がる。

 

そして。

 

さくらの掌の上に、紅い宝石が現れた。

 

待機状態のレイジングハート。

 

なのはが息を呑む。

 

「レイジングハート……!?」

 

だが違う。

 

なのはの持つ本物とは微妙に質感が違う。

 

けれど、見た目は完全に同じだった。

 

ユーノも驚愕する。

 

「デバイスの複製……!?そんな事が……」

 

さくらは静かに紅い宝石を見つめる。

 

「これは本物じゃない」

 

その言葉と同時に、宝石は藍色の霧となって崩れ、消えていった。

 

「私の力は、こういうもの」

 

なのはは言葉を失う。

 

ユーノも理解できないまま固まっていた。

 

魔法ではない。

 

だが、確かに存在していた。

 

なのはは小さく呟く。

 

「……すごい……」

 

さくらは小さく肩をすくめた。

 

「便利なだけ」

 

だが、なのはは知っている。

 

あれは“便利”で済む力ではない。

 

森で見た戦いが、その危険さを証明していた。

 

少しだけ沈黙が落ちる。

 

そのあと、なのははもう一度顔を上げた。

 

「お願いがあるの」

 

「なに?」

 

なのはは真っ直ぐ言った。

 

「ジュエルシード回収、手伝ってほしい」

 

ユーノも驚いてなのはを見る。

 

「なのは……」

 

なのはは続ける。

 

「わたし、一人じゃ難しい」

 

「でも、お姉ちゃんがいてくれたら……」

 

「駄目」

 

即答だった。

 

なのはが止まる。

 

さくらは静かに首を振る。

 

「それは、なのはのやる事だから」

 

「でも……!」

 

「私は入るつもりなかった」

 

その言葉は本音だった。

 

さくらは、本当は見守るだけのつもりだった。

 

なのはは唇を噛む。

 

それでも引かない。

 

「お願い」

 

さくらは黙る。

 

「もっと頑張るから」

 

「ちゃんと戦うから」

 

「だから……お願い」

 

何度も。

 

何度も。

 

なのはは頭を下げた。

 

ユーノも静かに言う。

 

「……僕からもお願いします」

 

「なのは一人だと危険なんです」

 

沈黙。

 

さくらは長く息を吐いた。

 

そして――

 

「……条件付き」

 

なのはが顔を上げる。

 

「え?」

 

「ジュエルシードを回収するのは、なのは」

 

「私は補助だけ」

 

「危なくなった時しか動かない」

 

なのはの表情がぱっと明るくなる。

 

「じゃあ……!」

 

「手伝ってくれるの!?」

 

さくらは少しだけ呆れたように言った。

 

「何回もお願いされたら断りづらい」

 

なのはは嬉しそうに笑う。

 

「ありがとう! お姉ちゃん!」

 

勢いよく抱きつく。

 

「うわっ」

 

少しだけよろけるさくら。

 

ユーノはその様子を見ながら、小さく安堵の息を吐いた。

 

こうして。

 

高町なのはのジュエルシード回収は、新しい形で動き始める。

 

姉妹と、一匹。

 

三人の物語は、少しずつ変わり始めていた。

 

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