あの冬ーー東京体育館にて観客席を埋め尽くす人混みと歓声中…
熱気・怒号・歓喜…全てが渦巻くウィンターカップ決勝戦のコート中央で――誠凛高校は立っていた。
相手は高校最強・洛山高校… “キセキの世代”主将、赤司征十郎率いる絶対王者にして高校三年間タイトル総ナメの負けなしというまさしく"最強"の看板に相応しい王者である
誰もが洛山優勢を予想していた。
だがーー
「うおおおおおおッ!!!」
"キセキならざるキセキ"エース・火神大我が咆哮する。
極限まで高まった集中力の中
赤黒く輝くような闘志を纏い、火神は空中へ跳んだ。
そして
ーーバギャァァァァァァァァァァン!!!
火神の手から放たれた最後のダンクにてリングが激しく震える。
ーービィィィィィィィィ!!
そして数コンマ遅れてブザーが鳴り響き試合終了…その瞬間、東京体育館が揺れ割れんばかりの歓声に包まれた
『試合終了ォォォ!!』
『ウィンターカップ優勝はァァ!!』
『誠凛高校ォォォォ!!!』
爆発する歓声が鳴り響き
観客席から悲鳴のような声援が飛ぶ。
この日、日本バスケ界は新たな伝説を刻むこととなった。頂きに立ったのはキセキの世代と呼ばれる10年の1人の天才達5人が所属する名門校ではなく…キセキの世代と同じ才能を持ちながら"キセキならざるキセキ"と呼ばれた男とそれを影で支え続けた"幻のシックスマン"による正しく奇跡の出会いによって新たな歴史が塗り替えられたのだった…
そして時はウィンターカップ優勝から数ヶ月――の春ーー。
新入生の喧騒が響く誠凛高校の体育館には、かつてほどの熱は無かった。
全国制覇…その偉業を成し遂げた中心選手、“火神大我”はアメリカへ渡ったのだから無理もない。
火神という圧倒的な“光”を失った今、誠凛は新たな形を模索していた。
「っしゃあ!もう一本!」
日向の声が体育館に響く。
だが以前ほどの迫力はない。
日向はシュートを放ちながら、小さく舌打ちした。
「……決め手が足りねぇな」
それを見た伊月も苦笑する。
「まあ火神が抜けた穴は簡単には埋まらないだろ」
その時だった。
体育館の扉が、ガラリと開く。
「もう〜また、無茶な練習?良い加減"そのシュート"は諦めたらどうなの日向くん?」
現れたのは誠凛高校・監督…相田リコである。
「しゃあねぇだろ〜火神が抜けた今ウチに足りないのは圧倒的なポイントゲッター…本業じゃねぇが現状今1番点取れんのは俺なんだからよ」
「…」
リコとて日向の言っている意味は痛いほど理解している。…しかし理解はしていても物事には向き不向きというものが存在する。日向は県内…いや全国でも有数のシューターへと成長したがそれはあくまで"シューター"としてである。
ポイントゲッター…所謂中も外もこなすエースとしてはいかんせんフィジカルと身体能力で大きく劣ってしまうのである。
しかしそれを面と向かって指摘する理由が見当たらないのだ…リコの考えも日向の言葉もどちらもどちらの良い分も互いに理解はしているのだから
リコは日向達のプレーを見ながら感じる
(この新チームがこれからどうなっていくのかまだまだ全然分からない…昨年とは違い…鉄平どこから火神君までいない今ウチは優勝候補どころか決勝トーナメント出場すら危ういーーでも、この真剣に取り組む姿を見ていると…また私は期待してしまう…ここから何が起きていくのか…)
とその時ーー
「あのぉ〜」
リコの背後からこちらに話しかける声が聞こえた
「ん??…っ!?」
振り向いたリコは大きく驚く
「男子バスケ部の関係者の人…っすか?入学してきたんで入部したいんすけど」
リコの後ろには――見慣れない長身の青年が立っていた。
黒に近い濃紺の髪に蒼い瞳、どこか日本人離れした整った顔立ち… そして何より――完成されすぎた体格
(…なん…なのこの数値…キセキの世代や火神君クラス…いやもしかすると…)
リコはスポーツトレーナーの父・景虎の下に育ち、幼い頃からスポーツ選手のデータと肉体を繰り返し見てきた経験から、身体を目で見るだけで対象者の身体能力や肉体の疲労度合いを数値化して分析することが出来る。
そのため目の前の青年の異常さにいち早く気づくことができたのであった
「…あのぉ〜」
「え!あ、ごめんごめん!なんだっけ!?」
「いやだから入部ーー」
「「どうしたんだ??」」
思わぬ展開に挙動不審になってしまうリコ…そんなリコに気づいてかチームメイトの日向と伊月も駆け寄る
「誰だお前…ってデカっ!?」
「火神並だなおい…」
2人もリコと同じく日本人離れした青年の体格に驚く
「…あの…」
「あ、あぁ!ごめんごめん!入部の件ね!勿論貴方ほどの逸材なら大歓迎よ!」
「入部ってことは一年かよ!?」「この体格で!?」
「今年は全国から有望な一年入ったけどコイツもそうなのか?」
「いえ彼はーー」
「失礼します!!」
「「「失礼します!!!」」」
とその時、入り口から複数人の学生達が体育館に入室してくる
「ん?」
「あ?」
戦闘で入ってきたロン毛気味の青年と目が合う男
(なんだこいつ…ここいらじゃあ見かけねぇタッパだな)
(ふ〜ん…中々やるじゃん)
互いに実力者同士、雰囲気で力量を察する2人
「その子も新入生よ保科くん」
「え!?コイツもっすか!?てかお前一年かよ!?」
保科と呼ばれたロン毛の男は目の前の男を指差し驚く
「ええ…というかそろそろ自己紹介してくれないかしら?」
「俺はずっとその気なんすけどね。…まぁいいやっ。俺の名前は"哀川奏多"…今日から誠凛だ。」
目の前の男…哀川奏多と名乗った青年
「哀川っつったか?今日からってのはどういう意味だ?」
疑問に思った日向が尋ねる。
「そのままの意味っすよ。"入国の手続きとか諸々のせい"でちょっと遅れちゃったっすけど今日からやっと…」
「入国っておまえ…海外出身か!?どこだ!?」
哀川の言葉にやけに反応する保科
「勿論…バスケの本場"アメリカ"だ」
「USAかよぉぉぉぉ!!本場育ちかよ!激アツじゃねぇかお前!!」
「アメリカ育ちってどっかで聞いた言葉だな」
「「ふっ…だな(だね)」」
感情が昂る保科を尻目に3年生たちは、昨年同じ様にアメリカ育ちの新入生がいたことを思い出し懐かしむ様に微笑んだ
◆
「はい!注目!!」
バスケ部…2.3年と新入生達は練習前、体育館中央付近にあるホワイトボードへと集合が掛けられた。
「皆も知っての通り、今日から新たな仲間が増えたわ。哀川君挨拶お願い」
リコに呼ばれた哀川が一歩前に進む
「えぇ…と俺の名前は哀川奏多…です…こう言うのあんま得意じゃねぇんだけどな。…」
「軽くでいいわよ」
「あっそ…じゃあ手短に…俺が日本に来た目的は二つ…一つは"キセキの世代"…だっけ?そいつらの噂が本物かどうかを確かめるため」
「キセキの世代??」「てか噂ってなんだ?」「アイツもしかしてキセキの世代を倒すとか抜かすんじゃあ…」
哀川の言葉に動揺する面々
「もう一つは…幼馴染との決着をつける為…まぁこっちが俺の中では本命かな」
「幼馴染?」「女か!女なのか!?」「小金井君うるさい」
「なんとも興味を抱かせる自己紹介ありがとう」
リコが意味深げに微笑みながら口にする
「幼馴染??ってのは知らないけど、貴方が最初に口にした"キセキの世代"…彼等と戦いに来たと言うなら生半可な実力と覚悟じゃあ話にならないわよ?」
実際に昨年、数々の激闘を繰り広げた誠凛の面々はその恐ろしさを見に沁みて知っているからかリコの言葉に頷く
しかし当の本人はーー
「ふっ…別に日本だからとか、俺がアメリカのバスケを知ってるからとかそう言うので判断してるわけじゃねぇよ…ただ…"こんな所"でつまづいている暇はねぇんだ…俺が"あの人"に追いつくためにはな」
「…あの人?」
リコは哀川の言葉に首を傾げるも、哀川はそれ以上は何も語らず自己紹介はこれにて終了となった。そして哀川の実力を知る機会を作るためとあってかこれから新入生同士で紅白戦をやれという指示がリコから飛び交う
昨年のバスケ部の成績もあってか今年は全国各地から有望な選手達が多数誠凛に入部してくれたのだった
「哀川…だっけ?俺は佐藤悠人。お前と同じ一年でポイントガードだ」
哀川と同じチームになった身長が1番小さな男が声をかけてくる。そしてそれに釣られる様に他の面々も集まり出す
青のビブスを来た俺たち…4番をつけているのが先ほど話しかけてきた佐藤悠人で6番の目が細いのが山本、5番で俺並みにデカいのが清水、2番をつけているのが高橋…最後に7番をつけているのが俺という布陣である。
ポジション的には5番の清水がセンターをやるそうなので俺はフォワードをやらせてもらうこととなった
「へへ!やっぱお前の相手は俺しかいねぇか哀川…」
「…やけに嬉しそうだな」
「あたぼうよ…隠したって無駄だぜ…俺にはビンビン匂ってきてるぜ…'化け物"の匂いがよぉ…」
「…」
保科がそう話した瞬間、試合がスタートし、ジャンプボールの末ボールを掴んだのは青チーム…運ぶのはポイントガードである佐藤である。
「まずは一本!!」
佐藤がドリブルで運びながら周囲を見渡す。
流石は全中でも腕を鳴らした有望株。一年とは思えないほど落ち着いたゲームメイクである。
そのまま右へ展開し、高橋へパスが通る。
「清水ッ!!」
高橋からインサイドへ。
長身の清水がポストで受け、そのまま強引に押し込もうとする――が。
ーーバシィッ!!
「うおっ!?」
横から飛んできた赤ビブスの一年がボールを叩き落とした。
ルーズボールの行方はーー
「やべっ!!」
誰もが反応する中――
「貰ったぜ!!」
「「「保科!!」」」
真っ先に飛びついた保科がボールを奪いゴール下は走り込む
「おっしゃあぁぁ!!まず一本!!」
保科が咆哮と共にゴールへ突っ込む。
その勢いは凄まじかった。
ルーズボールへ誰よりも早く反応し、そのまま一気に独走へ持ち込む判断力。身体能力だけではなく、流れを嗅ぎ取る感覚も優れている。
誠凛の上級生達も思わず目を見張った。
一年にしては間違いなくハイレベル。
普通なら、このまま得点になっていた。
保科はリングへ向かって大きく踏み切る。
右手を伸ばし、勢いそのままにレイアップを沈めようとした――その瞬間だった。
背後から、黒い影が迫る。
「――っ!?」
保科が気配を感じ取った時には、もう遅い。
ゴールボードへ向かって放たれようとしていたボールを、横から伸びた手が叩き潰した。
凄まじい破裂音と共にボールはバックボードへ激突し、そのまま大きく弾かれる。
体育館の空気が止まったかのように静まり返る
誰もが目を見開く中そこにいたのは――哀川奏多その人だった。
リングの高さまで跳び上がったまま、哀川は静かに保科を見下ろしている。
(追いついた……!?)
いや、違う。まるで“待っていた”ようにすら見えた。
保科が着地すると同時に、弾かれたボールへ哀川が走り出す。
「止めろッ!!」
赤ビブスの一年が前へ出る。
哀川はスピードを落とさない。正面から突っ込む。
ぶつかる――誰もがそう思った瞬間。
哀川の肩がわずかに沈んだ。
たったそれだけでディフェンスの重心が流れる。次の瞬間には、高速でボールをついた哀川の姿がその横を抜けていた。
「え……?」
抜かれた側ですら、何をされたのか理解できていない。
さらに二人目三人目と今度は挟み込むようにダブルチームが来る。
だが哀川は視線一つ変えない。哀川のドリブルのテンポが変わる。低く、鋭く、高速で床を這うようなボール運びそしてーーー
一瞬のリズムのズレ。それだけで二人の足が止まり、気づけば哀川は間を割って抜けていた。
「「「"ジョルトドリブル"!?」」」
そして観ていた上級生達の表情が変わる。
相手の重心、呼吸、間合い…そしてバスケの本場…アメリカ仕込みの派手なバスケスタイル…哀川のバスケは全てを魅了するアメリカンスタイルであった
そして――最後。
ゴール下…待ち構えていた長身のセンターが、両腕を広げて立ち塞がる。
「ここは通させねぇぇ!!」
怒号と共に跳び上がる。だが哀川は、一切視線を逸らさない。
踏み切ったのは、"フリースローラインの少し内側"哀川の身体が宙へ舞う。
高く。ただ高いだけじゃない。空中でまるで時間が止まったように滞空しているかのようだったそしてセンターの手が伸びる。それでも届かない。哀川はさらに身体を引き上げるように腕を振りかぶり――
ーードォォォンッッッ!!!!
リングの真上から、叩き潰すようにダンクを沈めた。凄まじい衝撃音が体育館へ響き渡る。リングが軋み遅れて歓声が爆発した。
「うおおおおおっ!!」
「なんだ今の……!!」
「火神かよ、アイツ……!!」
最も衝撃を受けていたのは、真正面で潰されたセンターだった。
空中で理解してしまったのだ。勝てない。身体能力じゃない。技術だけでもない。
“格”が違う。
着地した哀川は、騒然とする周囲など気にも留めず、転がってきたボールを拾い上げる。そして遅れてやってきた保科へ向かって、小さく笑った。
「さぁ次はお前の番だ」
面白かったら続きます