シエルの父親・ヴィンセントに成り代わった物語   作:アルトリア・ブラック(Main)

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第10話

貴族なんて良いことはない

 

 

『ファントムハイヴ』を継いでから20数年が経ったが、やることが多すぎて過労死しちゃいそうだった。

 

未来の貴族系の漫画には【ご令嬢】やら【貴族家の優雅な日々】なんて漫画があるが、現実は仕事がわんさか

 

パーティーやら他の貴族との舞踏会…

 

積み重なる領地運営の仕事に、裏社会の仕事

 

死体を見る日が連続して続く時とあれば、何もなく字面ばっかり見る日々

 

「うーん…肩が凝ったな…」

 

「ホホホ、ではまた明日にしましょう」

 

明日になっても俺の肩は凝りまくる

けどね!

 

「シーエール!!」

リジーの声が響き渡ってくる

 

「わ、リジー〜何するんだよー」

 

(…子供の元気さが羨ましいな…)

 

あの頃に戻りたいわ〜

 

"坊ちゃん"だった頃はそれなりに過ごしてた。

 

あの時期がなんだかんだ幸せだったなぁ

 

大好きな母親がいて、可愛い妹もいて

 

俺は執務室から出ると廊下を歩いて台所に向かう

 

「すまない。コーヒーとお菓子持ってきてくれないかな?」

 

「はい、かしこまりました。旦那様」

 

「…はぁ」

そうため息をついて自室の椅子に座る。

 

仕事のないときは貴重だ。

 

貴族特徴の『この家は数百年続く名家だ』なんて聞かなくて済むし、使用人もいてくれるから家事なんてやる必要も…

 

(…ダメだ、働かないとニートになってしまうという社畜脳が…)

 

普通の青年だった時の社畜脳が蘇る

 

「旦那様、お持ちしました」

 

そう言って入ってきたのはメイドの一人だった。

 

「ありがとう、そこに置いておいて」

 

「はい、ごゆっくり」

 

居なくなった数秒後…

 

「お父様ー!」

シエルと坊ちゃんが元気に入ってくる。

 

シエルと坊ちゃんは手を繋いで入ってきたからなんか微笑ましい。

 

「なんだい?」

飲んで居たコーヒーを置くと二人を見る

 

「フランシス叔母様とリジーが来て一緒に川遊びしないかって言われたんだけど、行っていいー?」

 

「良いけど、アレクシス達の言う通りにしてね」

 

「はーい!」

元気に去っていく二人。

 

微笑ましいなと思っていると…

 

「失礼します。お兄様」

フランシスが部屋に入ってくる

 

 

(#ヴィンセントがタナカに『坊ちゃん』と呼ばれた理由の話、考察)

 

 

フランシスが入ってくると、軽くファントムハイヴ家の話やミッドフォード家の話になった。

 

シエルに継がせるが、スペアである坊ちゃんでは心もとないということも

 

のらりくらりとかわして話をしていると…

 

「…外に出た私がこうも口やかましく言っているのは、お兄様とあの人の件があったからです」

 

「……」

俺は飲んでいたコーヒーを止める

 

「形式的に考えればお兄様がファントムハイヴ伯爵家を継ぐのは至極真っ当なこと。ですが、二人の子供に恵まれた当主の結末が決して良いものではないというのを私は見てきました」

 

ヴィンセントの幼い頃は決して楽とは言えなかった。

 

ファントムハイヴ家の当主はクローディア・ファントムハイヴだった。

 

彼女は一人娘としてファントムハイヴ伯爵家に生まれた。イギリス貴族は男系の子供に爵位を継がせるのが通例だったが、娘しかいなかったファントムハイヴ家は異例中の異例でクローディアが当主になった。

 

だが、爵位を継いでも男を婿入りさせなければならない。

 

その時にクローディアの正式な夫として迎い入れられたのは、侯爵家の三男だった。

 

彼には前妻の息子がいた。

 

その息子が女王の命令で後継候補になった。

 

しかし、クローディアは子供を身ごもった、それが【ヴィンセント・ファントムハイヴ】だった。

 

婿入りした男性は不自然だと思いつつもヴィンセントを自分の子供として認めた。

 

「双子だからね、あの子達はどっちもファントムハイヴだ。レイチェルの子供であることには代わりない」

 

「しかし…」

フランシスは何か言って来ようとする。

 

「大丈夫、あんなことにはならないから」

窓の方に歩いて行く

 

 

ヴィンセントの幼い頃の記憶は正直うる覚えだ。

 

ただ覚えているのは、ヴィンセントには血の繋がらない兄がいるということだった。

 

その兄は常に余裕がなかった。

 

それもそうだろう。

 

父親と共に伯爵家に行ったは良いものの、自分が当主だのもてはやされていたと思ったら…

 

「坊ちゃん!今日は帝王学のお勉強があります。早くご用意を」

 

自分より年下の弟。

 

継母が生んだ正式な後継者

 

兄は弟が疎ましかった。

 

だけど、最早諦めていた

 

自分はしょせん、外部の人間だった。

 

伯爵家を継げるなんて夢見を見ていただけだと、諦めて医師の道に進むことにした。

 

しかし、兄は一度『ファントムハイヴ』の家に入ってしまった。

 

継母の仕事なんてよく分からなかった。

 

弟と共にいるときにマフィアの人間に拉致されてしまった。

 

その時に、継母の決断は実に冷たくて、分かりきった答えだった。

 

「クローディアの子じゃない君なんて要らないよ」

 

マフィアを殺した銀髪の男は兄に向かって鎌を振り下ろした。

 

 

 

「ヴィンズ、大丈夫かい?」

 

「…アンダーテーカー?」

 

薄暗い部屋の中にいても、葬儀屋だけは分かった。

 

「さぁ帰るよ、クローディアが待ってる」

 

「…お兄さまは?」

 

アンダーテーカーは感情なく『彼は死んでしまったんだよ、クローディアの子供である君をイケニエにしようとして』と言った。

 

「…そうなんだ」

 

「抱っこしてあげる。ここからならダッシュで帰ろう」

 

六歳になったばかりのヴィンセントを抱きかかえる

 

ヴィンセントは抱き上げられた時に見えた兄の死体。

 

兄は何かに斬られたように倒れていた。

 

「…お兄…」

最後まで言い終わる前に葬儀屋の髪の毛で見えなくなる。

 

「屋敷まで帰るまでおやすみ、ヴィンズ、小生の宝物」

 

 

 

(#青の教団編でフランシスが実態を知っていたらという捏造)

 

 

「じゃあ行ってきます!」

リジーが元気に言ってくる。

 

「遅くならない内に帰るのですよ」

 

「はい!」

リジーはシエルの許嫁だ。

 

後々にはミッドフォード家から出て行かなければならない。

 

「リジーは本当に献身的な娘になったな」

 

リジーはシエルの母であり、自分の伯母であるレイチェルのことを気遣い、気分転換のために兄からの紹介のツテで【ミュージックホール】に誘っていた。

 

「そうですね」

夫であるアレクシスが満足そうに言ってくる。

 

「フランシス?どうしたんだ?具合でも悪いのか?」

 

夫から聞かれたことにフランシスは手が止まるが…

 

「大丈夫ですわ」

フランシスがそう言うと

 

「…そうか?なら良いのだが」

 

 

 

 

フランシスは部屋に戻ると、軽装に着替えてはしたないとは思いつつも一階の窓から外に出る。

 

しばらく歩くと【スフィア・ミュージックホール】の裏門にたどり着く

 

コンコンと叩くと…

 

「こんな夜分に御足労感謝致します」

 

出てきたのはブラバットだった。

 

「……」

フランシスは無言で中に入ると…

 

「こちらです」

ブラバットに案内されて奥に入る

 

廊下を歩いていると【お星様方】の部屋の前に通される

 

「シリウス様、失礼致します」

 

ノックして入るブラバット

 

室内には誰も居なかった。

 

ベット上には一人人はいた。

 

だが、あまりにも不規則な呼吸音にフランシスは眉をひそめる。

 

 

ブラバットは室内に入るとシリウスの様子を確認する。

 

「……様子は?」

その問いかけにブラバットは暗い表情をする。

 

「昨日までは顔色も良かったのですが、今日は顔色が悪く、呼吸音も荒いようです。輸血はしているのですが、なにぶん【シリウス】の血液は希少でして…」

 

「…そうか」

フランシスはシリウスの…兄のベットの傍らにあった椅子に座る。

 

「…シエルがスフィア・ミュージックホールについて調査し始めた」

 

ブラバットに言うとブラバットも話を聞き始める。

 

ファントムハイヴは自分からしてみれば実家だ。

 

本当ならば、シエルの事を優先しなければならない。

 

女王の意思に逆らっているらこの組織は消さなければならない。

 

だが…

 

ヴィンセントの方を見ると、確かに血の気が失せた顔をしていた。

 

人が一定以上の血を失ったらこうなると

 

「…報告は済みました。お兄様のことは宜しく頼みます」

 

フランシスはそう言うとブラバットは『命を掛けてもシリウス様の事は御守りします』と言っていた。

 

フランシスは来た時のように裏口から出て本邸に向かう。

 

 

 

 

その次にフランシスが聞いたのは『スフィア・ミュージックホールの壊滅』と『ヴィンセント・ファントムハイヴの生還』『シエル・ファントムハイヴの逮捕』だった。

 

「お兄様、シエルを逮捕させどうなさるおつもりなのですか」

 

厳しい眼差しでヴィンセントを見る

 

事の全ての犯人はヴィンセントだ

 

計画してやってはいないといえど、ヴィンセントを支持する人間が起こした事には代わりない。

 

「逮捕されたとしても女王陛下はシエルを殺さないよ」

 

「何故そう確信出来るのですか」

 

かつて、女王はシエルに濡れ衣を着せて殺そうとしたことがある。

 

そんな者の意向などいつ変わるか分からない。

 

それに、当主であるヴィンセントが戻ってきたとなればなおのこと危ない。

 

「俺がやって来た事はそう簡単におしまいに出来ることじゃないからね」

 

「……」

フランシスは見てきた

 

スフィアがやっていた輸血実験の数々

 

「俺はファントムハイヴだ、シエルもそれは同じ、簡単に逮捕されてるようじゃ当主にはまだまだ遠い」

 

 

その二人の会話をポラリスは黙って聞いていた。

 

ヴィンセントの横に立ち見極めていた。

 

自分はファントムハイヴに仕えている執事だ。

 

『貴方の命、捨てるのならば私にくださらないかしら?』

 

かつて主はそう言った。

 

捨てる命だったこの命を有効活用してくれた。

 

『この子達はファントムハイヴの子供よ、もう一人の子供は私の子供じゃない"侯爵"の連れ子よ、この二人だけを守ると誓ってくれるかしら?』

 

『失礼ながらお嬢様に対してもですか?』

 

『外に嫁ぐ子には代わりないけど、外に嫁いで外側の観点からファントムハイヴを守ってくれる子になるわ、この子はヴィンセントの次に守る子にするのよ』

 

『Yes.my.road』

自分の命は何があってもファントムハイヴの物だ。

 

クローディア・ファントムハイヴが亡くなった時からヴィンセントのことを護ろうと誓った。

 

しかし…

 

あの事件の時、自分は何の役にも立たずに死んでしまった。

 

役に立ちたい

 

ファントムハイヴの、ヴィンセントの為にこの命を使いたかった。

 

「ヴィンズは生きてる。彼の為に命を張れるかい?」

 

銀髪の男…いや、ヴィンセント様の父親からの言葉をチャンスとして受け取った。

 

「はい、命に掛けてお守りします」

 

自分の命よりも大事な命

 

盾となって死ぬのなら本望だった。

 

 

 

 

「ヴィンセント様、紅茶をお持ちしました」

 

ポラリスはノックして部屋に入る

 

「ありがとう、そこに置いておいてね」

 

「はい」

葬儀屋の分も側に置いておくと

 

「あ、今後の事を話したいから君もここにいてくれる?」

 

「かしこまりました」

その他にやってきたのはヴィンセントの頃の部下達だった。

 

「バルト達はシエル・ファントムハイヴの元に行ったようです」

 

「そう」

ヴィンセントは珈琲を飲む

 

「追いますか?」

 

「追わなくて良いよ、ここまでは計画通りだから」

 

「はい」

 

「問題はそれ以上だ。君達には大変な仕事が来るけど、構わないかな?」

 

「覚悟しております」

ヴィンセントは微笑むと

 

「無理は禁物だよ、命と身体があってこその人生だからね」

 

「「「Yes,my,road」」」」

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