シエルの父親・ヴィンセントに成り代わった物語 作:アルトリア・ブラック(Main)
ヴィンセント・ファントムハイヴとして成り代わってから数日後…
(つっかれた…)
貴族社会は本当に疲れる。
自分はどこどこの名家の出身だとか、生産地がどうのこうのとか…
(…気が張る女王の番犬以外にも表向きの仕事もかなり大変だし…)
中身がいくら疲れていようとヴィンセントの表情は全然疲れていない。
何度、サイコパスかと思ったか
ヴィンセントはファントムハイヴ邸に戻ってくると馬車から降りて自室に戻るために歩き始める。
「シエル待って〜」
リジーの声が響いてくる。
庭を元気に走り回るリジーと真シエルがいた。
「……」
真シエルの裏怖いんだよね…
原作知ってるからなおのこと
ヴィンセントの血筋どうなってんの?
(…自室戻ったら寝ようかな…)
とか思ったが、仕事がたんまりあるのをタナカは知ってるから逃してくれないだろうなぁ…
自室に戻った後、山積みになった書類を頑張って整理したり、書き直したりしていた。
「タナカ〜残り明日でもいいー…?」
「ほほほ旦那様、今日中までの書類これだけありますよ」
と言ってドンっと書類を机に乗せる
「……」
未来の会社ですらこんな光景見ないぞ…
座った状態で頭の上まである書類に投げやり気分になる。
「旦那様、甘いものでも食べて精を出してくだされ」
タナカが気を利かせて甘いものを持って来てくれるが、甘い物は減っても目の前の書類は減らない
「……」
もう淡々とやるしかない
淡々と!!
右手が疲れたら左手に持ち直してやったりしてたら細かい作業はタナカが手伝ってくれた。
こういう仕事の時だけは葬儀屋は本当に来ないんだよね…
(終わった…)
気づいたら周囲が暗くなって夜になっていた。
「旦那様、お疲れ様です。今日の予定は終了致しました」
タナカがにこやかに言ってくれる。
何気に最後まで付き合ってくれた。
「タナカも夜遅くまですまないね、今日は休んで」
と言うとタナカは微笑み
「かしこまりました。旦那様が就寝なさった時にお休みします」
部屋から出て暗い屋敷を歩きながら肩を揉んでいた。
すると…
「…!」
森の方に葬儀屋がいた。
手には卒塔婆みたいな物を持ってるから剣客でも追い払ってくれているのかな?と思っていた。
そのまま息子達の部屋の前に行くとゆっくりとドアを開ける。
「「あ!!」」
息子の声がシンクロする。
「こら、シエルとーー夜までチェスやってないで寝なさい」
「「はーい!」」
(…前世は高校生だったから子供がいるって斬新だな…)
20代で二人の子の親とかなんか複雑な気分。
未来だったら就職やらなんやらで大変な時期に子供いるって…
風呂に入り、寝巻きに着替えた後寝室に向かうと…
「あなた、お疲れ様」
レイチェルが先に布団に入って待っていた。
超美人にベットで待たれたらさ…
「起きててくれてたのかい?先に寝てても良かったのに」
「ファントムハイヴ家の当主様を置いて先には寝れませんわ」
微笑んでくるレイチェルに胸突き抜かれたよ
「レイチェルー」
子供みたいに優しく抱きつくと
「ふふ、当主様は甘えん坊ですこと」
マジで幸せ、この生活
「避けてばかりだと勝てないぞ!シエル!!」
「くっ!」
シエルがフランシスの剣を必死に避けていた。
(…コワッ…我が妹ながら怖い)
「わっ」
シエルがドンっと尻餅をつく
「シエル、大丈夫?」
健気なリジーがタオルを持って走って行く
「ファントムハイヴ家次期当主がこれくらい避けられなくてどうするのですか」
「フランシス〜まだシエルは6歳だよ、考えすぎだよ」
「お兄様こそ昔からお気楽すぎですっ!!」
剣をビッ!と向けてくる。
「そんな気を張ってもファントムハイヴ家当主が務まるどころか折れちゃうよ、それに、伯爵は事務仕事の方が多いから」
昨日も事務仕事が多すぎて疲れ果てたし
フランシスと共に外に出ると
「お兄様、少し話したいことがあるのですがよろしいですか?」
兄弟に対しても敬語を使ってくるフランシス。
伝統第一だからねえ…
「ここじゃダメかい?」
廊下で話すのもなんだから別室に移動しようとしたらフランシスが首を振る
「子供達が来ない所での話です」
そんなこと言ったらあそこしかないじゃないか…
10分後、二人が来たのは地下のワインの倉庫だった。
貴族二人がこんなところに来てまで話す内容なんて…
「外に嫁いだ私がとやかく言うのは筋違いだと思いますが、ファントムハイヴ家次期当主のシエルにもしものことがあって、[[rb:次男 > スペア]]に行くとしたらあの子には【女王の番犬】は重荷すぎます」
(…真シエルのバージョンが知らないんだよね、むしろ坊ちゃんの方が安泰だと思うんだけど…)
ヴィンセントはとりあえずフランシスを宥めるために
「伯爵位は長男に継承されるのが最もだけど、次男のあの子でも十分大丈夫だと思うよ」
「そうやって…」
「俺の時だって、大丈夫だっただろう?」
ヴィンセントは15歳の時に母を亡くした。
フランシスは13歳の時だ
あの時、フランシスは女性でありながら剣術の学校に行っていたので無事だった。
だが、ヴィンセントは…
「…ヴィンズ、大丈夫、小生が必ず守るから」
ヴィンセントは目の前で母親を殺された。
その時にすでに見ていた。
母を殺したのは女王の密偵だったということを
それから数日後、ヴィンセントは爵位を15歳ながらに継いだ。
「…あの時は、状況が状況だったのです。男はお兄様しかおられなかったから無事に継承できたのであって…」
フランシスは心配そうにするが
「大丈夫だよ、例え俺がいなくなってもあの子がなんとかしてくれるよ、それに…」
ヴィンセントは微笑むと
「ファントムハイヴ家の爵位はそのまま女王に返してしまっても構わないしね」
ヴィンセントに成り代わってから数ヶ月が経った頃、ヴィンセントの感情や心境が大体わかるようになって行った。
こういうと気持ち悪いかもしれないが、だんだんヴィンセントそのものになって行くようだった。
前世の高校生の記憶は覚えていると言ったら覚えているのだが、女王の番犬の仕事と普通の伯爵としての表の仕事がかなり忙しくて過去に浸す余裕が無くなっていた。
「こんのっー!シエル〜」
「アン叔母さん〜」
庭で遊ぶシエルとリジー、レイチェルとマダムレッドがいた。
「……」
それを羨ましそうに眺めていた坊ちゃん
《ワンッ!ワンッ!!》
犬のセバスチャンがヴィンセントを見て普通に吠えてくる
「外に出ておいでセバスチャン」
頭を撫でると尻尾を振って外に出て行った。
「ーー」
坊ちゃんの名前を呼ぶと振り向いてくる。
「…お父様」
気づいた坊ちゃんの横に立つと
「身体の調子はどうだい?」
「…大丈夫」
真シエルが近くにいるときだけ本気で具合が悪くなるんだよね…坊ちゃん
「手を出してごらん」
坊ちゃんにそう言って手を出させると…
「…アメ…?」
オレンジ色の飴玉。
「ドイツのディーデリヒから貰って来た喘息に効く薬だよ、舐めれば多少楽になるけど舐めすぎると虫歯になるから気をつけるんだよ」
「うん」
嬉しそうにする坊ちゃん
息子ながら可愛いなぁホント
坊ちゃんを見ていると
「旦那様!仕事です」
タナカが走って来たのを見るとそっちを振り向く
「分かったよ、タナカ」
去って行く後ろ姿を坊ちゃんが見ていたが、あんまり構ってやれなかった。
「女王陛下からのご依頼です」
そう言ってタナカが持ってきた手紙を読む。
『ロンドンで起こる子供達の失踪事件。一度に多くの子供がいなくなり、生死不明でとても心苦しいのです。ファントムハイヴ伯爵に解決して頂きたいのです』
「……連続失踪事件か」
子供の失踪はロンドンではよくあると言ったら野蛮だろうが、主に外に売り飛ばされる可能性がある。
(…さて、女王からの早速の面倒な仕事だな…)
子供の遺体が上がって来ていない事件。
結果的に『行方不明』となってるだけで死体も上がっていない。
ヴィンセントはとりあえず葬儀屋の所に向かうことにした。
「行ってらっしゃいませ旦那様」
「留守を頼んだよ」
「かしこまりました」
馬車に乗った後、葬儀屋に向かうと
「やぁ、ヴィンズ、そろそろ来ると思ったよ」
馬車が来たのが分かりドアを開けてくれる。
「子供の遺体が上がって来たりしてるかい?」
室内に入った後に質問すると首を振る
「子供の遺体なんてここ最近上がってないよ〜最近の子は元気だしね〜」
「…そうか、じゃあ振り出しからだ」
「残るは…あそこしかないかな」
裏社会のコネクションを築き情報を作ってあったヴィンセントは簡単に相手を見つけた。
後々にシエルによって消される人物とも交流した。
表社会に問題がなければアヘンを販売してようと拳銃密輸でもしてようと見逃す。
表社会に問題があったら即刻消すが
「アンダーテーカー。場所掴めたよ」
「小生の出番かい?」
馬車の扉をあけて乗り込むと葬儀屋も乗り込んでくれる。
すっごい頼もしい相手だよ
(魂取られないし)
子供の人狩りをしてたのはよりにもよって貴族だった。
シャーロックホームズの時代にもいるが、特にこの時代は人狩りがかなり多かった。
「森の中に根城を築いている可能性がある。女王からの御達しは子供の救出のみ、子供狩りをする貴族は遠慮なく消していい」
黒い服を着たファントムハイヴ家の使用人達に指示すると頷き走って行く。
「じゃあ、俺たちも行こうか」
「今回の相手も悪趣味だねーヴィンズ」
ヴィンセントは要塞にも見える砦の中に入ると子供の悲鳴が聞こえてくる
「こ来ないで!!!」
泣きそうになりながらもナイフを持っている男に怒鳴る。
「その泣き顔、とても良いです。今日の晩餐は貴女方にしましょう…」
気持ち悪い声が響き、ヴィンセントは近くにあった鋭い木の棒を持つと…
「なっ!?」
気持ち悪い声から一変、かなり驚いた声が響く
「…[[rb:弱者 > 子供]]をいたぶって楽しむ大人は世の中にはいらないよ」
心臓めがけて木の棒を突き刺す。
浅い傷なので即死は出来ないように
「!」
子供はヴィンセントを見て多少安心した表情を見せる。
「もう大丈夫だよ」
とだけ言って子供の頭を撫でると外に向かうために悪趣味な貴族に背を向けると
「お、お前は…ヴィンセント・ファントムハイヴ…」
血を吐きながら命乞いを始めようとしたので
「身から出た錆だ、呪うなら自分を呪うんだよ、大丈夫」
外に出た瞬間に砦が炎に包まれる。
「俺は優しいからね、自分が一番好きなやり方で死ぬといい」
葬儀屋が大鎌を持って振りかざしていた。
「焼き加減はレアにしておく?ヴィンズ」
葬儀屋の茶化しに
「完全焼失を頼むよ」
ヴィンセントスマイルで言うと葬儀屋が砦を見て、鎌を上げる
「ヴィンセント様、他の子供達も保護しました」
使用人達が寄って来て言ってくる。その両脇には子供達がいた。
「ヤードに保護して貰ったら家に帰って女王へ報告しようか」
「yes,my,load」
後始末の用意をし始める使用人達を見ていると…
「あの…助けてくれて、ありがとうございます…」
女の子がお礼を言って来る。
「助かって良かったよ、怖い思いさせちゃったね」
貴族の遊び(自分も貴族だけど)は本当に度を越してるんだよな…
身分制度ってホントいらない
「あの…お名前は…」
「俺の名前?ヴィンセント・ファントムハイヴ。ファントムハイヴ家当主だよ」
ファントムハイヴ家襲撃事件から数日後…
ヴィンセントは【スフィア・ミュージックホール】で過ごしていた。
ただ《ヴィンセント・ファントムハイヴ》だけで教祖と名乗るわけにも行かず、やれることを考えようと思っていた。
(だけど体動かないんだよな…)
死にかけの体は思うように動かず、自分一人では何も出来ない哀れな人間だった。
「…どうしたら良いかな…」
以前に重い体を動かしてベットから落下してお医者さんにすっごい怒られたっけ?
ブラバットはいろいろ動いていて大変だろうし…
その夜…
「シリウス様、ブラバットです」
18時過ぎにブラバットが部屋の前にやってきていた。
「わざわざありがとうね、ブラバット」
礼を言うとブラバットが歩み寄って来る。
上半身を起こしてもらうと
「今後のことですか?」
ブラバットに今後のこと(未来に出てくる医療機器など)について話していたら、途中からブラバットがメモを取り出した。
「参考になりました。流石はシリウス様です」
恥ずかしいな…普通に提案したのに
「ドイツの医療には気をつけておくんだ、発展がイギリスより早いしね」
「はい、かしこまりました」
頭を下げて去って行くブラバット
(…治るまで報告しか受けれないか…)
今後のために稽古もできるならしたいものだけれど
全快したら今後起こり得ることに備えなければ
(…数は力…か)
漫画の方でシエルに対して言ったヴィクトリア女王のセリフ。
(宗教はそういうのが作りやすいんだよね…)
そして、伯爵時代にヴィンセントと交流のあった人物達に働きかければ答えてくれるかもしれない。
(…とりあえず早く治さないとね…)