シエルの父親・ヴィンセントに成り代わった物語 作:アルトリア・ブラック(Main)
降りしきる雨の音が聞こえてくる。
馬車は真っ直ぐにロンドンに帰り、そこからファントムハイヴ家本邸に向かっていた。
(26巻の時と違って、アグニは殺さないでおこう)
ショッキングなことはなるべく避けたかった。
(アレ、結構衝撃来たよな…)
見てる分ですら、あのシーンはトラウマものだった。
あのシーン見た後、軽く夢でも見たくらいだ。
ファントムハイヴ家にやってきたヴィンセント
馬車の門が開いた時に傘を差される。
「…どう説明しようかな」
シエルは多分、別邸の方にいるだろう
出てくるのがタナカなら良いが、多分タナカではない。
「……タナカ殿をお呼びしてきます」
フードを被ったポラリスが玄関の方に向かう
ブラバットが変わりに傘をさしてくれる。
しばらくすると、玄関のドアが開く
「…!旦那様?!」
タナカが見たこともないくらい驚愕の表情で見て来る。
「久しぶりだね、タナカ」
服装はいつも通りの灰色っぽい黒色の服装だ
「ーーはいるかい?」
息子の本当の名前を言うと首を振る。
「…別邸におられます。仕事が終わり次第本邸に帰って来るかと」
タナカがドアを開けて中に入れてくれる。
「外は冷えますのでお部屋に」
「ありがとう、タナカ」
タナカが後ろを見たので
「ブラバットとポラリスはどうする?別室に移動しておく?」
ブラバットはともかく、ポラリスはフードまでかぶっている。
「そうさせてもらいます」
「……」
笑顔で頷くブラバットと無言で頷くポラリス。
「…タナカ爺、その人誰だ?」
原作アニメにもいるバルド達使用人達が出てくる。
「この方は…「ヴィンセント・ファントムハイヴ。シエルの父親だ」」
タナカが言う前に自己紹介。
すると使用人達が互いの顔を見あって驚いていた。
シエルとセバスチャンはロンドンに戻ったが、結局はブラバットやお星様方と言われた人間の追跡には上手くいかなかった。
別邸に帰ると…
「し、シエル様!」
そう言ってアグニが出て来る。
「どうした?」
「大変です!!シエル様のお部屋が…」
「何?」
シエルとセバスチャンは案内されると…
「!!」
壁を見て驚愕する。
[chapter:Who took the candy that was on your finger?]
「指にあったキャンディ取ったのは誰?」
セバスチャンが読んで言う
「少し街の方に出かけたらこのようになっており、侵入者かと思い探ったのですが誰もおらず…」
「……分かった、文字は消しておいてくれ、セバスチャン。本邸に帰るぞ」
「はい」
二人は馬車に乗り直すと…
「…セバスチャン、お前、僕に嘘付いてないよな?」
怯えた表情で言うと
「…"残念ながら"私は嘘をつきません」
「!!」
その頃、本邸では
「坊ちゃんもそろそろ帰って来ますぜ!さっき連絡入りましたから!」
「ありがとう」
ヴィンセントは部屋に通された後、バルドからの報告に笑顔で返す。
唯一暗い表情をしているのは…
「…旦那様、生きておられたのに何故、連絡を入れなかったのですか?」
タナカからの質問にヴィンセントは悪いな〜と言った表情を見せ
「実は完全復活したのは1ヶ月前くらいなんだ、それまでは動けなくてね」
「…左様ですか…旦那様」
タナカが五年前の事件について聞いて来る。
「…シエルの決断は思った以上に上手くいかなかったみたいだね、俺も死にかけたし、シエルも死んでしまった。シエルは正解を選べなかったみたいだね」
「これからどうなされるのですか?坊ちゃんが帰ってきた時、いかがなされますか?」
その質問に…
「…五年前の事件の話をするしかないね、あの子が双子だということもね」
シエルは本邸に戻って来るとバルド達が不自然に嬉しそうにしてるのを見ながらも、上の階に上がろうとすると…
「雨に打たれるとまた咳がぶり返すよ?」
ヴィンセントが階段を降りてやってきた
「!?」
父親が来たことにかなり驚くシエルと
「あなたは…」
ヴィンセントを見て知ってるかのような表情をするセバスチャン。
「おかえり、お仕事お疲れ様」
「…な、なんで…」
坊ちゃんの驚愕の表情。
嬉しそうというより恐れに見えた。
「…坊ちゃん?」
使用人達が首を傾げる
「別に俺は怒ってないよ?帰って来てくれたことは本当に嬉しいし」
(あんな人身売買から生きて帰ってくれたのは嬉しいし良かったとは思ってるよ)
「…でもね、本当のことを全部隠してファントムハイヴ家の当主になるのはいけないよ」
「…全部隠して…?」
「タナカから全部聞いたよ、燃えたのを良いことに無かったことにしたこと、双子の兄が死んだことも」
この場にリジーが居ないから話している。
「!!」
「坊ちゃん…?」
メイリンが坊ちゃんを見る。
「どういうことだタナカ爺!!坊ちゃんが双子って!!」
タナカに怒鳴るバルド
「…坊ちゃんとシエル様は鏡合わせの兄弟でした…区別がつかないくらいの双子です」
その言葉に一同騒然。
(でもまぁ、復活したのは真シエルじゃなくて俺だからそこら辺はスルーするとして…)
タナカは犯人の顔を見ていた。
つまり、犯人のことを知っている。
「……」
セバスチャンがヴィンセントを見る。
「兄がいることを隠して自分が兄であるって偽って、シエル・ファントムハイヴじゃなくて本当の自分で生き残れば良かったんだよ、どうしてシエルを選んだんだい?怒らないから言ってごらん」
坊ちゃんではなく【シエル】を選んでしまったことで後々にかなり影響した。
「…僕は」
坊ちゃんが手を握り締める。
セバスチャンは無言で坊ちゃんを見ていた。
ヴィンセントの言う通り、坊ちゃんは嘘をついていた。
人身売買の中、捕まった時にシエルが坊ちゃんに言っていた。
『お前と一緒に居たかったから、僕の[[rb:長男> 役目]]と思って全部"やったのに"上手くいかなかった』と
坊ちゃんが震えているのをセバスチャンは冷めた目で見ていた。
「セバスチャン!何があったんだよ、五年前に…」
坊ちゃんが固まっていることにバルドがセバスチャンの方に怒鳴って来る。
「…セバスチャン?」
ヴィンセントがこちらを怪訝な目で見て来た。
「ああ、お前がセバスチャンか、アンダーテーカーから全部聞いたよ」
「?!」
アンダーテーカーの名前が出て来たことに驚く二人
「[[rb:黒ミサ > あの時]]はよくもやってくれたな」
「あの時…?」
使用人達はよく分からず首を傾げる。
セバスチャンは嗤うと
「あの時の現状をどうしろと?貴方は死にかけてたようですし、坊ちゃんには頼れる大人もいなかった。結果的に私が救ったようなものでしょう」
セバスチャンが饒舌に話す。
「…それは分かってるよ、俺が死にかけてる時で、誰も手を差し伸べない時期だって事は」
ヴィンセントはセバスチャンを睨む
「だけど、それとこれとは話が違うんだよ」
番外編ー
ヴィンセント・ファントムハイヴとして成り代わってから一ヶ月後…
ヴィンセントは書類をまとめながらいろんなことを考えていた。
主に考えるのは襲撃事件と今後のことだ。
(仕事のことも考えて、なおかつ将来の生き死にまで考えて…過労死しちゃうよ、どう考えても…)
ファントムハイヴ家襲撃事件の犯人が【シエル】だとして人身売買のルートに売り飛ばされてしまうのは【シエル】にしてみれば予想外という展開になる。
あくまで【もしも】の基準だ。
(…シエル達がミサにかけられて、シエルがセバスチャンに魂を渡り賃として取り上げられてしまった場合…)
「おーい、ヴィンズ〜」
「ん?アンダーテーカー来てたのか?」
目の前にいつのまにか立っていたのは葬儀屋のアンダーテーカーだった。
前髪が長くて切れ長の黄緑色の眼光は見えなかった。
「小生を呼んだのはヴィンズでしょ〜ヒッヒッヒ、ヴィンズ物忘れ始まった〜?」
「まだ50代にも行ってないよ」
ファントムハイヴ家の当主は40代まで長生き出来ないのが悲しい現実。
ヴィンセントは思考を切り替えて仕事の話をアンダーテーカーと話すことにした。
二時間後…
「じゃあ、小生はこれで帰るよ〜また用があったら葬儀屋に来てね〜」
そう言って去ろうとしたアンダーテーカーに…
「アンダーテーカー。デスサイズって、空間切れるの?」
前世にそんな説明を見た気がした。
というか、グレルが言ってたか?
そんなことを言うとアンダーテーカーが数秒停止した後…
「ブッ、ヒッヒッヒハッハハハ!!」
アンダーテーカーが転がるように笑い始めた。
的外れなこと言ってんのかと恥ずかしくなるわ
「ヒッヒッヒ…ヴィンズは本当に奇天烈な発想をするようになったねぇ〜小生の武器がどうしてそこまで斬れると確信付いたんだい?」
説明を求められたらどう説明したら良いのやら
「いや、純粋な質問だよ?死神の操るデスサイズは人のメモリー。いわゆるシネマティックレコードを切るんだろう?そうしてエンディングを迎えさせる。それなら人が過ごした空間も操れるんじゃないかってね」
不死身に近い悪魔を唯一殺せるのはデスサイズ。
空間、記憶、魂を切ることの出来るデスサイズならあるいは…
「長いこと生きて来たけど、そんなこと考えたことなかったなぁ〜流石はファントムハイヴ伯爵だ」
「お褒めに預かり光栄だよ」
アンダーテーカーはファントムハイヴ家から出て帰り道、ヴィンセントから言われたことを気にしていた。
「…小生が斬れるのはシネマティックレコードと魂だけだよ、ヴィンズ。どんなにやっても過去の人間は救えない」
アンダーテーカーは悲しい目で空を見上げる
「…でも、死神のことあんまり知らないはずなのによくあそこまで知り得たね〜ヴィンズは」
最近のヴィンセントはまるで未来が見えているかのような言動があった。
昔から変わった子だと思ってはいたが、あそこまで把握してると恐ろしさも感じるが…
(ファントムハイヴ伯爵の先見の明に驚かされるのは今に始まったことじゃないけどね)
そして、ファントムハイヴ襲撃事件から二ヶ月後…
「リトルファントムハイヴは戻って来て爵位を継いだようだよ、ヴィンズ」
「そう…」
アンダーテーカーは前髪を上げてヴィンセントを見る。
寝っ転がったまま報告を受けていたヴィンセント
「それより、ヴィンズはファントムハイヴ伯爵の様子でも見てたのかい?人身売買のルートに売り飛ばされていたなんて予言してたし」
ベットに座りヴィンセントの腕を揉む
血流が悪くなったヴィンセントの肌は死体のような色になっていた。
人間は寝たきりになったらマッサージはしないといけない。
動けるようになった時に問題が起こる可能性もあるからだ。
「未来が見えてた、というよりは…単に想像できた未来なんだよ」
「へえ」
ヴィンセントが「イタタタ…」と言うと少しばかり力を弱める。
「あの子達を欲する裏社会の人間なんて山ほどいるんだよ、俺が不甲斐ないばっかりにあの子達をあんな目に合わしてしまうなんて」
「……良くヴィンズが言ってるじゃないか、生きてなきゃ意味がないって」
「まぁ、そうだけど」
腕を布団の中に戻した後、ヴィンセントは輸血の袋を確かめる。
「そんなに[[rb:セバスチャン > 悪魔]]が心配?」
動けないのを良いことにアンダーテーカーがヴィンセントの腕をプラプラさせて遊ぶ
「壊れるよ」と言った後にヴィンセントは天井を見ると
「使える駒は使わないと生き残れない。それが女王の番犬の役目、だけど…あの子には復讐すべき人間はもういないのにな…」
女王の番犬・ヴィンセント・ファントムハイヴは裏社会の監視と秩序の維持を担っていた。
それ故にファントムハイヴはあらゆる組織から狙われていた。
しかし、同時にファントムハイヴに喧嘩を売れば生きて帰れないことは全員が承知の上だった。
故に剣客は夜間時に襲って来た
「……ここから入れ」
仲間たちに指示を出した次の瞬間…
「…ヒッヒッヒ…ヴィンズ達はもう寝たんだよ?お客サマなら明日の昼間に来てくれないかな?」
「!!?」
アンダーテーカーが卒塔婆でグチャァと殴り殺す。
「小生も不眠症になっちゃうよ」
大鎌を持ってファントムハイヴ伯爵家を歩いていた。
ヴィンセントの部屋を見上げると…
「…上手いこと利用したねぇ、ヴィンズ」
自分に好意を向けてくる死神のことは利用するヴィンセント
クローディアですら長生きが出来なかった。
ヴィンセントにはせめて長生きして欲しいと願っていたアンダーテーカー。
ヴィンセントは部屋から出て行くと本が置いてある部屋に入る
「…悪魔図鑑って中二病臭いけど、調べておく必要はあるか…」
悪魔と契約するときに大事なことは、悪魔の弱味を知っておくこと
「……」
ページをめくっていた時にセバスチャンの正体らしき悪魔が出てくる。
「…ベリアルか…」
見た目があらゆる物に変化出来る悪魔なら外れではない。
(…原作の方だとかなりおどろおどろしい悪魔だったしな…)
この悪魔とセバスチャンの属性?が似ている気がしたのだ。
(…生贄を捧げるか、神の名において真実を語れと言わなければ嘘ばかりつく悪魔…助力やら強さを提供してくれる悪魔だけれど…)
『神の名において真実を語れ』というのは坊ちゃん達には無理な話だろう。
あの現状を見ても神さまを信じることなんて無理なのだから
(…契約させてしまうのは必定…か)
問題は契約反故させる方法だ。
「……」
本を本棚に戻すと新しい本を手に取る
すると…
「旦那様?いかがなされましたか?こんな夜分に」
「タナカ」
ロウソクを持って入って来たタナカ。
「ちょっと調べ物だよ、いろいろ明日のことで気になってね」
「左様でございますか、しかし、明日はお早いですよ、お早めにお休みください」
「ありがとうタナカ、これが済んだら寝るよ」
そう言うとタナカが頭を下げて行く
「……契約反故させるにはあのやり方しかないか…」