女に導かれるまま、
石門の先には、まず木製の扉があった。
その扉を押し開くと、中には驚くほど広大な空間が広がっていた。
これが本当に洞窟の中なのだろうか。大きな堂が三つは入るほどの広さがある。
洞窟の四方の壁際にはいくつも石の寝台が設けられていて、そのすべてに
その中の一つに……
妻の寝台のそばには、珍しい食べ物の皿が並べられている。少なくとも飢えてはいなかったようだ。
しかし妻は、
(来ないで!)
と、妻はそう訴えているのだ。
一体なぜ……?
「私たちは、みんな
長い者は、もう十年もここに閉じ込められているでしょうか……
ここは神の住まい。
あの神は、簡単に人を殺すだけの力を持っております。百人の兵士を操っても倒すことはできないでしょう。
幸い、いま奴は出かけています。今のうちに早くお逃げくださいませ」
「いいや! 私は妻を取り戻しに来たのだ。逃げ帰れるものか!」
女が言う。
「奥様を取り戻したいのであれば、方法はあります。私たちも協力します。一緒に奴を謀殺しましょう。
そのために準備していただきたい物があります。まず美酒を二
それだけの物を持って、十日後にまたいらしてください。奴が戻ってくるのは、いつもきまって正午過ぎ……その少し前を狙って来るのがよいでしょう。決して早すぎてはいけませんよ。
さ、今日のところは、早く……」
*
言われるままに
十日後。
「奴はひどく酒を好み、往々にして泥酔します。
そして、酔えば必ず自分の力を見せつけようとします。
でも今日は、絹を三枚重ねにして縛ってやりますわ。さらに、貴方が持ってきた頑丈な麻縄を絹の中に混ぜ込んでおけば、奴が力を尽くしても千切ることはできないでしょう。、
貴方は、そこを狙って奴を討ってくださいませ。
奴の体は鉄のように固く、刃を受け付けません……ただ、ヘソの下の数寸のところは、いつも鎧で守っているのです。わざわざ守るということは、そこが弱点に違いありませんわ」
そして女は、庭園のそばにある大岩を指さした。
「あの岩の中の洞窟は、食糧庫になっています。
あそこに隠れて、静かに様子を
酒は庭園の花の下に置き、犬は林の中へ放しておいて……計略が成功したら私がお呼びします」
*
その日の夕暮れ頃。
突如、一匹の白い練り絹のようなものが、他の山から音を立てて飛んできて、石門の奥の洞窟へ飛び込んでいった。
しばらくすると、石門をくぐり、一人の男が庭園へと姿を現した。
大男である。身の丈は六尺(約180cm)あまり。あごには美しい髭を生やし、白い衣をまとい、杖をつき、周囲に女たちを引き連れている。
あれが、この秘境に住む神なのだろう。
神は、犬が庭園を走り回っているのを見て驚いた。
「一体どこから犬なんか入り込んだ? ……まあいい。犬は好物だ」
神は恐るべき素早さで犬に飛びかかり、たちまち捕らえ、腕力だけで引き裂いた。
神は犬から
そうして腹が満ちたところで、女たちが競い合うように神へ群がり、
神は笑い喜び、あっというまに数斗の酒を飲みほした。
すっかり酔っぱらった神は、女の肩を借りて、洞窟の中へ入っていった。
洞窟からは、また嬉しそうな笑い声が聞こえはじめた……
まだか……? まだか……?
と、そのとき、女の一人が石門の外に出てきて、
合図だ!
洞窟の奥では、計画通りに白衣の神が寝台へ縛りつけられていた。
が、その姿を目にして、
先ほどは白衣の大男と見えた神が、なんと、大きな白猿に姿を変えているではないか。
これが、あの神の正体だったのだ。
白猿は寝台に四肢を縛られ、遊び半分にもがいていたが、
だが、三重の絹と頑丈な麻縄で縛られていては、さすがの白猿も簡単には脱出できないらしい。白猿は、ただ目を電光の如く光らせて
だが白猿の体は鉄か石のように固く、まるで歯が立たない。先ほど女が言った通りである。
「そうだ、ヘソの下を狙うんだった!」
そして、そのままヘソの下あたりを狙い、一気に刃を突き入れた。
すると……やはり! ここが弱点だったと見えて、刃は白猿の腹に深々と突き刺さった。
すさまじい勢いで血が吹き出し、白猿は絶叫した。
白猿は、苦しみに悶えながら言った。
「よくもやってくれたな……だが、これは汝の力ではない。天が我を殺したのだ!
ひとつ、いいことを教えてやろう。汝の妻は、すでに
そう言い終えたところで、白猿は死んでしまった。
(つづく)