感覚のないTSクローンはデスゲームの才能があったみたいです。   作:ねこスマ

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一人の秩序

宴会場の中に入ると18人がテーブルを囲んで話し合っていた、 暇そうに話を聞いてる端の人に話を伺ってみる。

 

「何かわかりました?」

「あぁ、ゲームが一対一のブラックジャックじゃないかって」

「ブラックジャック…イベントの参加人数とかはわかります?」

「52人、トランプの山の数と同じだ」

「なるほど」

「そっちは何かあったか?」

「武器になるような物は探してもありませんでした」

「だろうなぁ、近場を探しに行ったやつらも何もないって」

 

(ブラックジャックのソースはどこから?まだゲーム開始して40分しか経っていないのに)

 

「誰がブラックジャックって言い始めたんです?」

「3階で髪が緑の奴が教えて回っている、今のところみんな話半分って感じだな」

「緑の髪?浴衣の柄は」

「「♢5」こちらも確認をとったが嘘を言っている感じはなかったらしいな」

 

(緑髪、まさか僕に襲ってきたあの「♢J」の人か?)

 

 でもあの暴力的な行動と一致しない、それにこの短時間にトレードを行った?

 一応3階に行って確認をしておくべきか。

 

「クローンの髪色って無駄にカラフルですよね」

「ハハ、たくさん集まると目が疲れるな」

 

 緑の髪なんて一般社会では珍しいのに、ここでは5人くらい見かけた気がする。

 

「他に何かありますか?」

「契約で地下から戻れる状況だったら戻ってくるという条件で、四人二組が地下に行ってから戻って来ていない」

「もう地下に行ったんですか?」

「勢いと検証だろうけど、まぁそこは個人の自由だからな」

「…そうですね」

 

 最低を避けるために、あえて何も知らない状態で行ってしまう人達はいるだろう。一番ダメなのは制限時間内に二人組を作れなくて地下に行けないことだから。少し話し合いを聞いたあと宴会室から離れ3階へ向かった。

 

(地下で行うゲームがブラックジャックだと思っている人達は三分の一程度)

 

 別に地下で行うゲームがブラックジャックではなかったとしても、結局何をするのか分からないのだから考えても無駄。だからブラックジャックと仮定して地下に行っても良いという意見。

 それこそさっさと二人組を作って早く地下に行った方が有利だった、なんて話もあり得るわけで、話し合いは進展しているようで平行線だった。

 

(3階もただの宿泊客エリアで廊下にいる人は4人)

 

 客室を一個ずつ調べている人が二人いるが、いくつか鍵が掛かって開かないようだった。そして緑髪の前髪で右目を隠した人が、誰かと廊下で会話をしている。

 

(「♢J」の人ではないか)

 

 歩いている僕の存在の気づいた二人は「♢5」緑髪の人を残して客室へ入っていった、すると緑髪の人が小走りでこちらの目の前まで近寄ってきた。

 

「もしかしてブラックジャックの事が聞きたい人ですか?」

「はい、話が早くて助かります」

「それじゃあ契約を交わしませんか?」

「……いきなり何を?」

「あなたが不利になることはありません『私はあなたに嘘をつかない』だけでポイントの譲渡も「0」でいいです」

 

 なんだこの人は…?

 一方的な契約なんて怪しすぎるし、やけに体の距離が近い。

 

「結構です、どうしてブラックジャ……トンッ

 

 扉の前の僅かな空間に体を押し込まれ、抱きつかれる。

 直線の廊下では側に来ないと、体の密着は視認されないだろう。

 

「私は正真正銘20歳の女、契約したら本当だって分かるから」

「……離れてください」

「その目、あなた男性よね」

 

 ギュッ…

 

「今まで頑張ってきたんでしょ?時間はたくさんあるし、私と休憩しよ」

 

 優しく抱擁されたまま耳元で囁かれる言葉に、僕の心は全く動かなかった

 むしろこの人のことを助けてあげたいような……

 

(理由もなく助けたい?この人が女性だから?)

 

 ドンッ‼︎

 

 撫でそうだった手を握り締め、体を押し返した。

 

「残念、つれない子」

「何が目的ですか」

「殿方も女の子にされちゃって大変でしょうから、色々ご教授してあげようかと」

「ブラックジャックはどうやって知ったんですか」

「同じイベントをやったことがあるので」

「もしテーブルゲームが違ったらあなたは死ぬかもしれませんよ」

「大丈夫、必ずブラックジャック。私の命を賭けてもいい」

「………」

 

 僕は3階から離れるために逃げるように廊下を走った。

 この女の言動は間に受けたらいけない感じがする、それに僕は…

 

「寂しくなったら3階に来てください、少し順番待ちになっちゃいますが」

 

 

・・・

 

 

 8階の806号室で鍵をかけベッドに横になる。

 内鍵を掛ければ誰も部屋に侵入することはできない、密会や休憩はどこでもし放題だ。

 

(三文字さんもこのゲームについて何か知っている様子だった、じゃないと「勝たせる」なんて発言は口に出来ない筈)

 

 三文字さんは「♧A」

 その側近は 「♤K」

 

 どちらもブラックジャックでは良い役、だけどそれだけで他の配に勝てるとはならない。そもそも三文字さんが色々と知りすぎていて、情報がガバガバ過ぎないか?

 

(ポイントの譲渡、ポイントが多いほど有利になるゲームなら?二人組、所持ポイントの差が大きいと少ない方は組みたくないと感じるだろう。仮にブラックジャックとして所持ポイントが尽きるまで浴衣の柄で両者対戦を繰り返すみたいな)

 

 本当に以前のイベントと今回は同じなのか?保証なんてどこにもないのにあの満ち溢れた自信。

 

(三文字さんのように情報を秘匿されている可能性もあるが、緑髪の言う事が事実なら先行特典が大きすぎて考慮したくない…)

 

「デスゲームしてるなぁ」

 

 C級、B級(イベント)に言えることだが、すごく上品なデスゲームに感じる。A級が血みどろラーメンだとしたら、他は繊細な味を楽しむ高級フレンチ料理だ。

 

(ラーメンなんて味の想像もつかないけど)

 

 周囲に動きがありそうな一時間ほど部屋に引きこもって考察したあと、地下の入り口の確認とパートナー探しをするために立ち上がった。

 

「しゃあ!!5万ポイントもらい!」

「も、もう一回やろうッ!」

 

 5階、宴会室はギャンブル場になっており、売店にあったであろうサイコロとトランプで賭博があちこちで行われていた。

 

(レイさん負けてるし、あの人大丈夫か?)

 

「レイさんトレード出来ていないですね…」

「ホープか、その名の通り俺に希望を分けてくれ」

「で、いくら負けたんです?」

「30万ポイント、あと20万しかないからここからヒリつくぜぇ」

「柄の相場は?」

「数字が下のやつら同士しか交換しないからなぁ、100万あれば数字一つは上げられるんじゃないか?」

「全然ダメじゃないですか」

 

 宴会場で情報を仕入れつつ、レイさんのポイントが0になるまで見届けた。

 

 そして一階の食事処の反対の道を進むと非常用出口があり、パネルに二人の時計を同時に認識させて自動ドアが開くようになっていた。近くのソファに座っている4人に尋ねてみる。

 

「何組地下へ行きましたか?」

「8組、全員あの扉からは戻ってきていない」

「ありがとうございます」

 

パンッ!

バンバンバンバンバンバンッ‼︎

 

「うぉっ!?なんだ!!」

「上から聞こえたな」

「やばくねぇか」

「もう俺たち地下に行っちゃう?」

 

 銃声のような乾いた破裂音が上の階から複数聞こえてきた、僕は念の為に階段を使って上へ駆け上がる。

 

(2階じゃない……)

 

 ざわついている2階の人達も上の様子を気にしていた。3階へ上がると通路の真ん中で頭部のない死体がカーペットを赤く染めていた。

 

ガチャ……

 

 最初に見かけた時に緑髪の人と一緒にいた人が入っていった部屋を開ける。床に遺体があり、散らばった肉片に生えている髪色が一致した。

 

(あの女の仕業か)

 

 僕と同じように駆けつけた人達も3階を捜索して、呼び掛けても開かない部屋が3つ、死体があった部屋は3つ。

 

「意味がわからない…」

 

 ポチャ…

 ポチャ…

 

 「♢5」の遺体はカーテンで首を括っており、断面は花のように咲いていた。

 

(開かない部屋に1人ずついたとしたら、廊下合わせて7人)

 

 

__7人死んだとしたら、52人から一人取り残されないか?

 

 周囲にいる誰かの呟き。

 

 52人から7人を引いたら一人余ってペアが出来なくなる。この事実はすぐに広まり、呑気に賭博などしていられなくなるだろう。もう8組も地下に行ったんだ、二人組みが困難になる前に僕も見つけなくては。

 

「あの!ペアになりませんか?」

「A…ポイントはいくら持ってる?」

「600万です」

「すまん、アンタとは殺し合いたくない」

 

……

 

『ポイントを寄越せってッ!!』

『手離せッ!!』

『なんでお前と組まなきゃいけないんだよッ!!』

 

 謎の大量死、一人余る事実に秩序は崩壊し、暴力に訴えかける者も現れている。それを仲介する余裕はなく、全員最適なパートナーを探しまわり、続々と一階非常口へ向かっている。

 

 一度始まったこの流れは誰にも止められなかった。

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