感覚のないTSクローンはデスゲームの才能があったみたいです。   作:ねこスマ

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遠隔……?

 

『3』

 

 ザクッ

 バキッ

 

「ふぅ、ジンジンするね」

 

【ゆうと】

 

5/2/6/1/3 『17マス前進』

 

 

【ホープ】

 

1/3/0/3/5 『12マス前進』

 

『ターン残り4:59秒』

 

(次はどこいこうかなぁ)

 

 ボクサーグローブのように赤く染まった包帯、グルグルに巻かれた左手の指は両者一本も残っていない。「ゆうと」さんという相手プレイヤーの顔色を伺うが、痛みに慣れているのか、平然としている。

 

(プロフィールも更新していないのに顔が傷付くのは嫌だ…このまま左手を削ぎ落としていく?)

 

 ダーツだからしっかりとラインに立って、身体の部位を的に投げないといけない。足を傷つけて立てなくなったら敗北と同じ、右手も同様に投げるために必須。

 

「切り落とした指って後で付けてくれますかね?」

「クローン体だからドナーには困らない、身体の治りも早いように調整してあるから、重要な器官以外は一日で大抵綺麗に治るね」

「医療ってそこまで進歩してるんですか!?」

「聞いた話だけど、クローン技術は表には出ない。国民全員怪我や病気で死ななくなったら不都合だって」

「なるほど、すごい技術は金持ちが独占していると」

「皮肉にもクローン体だからこそ、デスゲームなんて無茶な遊びが出来るって感じ」

 

 だったら左手を徐々に削って行こうか。邪魔な包帯を取って赤黒く変色した手の平を2.5cm間隔でノコギリで切り落とす。

 

 ゴリッ

 ギリギリィッ

 

 グチャ…

 

 神経や腱が硬く、ノコギリを素早く動かさないと切り落としにくかった。切れた肉塊の指先が吸盤に見えてタコの切り身のようにだった。

 

(うへぇ、血が止まらない)

 

 右手で圧迫しても半分ほど失った左手から血が溢れて出てくる。包帯をキツく巻いても効果が薄そうだ、こうなったら傷口を鉄板で焼いて止血するしかない。

 

 ジュュユユユユユッ!!

 

 ブスッ…ブス…ジュッ…

 

 焦げ臭く不快な脂の臭いが鼻についたが、断面に火が入り血はしっかりと止まっていた。一応辛そうな演技をしながら肉塊をしっかりと的に投げ込む。三投目に指がすっぽ抜けてスコア0を並べたのは内緒だ。

 

 ベチョッ!

 

『2』

 

「ハァ!?…ハァハァ…」

(下振れすぎじゃない?絶対遠隔されてるだろ!)

 

 今すぐアルミホイルを頭にかぶりながら、的にぶつけてやりたいところだ。てかこのゲーム敗北濃厚では?

 

 がっくりと肩を落としながらゆうとさんの方を向くと、下を向いて手で口元を押さえていた。

 

「親指だったらいけるか」

 

 ゆうとさんはそう呟き靴下を脱ぎだすと、足の親指の切断を行って投げた。

 僕はまた等間隔で左手をノコギリで切って焼いて止血、ゆうとさんも反対の親指を切り落として投げたあと、僕に問いかけてきた。

 

「君は正気なのか?」

「えぇ、肉はしばらく食べたくないかもです」

「……そうだなぁ」

「映画でよく傷口を焼くってありますけど、まさかそれをやらされるとは」

「鉄板は……なんでもない」

 

 三度目のノコギリ鉄板焼き作業を終えて、臭い匂いに包まれながら投げると、ついに運の女神が僕に微笑んだ。

 

 テレテレッテレ−♫

 

 ファンファーレと共に当たった箇所が画面に表示されると、金枠大当たりに当選したようだ。

 

「大当たりキタァ!これでお互いゲームクリアですよっ!」

「こちらは次を残して25マス進んでいる、君は大当たりを引いたせいで進んだマスは『0』ゲームを降りる理由がないなぁ」

「で、ですよねー…」

「悪いけど勝利目前で賞金の山分けはできないね、これはデスゲームだ」

「ひんっ」

 

 今僕が進んでいるマスは18マス、ここから三回連続で6を当てないと勝てない+次にゆうとさんの番で更に差を拡げられる。

 

(遠隔運営め……終わったら左手をちゃんと治してくれるんだろうなぁ!!)

 

 

・・・

 

 

「悪いけど勝利目前で賞金の山分けはできないね、これはデスゲームだ」

 

 1000000Pという勝利の確信ともに対戦相手に放った一言。

 

(違和感……)

 

 最初に配給される白いTシャツ姿でA級ゲームに乗り込んできたフィッシュ(カモ)。ゲームはイージーでお互いの生存も難しくない内容、投擲の時間制限が過ぎるとペナルティで背後の鉄板が接近or鉄板の温度が徐々に上がっていき焼き殺されると予想した。

 

 だがコイツは止血のために鉄板を利用した。

 いや、それ自体はこちらも考え付いたが、やりたくない最後の手段だ。麻酔なしで傷口を焼くとなると『慣れ』という問題では済まされない。神経を直で焼き切る痛みで意識を失う可能性がある、仮に耐えたとしても痛みでゲーム進行中に支障が出るだろう。

 

 相手は痛みに強い超人…?

 だが初心者なのは行動を観察しているとおそらく事実。傷口を焼いて止血しているのに汗をそこまで掻いておらず、顔色も悪くない。そもそも常人が『辛そうな表情』だけで傷口を何度も焼くなんて不可能ではないか?

 

(両耳で2回、残りは太ももの肉を削ぎ落として投げればこちらの勝ちだが)

 

『とある条件を満たしたらぁ救済措置もあるので最後までゲームを諦めないでねぇ』

 

 あの双子が放った言葉の条件となるのはマスの格差の可能性が高い。金枠大当たりが実行されなかった時に救済があると思っていたがそれが無かった。 

 

(ここから逆転は、普通ない)

 

 逆転要素があったとしてリード側が極端に不利になることはない、破滅的な特攻が成功、数パーセントの豪運、など観客が好む偶然の盛り上がり要素でしかないからだ。

 

(初心者にビビり過ぎか…?)

 

 親切に色々教えてやったのも格差を広げすぎずに、ほどほどの差で勝つためだったが、相手の悪運と初心者のすっぽかしで、逆にこちらが勝ちを確信したくらいだ。

 

(少なくとも意識さえ残っていれば死ぬことはないゲーム)

 

 違和感を飲み込んで、自分の左耳を勢いに任せナタで切り落とした、目の前の勝ちが見えている状況で過剰に分泌されているアドレナリンで痛みに耐えれている。

 

 ヒュッ

 トンッ

 

 なんとか耳を投げて回転する的に当てると

 

『6』

 

「ヨシ!」

「え?まじで運営やってない…?」

 

 後ろからボソボソと相手が呟いていたが、気にせず血濡れた鎖を引きずりながら6マス進んだ。これで合計『31』マス、次に5以上を当てれば勝ち、勝負はほとんど決まった。

 

 そのとき、突如画面から機械音声が流れた。

 

『10マス以上の差が広がったため、反転ルーレットを実装します。両者、通常のルーレットとは異なる反転ルーレットを選択して使用可能です。反転は自身が進むのではなく、出たマス分相手を後退させます』

 

 お互いの足の引っ張りあい、これでゲームは長引き死の危険は高まったが、生憎相手は初心者、一刻も早くゲームを終わらせたいだろう。

 

「こちらの勝ちはほぼ確定している、時間の無駄だし反転は使用しないでくれると助かる!」

「いーえ、最後までやりますっ!僕まだ一回も6を出してないんですよ!?」

「は?」

 

 こいつは何を言っているんだ?

 6を出していないという理由で体を削りあう不毛なゲームを続ける気なのか?

 

 グチャグチャ……

 ゴリゴリッ

 シャーシャーッ!

 

 背後から肉と骨をノコギリで切断している音が聞こえる。

 

 ジュッジューーーーーー‼︎

 

『「ホープ」が反転ルーレットを選択しました』 

 

 ドチャッ…!

 

『1』

 

「あーはいはい完全に理解しました、我が敵は運営にあり」

「君は……」

 

 首を振り、手首より下を失った左腕も使って、両腕で疑問のジェスチャーを平然とした顔で行なっている『異常者』

 コイツとまともにやり合ったらダメかもしれない…レート上位者特有の何かを感じる。

 

 1マス後退させられ『30マス目』になるが移動式の床ごと後ろに下がったため、背後の鉄板と接近するということはなかった。

 

「6を出せば勝ち」

 

 こちらも反転ルーレットを使用出来るが使う意味はない。6ではなくても最低4以上は出て欲しいところだが…

 

 ザクッ

 グリッ…

 ザクッザクッ

 

 右耳を切り落とすが根本の軟骨で数度手間を取らされた。

 ここで的を外すというミスだけは絶対にしてはいけない、顔の周りの切断はダメージが大きく頭痛と吐き気が襲ってくるが、集中して耳を的に投げ込んだ。

 

 トンッ

 

『4』

 

「………」

 

 悪くはないが、本当はここで勝負を決め切りたかった。

 大体勝敗はほとんど決定している、反転ルールなど相手の身体の削りかたが下手で失血死を狙う時くらいしか使用しないだろう。

 

(まさか…)

 

 ずっと漂う、人肉の焦げた香り。

 相手の痛そうな下手な演技が逆に鼻につきそうだ。

 

『6』

 

「やっと6でた!ここから連続で6でもいいくらいですよね……」

 

 目の前にあるゴールのマスから遠ざかっていく。現在『28マス』次に6を出してもゲームは終了しない。

 

 今回の勝負は短期戦だと思っていた。1〜6の出目で36マスと言ったらそこまでゲームは長引かない。まさかこちらに明確な殺意でもあるのか?

 

「反転を使用するってことは殺したいのか…?」

「ん?だってデスゲームですよね?」

「………」

 

 これから長期戦は圧倒的にこちらが不利。

 両耳、左手の傷口から血は滴り続けており、次から苦痛の大きい箇所の切断を行なっていかなければいけなくなる。それに相手の止血だけは適切に行われており、欠損も左腕だけと損傷が少ない。悔しいがここは命を優先するべきか……

 

「参った、負けでいい。こちらの順番は放棄するから先に進んでくれ」

「いえ、反転で行かせてもらいます、勝負はここからですよー」

「……嘘だろ」

「はい、確率が収束しないと納得いかないので」

 

 次のこちら番は【2】だった、

 好調の途切れを感じさせる絶望の【2】。

 

【2】左、二の腕の内側脂肪

『5』左腕

【2】左太もも

『4』左腕

【1】左ふくらはぎ

『6』左腕

【5】右太もも

『5』左腕

【3】右ふくらはぎ

『2』左腕

【1】左胸部

『3』左腕

【6】右目

 

「グァァァァァ……クソッ!!」

 

 右目をナイフでくり抜いて的に放り込んだあと、地面に倒れる。

 太もも、ふくらはぎを削ぎ落とし、立っているのも容易ではなくなってきた。相手みたいにチェーンソーで肉と太い骨ごと切断して、焼いて止血など真似出来るわけがない。

 

 テレテレッテレ−♫

 

「あぁ、次も僕が大当たりを引いちゃいましたか」

「お願いします…クリアで終わらせてくださいッ…!」

「最初の時なら僕もOKしたんですが、引っ越し資金が欲しいのですみません」

 

 それからのゲーム進行は浮き沈みのない惰性で進んだ。

 何投目かも分からなくなったころ、5分以内の切断にこちらが失敗、ペナルティは鉄板の接近。

 

 次第に何をしているのか何も分からなくなってきて、意識が朦朧としていると、背中に激痛が走り脳が覚醒した。

 

「ギャアァァァァァァァァァァァァッッ!!」

 

 声帯が大声で切れるほどの自身の絶叫、脳裏には油断と後悔が微かに巡った。

 

(フィッシュとか侮って死ぬとか一番ダサいやつじゃん……)

 

 最初に大当たりを引かれた時に賞金500000Pで二人山分けにするべきだった?

 そもそも大当たりを引いた側は『0マス』扱いとなり、実質一投損している。状況は圧倒的にこちら側が有利で死ぬリスクも低いゲームだった。

 

 少ない違和感は感じとれていた。傷口を何度も焼くなど相手の行動は明らかに異常。 

 相手が初心者という油断、口調や振る舞いは普通という油断、勝利目前という自身の油断。

 

(まぁ…常人ながらよくやったほうか)

 

 自身の能力はこの程度。慰めてくれる人は誰もいないが、納得しながら背後から襲ってくる死の痛みに息絶えるまで吠え続けたのだった。

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