感覚のないTSクローンはデスゲームの才能があったみたいです。   作:ねこスマ

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殺人鬼

 

 

【正常者win】

 

 ダンッ!

 

 ガラガラガラガラガラガラ…

 

「ッ…雨さん!2番さーん!」

 

 突如照明が落とされて目の前が真っ暗になる、プレイヤーと打算なしで会話できる貴重なチャンスだと思い声を上げたが、暗闇から返答はなかった。

 

 

・・・

 

 

 哲学、歴史、数学の本が床に散らばったままゲームのコントローラーを握る。食事は朝昼サンドイッチとササミ肉で夜は唐揚げ弁当を毎日注文、ゲームはキリが良いところで止めて好き勝手な時間に眠る生活。

 

(心穏やか、健康生活・・・お、レベル上がった)

 

 ピコピコ…

 ピコピコ…

 

 何も出来なかったC級デスゲームを終えて二週間、僕はデジタルデトックスの効果を実感していた。寝付きが悪かったり、名作と評価されているゲームをプレイしても楽しく感じなかったが。動画サイトやSNSで得られるドーパミンが最近無い影響か、以前よりずっと楽しくゲームをプレイ出来ている。

 

「今更勉強とか無理っス」

 

 思考力を上げる本を読んでみたり、数学そのものを勉強してみたが、三日で飽きてずっと楽しくゲームをプレイしていた。

 

(住めば都、というか前の3食もやし生活より全然良い暮らしだし)

 

 毎月100万ポイントと生活費を支払えばあとは自由にしていい生活は思ったより快適だった。当初は汚い場所で娯楽もない窮屈な生活を覚悟していたが、デスゲームさえ行えば、食っちゃ寝生活をしていても誰も文句は言わないし、借金の取り立てに怯えることもない、ご飯も味はしないが満足感を得られている。

 

(これなら無理にランキングを狙う意味もないかな)

 

 僕は頭脳で勝てない、それは勉強して得られるものではなく、素質というか、根底を覆す閃きが沸かない。運ゲーの方が嬉しく感じるくらいには自惚れていた。

 

(一億目指してランキング上位を目指すより、ダラダラ毎月100万P稼いで生きた方が長生きできそうだ)

 

「そろそろ行きますか」

 

 たまにはデスゲームに参加しないと感覚が鈍りそうなので「B級」をスマホから申し込む。デスゲームの内容の傾向が全く見えてこないため、お茶濁しのB。

 

 Aは残酷 Cは頭脳 だったらBは……

 

 ランニングマシーンを購入した影響で部屋の空間はなくなり、机の下に足を突っ込んで寝るに至っていた。

 

 

・・・

 

 

 目が覚めると、頭の居心地がいつもより良く感じる。

 

「あ、起きた」

「?」

 

 僕の顔を覗き込んでいるのは、水色ショートヘア、水色の瞳、そばかすがあるクローン体。どうやらこの人から膝枕されていたようだ。

 

「あの、これは何ですか…」

 

 僕は起き上がって周りを見ると、もう二人が少し離れた距離で何か話合っている。

 

「あの二人は知り合いらしくてねぇ、おばさん一人で寂しいし、床に頭を付けて寝ると痛くなっちゃうでしょ?」

「えっと…おばさんなんですか?」

「一人は成人、高校生の子供が二人いるのよぉ」

「そうなんですね…」

 

 主婦もデスゲームに参加しているとは、老若男女関係ないと言ったところか。気を取り直して周囲の状況はコンクリートで出来た薄暗く広い部屋で、円を描くように8つの道に分かれている。

 

「お化け屋敷みたいで不気味よねぇ〜」

「そうですね」

 

 カチッ

 

 何か音が響くと天井から四つの封筒が落ちてきた。さっそく拾い中を確認する。

 

【『正解のない道を選べ、宝は同じ所にある』

 「勝利条件 殺人鬼からの逃走」 】

 

 紙にはkillerと書かれた、筋骨隆々のピエロのマスクを被った男のイラストが描かれている。

 

「あぁ、よかった。私は咲姫、こっちは凛奈よ」

「協力しよー、よろしく」

 

 手を差し出してきたサキと名乗った人は黒髪黒目のミディアムヘア、隣のリンナは茶色瞳、髪もブラウンウェーブのクローン体。

 

「ホープです」

「美智子って言います、三人ともよろしくねぇ」

 

 ゲーム内容が判明するまでこの二人が僕たちから距離をとっていた事を考えると、二人は協力関係を結んでいたのだろう。ゲームの内容次第では敵対し、こちらが不利になっていた可能性もあるため、あまり良い気はしないがサキさんの出された手を軽く握った。

 

「アンタ男?」

「そうですけど」

「私たちJK、頼りにしてるからねお・兄・さ・ん」

「ねぇ、男なら一本ずつ道を確認してきてくれない?」

 

 なんてことだ…前のゲームは的確に進行を務めてくれる人が二人もいたのに、今回のメンバーはハズレ過ぎない?

 

「効率が悪くないですか?殺人鬼に追い詰められるより手分けして手掛かりを探した方が」

「凛奈、ここに殺人鬼が来たら意味ないでしょ?一緒に出口探すわよ」

「だよねぇー、ゴメンゴメン」

 

 JK二人組は8つある道の一つを適当に選んで進んで行った。照明が薄暗いせいですぐに背後が見えなくなる。

 

「あの二人を追うのもアリかもしれませんね」

「へ?どうして?」

「もし正解のルートを辿ったとして、わざわざ殺人鬼が徘徊している僕たちの所まで教えに戻ってくると思いますか?あの二人は最初敵対心があるから僕たちと距離を取ったんだと思います」

「そんな悪い子たちには見えなかったけど」

「悪い子しかここには来てませんよ、僕だって借金を踏み倒して海外に逃げようとしたクズですから」

「それなら私だって旦那の貯金を全てFXで溶かしたわぁ」

「「…………」」

 

 まぁ、そうは言ったが追うのはナシだ。一点に固まるメリットがなく、あの二人は最初から居ない者としてカウントした方がいい。

 

「じゃあ、この道から順にしらみ潰しで行ってみましょう。隣の道は任せました」

「えっ!?嫌よ!!おばさんお化けが1番ダメなのッ」

「相手は殺人鬼の人間なんで大丈夫…?です」

「そうよね、何かあったらホープ君が助けてくれるわよね?」

「自分の身は自分で守ってください、僕も助けは求めないので」

「じゃあ、おばさんホープ君といるわっ」

 

 ガシッ!

 

「え…?」

「よっこらせっと」

 

 がっしりと僕の腕を脇に掴まれて、こちらをニッコリと微笑むミチコさん。

 

「30年前に旦那と行ったお化け屋敷を思い出すわぁ」

「勘弁してください、ただでさえ協力が重要なゲームなんですよ?」

「ハグれちゃったら意味ないし、大丈夫じゃなーい?」

 

(…このメンバーで殺し合いのゲームだったらどんなに楽だったろうか)

 

 ギリギリ二人が並んで歩ける通路を用心深く進んでいく。

 

「若い子の身体になったから足でまといにはならないわよ!腰痛も治って元気に走れるし」

「………」

 

 

 『正解のない道を選べ、宝は同じ所にある』

 

 宝は出口のことなのか、はたまた本当に宝があるのか。宝と言っても出口に必要な鍵、もしくは問題のヒントの可能性。

 

(雨さんや2番さんだったらこのメンバーでどのようにゲームを進行する?)

 

 今のままだと4人全員殺人鬼から呆気なく殺されて終わってしまいそうだ。

 

「それで息子の彼女も良い子でねぇ、母の日にき「別れ道ですね」

 

 目の前には二つに分かれた道、奥はチカチカと蛍光灯の音が静かに鳴っている。

 

「僕は左に行きます、ミチコさんは右の探索をお願いします」

 

 ここまで歩いて体感5分、走れば2分半〜3分程度で最初の大部屋に戻れる。

 

「そうね、わかったわ」

「殺人鬼がいたら全力で逃げてください」

「ホープ君も気を付けるのよ」

 

 一人で左の薄暗い道を進んで行くと緊張感が一気に高まった。得体の知れない殺人鬼がどこかに潜んでいるというプレッシャーで足の進みが遅い。

 

 ピチャ……

 ピチャ…ピチャ…

 

 何かが滴る音

 その場で待機してみるが人の気配はない。

 

「これは前のプレイヤー?」

 

 少しひらけた行き場のない場所に出るとフックに肩を刺され、ぶら下がっているクローンの遺体があった。顔の皮膚も剥がされており、全身を食いちぎられた痕跡があるが、演出にしては気味が悪い。

 

 ガサゴソ……

 

 遺体の服を漁ってみるが、ゲーム開始時に落ちてきた紙が一枚ポケットに入っているだけで、とくに情報は得られなかった。

 

 ンンンンンンンンンン…‼︎

 モォンモッォォォォォォォォォォッ‼︎

 

 何かか近づいてくる、閉じている口で大きな声を無理に出しているような野太い男性の声。

 

(逃げ場なんてないんですけどッ!)

 

 二択を外して暗闇からやってきたのは、前傾姿勢で小刻みに震えている身長2mは超えていそうな巨漢。顔の上半分だけクローンの顔の皮を被っており、口は半開きの状態で糸で結ばれている。まさにホラー映画に出てきても違和感のない殺人鬼には、血がベッタリと顔から白いエプロンにかかっていた。

 

「……プェ?」

「クソッ!また僕かよ!!」

 

 殺人鬼が首を傾げた瞬間、僕は殺人鬼に向かって全力疾走で遺体の上着を殺人鬼の顔に目掛けて投げ込んだ。

 

 ブンッ…

 

 ドンッ!!

 

「ガハッ…‼︎」

 

 上着もろとも小手先なんか通用しないと言わんばかりに長い腕を振り回され、壁に叩きつけられた。が、すぐさま体勢を立て直し出口に向かう。

 

 グリッ‼︎

 ガリッ!!

 

 バギィッ!!

 

「アンンンンンンンンンンッ‼︎ンッン‼︎」

「………」

「モグモグモグ」

 

 俊敏な動きで右腕を掴まれるとそのまま膝で腕をへし折り、肩を口で齧り取られ、左足を踏みつけられて枝のように骨を折られた。

 

ダッ!!

 

「ンッンッンフーーー‼︎」

 

 肉を咀嚼している殺人鬼が顔を両手で覆って興奮している隙をついて、走ってあの場所から抜け出す。

 

(まずい、まずい、まずい、まずいッ!!)

 

 痛みを感じない僕は走れはするが、いつまで保つか…。パンクしたタイヤを無理矢理動かしている状況に過ぎないが、とにかく足を動かしたのだった。

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