感覚のないTSクローンはデスゲームの才能があったみたいです。 作:ねこスマ
(この記憶が
オリジナルの僕が死んでいるとして、僕の記憶は幼少期から今まで一貫している。思考や記憶が同じなら「僕」以外の何者でもない。
(傷を負い、新品の身体に記憶だけ移された僕は既に何回も死んだとも言える。それを今更知ったところで)
うっすらと目をそらしていた、もしもの話。
脳の大きさなんて人によってバラバラなのに、少女の肉体に移植できるのか?
(神経が複雑に絡み合った脳を移植なんて現実的ではない、でも実際にこうして生きている)
そんなことを深く考える必要も意味もなかっただけで、違和感に蓋をして過ごしてきた。
再びカーテンを閉めた三文字さんが深く椅子に座った。
「欠損をしなければ永く生存できる。この事実を知った今、君がオリジナルだ」
「B級は無傷で済むゲームばかりではないと思いますが」
「イベントだけでポイントは稼げる、出不精の会員も問題ない」
「イベント内容がプレイヤー同士の殺戮だったらどうするんですか?」
「先に周りを排除し、クリア条件に満たない場合、公正に問題を解決している」
公正かどうかなんて僕には関係ないし、気になる組織の話は聞けた。
そして三文字さんは__
「ここで生きていくには、何度も記憶を移される人が大半だと思いますが」
「スワンプマン、記憶をコピーされ肉体を廃棄された時点で自身とは言えない」
「潔癖症なんですね」
「現実逃避をしている泥人形達よりはマシだろう、体を大切にしない者に生きる価値は無い」
僕も死にたくないが、傷を負った僕は明日の「自身」が記憶を繋いでくれるだろう。それがどこまで連鎖するかは分からないが、自我を途切れさせないことの方が重要だ。
僕は椅子から立ち上がって、背を向けた。
「色々聞けてよかったです、失礼します」
「あぁ、健闘を祈っている」
……
バタンッ
「膨大な記憶は引き継ぎの度に欠けていき、徐々に人間性を失っていく」
「言わなくてよかったのですか?」
「汚れ好きの彼が、どんな怪物になるか少し興味が出た」
・・・
10階の客室をいくつか見てまわるが内装はどれも同じ、数の多い客室に一人で時間をかけている暇はない。
階段で1階へ向かうと、チラホラとプレイヤーの姿が見えた。
売店を漁っている人、ラウンジで話し合っている人、そのプレイヤー達に話しかけ回っている人。制限時間が長い分深刻な雰囲気は漂っていない。
(食事処は近く)
館内地図で食事場を確認して走っていく、キッチンに包丁などの凶器があれば入手しておきたい。閉ざされた扉を開き中に入ると、無数のテーブルと椅子が設置してあり料理などは一つもない。裏口から厨房へ向かうと調理台の上に胡座で誰か座っていた。
「♢J」外に跳ねたライムグリーンの短髪、三白眼が特徴的なクローンがギョロりと僕の方を見る。
「お前も武器がないか探しに来た感じ?」
「はい」
「ほーん、で?」
「……で?」
「いくら持ってんの」
ドンドンドンドンッ‼︎
奥の冷蔵室から誰か叩いている音が聞こえる、こいつに閉じ込められたのか。
(もしかして内側非常レバーがない?距離的に僕はすぐに逃げれるが……)
___『子供は…大人が守ってあげなきゃ…でしょ?』
殺すときは殺す、守れる時は守る
今までみたいに惰性ではなく
偽善だろうと、美智子さんの最期の言葉に従いたくなった。
(僕は助けられてここにいるし、生きるために殺そう)
「あそこに人を閉じ込めたのはアナタですか?」
「そうそう、ポイントもらうため」
調理台からヒョイと降りて、僕の方に手を腰に隠してジリジリと近づいてくる。細い通り道、周囲に調理器具が一切ないが包丁を隠し持っているのか?
ダッ‼︎
「バァァ!ここに武器なんか一つもねぇッ!!」
ドゴッ‼︎
横腹を殴られるが殺人鬼と比べたら大したことない。気にせず冷蔵室に走った。
ガチャッ!!
レバーを引くと、「♧3」赤髪ポニーテールのクローンが勢いよく飛び出してきた。
「うぉぉぉ!?開いたぁぁぁ!!」
「あークソ、またやり直しかよ」
チッ
舌打ちを残して三白眼のクローンは早々と厨房から姿を消した。
「アイツッ!!逃げッ!!イテテ……」
赤髪の人は足を押さえてしゃがみ込み、頬は赤く腫れ口端も切れていた。
「襲われたんですね」
「後ろから急に殴りかかってきやがってよぉ、何が一緒に手を組もうだ」
「それで冷蔵室に?」
「中は寒くなかったが、出たいならポイント全部を差し出せとよ」
「なかなか過激ですね」
「はぁ…すまねぇ、手貸してくれねぇか?」
手を取って立ち上がると、台に手を付けながら赤髪の人は歩き出した。
「俺はレイ、あんたは?」
「ホープです、武器を探しに来たんですが」
「はーん、あんたも物騒だねぇ」
レイさんは顎に手をあて、マジマジと顔を見られた。
「ここには何も無い、それどころか箒とか武器になる棒状のものすら見かけなかった」
「とすると、あくまで交渉がメインのゲームで暴力も人数で抑えれそうですね」
「でもよぉ、せっかくポイント譲渡があるなら稼いでおきたいよなぁ」
「契約を交わして、ギャンブルでもすればいいんじゃないですか?」
「おー!それいいな!」
厨房を抜けてレイさんの手の付き場がなくなり、僕の肩を貸した。
人目のあるフロントへ進むが、食事場を半分進んだところで一瞬だけ背後に視線を感じる。
「…?」
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです」
(「AA」の誰かが監視をしている?僕を監視するメリットもないような……)
「ふぃーー、マジで助かった、ありがとな」
「いえ、お気をつけて」
フロントのソファにレイさんを座らせて、僕は5階の宴会場へ向かおうとするが、手首を握られた。
「ちょい!ちょい!せっかくなら二人で組もうぜ」
「………」
「♧3」地下の対戦相手なら正直カモだが、絶対に対戦すると決まったわけではない。もし二人の浴衣トランプを使って、他のプレイヤーと対戦するとなったら一気にこちらが不利になる。
「あぁー、手負いの雑魚はいらないってか?」
「怪我よりも「♧3」をどうにかした方がいいかと」
「トレードだろ?それも結局はポイントが必要!!あー八方塞がりだわ!!」
「というわけで、無理しないように」
「ぬわぁーんっ!!」
頭を抱えたレイさんを無視して僕は今度こそ宴会場に向かった。
・・・
__宴会場
「地下に行ったら二人はブラックジャックで1:1の対戦させられるらしいぞ」
「それどこ情報だよ?」
「緑髪のやつが3階で言い回ってる。前回と同じイベントをやったらしくて、何人かと契約までして証明したらしい」
「じゃあ本当じゃん」
「ブラックジャックかぁ、同じ数字のやつと組んで運ゲーするか?」
「10から上は、下のやつと組みたいだろうな」
こうして宴会場では様々な議論が進んでいた。