鑑定スキルで未来ある若者の人生を正しい方向に捻じ曲げ続けてきた男、捕まる 作:ニガサー
俺の鑑定スキルはそれはもうチートもいいところなんだが、だからこそ思うことがある。
他人を鑑定した時、スキルと本人のビルドがちぐはぐなのだ。
槍使いなのに斧スキルを持ってたり、火属性が得意なのに水属性ばかり使ってたり。
他の人間は俺みたいなすごい鑑定を使えないのだから、仕方ないと言えば仕方がない。
しかし、だからこそもったいないとも思う。
というか、思ってしまったのだ。
これ、別に俺が開花させても問題ないんじゃね?
――と。
だって、誰かの迷惑になるわけでもないだろう。
そりゃ悪人の才能を開花させてしまったら、それは大いに迷惑だ。
しかし、ちゃんと相手を見極めれば問題ない。
俺の鑑定は、その人間が犯罪行為を働きそうかどうかまで、鑑定することができる。
なので俺は素直で、才能があって、俺の話を聞いてくれる若者を導くことにした。
といっても、才能の使い方を教えて、最初のうちだけ軽く支援すれば後はお任せだ。
なにせ向こうは本人が気付いていないだけで、その才能を活かすことにおいては文字通り天才としかいいようのない相手ばかり。
むしろ、鑑定しかできない雑魚の俺では、下手なアドバイスはむしろ足を引っ張ってしまうだろう。
故に、俺はアドバイスをしたら、とっととその若者のもとを離れることにしていた。
いや、つきっきりでやってたらキリがないし、本当に最初以外俺のやることってないんだもの。
なんか俺の言葉を勝手に深読みして正解を自分で導き出すのだ。
これが天才……ちょっと鑑定ができるだけの一般人な俺は、それをどこか眩しいと思いつつも今日も今日とて新たな才能の原石を発掘するべく、旅を続けるのだった。
◯
「だからな? そうやって周りを憎んでも、それは結果的に敵を増やすだけなんだ」
「……うっさいな、いちいち説教しないでよおっさん」
「ああ、俺はおっさんだ。でも、おっさんだから君より何倍も生きてる。そうやって生きてこれたのは、敵を作らないように頑張ったからなんだよ」
その日、俺は初めて訪れた街の路地裏で、若い少女に絡まれていた。
十代になったばかりの、ムスッとした雰囲気の少女である。
その服装はボロボロで、如何にも社会から見捨てられて育ってきました、といった雰囲気でハリネズミのようにトゲトゲしている。
少女、とはいったものの本人は性別を隠しているようで、一見すると少年にしか見えない。
鑑定スキルでこっそり相手のステータスを覗き見た俺以外に、彼女を女性だと認識する者はいないだろう。
それってマナー違反なんじゃないか、という意見もあるかもしれないが、この世界だと鑑定は魔力量が多ければ防げる。
”抜かれる方が悪い”というのが一般常識だ。
「だから何? だったら全員ぶっ飛ばすか、向こうが追ってこなくなるまで逃げればいいでしょ」
「残念ながら、今回は逃げられないみたいだな?」
「チッ……」
もとはと言えば、俺は彼女にサイフをすられそうになったのである。
といっても、大体のお金はアイテムボックスに入っているから、懐に入れていたのは小銭入れだ。
だから、最悪少女を追いかける必要はなかった。
しかし一応鑑定をしてみたところ、わかってしまったのだ。
この少女が、とんでもない才能の原石であるということが。
んで、少女を追いかけた俺は、いい感じにこうして路地裏でとっ捕まえたわけ。
「別にいいよ、衛兵に突き出しても。……どうせ、オレはあんたみたいに長く生きられないんだ。だったら、どうなったって」
「まぁそう言うなって。俺は別に君を衛兵に突き出したりはしないよ。むしろ、君の手助けをしようとしてるんだ」
「……っ、情けなんていらないっての!」
なんとか俺から逃げ出そうと、少女は暴れ出す。
しかし彼女のSTRじゃ、俺のSTRを上回ることは出来ない。
なにせこちらは身体強化でSTRを底上げしているんだから。
そこで俺は、彼女の身体に俺の魔力を流し込む。
すると――
「うわっ!」
彼女は、一瞬にして俺の腕を弾いて拘束から抜け出した。
しかし、驚いたのは俺ではなく彼女の方である。
「な、何!? 今の!」
「今のは身体強化。魔力を体内にめぐらせて、一時的に筋力とかを増強させるんだ」
「……よく、わかんないんだけど」
掌を開閉しながら、少女はこぼす。
「なんか、めちゃくちゃ力がみなぎった」
そう、言うまでもなく少女の才能とは、この身体強化だ。
他人よりも、圧倒的に少ない魔力で高効率の強化を得ることができる。
他の人間が1の魔力で1しか強化できないのに対し、この少女は1の魔力で100の強化が可能。
あまりにも化け物じみた効率だった。
とはいえこれは最大値、鍛錬の末にたどり着く究極の局地だが、まぁ天才はその辺りだいたいなんとかしてしまうから大丈夫だろう。
「やっぱり君は身体強化を知らないんだな。……今の力があれば、こうやって危険なことをしなくてすむし、性別を偽る必要もなくなる」
「な――」
「俺にはわかるんだよ、君の持つ可能性が。そして君さえよければ、俺はその力の使い方を教えて上げられる。――君は、生きたくない?」
それから俺は、いろいろなことを少女に教えた。
鑑定で見ていた通り、彼女は教育こそ受けていないものの地頭はよく、こちらの言う事をすぐに理解してくれる。
すぐに、身体強化も使いこなせるようになっていた。
それにしても、スリをした子供を教え導くのはどうなのか、と思うかも知れない。
悪いやつには教えないとはなんだったのか。
しかし、俺はよく知っている。
この世界に、悪いことをしたくて悪いことをしているヤツは少ない。
力やお金、立場がないからそうせざるを得ない人間。
あるいは、欲望に負けてしまった人間がほとんどなのだ。
特にこの子は、そうせざるを得なかったから犯罪をしているだけで、根はいい子である。
家には病気の妹とかいるらしいし。
「……あの、あのさ」
「なんだ?」
「オレ……ぜ、絶対この恩は返しにくるから! 絶対だから!」
そして、大体のことを話し終えると、なにやら少女は眼を輝かせてそう言った。
今回は本当にただ身体強化のこととかを教えるだけだったから、ちょっとの会話で終わったな。
しかしどうも、俺が話を終えると教え導いた子はなにやら毎回こんな風に眼を輝かせるんだよな。
尊敬してくれるのは嬉しいし、こうやって羨望の眼差しで見つめられるのが気持ちいいからやってるところはあるけれど。
そこまですごいことをしただろうか、とも思ってしまう。
俺のやったことはきっかけの提示、それだけなんだから。
「じゃあな! 先生!」
そして最後には、そう言って少女が去っていくのを見送った。
見えなくなるまで手を振って、いい仕事をしたなぁと伸びをした――その時。
「み つ け た ぞ、――――――――先生?」
不意に後ろから、そう声をかけられた。
びくっとなりながら振り返ると、そこには一人の少女が立っている。
癖のある長い灰色の髪と、軍服のようなきっちりした黒い服。
背丈は小柄で、背中にはそんな背丈以上のデカい剣が背負われていた。
威圧感のある、獰猛という言葉がよく似合う狼のような少女が、そこにいたのだ。
「え、ええと……」
「ずっと、ずっとずっとずっと探してたんだ。先生にこの力の使い方を教えてもらってから、ずっと」
その少女の顔には、見覚えがある。
というより、忘れようがない。
だって、彼女は――
「……リシェラ」
「会いたかったよ……先生。
――俺が初めて、その才能を開花させた少女なのだから。
「S級冒険者になった、魔神の討伐にも成功した。――――英雄になったんだ」
え、そんなに?
やばくない?
なんて、どこか呑気な思考が脳裏をよぎった後。
「だから――――も う に が さ な い か ら な ?」
やっっっっっべ。
と、リシェラのどこか狂信的な笑みに、俺は状況を理解させられるのだった。