鑑定スキルで未来ある若者の人生を正しい方向に捻じ曲げ続けてきた男、捕まる 作:ニガサー
俺がこの世界に生を受けて、もう二十年ちょっとが経とうとしている。
前世は語ることがないので省略するとして、生まれ変わった俺は孤児院で育った。
親はわからない、ある時孤児院に捨てられていたのだという。
貧乏な孤児院であまり環境がいいとは言えなかったが、今の年齢まで育つことが出来た点では感謝している。
俺が鑑定のチートに気づいたのは生まれてすぐのこと。
異世界を生きていく上では、チートの一つや二つ持っていないと話にならない。
そこで何かないか何かないかといろいろ検証していた時、偶然それを発見したのだ。
幸いにもこの鑑定は、生きていく上で大きなアドバンテージとなった。
なんせ、相手の情報をほぼすべて見抜くことができるからな。
この相手には絶対に勝てない、こいつにはなんとか勝てそう。
そんなことが、戦う前から解ってしまうのだ。
これが戦闘狂ならあまりにつまらなすぎて死んでしまいそうな能力だが、あいにく俺は楽ができればそれでいい現代人思考の雑魚である。
むしろこれくらいカンニングできる方がありがたかった。
――まぁ、問題は俺が文字通り雑魚ってことなんだけど。
俺には才能がなかった。
いや、ないわけじゃないんだけど、どれも中途半端だったんだ。
剣も魔術も、一通りこなすことはできる。
しかし、どれもある程度のところで頭打ちになってしまい、ないよりはマシ程度の実力しか身につかなかったのだ。
まぁ俺からすれば鑑定というチートスキルがあるから別にどうってことはなかったんだけど、周りからすれば俺は中途半端な無能だよな。
孤児院では、一部の連中が俺をよく馬鹿にしてきたものである。
ただ、孤児院で暮らすことができたのは非常に感謝していた。
なにせ孤児院にはいろんなやつがいたからな。
鑑定スキルを使えば、その一人一人がどんな才能や適性を持っているかがひと目でわかる。
おかげで、鑑定スキルを使った上でどうやってステータスを伸ばせばいいかの検証が捗った。
後々、辻鑑定スキルで他者の才能を開花させる際に使ったノウハウは、ここで蓄積されていったのだ。
で、それから冒険者となった俺は、鑑定スキルを活かして斥候として活躍した。
魔物も罠も俺の鑑定にかかればすべてお見通しだからな。
他のメンバーが暴走して勝てない魔物に突っかかった時に、どうにかできるスペックがないこと以外は、非常に優秀な斥候と言えるだろう。
そうやって斥候として周囲に認められていった俺だが、不意にある時一人の少女と出会った。
それがリシェラだ。
裏路地に、今にも死にそうな顔でうなだれていたリシェラを見かけたのが事の始まり。
孤児としてそういう子どもを見捨てられなかった俺は、孤児院に預けるつもりでリシェラを拾った。
しかしそこで、リシェラの驚くべき才能に気づいたのである。
そして思ったのだ。
これ、孤児院で生活させるよりさっさと才能を開花させて独り立ちさせたほうが早いんじゃね?
リシェラは孤児故か人間不信だったため、あまり集団に馴染めるタイプではない。
だったら一人で生きていける力を身につけさせてしまったほうがいいだろう。
彼女にはそれだけの才能があるんだから。
そうやってリシェラを育ててみると、これが思いの外楽しかった。
自分の采配で他人が強くなっていく過程を見るのって、なんとも言えない爽快感みたいなものがあるんだよな。
何しろ俺の鑑定は優秀だし、リシェラは天才だから面白いくらいに成長していくんだもの。
リシェラも人見知りながら素直に俺のことを慕ってくれるし、普通に気分が良かった。
そうして成長したリシェラは、ある日俺に「先生に負けないくらい立派な冒険者になる」と言って俺の下を去っていった。
俺としても、もうリシェラはあの頃の人間不信な子どもではないと思っていたため、快く送り出し――
――別の街に拠点を移した。
理由は、人を育てるのが楽しくなってしまったから。
あの街は自分が育った故郷というのもあって、長く活動拠点にしていた。
だから、もうリシェラのような才能の原石が眠っていないとわかってたんだ。
それで別の街に行って、リシェラのような天才を育てたいと思ったわけ。
これが、だいたい今から五年ほど前の話である。
それから、各地を回っていろんな弟子を育てたわけだが――もしかして、なんだ?
リシェラはその間、俺を探していたのだろうか。
いや、魔神を討伐していたというし、S級にもなったという。
決して俺を探してばかりではなかったと思うんだけど、あの態度を見るとなぁ。
いやでも、先に旅立ったのはリシェラだよな?
俺は悪いことしてないよな?
…………………してないよな!?
◯
「――最初は、少ししたら帰るつもりだったんだ」
俺とリシェラの姿は、現在冒険者ギルドにあった。
人々が行き交い、中には昼間から酒を飲み交わしている奴らもいる。
俺達もそんなギルドの食堂スペースで席に座り、互いに飲み物を飲みながら話をしている状況だ。
「でも、帰ってきたら先生は拠点を移したっていうだろ? 慌てて追いかけたら、そこでも拠点を移したって言われたんだ」
周囲の視線は、そんな俺たちに集まっている。
今年で十五くらいになるはずのリシェラは、背丈は小柄ながらも美人に育った。
加えて俺もこの街に拠点を移してから浅いので、そりゃあ目立つ組み合わせだろう。
「そこからは、冒険者を続けながら先生を探してずっと旅をしてきた。そしたらさ、気づいたらこんなに強くなってたんだよ」
言いながら、リシェラは自分の身につけている服を見せる。
それは魔道具の一種で、見るだけで高価なものだとわかる代物だ。
魔道具の値段は冒険者の強さ。
S級という肩書きと同じくらい、リシェラの強さを物語っている。
「それで……やっと先生のことを見つけて……アタシ……感情がぐわってなっちゃって」
そうやって俺に話をするリシェラの様子は、見つけてすぐの雰囲気とは打って変わって、どこか申し訳なさそうだ。
さっきのあれは、あくまで感情が溢れ出してしまった結果らしい。
「だからえっと……先生を困らせたいわけじゃなくて……ただ先生と会えたことが嬉しかっただけで……その……」
「い、いや俺こそ、行き先を告げずにいなくなって悪かった……」
「う、うう……」
そしてリシェラは泣き出してしまった。
周囲からは、俺に対する嫉妬とか侮蔑とか、そういう視線が向けられる。
なんであんな奴が……とか、女の子を泣かせるなんてサイテー……とか。
大変耳が痛い。
いや、前者は単なる僻みだから聞かなくてもいいんだが。
でもそれはそれとして、俺はなんとなく情けない気持ちになる。
元々俺は、俺自身をそこまですごいやつだとは思っていない。
だって才能がないから。
鑑定は確かにすごいチートだが、あくまで他人の才能を開花させているだけ。
俺は何もすごくない。
そんな俺を、こんなにも慕ってくれるなんて、申し訳ない気分になるんだ。
「……それに、先生を
「……………………ん?」
とか思っていると、何やら変な単語が聞こえた。
「ね、ねぇ先生、先生。これから、先生と一緒に冒険者をしても……いいかな?」
「ええっと」
「パ、パーティを組もうってわけじゃないんだ。一緒の拠点で、一緒に冒険者ができればそれでいいんだ。たまに同じ依頼を受けたり……ダンジョンに二人で潜ったり……そ、そういうゆるい感じでいいから」
「あ、ああうん」
それならまあ、拒否することもないだろう。
それでリシェラが喜んでくれるなら、十分だ。
ただなんか、リシェラの様子がおかしい。
「ふ、ふふふ……先生と一緒だ。一生、一緒……先生の隣で……ふふ、へへへ……」
「リ、リシェラ……?」
「カノンにも、エドにも、ルゥナにも、ミオにも、アルトにも……渡さない……アタシの…………
や、やばい。
さっきと同じくらいリシェラが熱に浮かされたような顔をしている。
俺たちに視線を向けている冒険者たちは、皆一様に視線を逸らす。
というか、リシェラは何人かの名前を挙げた。
いや、気のせいかもしれないんだが、リシェラの口から出されたら偶然とは思えない。