鑑定スキルで未来ある若者の人生を正しい方向に捻じ曲げ続けてきた男、捕まる 作:ニガサー
俺の隣を、何やらどこか浮ついた様子のリシェラが歩く。
さっきから何やら俺に近づいては、ちょっと人前にお見せできない顔をしてからハッとしてそそくさと離れる。
そんなことを複数回にわたって繰り返していた。
普通に考えれば、この組み合わせで変な目を向けられるのは俺の方だ。
いかにも凄そうな美少女冒険者と、冴えないB級冒険者である。
なんか変なことしたんじゃないかと俺に視線を向けられてもおかしくない。
というかまともに会話をしていたギルドでは明らか俺に嫉妬の視線が向けられていた。
しかし、今ではどちらかというとリシェラの方に大丈夫かこいつ、みたいな視線が向けられている。
だって明らかに目がやばいんですもの。
それを俺が適時支えたりなんだりしているから、むしろ俺が介護しているんだな……みたいな理解が周囲から伝わってきた。
いや介護ではないんですけどね?
「えーと、リシェラ。リシェラはこれからどうするんだ?」
「うへへへ、決まってるだろぉ、先生の私物を手に入れて部屋にこもって……うへへへ」
「それを俺に言っちゃダメだろ!」
「ハッ! あ、あああああああたしは何を!?」
とりあえず、さっきから話は全く進んでいない。
リシェラは歩いている足取りもちょっとおぼつかないが、言動もなんというか、あれだ。
この年の乙女がしていい言動をしていない。
「それにしても先生、いい体してるなあ、ぐへへ」
「完全に言動がすけべ親父なんだよな……」
口調が若干粗野なのも相まって、完全にエロ親父にしか聞こえない。
文字だけで見たら区別つかないんじゃないか……?
さっき一瞬正気に戻ったはずなのに息を吸うようにセクハラをかますのも問題だ。
完全にこう、よろしくない人と化している。
「俺はこの後宿に戻るつもりなんだが……」
「……そう、宿! 宿だよ! アタシこの街に来たばっかりだから宿を取らないと!」
「まあそうだよな」
俺もこの街を拠点にして浅いとはいえ、昨日の今日でやってきたわけじゃない。
リシェラが街にいれば流石に気づく。
というわけでリシェラも宿を探す必要があるわけだが……
「というわけで、アタシもここに泊まることになった!」
「まあ……そうだよな」
案の定、リシェラは俺の泊まっている宿を拠点に選んだようだ。
なお宿の主人はいきなり噂に聞くかの魔神殺しが突然やってきて泊まると言い出したら、途端に顔を真っ青にして泡をぶくぶく拭きながら倒れてしまった。
南無……
「アタシは先生と同じ部屋でもいいんだけどお……」
「ベッドが一つしかないんだからダメだぞ」
「同衾!?」
そしてリシェラもおかしなことを言いながら、宿の主人と全く同じ反応でその場に倒れてしまった。
とりあえずしばらく隅に置いといて、目が覚めなかったら部屋に運ぼう。
「さて、そろそろ昼食にするかな……」
さっきギルドで飲み物は頼んだけど、リシェラの存在が衝撃的すぎて食事までは頼めなかった。
この宿は一階が食堂になっており、宿に泊まっている人間に料理が提供されている。
今は昼だから、外からやってきた客も多く、かなり繁盛していると言えた。
そんな繁盛している宿兼食堂の主人がいきなり倒れたのは結構大変なんだろうけど、大丈夫かね。
とは言え、流石に俺から状況を確認するのも迷惑だろう。
俺はリシェラを隅に置くと、食堂のテーブルに座った。
「……流石に視線を集めるよな」
リシェラを部屋の隅に運んだことで、俺に視線が集中している。
しかししばらくすれば、彼らの興味はリシェラの方に向くだろう。
なんたってS級冒険者だからな。
リシェラの名前や顔を知らなくたって、その装備の豪華さからただものではないと一目わかる。
幸い宿に入ってからは緊張からか変な行動を起こしていないのもあるから、彼らの視線は純粋な好奇心一色だ。
「……ん?」
そんな中、一人だけリシェラに視線を向けていない少年がいた。
俺に注文を聞きに来てくれたこの宿の主人の息子だ。
熱心に父親の宿で働く真面目な少年で、いつもその声には元気がある。
ただ、別にこういう時、リシェラに視線を向けないタイプかっていうとそういうことはない。
年相応に好奇心が旺盛なタイプなので、リシェラへ視線を向けずやってくる姿はどこか違和感があった。
「大丈夫か?」
「あ、タレスさん。いえ、大丈夫ですよ? ……ご注文をお伺いしますね」
うーん、確かに本人の言う通り表面的には大丈夫そうに見える。
俺が違和感を感じたのも、リシェラがたまたま部屋の隅でぐったりしているからだ。
ぶっちゃけリシェラとこの子、どっちが元気じゃないかと言えばリシェラの方である。
だから普通なら、異変に気付くこと無く俺は注文を取っていただろう。
だけど、気付いたからには声を書けておくべきだ。
理由は色々あるけど、俺ならこの子の状態を簡単に知ることができるというのが大きい。
――鑑定。
俺は自身のスキルを行使して、少年を見る。
鑑定は俺以外の人間も使えるスキルだ。
使用すると、右目が光って情報が表示される。
ただ俺の場合はそういった光を敢えて見せずに隠して鑑定をすることも可能だ。
まぁ、今回はそうやって隠す必要もないんだけど。
で、結果は――
「……君、風邪引いてるじゃないか。熱はないみたいだけど、結構辛い症状に見えるよ」
「え……?」
そして俺の視界に表示されている情報は、この子の
一般的なSTRみたいなステータスや、スキルの羅列は一切ない。
これこそ、俺の鑑定スキルの最もチートたる所以。
「……えと、いえ、風邪なんて」
「俺の鑑定が少し特別なのは、君も知ってるだろ? お父さんの腰の悪いところを、鑑定で見つけてみせたじゃないか」
「…………でも、あの」
この子の風邪は、そう大したものではない。
明日には治っているだろうし、これ以上ひどくなることもないだろう。
大人なら……というか、前世の社会人ならそのまま会社に出社しているような病状。
だけど、この子はまだまだ子どもなのだから、そう無理をする必要はない。
「――休むべきだ。君は少しでもご両親の助けになりたいのだろうけど、ご両親にとって一番助けになるのは君が健やかに成長することだ」
「……」
「君のお父さんは、君が風邪で休みたいといっても叱るような悪いお父さんじゃないだろう? むしろ、よく言ってくれたって褒めてくれるんじゃないか?」
「――――はい」
少年は、俺の言葉に目を開いて、それから頷いた。
こういう時は、お父さんをよいしょしておくのが一番だと俺の経験則が言っている。
そして少年が俺の言葉に頷いてくれたことで空気が弛緩したタイミングに、ちょこっと付け加えるのだ。
「それに、一人くらい休んだってこの宿は十分回るだろ? ほら、そこで驚きのあまりお父さんが気絶してても、今のところ大きな問題はないじゃないですか」
「ふふっ……そうですね」
目を真っ白にして大きく口を開け気絶するという、あまりに高度な気絶の仕方をしている父を見て、少年は笑みを浮かべた。
うんうん、これで少年も気兼ね無く休めるだろう。
「……あの、どうしてこんな親切にしてくれるんですか?」
「ん?」
「今の鑑定……普通ならお金をとってもいいくらいですよね?」
「ああ、そんなことか」
俺は、何気なく応える。
「――俺にとっては、これくらいなら手間もかからないことだから」
「――――」
「そんなおかしなことか?」
「いえ、そうですよね、タレスさんならきっとそうしますよね! ありがとうございました!」
……なんか、目を輝かせながら行ってしまった。
さっきまで風邪で辛そうだったのに、今じゃぜんぜんそんなことなさそうだな。
まぁいいや、注文はちゃんとしたし、あの子なら忘れずに厨房へ伝えてくれるだろう。
宿の主人も復帰したみたいだ、であればこのまましばらくまって昼食を――
「…………目を離したら、すーぐこれ」
「うおっ!?」
――――とか思っていたら、何やらぶつぶつとつぶやきながらこっちにやってきたリシェラに、俺は思わず声を上げるのだった。
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