元ダービー馬、色々あってウマ娘になったので再び戦います   作:あんどぅーサンシャイン

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基本はシンデレラグレイの世界観を基に話を進めてまいりますが、ある程度のキャラの齟齬、解釈違いはお許しください。それではどうぞ


プロローグ

 

 ―――20XX年。12月、中山レース場、有馬記念。

 このレースは後に“トゥインクル史上最高の一戦”と呼ばれる事となる。

 

 

《さあ! 今年の最強ウマ娘を決める有馬記念も大詰めとなってきました! 各ウマ娘、第四コーナーを過ぎ、残り約300メートルを切りました!》

 

 実況席の男の熱のこもった実況が、中山のターフに広く木霊する。

 有馬記念……ファン投票によって選ばれたウマ娘達によって争われる年齢、世代間を超えたその年の最強を決めるお祭りレースだ。その特質性からGⅠの中でも他とは一線を画す特別なレースであり、これまでも数多くの名勝負が生まれてきた。

 そして今日……その歴史に新たな一ページが加えられる。

 

「ここまで激しくなるとは……!」

 

「ハア……ハァ……さすがだシンボリルドルフ!」 

 

「簡単に勝たせてはくれないみたいね……でもまだまだ!」

 

「けどこれ以上勝ちは譲れねえ!!お前ら二強を纏めて倒して今日こそ証明してみせる! 一番強いのは……このアタシなんだってなァ!!!」

 

「……!」

 

《さあ先頭は以前変わらずシンボリルドルフ! そしてその後方からおよそ二バ身差で詰めるのはスペルサイクリカにメジロヴォルケイン! 更に他のウマ娘達がどうにか追いすがる! 逃げ切れるか!? 差し返すのか!?》

 

 

 次々と聞こえてくる怨嗟にも似た叫び声、だが私―――シンボリルドルフは一瞥もせず無視を貫いた。

 理由は至極単純……どうでもいい。スペルサイクリカも、メジロヴォルケインも、他の連中も、観客達の盛り上がりも、実況者のやたら熱のこもった実況も、今の私にとっては耳障りや目障りといった雑音以外の何物でもないからだ。

 私が見るべきなのは目の前に広がるターフ、聞くべきはドクドクと激しく鼓動する心臓と肺音の様子のみ。私や()()()に対して勝つだなんだと騒ぐのなら勝手に騒げば良い。私をマークしたければ好きなだけマークしてくれて構わない。だが生憎、私はお前達を相手にしていられるほどの余裕も興味もない。そんな些事に付き合うためにこのレースに出ているんじゃないのだ。

 

(……ヴォルケイン、サイクリカ……確かにお前達も強敵と呼ぶに相応しい存在だ。だけど今日、今この瞬間だけは、私の敵は……乗り越えるべき壁はお前らじゃないんだよ!!)

 

 ダッ!!

 

 更にギアを加速。大きく息を吸い込み呼吸機能を強化、全身に力を込めて一気に駆け出す。

 

《おおっと!! シンボリルドルフ、更にペースを上げて後ろを突き放す!! 流石の豪脚!! なんと雄々しくかつ凛々しい走りなのだ! これが我が国が誇る“史上最強世代”の一角を担う存在だ!! 他の追随を許さないぞ!!》

 

 

「な、何ぃ……!?」

 

「ここで更に飛ばすだって……!?」

 

「後にはあの心臓破りの坂が控えてんだぞ……一体何を考えてやがる」

 

「おいおい、なんか今日のシンボリルドルフ、随分と躍起だな」

 

「普段ならあんな勝負はしないはずなのに……」

 

「いくらライバルとの直接対決とはいえ、流石に焦り過ぎなんじゃないのか?」

 

 ここへきてのペースアップに、選手及び観客席から動揺と驚愕の声が聞こえる。

 無理もない。レース開始から私は真っ先にバ群から抜け出し、ハイペースで先頭を走る……いわゆる“逃げ”の戦法を取っていた。だからこそ他のウマ娘達は思っていたのだろう……序盤からあんなに飛ばしていては最終コーナーまで持つはずがない。いずれスタミナが尽きて失速するだろう。

 また、今日のステージは数あるレース場の中でも最難関との呼び声の高い中山レース場だ。急勾配の激しい道に加え、ゴール前に待ち受ける最後の難関、心臓破りの坂もある。いくらスタミナに自信のある選手でも、体力配分を間違えたら最後、そのまま敗北という結果にもつながりかねない。私自信もこれまで何回も苦しめられてきたし、他のウマ娘達が耐え切れずにゴール争いから脱落していった光景を幾度となく目にしている。

 

 開始直後からの逃げに加えて第四コーナーからのペースアップ。あまり知識のない人からすれば私のこの行動は圧倒的な走力からの一気にまくしたてる為のラストスパートに入ったと思うだろうが、実際はその真逆だ。勝ちを急ぎ過ぎたあまり無駄に体力を消耗してしまうだけの自殺行為に等しい。

 

 かくいう私も、普段ならこんな戦法はまず選ばない。スタートして初手は中盤から後ろぐらいの位置に陣取り、レース全体の流れを見る。

 今の私のようにひたすら逃げに徹する者がいるなら、距離を離されない程度にセーブし、相手が体力切れ等で隙が出来たところを見計らいラスト直前で一気に追い抜く。逆に差しや追い込みを狙う者がいたら、まずはコースの特徴や敵にとって走りやすい位置を瞬時に見抜き、先に制する。そうして相手の強みや作戦を防いだうえでまたその隙に加速し絶対に抜かせない距離までバ身差をつける。

 そんな風に、それぞれの敵やレース場、そしてその時のバ場の状態までしっかりと把握したうえで最善の策を見出し、確実に勝利する。ただ単純に速く走れば勝てるほど、この世界はそう甘くはないのだ。

 だからこそ、私はそれらを一度たりとも忘れることなく遵守し、やり遂げた。自分の実力に過信せず、常に研鑽を怠らず、レース一つ一つに真摯に向き合ってきた。

 

 

(……無敗のクラシック三冠、そしてGⅠ通算六連勝、奇跡のウマ娘……か。だが……)

 

 

 それはあくまでも―――これまでの常識の範囲内でのもの。

 私は知っている。どんな事象にも例外があるように、常識に囚われず、平気でそれらをぶち壊してくるイレギュラーな存在がいることを。

 

 

(それはあくまで……アイツがいなかったからこそ得てしまった称号だ!! そんなものに……何の価値がある!!)

 

 

 

「いいぞー!! ルドルフー!!」

 

「そのまま逃げ切って勝利してくれー!!」

 

「次はシンボリルドルフの時代なんだー!!」

 

「お前の勝ちが見たいんだー! このまま終わらせてくれー!!」

 

(……ハァ、ハァ。何……!?)

 

 まるでもう私の勝利は揺るがない……そんな決めつけたかのような観客席からの言い方に、私は落胆と憤りを覚えた。レースの真っ最中でなければ間違いなく発言した張本人に向かって物言いをしていた事だろう。

 

(ふざけるなよ……私が一体どんな思いで今日の有馬記念に挑戦したと思ってるんだ!? 何も知らないクセに、好き勝手に言うのも大概にしろ!!)

 

 そう口から言いそうになるのをグッと奥歯を噛みしめて堪える。分かっている。彼らに悪気はない。私のことを心から応援してくれているからこそ出た発言なのだ。それを気に入らないからと責めるのは私の傲慢でありファンに対する無礼に当たるだろう。

 

 けれど……それを考慮したとしても、私はこの想いを訂正するつもりはさらさらない。

 

 

 ……まだだ。

 

 ……まだレースは終わりなんかじゃない……いいや、まだ始まってすらいない。

 

 私の勝利? 私の時代だと? 何を馬鹿なことを言っているんだ! そんなものは……()()()()()()()()()()()()()

 

 これまでの活躍を見ていなかったのか!? 覚えていないのか? たった一年前までの事なのに、もう記憶から無くしてしまったっていうのか!!?

 

 ヤツだ! アイツだ! 時代が訪れたのは私じゃなく……アイツなんだ!!!

 

 アイツがいたから今日までのトゥインクルシリーズはここまで盛り上がったんだ!! 言葉じゃ言い表せないほどのものを私達に与えてくれたんだ!!

 

 今日だってそうさ……生まれも育ちも関係ない。全員に平等にアイツはチャンスをくれたんだ!! 真の王者たる自分に真っ向から挑戦するチャンスをな!! タイトルや名声の数なんかじゃない!! ヤツはそんなことにこだわるような小さなヤツじゃないんだよ!!

 

 ―――

 

《完全にシンボリルドルフの独走状態!! このまま、ゴールまで無事、逃げ切れるのか!!? 遂に……新時代王者として再び勝ち名乗りを上げるというのか!!?》

 

「……王者、か……笑わせてくれる……ッ!!」

 

 私はただ、アイツがいなくなった後の空っぽの玉座にたまたま滑り込めただけなんだ! 本来そこに座るべき存在がいないから仕方なく二番手だった私に白羽の矢が立ち分不相応に応祀り上げられただけのこと……正々堂々実力で勝って奪い取ったものじゃない。

 

 確かに結果だけ見れば、周りの人間が私を最強だなんだとともてはやしてくるのも理解は出来る。同じ場所でしのぎを削ってきたウマ娘達はともかく、少なくとも一般大衆からすれば結局は結果がすべてだ。いい走りをして、他の連中を抜かして、一着でゴールする。メディアやマスコミ関係者がある程度は私達の関係性を認識してそれを面白おかしく報道しているとはいえ、結局求められるのは強さとそれに付随した戦歴の優秀さだけだ。どれだけ愛嬌があったり人気アイドルのようにファンに対する接し方が良かったりしても、そんなものはただのオマケでしかない。

 ここは勝負の世界。情けも容赦も辞さない残酷な世界。強い者が優遇され、弱い者はあっという間に淘汰される。

 分かっている。分かっているんだ……誰よりも

 

「ハァ……ハァ……!けど、けれど、それでも私は……!!」

 

 奥歯を更に強くギリギリと嚙みしめ、心の中の激しい気持ちを無理矢理抑えつける。

 理解は出来ても……絶対に納得なんて出来るわけがない。

 本来称えられるべき存在が蔑ろにされ、お門違いにどれだけレースで勝とうが、どれだけ日本レコード最速記録を叩き出そうが、

 

 

「何も嬉しくない……何も喜べないんだ……何も……何もかもにだぁ!!!」

 

 

 だからこそ私はこの有馬記念……最強を決めるレースに挑んだんだ。私自身のこの心の苛立ちを、蟠りを、この一年間で溜まりに溜まった思いを完全に消し去るために。

 借り物の“王者”としてではなく……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 

 

 

《!? な、なんだぁ!!?》

 

 

 

 不意に実況者の声色が変わった。

 それはまるで予想外の事態に直面したかのような驚愕と動揺が入り混じった声色だ。

 

 

「うぉぉおおおおおおーーーーーーッ!!!

 

「!? え、今何かが掠った……!?」

 

「噓だろ……!?」

 

「ば、化け物か、何なんだあれは……!?」

 

《バ群を突き破り、途轍もない豪速で何者かが雄叫びと共に目にもとまらぬ速さで抜け出してきたぁ!!! 大外から一気にシンボリルドルフに迫る勢いだ!!》

 

 耳をつんざく様な雄叫び。

 地鳴りを感じさせるかのように強い足音。

 そして他のウマ娘達が呆気に取られる……いや、()()()()()()()()()()()()()()()瞬足ぶりをそれは見せつけた。

 まるで―――嵐の中を勇猛果敢に吹き荒れる疾風が如く。

 

「! ……来たっ!」

 

 背筋が芯から凍る。

 筋肉が悲鳴を上げて硬くなる。暑さと疲労で滝のように流れ出る汗に、今度は冷や汗も加わって私の視界を遮ろうとする。

 圧倒的……いや、そんな単純な言葉では言い表せない程のとてつもない存在が、私を一点に捉え、獲物を狩る獣のような視線を向けてきているのが分かる。

 そしてそれは……瞬く間に私の背後まで迫ってきた。その射殺すような存在感の強さに、一時でも油断すればそのまま心臓を引き裂かれてしまうんじゃないかと錯覚してしまいそうな……恐怖や畏怖を孕んだ雰囲気を放っていた。

 

《あ、あれは……あれはァ!! そうだ!! そうだった……ここにはまだ、()()()がいたじゃあないか!!!》

 

《思い出せ!! 思い出すんだ!! ヤツは過去の遺物なんかじゃない!! 黒い疾風が!! 今を生きる伝説が!! 我々の前に再び現れたんだ!!!》

 

《あの黒髪!! あの鋭い眼光!! そしてあの立ち塞がるものを全てなぎ倒すかの如く力強い走り!!!》

 

《数多くのウマ娘に恐怖と絶望を与え!! 歴戦の猛者達をその伝説的とも言える強さで次々と葬り去り!! 自らに降りかかった不幸や災難すらも己の糧とし!! その何物をも寄せ付けない力と生き様で我が国日本を……いや、()()()()()()()()()()自他共に認めざるを得ない最強のモンスター!!!》

 

 

 ―――待っていたぞ。

 

 

《“漆黒の帝王”カスケードだぁぁぁあああーーー~~~!!!!》

 

 

 来ると思っていた。

 この展開を、私はどれだけ待ち望んだことか。

 ようやくだ……ようやく貴様との決着をつけられる!!!

 

《並んだ!! 並んだ!! カスケードとシンボリルドルフ!! 共にトゥインクルシリーズを一大コンテンツへとのし上げ、世界中にその名を轟かせたた新旧最強同士による一騎打ちだ!!! なんという迫力!! 黒と朱の旋風が激しく中山のダートに吹き荒れているぞ!!!」

 

「ふざけんな……!!」

 

「あんなのに……どう追いつけっていうの……!」

 

 弱気な声が聞こえる。最早後ろの連中に勝ち目はないだろう。

 圧倒的な力の差に恐れをなしたか……まあいい。私が気に留めなくてはならないのはそっちじゃないのだから。

 

「すげぇ……!」

 

「あれが……本物のカスケード……!」

 

「現王者シンボリルドルフと唯一互角以上にわたり合った、伝説のウマ娘……!」

 

「思い出した……」

 

「そうだ……あれだよ……!!」

 

「あれが見たかったんだ……!! アイツらがデビューしてからずっと!!」

 

「お前達だ!! 俺はずっと!! お前達を追いかけていたんだ!!」

 

「アイツらの決着を見届ける為に……今日まで応援してきたんだよ!!」

 

 観客席は総立ち。

 うぉおおお、と発狂にも等しいウン10万の人間の叫びが中山レース場を包み込み、地鳴りとなって揺れ動いた。

 彼らの目にはもう、他の連中など一切写ってはいないのだろう。残り数百メートルを競い合う私とカスケードの姿だけが、今の彼らに見えているんだろう。

 

 

「遅いんだよ……!!」

 

「……ああ、全くだ」

 

 

 視線を交わす。

 ライバルの登場に思わずニヤリと口角が上がる。

 相変わらずクールな顔つきだが、その瞳の奥には隠し切れない情熱の炎がメラメラと燃え上がっているのが見える。今の自分と同じように。

 

 

「カスケード……今日こそ……今日こそ、お前を超える!!!」

 

「……やってみろ。それを俺は……ずっと待っていたんだ!!!」

 

 

 

 多くは語らない。そんなものは要らない。

 私はカスケードを、そしてカスケードは私のことを知っている。それだけで十分だ。強さも、弱さも、この勝負にかける想いも全て。

 そしてそれは言葉じゃなく……この脚で示さなければならないことも。

 

《なんという気迫!! 正に龍虎相打つ!! 誰もこの一騎打ちに文句はない!!》

 

《刮目せよ!! これがカスケードだ!! シンボリルドルフだ!! 我々が憧れ!! 熱狂し!! その勇姿を追いかけ続けてきた二人の英雄が今!! 決着をつけるときだぁ!!!》

 

《この世紀の一戦を、目に焼き付けろぉぉおおお!!!》

 

 

『『『カスケード!! カスケード!! カスケード!!』』』

 

『『『ルドルフ!! ルドルフ!! ルドルフ!!』』』

 

 

 ……ああ。

 こうして一緒に走っていると思い出す。

 お前にはじめて会った日のことを。

 共に仲間として、親友として、そしてかけがえのないライバルとして駆け抜けた、決して色褪せることのない、輝かしい軌跡の日々を……。

 

 

「があああああああああーーーっ!!!」

 

「ぐぉおおおおおおおおーーーっ!!!」

 

 

 ―――カスケードとシンボリルドルフ。

 如何にして二人は出会い、“最強”と呼ばれるようになったのか。これからゆっくりと、その歴史を語っていこうと思う。

 

 

 




投稿は完全不定期です。社会人だとどうも時間の都合がね……。
次回からカスケードの新たな生い立ち、そしてシンボリルドルフの出会いや中央トレセンに入るまでのいきさつなんかを書ければいいなと思っています。それではまた。
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