魔女(CEO)の宅配便。〜弊社、従業員は猫なもので〜   作:カズあっと

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不定期更新です。


11話 朝の。

 

 宅配業者の朝は早い。

 

「ねむ……」

「モモお姉様の寝坊助!」

 

 荷物の梱包などをしなくてはならないからだ。

 社会の高速化、多様化に従って翌日配達が標準化している。その速度に合わせられなければ、事業に未来はなかった。

 

「メイは朝から元気ね」

「あったりまえ!」

 

 朝の体操も、牛乳飲みも猫たちの遊び相手も済ませてきたらしい。王族としては当然とのことだった。

 

「今のうちに、済ませちゃいましょうか。メイも朝寝をしても良いわよ」

 

 猫たちは寝ている。

 朝の活動を終えた彼らは、日中の労働に備えて休眠をとるものなのだ。使い魔といえと、生態だった。

 

「アチシは平気よー。お尻様こそ、大丈夫? イケナイことでもしてたの?」

 

 モモの目は腫れぼったい。寝不足である。

 が、それとは関係もなく摘み上げたメイに梅干しをお見舞いしていた。

 

「いてててててっ! グリグリすなー!」

 

 ウメボシとは、別にヘッドシザース、足蹴絞ではない。コメカミをグリグリする技である。ブリテンの誇る、アフガンお仕置き術だった。

 

「眠たいんだから、余計な体力使わせないでよ」

 

 モモは技の仕手である癖に、大層な物言いである。

 夜遅くまで、始末署を書かされていたのだから仕方がない。数日前に起きた、ウィンデルソラ宮殿爆発事件についての始末署だった。

 

「アンタのパパとママって、結構強かよね。あれが政治家とか王族ってもんなのかしらねー?」

 

 呆れたような吐息と共に疑問符を浮かべるモモ。

 だが、メイはウメボシを極められたまま、アガアガ言っているだけである。

 

「それに、爆発なんてしてないのにさ。ガス会社に謝るべきよね公爵様は」

 

 キキの巨大化により宮殿は吹き飛んだだけだった。

 一応、悪いと思ったモモは翌日に顔を出している。

 夫妻はテントを張ってキャンプをしていた。

 この時期に家にいた子供はメイだけだったので、夫婦水入らずを楽しんでいるようだった。

 

 モモは、ポンとメイを放り投げる。放物線を描いた彼女はクルクルと回り、シュタッと着地した。

 

「どくおやっ!」

「そんな言葉も、どこで覚えてきたのよ」

 

 音を立てるとは、まだまだ猫にも及ばない。箱入りの割にはヤルが、メイの気性は謎だらけだった。

 

「朝寝しないなら、大人しくしていること。梱包始めるから、邪魔はしないでよね。お客様のお荷物なんだから」

 

 宅配業が朝の早い理由など、それだけだった。

 荷物を安心に安全に届けるための、梱包だ。これを無償でやっている。

 

「はーい。見てるね」

 

 メイは結跏趺坐をしていた。

 トータルコストの安さによる勝負を挑んだモモの戦略は間違いではない。お陰様で、安定した宅配件数を確保していた。

 

「ちんからほい」

 

 厚紙と、名前を言えないあのプチプチ様で荷物を包み、その上から「保護」の術式を掛ける。

 破損への備えであった。損害保険には加入しているが、信用問題は別物となる。

 

「油帷子五劫の擦り切れ海砂利水魚の水餃子茄子」

 

 メイも真似して保護に挑戦をしているようだが、明らかに出鱈目だった。当然、何も起こるはずもない。

 

 モモは丁寧に、梱包をしていく。

 硝子細工の食器セットに書籍であるウス・イ本。

 相撲の化粧廻しから、剣道着まで。これは、防具付きのものである。

 

「エロいのはダメ、絶対。我は求め訴えん」

 

 保護の詠唱とともに、丁寧に包んだ。文言は適当であった。そのまま、段ボール箱に詰めてゆく。

 リズミカルに詰めてゆく。

 折って、包んで、テープを貼って。そして仕上げにリボンを巻いて。

 静かに、作業は続いていった。

 

 実のところモモは、この作業が嫌いではない。どちらかと言えば好きだった。

 「前日夜間にやれば?」などとヘンリエッタは言うのだが、そうする訳にもいかない。夜は、寝るために存在している。

 それに手を動かしていると、眠気も覚めてくる。

 

「ねーねー。モモお姉様、なんでキキたちに手伝って貰わないのー?」

「猫だからよ」

 

 お荷物を、爪研ぎに使われては堪らなかった。厚紙も折れないし、エアーでキャップなヤツをプチプチと寝転がって潰すのだ。おまけにリボンも結べない。

 猫だから。

 

「キキたちが、こんなに綺麗に包めると思って?」

 

 リボンを巻いた荷物。これは子供服だ。古い、けれども大切に保管されていて、仕立て直したもの。

 メイはキラキラと瞳を輝かせ、段ボールに詰め込む前の荷物を見ていた。

 

「アタシもやる!」

 

 残る荷物を見やれば、まだ半分ほどが残っていた。

 主には玩具や食べ物などだ。殆どが、既に箱詰めされている。

 

「じゃ、やってみる? 労働意欲が高いのは、良いことね」

 

 軽い気持ちで誘ってみれば。

 

「十二歳未満の労働は、禁止されております。毒親による虐待も、社会問題とされておりますね」

 

 やはり生意気なクソガキだった。

 

 

 

 生意気を言っていても、やりたいと言い出したのはメイだ。チョロいことに、フンスと言いながら木箱を運んで来ていた。

 

 蜜柑箱である。

 帯にはウンシューみかんと書いてあり、手頃な大きさをしていた。

 絨毯の上には厚紙、名前を呼べないプチプチ、そしてまた一枚の薄紙がある。

 

「どっこいしょ」

 

 そこへ、蜜柑箱が静かに置かれる。なかなか、荷物の扱いを心得た幼女であった。

 

「それじゃ、試しに包んでみなさい。保護はまだ出来ないからいいわ。一つ包む毎に牛乳は増量よ」

 

 ヤル気に溢れるメイが、薄紙の端を手に取る。

 

「えいやーっ!」

 

 そして引っ張ると、スルッと紙が抜けた。

 

「オレっ!」

 

 赤っぽい薄紙を、ママでなく、マタドールの如くヒラヒラと靡かせる元公女。その顔付きは不敵に、微動だもせぬ蜜柑箱を見つめていた。

 三万石とは何の関係もない、ミルキーで優しいお菓子の話であった。

 ブリテン島に福来れ。つい祈ってしまう。

 

「なにやってんのよ」

 

 なかなかの腕前だが、今は隠し芸の時間ではない。梱包の作業時間であった。

 

「ちょっち、失敗しちゃったかも」

 

 ヒョイも蜜柑箱を片手で避けて、薄紙を敷き直したメイである。

 何故、両手で重そうに持ってきた。それが、モモにはわからなかった。

 そして再び置かれる蜜柑箱。

 

「よっこいしょ、えっさっさ」

 

 薄紙で蜜柑箱を包んでゆくメイ。

 紙と紙を合わせて幸せ。もとい紙合わせ。

 そんな作業が梱包だった。

 

「真っ直ぐに合わせるのよ」

「真っ直ぐ、真っ直ぐ」

 

 殊の外真剣なメイの姿を横目に見つつ、モモも梱包を進めていった。

 

 蜜柑箱は蜜柑箱である。

 当然そのまま運べるように出来ていて、取手も付いていた。

 もっとも、ブツの運び屋は猫たちなので括り付けてあげねばならないが。

 

「できた!」

 

 それなのに、何故メイにやらせているのか。

 薄紙はよれているし、皺になっている。これでは包みを剥がしていく楽しみが——。

 

「出来てないわ。ぐちゃぐちゃじゃないの。はい、やり直し」

 

 足りなくなった。

 だから言ってやれば、メイは頬を膨らましている。

 

「こういうのはね、最初の置き方が大切なの」

 

 片手でヒョイとメイを膝の上へと座らせる。

 

「はい、持ち上げて」

「うん」

 

 蜜柑箱を持ち上げたメイ。

 モモはその下に新しい薄紙を取り出し広げた。

 そして、手を添える。そっと優しく。

 

「ここよ」

 

 蜜柑箱を置いた。

 厚紙、名前を呼べないアレ、薄紙という三重の包装の中央へと。

 

「端と端を合わせて、たたんでみましょうか。ゆっくりと、丁寧にね」

 

 メイは言葉を返さない。紙を立て折ってゆく。

 モモは手を添えているだけだ。

 

「本当は反対側に行くのが確実なんだけと、『魔法』を見せてあげましょうか?」

「魔法!?」

 

 メイの頭が跳ね上がる。モモは余裕で顎への一撃を躱わした。

 無念無想は見事だが、まだまだキレはない。

 小さな手を誘う。

 一番下、最も大きな厚紙の端へと。

 

「少しだけ指先……メイは掌でいっか。少しだけ、体重を乗せてみなさい」

「う、うん」

 

 メイは言われた通りにしている。

 

「台となる厚紙ごと回すの。こうやって」

 

 そこへ手を添えたまま、モモの腕は大きく半円を描いた。クルリと前後の入れ替わる蜜柑箱。

 まだ折られていない紙側が、手前にきている。

 

「おおおおー! 魔法って、すっげー!」

 

 ご満足いただけたようであり、モモもお鼻が高かった。この入れ替え術、長年の一人梱包作業にて生み出した独自の技術であった。

 当然、伝統的な魔女の術式——魔法などではない。

 

「ふふん。これが出来るようにならないと、一人前の魔女にはなれないわ。梱包の経験を積んで、身に付けてゆくものなのよ」

 

 つまり、出任せであった。とはいえ、作業の生産を上げる技術であるので、嘘ではない。

 

「アタシも、いつかやる!」

 

 子供騙しであっても。

 メイは反対側も丁寧に、折りたたんでいった。

 真剣な顔付きだ。

 

「ごっつんこ!」

 

 薄紙の端と端が触れ合う。重なるでなく、ピッタリと。直線と直線、辺と辺が真っ直ぐに隣りあった。

 

「上手よ。横も、同じようにね」

 

 蜜柑箱は立方体だった。それも、正六面体である。

 同じ長さで取れるので、梱包は簡単だった。

 

「……丁寧に、丁寧に。……真っ直ぐ、真っ直ぐ」

 

 魔女に限らずであるが、術式には図象を用いるものがある。地形や天候に干渉するものと相性がよい。

 

「目視での測量が出来てこそだからね」

 

 社会を営む誰にとっても、あってそんのかない技能であった。

 

「出来た! 牛乳一メモリ分ゲットだぜ!」

「まだよ。ちゃんと包み終えてから」

 

 メイの筋はよい。意外と上手に、名前を呼べないアイツも、厚紙も折れていく。

 落ち着きがない癖に、丁寧な仕事であった。

 

「上手じゃない」

「えへへ……」

 

 楽しそうにもしている。こういった物事は経験がものをいう。

 

「じゃ、残りも包んでいって貰いましょうか。どこまで増やせるかしらね?」

「いっぱい!」

 

 必要がなくとも、丁寧な梱包を嫌がる人はあまりいない。だからこそ、練習としてメイに任せる。

 テープだって、綺麗に貼れていた。

 箱へリボンを掛けてやる。キュッと結べば出来あがり。仕上げは魔法の合言葉。

 

「みんなご無事に届いてね」

 

 保護の術式だ。詠唱は、またもや適当だった。

 メイのお目々はキラキラしている。

 

「牛乳一杯分が包めるようになったら、『保護』を教えてあげるわ。リボンの結び方もね」

 

 言いはしなくても、顔にはやりたいと描いてある。

 だからこそ、「先のお楽しみ」として残しとく。

 

「もしもわからないこと、知りたいことがあったら聞くこと。質問はいつでも受け付けるわ」

 

 勝手をされて、怪我でもされては堪らないからだ。

 

「hey、尻」

 

 失礼な尋ね方をするクソガキにはお仕置きだ。アイアンクローをお見舞いしておいた。

 

「んで、何が聞きたいの?」

「アタシも、モモ姉みたいに出来るようになる?」

 

 そんな質問なら、簡単に答えられた。

 

「当然よ。魔女なんだから」

 

 魔女は幸せを届ける術式が、大の得意なのだから。

 

「じゃ、今は我慢して頑張る」

 

 素直な子には、ご褒美をあげるべきだった。

 

「キキへの猫吸いを許可するわ。じゃ、皆が起きる前に、終わらせるわよ」

 

 キキには犠牲になって貰うことが決定している。

 

「らじゃった」

 

 ウキウキと梱包を続けてゆく公女改め魔女っ子に、モモは目を細めた。

 

 ——お母さんもお婆ちゃんも、こんな気持ちだったのかしらね。

 

 楽しんで学べれば良い。モモもそうやって、術力の制御を学んできたのだから。

 

 




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