魔女(CEO)の宅配便。〜弊社、従業員は猫なもので〜   作:カズあっと

3 / 9
お読みいただき、ありがとうございます。
キラキラしてます。



3話 あの日見た魔女の宅……便。

 

 十二歳となったモモは、とても期待されている魔女だった。

 魔女の娘で孫であり、航空会社に技術として勤める父にも愛されて、伸び伸びと、スクスクと育っていった。

 

 その出会いが「いつ」だったかは、はっきりとは覚えていない。

 けれど、その映像だけは目に焼き付いている。

 夜の放送枠で偶然に見た、アニメーション作品。

 

 それは、一人の魔女見習いの少女が黒猫と共に、見知らぬ街で空を飛ぶ物語だった。

 真っ赤なリボンに、真っ黒のドレス。そして、真っ白なパンツ。

 ラジオを箒に吊るし、嵐を抜けて、彼女がたどり着いたのは海辺の街。

 魔法を失い、挫折を味わいながらも、最後にはデッキブラシを駆って少年を救い出す。

 

 そんな、お伽話だ。

 

 その映像の中で、少女は自由だった。

 風を切り、雲を裂き、ただ真っ直ぐに空を泳ぐ。

 そんな「当たり前」の魔女の姿が、当時、青空を眺めるだけだった幼いモモの目には、何よりも眩しく、尊いものに映った。

 

 ——私も絶対、魔女の宅……便をやるんだ。

 

 作中ではあまり好評ではなさそうなニシンのパイも、美味しそうだった。

 そして、実際に食べてみたら美味しかったことも覚えている。

 安酒場の古びた油で揚げたフィッシュ&チップスや、熟成され過ぎたスターゲイジーパイよりも遥かに。

 

 幼い頃から魔法——魔女の用いる術式が上手だったこともあり、愛されて、期待されて育ってきたモモは、自分の「やりたい」で、誰かの「嬉しい」と繋がる未来が、楽しみだった。

 

 幼い少女は、十二歳から始まる未来を夢見ていた。

 

 十二歳となれば「保護されて然るべき主と国家の間の愛し子」から抜けて、「箒運転免許証」を受験する資格を得るからだ。

 箒に跨り空を飛ぶ魔女には必須資格であり、モモの夢である魔女の宅……便を叶えるための、夢のパスポートでもあった。

 

 霧の都の空は故郷とは異なり青くなく、乳白色にも似た色をしていた。

 十二歳となったモモは、魔法学園の置かれているルンディニウムに来ていた。

 箒運転免許証取得のためである。

 

「ふ……。ここから、私の夢が始まるのね」

 

 ピンクの長い髪に、黒のお子様ドレス。

 片手には身の丈程の箒を持ち、真っ黒な三角帽子を被った小柄な少女が、ブリテンを象徴する時計台の下で、不敵に微笑んでいた。

 モモ、十二歳。魔女――もとい魔女っ子である。

 

 彼女は箒運転免許証取得のために、ここ霧の都へと来ていた。

 別に、問題はない。

 連合加盟国内において、人やサービスの自由な移動は認められていた。

 

 とはいえ、免許取得のために態々ブリテン、それもルンディニウムにまで来る必要はないのだが、モモには本物志向の気があった。

 

 ――どうせなら、一流所でよ。

 

 そう考えたからである。

 ブランド志向とも言えた。

 

 ルンディニウムは、箒に跨りボールを追って棒の間に通すクィアディッチポールが盛んであり、この都に置かれた魔法学園を題材とした映像作品でも、人気を呼んでいた。

 

 幼い頃の憧れにより、映像作品に明るくなったモモである。

 様々な作品知識を元とした結構な聖地巡礼癖の萌芽が、この頃には出始めている。

 

「さーて、eiπ + 1 = 0(オイラーの等式)番線はどこかな?」

 

 免許証は魔法学園にて取得が出来る。

 そして魔法学園へと辿り着くには、運命的な巡り合わせが必要だった。

 それが、この史上最も美しい等式が冠された路線へ乗ることだった。所謂、お約束というものだ。

 

「あったあった、この卵の殻から入るのね」

 

 モモに恐れはない。

 魔女には常識であるし、不勉強な故郷の友人たちとは違い真面目でもある。

 

 故郷の友人たちは、箒免許を取らない。

 乗れれば、同じよ。とのことであった。田舎者の常識で、法を軽んじるのは田舎特有の悪癖だった。

 彼女たちは今も、無免ライダー、珍翔団として、故郷の夜空を騒がせている。

 

 そんな友人たちを、許せない。

 悪いことはしたくないし、間違ったことも許せない。故郷の学園では、学級委員も務めている程だった。彼女はとても、優等生気質なのである。

 

「私は、違うんだからっ!」

 

 突然叫んだモモだ。時計塔に観光に来ている人たちが、ぎょっとして幼い魔女っ子を見ていた。

 モモは彼らへ、渾身のメスガキスマイルを返す。

 大人たちは途端に目を逸らし、散っていった。

 

「ごめんねー」

 

 この行動、無意味なものでは決してない。

 魔女の魔法を使う所は、あまり一般人に見せるものではないからだ。

 というのは少女の思い込みであり、これもお約束というものであった。

 

「秘密〜の、モーモちゃん 」

 

 モモは様々な作品に触れ、育まれてきている。

 その矜持が溢れまくっていた。

 なお、別に魔法を見られたところで、何の問題もなかった。

 

「テクノブレイク、テクノブレイク、この数式の意味を、理解出来るようになあーれっ」

 

 可愛らしく、詠唱をする魔女っ子。

 とてもガウスな気分であった。この数式の意味を即座に理解出来ない者は、第一級の魔女にはなれない。そう言った数学者に、彼女は傾倒していた。

 

 ともあれ、卵の殻へと踏み入って駅へと向かう。

 ホームに立っていれば、すぐにやってくるのが幽霊列車だ。しかも列車に乗っている間は、時間の経過はない。

 受験会場へと向かう魔女っ子の背中は、ぱっくりと開いている。肩甲骨が丸見えであった。魔女が纏うのは、瀟洒なバックレスドレスなので。

 とても、刺激的な服装であった。

 

 

 

「ふん、ふん、ふん、ふーん」

 

 ベンチに座り、ご機嫌に鼻歌を唄うモモ十二歳。

 お弁当のホットケーキを食べていた。

 ふわふわの、モチっとした甘いホットケーキが、五臓六腑に染み渡る。

 

「いっちばーん、いっちばーん! あっまーい!」

 

 得意気にホットケーキを頬張って、眺めるのは巨大魔光掲示板。ここからは、書き出された成績表がよく見えた。

 その一番左上、その位置に、モモの名前が証明写真と共に載っている。学科試験の結果であった。

 取得点数ごと、試験完了時間順に端から書き出された名前と写真の意味とは。

 

「貴女、モモちゃんって言うのね。一番、すごいじゃない!」

 

 同い年くらいの女の子が、甲高い声を掛けてくる。

 

「ふふーん、とーぜん。いっぱいお勉強してきたからね! ……って、貴女は誰?」

 

 実は人見知りなモモだが、ここは目を丸くして、彼女を見ていた。

 

「私、ヘンリエッタ! 貴女の隣に名前があるわ!」

 

 モモは自分のものと並んだ名前と写真を確かめる。

 癖の強い黒髪に、アーモンドの形をした緑の瞳。

 丸メガネを掛けた、小柄で痩せっぽちの少女であった。尤も、小柄で痩せっぽちなのはモモも変わりがないのであるが。

 自称ヘンリエッタ嬢の特徴は、掲示板に並んだものと瓜二つと呼んでよい程、一致している。

 

「ヘッティ、貴女も凄いじゃない! 満点よ!」

 

 落とすことが目的の試験とはいえ、当然満点は出るものだ。成績順は答案提出順で査定されている。その差が、成績順に現れていた。

 

「えへへ。でもモモちゃんは、もっと凄いわ!」

 

 とても嬉しそうに笑うヘンリエッタに、人見知りなどなんのその、モモはへにゃりと微笑んだ。

 希望に燃えてやって来たとはいえ、モモはまだ十二歳の子供である。

 寂しくないはずも、心細くないはずもなかった。

 

 重苦しい空の色は、期待外れの色だった。

 ルンディニウムの空は魔法学園内であっても、乳白色の雲が重くのしかかっている。

 

 

「満点は、努力の証なの。道順で提出時間は変わったけど、一番も二番も同じくらいに素敵なことよ」

 

 ヘンリエッタはVサインを作る。

 

「おめありっ!」

 

 そして、投げキッスを送りながらの言葉。

 モモもまた同じサインを作り。

 

「おめありっ!」

 

 同じくキッスを返した。

 

 これは、おめでとうとありがとうの合成語であり、ボディランゲージでもあった。

 女児向け番組でよく使われるので、モモにはとても馴染み深い仕草である。

 

「素敵なライバルとの出会いを祝して……」

 

 続けてモモが言えば、ヘンリエッタはキラキラと瞳を輝かせる。そして二人は再びVサインを作り。

 

「「おめありっ!」」

 

 大きく笑い合った。

 

 二人が喜び合うのも無理はない。

 言うまでもなく、二人が残したものは実力の証明なのだから。

 失格時には再試験が可能であるにせよ、箒免許証は一生物の資格であるので、たった一度の試験結果が実力の証明となる。

 ここで結果を残せば、後に様々な面で優遇された。

 

 

「でも、ちょっと悔しいかも「お急ぎ便」の一人娘が、スピード勝負で負けちゃうのは」

「お急ぎ便?」

 

 聞けば、魔女の宅配業であるとの事だ。東の国ヤボンにある黒猫のアソコから独立し、立ち上げた会社らしい。

 同業他社だが株式の過半数はアチラが所持しているらしく、子会社みたいなものだそうである。

 

「すっごーい! ヘッティは、お嬢様なのね!」

「そんなこと、ないよぅ……」

 

 キラキラとして、はしゃぐ少女たち。

 

 だが、公共施設でもあるこの場の中には、彼女たちを快く見ない者もいる。

 モモたちよりも少し歳上、十五歳ころの、これもまた少女たちだった。

 

「何よあの子たち、いい気になっちゃって」

「ガキが、調子に乗ってんでしょ。経験がものを言う実技では話にならないでしょ。どうせ」

 

 周囲からそんな声が囁かれているが、モモの耳には入らない。楽しくて、嬉しくて、希望に満ちていた。

 

「午後の実技試験、一緒に頑張ろうね」

「うん。なるんだ、私も」

 

 ヘンリエッタが微笑めば、モモも頷き返す。

 こんなに気の合う女の子は、モモにとっては初めてだった。

 

 真っ赤なリボン、真っ黒なドレス、真っ白なパンツの「あの子」みたいに。

 

 一瞬だけ、霧が晴れた。隣のヘンリエッタに袖を引かれる。

 

「わぁ、モモちゃん見てよ!」

「きれい……」

 

 霧の都ルンディニウムでは、珍しい蒼。

 目にした奇跡を、少女たちは福音だと感じている。

 

 見上げるのは、青く澄んだ高い空。今は少しだけ、冷たい風が吹いている。

 モモの胸は高鳴った。胸の奥から熱が湧き上がる。

 

 あそこに——。

 

 桃色の髪には似合わないと言われる、赤いリボンで髪を高く括った見習い魔女は、箒に跨り空を駆ける未来を、微塵も疑っていなかった。

 




モモ十二歳、女児向けノリで楽しんでます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。