魔女(CEO)の宅配便。〜弊社、従業員は猫なもので〜   作:カズあっと

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6話 モモ、大地に立つ。

 

 ヘンリエッタを一階まで送ったモモがオフィスに帰ると、黒猫たちは延々と携帯型多機能端末を叩き続けている。

 

 標的は、ローゼンタール。

 

 薔薇十字とも呼ばれる巨大企業であり、ここブリテン国内においては、クロネコや密林以上に高いシェアを有している。

 

 そこへ、営業をかけていた。

 

 複製した端末に複製した問い合わせ内容を無限に貼り付けておき、猫たちに送信させる手口であった。

 モモは愚直に、経営理論を実践している。

 宣伝は、目につくことこそが大切だ。

 

「ドンドン、送るのよ!」

「にゃーん!」

 

 猫たちも、ヤル気充分である。

 普段は触らせもしない玩具を叩けるのだから、士気も高かった。

 ヘンリエッタが来た後だと何故か真面目に業務に励むので、モモも猫お世話係でなく、CEOとして存分に腕を振るえる。

 

「ダウンするくらい、送ってあげましょうね!」

 

 キィ叩き一つであれば、猫の手でも充分なことだ。

 誰もが望む様に猫の手さえも存分に借りるのが、モモによる経営戦略であった。

 

「あそこは、なんでもおいてあるからね。大手だけにケチなことは言わないだろうし、今が商機よ」

「にゃおーん」

 

 使い魔たちもヤル気に溢れている。

 自社の宣伝と、お問い合わせを兼ねるものを延々と送り続けていた。

 

「まぁ、足元の仕事もちゃんとしなくちゃね。信用第一よ」

 

 とは言うものの、非番の暇猫たちにやらせることは別にない。モモが宅配猫たちの様子を確かめるのが、これから先の業務であった。

 なお、暇猫たちは別に業務中としていない。

 端末も回線も複製であり全て同一の法人のものなので、何一つ問題はないと彼女は考えている。

 

「トンボは順調で、二十四号も真面目にやっているわね。他の皆も、問題はなさそう……」

 

 ローゼンタールへの企画書と契約書の内容を練りながらも、使い魔である猫たちの動向を見守るCEO。

 

「オソノはもう帰ってくるの? じゃ、ヘッティの所に行って、旦那様とゆっくりしといてよ」

 

 オソノの番は、ヘンリエッタの所に今はいるフクオであった。

 正確にはビルテナントに入っているパン屋の飼い猫なのだが、営業時間中は大人しく足を遠ざけている。よく出来た、飼い主孝行な虎猫だった。

 

 彼になら、オソノを任せても問題ないだろう。

 モモはそれくらい、フクオを信頼している。

 

「十八号? ああ、キキ待ちがしたいのね。じゃ、銀行横で待ってなさい。首輪があるから、邪険にはされないはずよ。……? キキ?」

 

 キキはジジと共に最初に生み出した使い魔で、配送のエースでもある。

 

「キキ? どうしたのキキ? 返事して!」

 

 お行儀も良く真面目で、エースとしての矜持もある。「あの子」の名前をつけた子で、ジジと二匹でモモの両肩に並ぶ、謂わば両腕だった。

 そのキキからの、返事がない。

 接続も切れていた。

 

「キキ! キキ! ……まさかっ!」

 

 お問い合わせアタックを止めたモモは、携帯型多機能端末からアプリを立ち上げる。濃霧注意報の、確認であった。

 

「うっそ……」

 

 鋭く、窓の外を見る。だが、ここからでは濃霧の様子までは見えない。遥か、下界なので。

 それでも、画面と空の景色を見比べたモモには、その異常がわかった。

 立ち上がったアプリに映された地図は、女王陛下の週末の滞在地。ブリテン王子ウェセックス公爵邸の置かれたウィンデルソラ城周辺が、真っ赤に塗られている。ありえない、ことだった。

 

 異常事態に、情報番組を立ち上げる。

 速報が、流れていた。

 事故、出火、行方不明者。

 そんな情報の洪水が、次々とページに流れていく。

 

「なんでっ! こんなのまるでっ!」

 

 女王陛下のお力により、ブリテン島は守護されている。お辞儀強要パワハラ爺ですら、不在時を狙って宮殿を攻めた。

 あのときと似た光景が、映像越しに広がっている。

 

 モモは急いで、王室公式ページを開いた。

 そこには、女王陛下の行動予定が記されている。

 

 今、女王陛下はブリテンに「いない」。ビタロサ王都ロウムへと行っている。法王との会談のために。

 

「ちっくしょー!」

 

 モモは叫んだ。

 異常な霧、起こる災害、悪意あるタイミング。

 そんなことが出来る人間なんか、そう多くはなかった。可能性があるのは、イカれたテロリストくらいのものである。

 

「モモ! ニュースは!?」

「今、見てる。アイツ、死んでないの?」

 

 女王不在であっても、危機に対応出来る体制は整っていたはずだ。それが容易く、壊されていた。

 

「確かに、死んでるわ」

「んじゃ、アイツ並みのイカれたヤツがまだいるってこと?」

 

 首を横に振るヘンリエッタ。わからない。そう言いたげであった。

 

 ——総員、帰還せよ。良しというまでオフィスにて待機。繰り返す。総員、即時帰還せよ。

 

 だが、それを見るまでもなく、全従業員へと心を届ける。繋がらない、キキを除いて。

 

「ヘッティ。悪いんだけど、ウチの子達をお願い出来る?」

 

 ヘンリエッタは、黙って頷いた。

 

「まったく。世話になりっぱなしで、借りばっかり溜まっちゃうわね」

 

 モモはデスクへ向かう。

 上等な、ビジネススーツを着ている。社会人としてならば、いつでも出掛けられた。

 だが、魔女にはそれだけでは足りない。

 

 掛けられた布を手に取る。

 肩に纏うのは、漆黒のマント。艶のある光沢を放つ魔女のドレス。

 机に置かれた帽子を手にした。

 ツバが大きく広がる三角帽子もまた、魔女を彩る美しき装飾だった。

 立て掛けられている、小さな箒を握りしめる。

 十二歳の頃から変わらぬ、細く小さな箒。魔女の相棒となる杖であり、機体。

 

 三つを揃えることで、魔女の正装は完成する。

 まだ全員は、帰ってきていない。

 けれども翼持つ黒猫たちが整列していた。

 

「皆、留守をお願いね。迷子の子猫ちゃんを探してくるわ」

「気をつけてね。いってらっしゃい」

 

 ヘンリエッタが車椅子に座ったままに淑女の礼を披露した。それはもう、いつものことで、最高の送り出しだった。

 

 モモはエレベーターのボタンを押す。さっきヘンリエッタが来たばかりなのに、もう下に降りていた。使用者は、案外に多いのだ。

 

「あーあ。ホットケーキ、焼きそびれちゃった」

 

 キキが帰って来たら、焼いてあげたい好物だった。

 モモは黙ってエレベーターの到着を待っている。

 非常階段があるが、そんな所からは降りられない。

 

 見晴らしが良すぎるからである。

 そんな所に出てしまえば、粗相をしてしまう自信があった。実に、情けない自信である。

 

「んじゃ、またね。良い子にしてないと、悪い魔女に連れてかれちゃうからね」

 

 エレベーターに乗り込むと、箒を持ったままに淑女の礼を披露していた。

 

 

 

 日中のルンディニウムは混雑している。

 車両さえも通れない狭い道に、人がごった返しているからだった。多くに、焦りが見える。

 流れる方向は主に、ウィンデルソラへ繋がる鉄道か、郊外へ向かう道だった。

 

 モモは、鉄道に向かっている。

 彼女は車両を持っていないので。ついでに言えば、運転免許証もない。狭いルンディニウムにおいて、足となる車両は無用の長物と言えた。

 猫たちもいるので。

 

「あ! 猫急便のお姉ちゃん!」

「そこまでよ。ブラックキャットの不吉に、襲われるわ。これは、不吉避けのおまじない」

 

 そんなモモに声を掛けてきた女の子がいたが、即座に黙らせる。キャンディとラングドシャを放り込むことによって。

 闇の帝王にはともかく、クロネコ印には敵いっこないのだ。

 不用意な発言は、控えて貰いたい。罰として、最高に喉の渇く魔女の一撃を放っておいた。

 呪いを受けた迂闊な子供。危険人物は甘味の暴力により、黙らせるに限った。

 

 群がってくる子供たちを千切っては投げ、千切っては投げしながら蹂躙してゆくCEOは、大人の恐ろしさを存分に教えてやっている。

 

 大人たちも親指を立てる、グッジョブサインを送ってくれている。

 モモは結構、この街では人気者で有名人でもあった。十年前にはパワハラ爺をぶっ飛ばしているので。

 彼女は「押さない」、「駆けない」、「喋らない」を守ろうとしながら、駅まで進んでいった。

 

 そして到着した駅であるが。

 

「はいはい、ごめんよー。ウィンデルソラ行きは、往復とも臨時運休だからね。ほら、野次馬なんかには行かないで、帰った帰った!」

 

 当然の展開にぶつかることとなる。

 だが彼女は当たり前の顔をして、切符を購入した。

 

「お。モモちゃんも、ウィンデルソラに行きたいのかい? けど悪いな。列車は運休なんだ」

 

 おじさん駅員さんへ切符を見せると、困った顔をされてしまう。だが、実の所運休は都合が良かった。

 

「列車は、走っていないのでしょう? だから、線路を使わせて貰いたくて」

「え? あー、ちょい待ちな」

 

 モモにとり、計算内の事態であった。

 安全確保のため、列車は止まる。だが、線路自体が無くなるわけではない。

 一直線に結ばれた線路は距離としても、車道と比べても遥かに短かった。

 

「もう全部止まってるな。線路に入っても問題はないが……」

「なら、良いですよね?」

 

 食い気味に尋ねるモモに、駅員は益々困っていく。

 

「そりゃ、モモちゃんにゃ世話になってるし、美人のお願いは断り難いがよ。っても、特別扱いはな。真似とかされると、危ねーし」

 

 渋る駅員のおじさんだが、ビタロサ育ちの彼には、有効な手段があった。

 

「そこをなんとか、お願いします。それに、真似なんて、させませんよ。出来ると、思いまして?」

 

 ちょっとお胸の膨らみを、寄せて上げて見せてやるのだ。

 

「デヘヘ……。しゃぁねぇな。駅長に聞いておくから、ちっと待ってろや」

 

 効果は抜群だった。モモは魔女としての技術で、無理を通してゆく。

 

「おっけーだってよ。ただし、見られるなだと」

「さっすがおじ様! 配達があったらサービスするからね!」

 

 手を握りお礼をすれば、とても上機嫌になるおじ様だった。

 

「いやー、もしもモモちゃんがデリバリーサービスに来てくれるんなら、天国にも昇れそうなんだけどよ」

 

 おじ様に愛想よく手を振りながら、モモは姿を隠してゆく。見えなくする程度の術式なぞ、魔女には基本も良い所であった。

 

 ホームを抜け、線路へと降りる。駅員のおじ様は、こちらを気にしていた。約束を、違えるつもりはない。商売人として、当然の話である。

 

「いってきますね。キキ、待ってなさい。さっさと見つけてあげるから」

 

 見えなくとも、淑女の礼を披露する。礼儀であり嗜みに過ぎないが、それが大切なことだと彼女は知っている。

 

 そして、位置に着けば。

 

「強化」

 

 基本の術式と共に、地面が爆ぜた。

 線路に傷は付けない。その程度の調整が出来ずして、何が魔女か。飛べなくとも、モモは魔女である。

 

「私は、幸せをお届けする……」

 

 それ以上を言う訳にはいかない。怒られそうだし。だが、心は伝わるものだと信じている。あの人たちとかにも。

 

 音よりも速く、CEOが行く。

 

 見送る駅員は、シガーショコラを咥えた。

 

「飛べない魔女は、ただの魔女だぜ。ただの魔女ってなぁ、なんだ?」

 

 真紅の髪をした少し小太りなおじ様がそう呟いたのだが、それはまた別のお話。

 

 

 

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