魔女(CEO)の宅配便。〜弊社、従業員は猫なもので〜   作:カズあっと

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読み頂き、ありがとうございます。
見ての通り、パロディ、バカエロコメなんです。


7話 キキの……危機?

 

 線路内を駆け抜けたモモであるが、ウィンデルソラ駅に到着すると、少し妙な様子であった。

 駅には多くの観光客らしき人々がひしめいており、異常事態を感じさせる。

 

「はーい、安いよ安いよ。皆大好き、ウナギゼリーだよ。夜のお供とも言われているよー」

 

 別に、呼ばれていない。それはパイの方である。

 そう、モモのたどり着いた駅は、随分と平和であった。人々の顔付きにも恐怖の色はない。

 

「ちっくしょー。俺たち、明日までなんだせ」

「災害なんだから、仕方ないでしょ」

 

 不満はある様だが、どこかのんびりとしていた。

 姿も気配も消したままのモモは、首を傾げる。

 だが、そのままでいる訳にもいかないものだ。

 改札を抜けるのに透明では、無賃乗車ではないが、何やら決まりが悪かった。

 

 姿を表したモモにギョッとする者もいたが、それ程騒ぎにもならないものだ。

 ルンディニウム近郊はそこそこ幽霊も有名であるので、この程度では驚きに値しないものだとモモは知っている。

 

「大人一枚。特急の清算は必要かしら?」

「わざわざのお買い上げ、ありがとうございます」

 

 此方の駅員さんは、紳士の見本の様な立派なお髭を蓄えている。立ち居振る舞いも相応しい。

 週末のみとはいえ、流石女王陛下のお膝元。

 なんてことを考えながら、駅から出て行く魔女である。

 観光客の方々から、「お姉ちゃん、幾らだい」なんと言われたが、無視を決め込むのは当然だった。

 

 witchとbitch。

 音が似ているので、混同する不心得者もそう少なくない。

 観光に来たお登りさんには、特に多い偏見だった。

 都会生活も十年ともなれば、その程度は笑って流せる様にもなっている。

 

 改札を抜ければそこは、霧国だった。

 と、言うしかない。

 この濃度では、端末も役には立たないものだ。

 元々が真っ赤に染まっていた地点であるが、運休にしないと危険だとの判断は、正しいものに思えた。

 

 なのに、どうもおかしい。

 キキの気配が感じられないのは仕方がないが、周囲では火も出ていなければ、事故もなかった。

 

「どういうこと?」

 

 車両が少ないのは当然で、この辺りはバス停しかないからだ。通りのある車道は少し離れた所にあって、だから事故はないのだと納得も出来る。

 火災も、この辺ではなかったかと思えた。

 

「あぁ、俺のラブ・パイン……」

「諦めろよ。保険、入ってんだろ?」

 

 多機能型携帯端末を握りしめ、がっくりと項垂れる男性たち。二大ブランドの片割れで、性能は良いが、値段の高さにも定評があった。

 

「もう、期間過ぎてんだよ」

「純正じゃなきゃ、安いかもな」

 

 こんな具合に危機感がいまいち感じられない。

 モモも端末は置いて来ている。術力により精密な基盤が狂ってしまっては、お高くつくからだった。

 なお、彼女の端末は人造人間を意味する方だった。

 比較的、良心的な値段のものも選べるので。

 それで充分に事足りている。

 

「マジ勘弁、化粧ハゲるー。あっちのおっさんも、頭カッパー」

「キャハ、ちょーうけるし」

 

 術力を用いた化粧品を使っていただろう女性の顔は、結構ひどいことになっている。

 加工や修正並みに盛れるのだから、使いたくなる気持ちもわからないでもない。

 けれども霧による術力干渉により、崩れてしまえば、ちょっと怖かった。

 

 剥げにくいので、とても半端に崩れているのだ。

 子供が見たら、泣き出してもおかしくない。

 同じく頭部に誇りを被った男性については、黙秘するつもりである。

 とても神々しく輝いていたので、キキ発見祈願として祈っておいたが。

 

「ちょっと、おかしくない?」

 

 歩きながらもモモは、首を傾げている。

 緊急情報では、大惨事が流れていた。

 車は潰れ、住宅は焼き焦げ、人々も狂乱していた。

 

 霧は濃い。とても濃いのだが、人影が見えない程ではなかった。もしかしたら、行方不明の人だっているかもしれないと気構えていた気持ちも、萎んでゆく。

 それでも、モモは周囲を伺いながら歩いた。

 確認時では最も濃度の濃かった場所、ウィンデルソラ宮殿へと向かって。

 

「……あ」

 

 ここに来て、モモは痛恨のミスに気付いてしまう。

 キキの行方を追うために、有効な手があることを忘れてしまっていた。

 だが、それも無理だったと思い直す。

 

 ウェセックス公の奥様に、ティアラが届いたのか、キキが来たのかを確認していなかった。

 届いていない前提で動いてしまったが、その差がわかれば、多少の絞り込みにはなった。

 

 だが、交信は届かず、術具の多くも機能しないでは諦めるしかなかった。

 奥様は、緊急時には伝書鳩を頂戴ね。などと仰っていたのだが、伝書鳩などそうそう持ち合わせるものでもなかった。大体、伝書鳩よりも走った方が速い。

 

 ——そもそも、私が見ていた状況と違い過ぎるんだけど。

 

 官憲たちが交通誘導をしているし、事故も皆無ではないにせよ、映像程大きなものでない様な気がしている。

 幾つか焼けた建物もあるが、既に消し止められていた。

 

 ——おかしい。あの闇の帝王なのに、頭は光り輝いていたアイツなら、混乱に乗じて襲っているはず。

 

 小さな混乱や人心の乱れに付け込んで、被害を拡大させる。アイツだけでなく、闇使いの老人もそうしていた。

 世を乱そうという者には、そういったやり口が常套であった。

 

「ああ、お姉さん。危ないから、あまり車道には出ないでくれ」

 

 フラフラと歩いていれば、制服姿の官憲に呼び止められた。交通違反を取り締まる謂わば宿敵であるが、今はそんなことを言ってはいられない。

 トンボは無事帰って来ていた。

 

「すみません。私の猫が、行方不明で。この辺り、といっても範囲が広過ぎるのですけど、心配で」

 

 手掛かりがないならば、聞いてみることだ。

 

「ああ、それはお気の毒に。お姉さんその格好、魔女かい?」

「ええ、使い魔ですの。翼の生えた黒猫で、このくらいの大きさの……」

 

 だが、憐れみを込めて首を振られている。

 相変わらず、キキの気配は感じられないでいた。

 

「接続が、切れてしまいまして。こんなこと、どんなに霧の濃い日だってなかったのに」

 

 それが、おかしいのだ。

 こんなこと、今まではなかった。まったく繋がらないなどあったことはなく、だからこそ緊急事態を想定していた。なのに、この暢気さは。

 

「心配かもしれないが、猫の事故情報は入ってないな。気を確かに持ってくれ」

 

 ブリテンの人々は魔女に理解があるし、気も良い。

 けれども、この気楽さは何から来ているのだろうと、モモは疑ってもいた。

 思った程に危険がないのは良いのだが、女王陛下が不在であり、まだ未曾有のテロから十年も経ってはいないのだ。恐怖が風化するには早過ぎる。

 

 そんなことを思いながら、ウィンデルソラ城付近まで、辿り着いてしまっていた。

 そこは、先程見た凄惨な事故現場であったはずだ。

 事故を起こし、無惨にひしゃげた数台の車両が見える。焼け焦げた住宅も。

 怪我人の姿が見当たらないのは、既に搬送された後からなのだろう。

 

 だが、官憲たちによる警備網が敷かれ、野次馬たちに興奮があるものの、秩序だってもいた。

 ここに来て、モモはようやく気付く。

 

 ——もしかして、ただ霧が出ただけ?

 

 女王陛下の不在と重なったとはいえ、お辞儀爺や闇魔術師の再来に、根拠があることではなかった。

 単に、状況的な推測に過ぎない。

 ただ、モモの脳裏には死の軍勢が暴れ回った十年前の記憶が残るし、惨劇など、見たくはなかった。

 

 ——悪いやつはいなくて、単なる自然現象?

 

 でももしも、テロや悪意による介入でないのなら。キキは何故? そう考えてしまう。

 けれどもそれは一瞬のことであり。

 

「あぁ……」

 

 顔が熱い。体温は高くもないのに、腰が砕けそうになっていた。

 

 ついさっきまで、格好つけていた自分が、急に恥ずかしくなってくる。

 

「だって、だって……」

 

 キキに危機があったかと思い込み、猫たちや街の人々の前で格好をつけていた。

 まるで、十代の頃の様に。良い歳をした大人が。

 

「嘘よ、きっと闇の帝王とか、闇の魔法使いが……」

 

 へたり込んでしまったモモに、数名の官憲が近付いてくる。モモは片手を挙げて大丈夫。と、応えたはずだった。

 

「ヒック」

 

 でも、恥ずかしくって格好悪くて、喉から声が漏れる。こんなのは——。

 テクノブレイクの意味を聞かされた、十四歳以来であった。

 

「お、おい。君、大丈夫か? どこか、痛いところでもあるのか?」

 

 とても、胸が痛い。そして構ってくれる優しさが、もっと痛かった。

 

「ふ、ふぇ……」

 

 ちゃんと立って、笑わなきゃ。

 そう思うのに、しゃっくりが止まらない。

 

「わたし、わたし……」

 

 ——ああ、ダメ。みんな見てる。

 

「キキ、ジジ、ふぇーん! 助けてよーっ!」

 

 ポロポロと流れる涙のみならず、子供帰りしたみたいな泣き声をあげるCEOに近付ける勇者は、残念ながらここにはいなかった。

 

 ——にゃーん。

 

 ジジが、慰めてくれている。繋がりが暖かかった。

 

「にゃーん」

 

 キキも。優しい子だもの。そうよね、いつもありがとね。

 

「まっくろくろねこ、でておいで! でないとしっぽをひっぱるぞ!」

「にゃーお!」

 

 幼く澄んだ、けれどもとっても悪戯な声と、キキの威嚇が重なった。

 

「……キキ?」

 

 声が漏れる。だって、大切な子の声なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

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