魔女(CEO)の宅配便。〜弊社、従業員は猫なもので〜   作:カズあっと

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8話 衝撃の……。

 

 風に乗ってきた声に、耳を澄ませば。

 距離はあるが、そう遠くもない。この道をずっとゆけば、キキに続いている。そんな気がした。

 

「カン……」

 

 思わず言い掛けたモモだが、ゴシゴシとスーツの袖で顔を拭った。

 袖がべしょっとするが、すぐに乾く。

 当然、鼻水は垂らしていなかった。乙女はそんなもの、流さないのが流儀である。

 

「お嬢ちゃん、大丈夫かい?」

「へ、平気よ」

 

 然程歳の変わらぬ男性に、お嬢ちゃんとはなんたる恥辱。

 魔女に向かって生意気よ。そう思うのだが、心配されているのだから、とても無碍には出来ない。

 そんな気持ちを拭い去る様にして、応えていた。

 

「でも、迷子なんだろう? お兄さんが送ってやるから、あんまツンケンすんなよ?」

 

 とても優しい瞳であった。だがそれは、モモの逆鱗に触れる。

 

「黙れ若造。お前に私が救えるか」

 

 モロに言い切っていた。

 好意や善意には申し訳ないのだが、そう言い切るしかなかった。CEOの、大人の女の尊厳的に。

 

「お、おう。寂しくなったら、呼ぶんだぞ。大人ぶっても、良いことなんかないからな?」

 

 優しさで、傷を抉るのはやめてほしい。人は孤独でいて、誰にも邪魔されず、静かに……。

 止めよう。孤独にモモは慣れていなかった。

 

「がーお! かーお! がーお! たべちゃうぞー」

「しゃーっ!しゃーっ!しゃーっ!」

 

 キキの危機はまだ続いている。幼い笑い声に、キキがウキウキで反応していた。

 

「なあーおぉー!」

「にゃーおー!」

 

 モモは静かに立ち上がった。腰は砕けない。地面の上だから。

 バス停が側にあっても、それは関係のない話であった。バスよりもネコなのだ。

 勇気が根を張った様にして、四肢へと力を与える。

 

「お世話になりました。ありがとうございます」

「おう、寂しくなったら呼んでくれ」

 

 礼儀正しく挨拶をしておく。社会人ならば、当たり前の話であった。

 

「いってきます」

 

 体内に術力を巡らす。意識しての「強化」。

 

 理解、納得、説得。術式の三工程。

 

 だが、それには別の説もある。

 

 愛情、勇気、希望。

 

 こちらの解釈の方が、モモは好きだった。

 

「今が、勇気を振り絞るときよ」

 

 承認印を押して、決済を上げてしまえば、我が社に不可能はないとモモは信じている。

 どんな理屈であっても、立ち上がる理由になった。

 

「おう、行ってこい」

 

 そうでもしないと、恥ずかしさの沼から立ち上がれないものだ。それ以外に冴えたやり方は、見つけられなかった。

 大人にだって、わからないことはあるのだ。

 

「まってなさい! トロロ芋を混ぜたフワッフワってのホットケーキ、帰ったら作ってあげるからっ!」

 

 モモは、風になった。千くらいの。

 

 

 

 強化による超感覚に従えば、キキの声へ辿り着く程度の芸当、問題にもならない。

 

「ねこねこにゃーす!」

「にゃん、にゃん、にゃにゃん!」

 

 とても、賑やかだからだ。

 術式が阻害される濃霧なんて、なんのその。そんなもので不自由する程、モモは甘くなかった。

 何故なら、彼女はCEOだからだ。

 

「レッツ、パーリィィィィ!」

「にゃおーん!」

 

 間違いなく、キキは遊んでいた。自分より小さいかもしれない子供を揶揄って、遊んでいる。

 

 ——キキ、恐ろしい子。

 

 障壁により成形した硝子の仮面を被ったモモは駆ける。そうしていないと、三角帽子が落ちるので。

 例え空を飛んでいなくとも、箒運転免許証学科試験主席の座は、伊達ではないのだ。

 未だモモの記録は破られていない。次席であるヘンリエッタのも。

 

 そして、はしゃぎ回る子供とキキの元へと辿り着いたモモは、周囲を見て声を失った。

 

 だってこの場所は——。

 

 女王陛下が週末を過ごす離宮にして、ウェセックス公の居城であるウィンデルソラ宮殿からの、秘密の抜け道だったのだから。

 なんで、一般人であるモモがそんな事を知るかなぞしれたこと。

 十年前のお辞儀戦争の夜に、入り込んでくる死者の群れを屠るため、片っ端からぶち壊したからだった。

 唯一残された隠し通路の記憶が、残らないはずもない。

 モモは運送業の経営許可が降りなければ、女王陛下を人質に取ってでもという生粋の暴力的政治思想犯(テロリスト)なので、仕方がなかった。

 

「まさか、こんな場所に迷い込んでいるなんてね」

 

 ブリテン国民は、ヘンリエッタに感謝して、モモに石を投げなければならない。

 運送業の認可を勝ち取ったのは、CEOの親友にして、家主の尽力あってこそのことなのだから。

 

「お姉ちゃん、だぁれ?」

「にゃーん?」

 

 だが、そんなことは幼い少女には関係ない。ついでに言えば使い魔である黒猫にも。多分、恐らくは。

 

「遠からん者は音に聞け、近くに寄って目にも見よ」

 

 ちょっとどころでなく古い口上を述べてみる。

 モモは、大層焦っていた。

 

「いよっ! 大統領!」

 

 声の感じから幼い子供かと思っていたが、このノリノリの女の子、まだ八歳ほどである。

 十二歳までの子供は、「主と国家の間の愛し子」として、大切に保護されている。

 見知らぬ大人が話しかけたり、接触を試みるのは憚られることだった。

 

「あの……私、魔女のモモです。こっちは、黒猫のキキです」

「羽生えてるのに?」

 

 あまりにも直球な突っ込みに、モモはまたちょっとだけ挫けかけた。

 

「それに、変なの。魔女の名前は……ふがふふ」

 

 それ以上を言ってはならない。必要とあれば幼女の口を塞ぐのを躊躇う女ではなかった。

 指を甘噛みされている。ジジの方が余程痛い。

 権利関係は煩いのだ。大人の女として、不用意な発言の許可は出来ない。

 

「ふふ……、私は名乗ったわ。さぁ次は、お嬢様。貴女の番ですわよ」

「ふぐふぐむー」

 

 勧めてはみたが、幼女は喋れない。目顔だけで、余計なことは言っちゃダメよと伝えれば、コクリと頷かれた。

 

「あたし、メイ! 五月のメイよ! 好きな句は、ゆくそらも、ありや皐月の烏猫ね! なんか、イマジナリーお姉ちゃんみたいな気がするし!」

 

 一瞬、引き攣りかけるモモ。あまりにもなお名前であった。

 

「……メイちゃんね。お父さんとお母さんは?」

 

 あまりにも、危険球であった。

 お母さんが入院中でないことを、強く祈っている。

 

 だが五月は一般名詞だし、暦の月を名前に当てることは不思議ではない。そして、「彼女」に姉はいないはず。兄は四人ばかりいるが。

 古代ロウム帝国の皇帝は、自分の名を月に当てていた。この場合は逆であるが、問題はないのだ。

 

「あら、奇遇ね。お姫様、公女様と同じなんて。お城付きの、住み込みかしら?」

 

 しかし、幼女の指差す方向には、問題があった。

 ウィンデルソラ宮殿を指している。

 薄々は気付いてはいる。

 だからこそ、必死にモモは決めつけて己へも言い聞かせていた。

 

「あたし、お姫様で、公女様なのよ!」

 

 とても嬉しそうにして、宣う幼女。

 

 ——うん。知ってたよ。だって。

 

 ()()、ティアラを被っているのですもの。

 キキが運んできたティアラを。

 ウェセックス公爵夫人が、誕生日を迎える娘さんのために用意した、所有者以外には装備出来ない術式が付与されたティアラを。

 

 




 
 短いのと、日曜日に完結させたいために本日は2話更新予定です。夕方か夜に9話の投稿を予定しています。
 読まれたいな。
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