雨はすべてを押し流していく。
喜びも悲しみも、歴史や道理、未来でさえも。
最後に思うは世界への恩讐と生への渇望。
不快な黒が頬を伝う。
全身の痛みと冷たさに目を覚ます。
逃げまどい捕まった校庭。
無残に放置された身体を黒い雨が襲う。
よろよろと立ち上がって周囲に散乱しているはずの衣服を探すが、見当たらない。
降ってくる暗黒の冷たさに身震いし、前まで避難所であった学校に足を進める。
足裏が痛む。
決して快適ではなかったが、友達や家族と過ごした学校。そこにあった生活のかけらは骸と血のにおいにかき消されてしまった。
教室に残っていたカーテンで体を隠し進む。
学校という場所に似つかわないものがある。
骸。
将棋が好きだった修さん、おままごとで遊んであげた渚ちゃん、みんなを励ましていた友美さん。
お母さん。
見知った顔が知らない貌で転がっている。
涙は出なかった。代わりに憎悪が積もる。身体が生きていようと、“それ”の心はすでに死んでいた。
ここには骸しかいない。
そう思っていた。
「...空ちゃん?」
聞きなれた声。すべて壊れた世界で唯一よく知る声。
「よかった!空ちゃん生きてたんだね!」
彼女の声を聴くことで、私はやっと生きているのだと気が付く。
小柄で小動物のような女の子。いつものように明るく振る舞っているが、明らかに無理をしている。
「そんなことないよ、私は大丈夫!」
?
「ねえ空ちゃん、まだ綺麗な教室あったからそっちで話そ?」
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私の手を引く彼女は震えていた。
「空ちゃんびしょ濡れ、それにそんな格好だと風邪ひいちゃうよ」
教室についた私に彼女が服を手渡す。
「これは獲られなかったみたい、ちょっと大きいけど」
ありがとう
「どういたしまして!」
...私話してないよ
「え? でも...」
私はしゃべってないよ
「ほんとだ!口が動いてない!」
「もしかして、超能力!空ちゃんなんか考えて」
パプアニューギニア
「パプアニューギニア」
正解
「やったー!ねえねえ、これ噂の変異者てやつ?もしかして心が読めるのかなあ」
「空ちゃんがいてよかった!私ひとりじゃ気が付けなかっ...うぷっ」
彼女は嘔吐を試みるが、何も出ない。
「ごめんね、空ちゃん。大丈夫」
そういって笑う彼女。
心音。
彼女の名を呼ぶ。
「空ちゃん、私は大丈夫、大丈夫。みんな殺、殺殺..されて」
「...私どうすればよかったのかな。私私私私ううあううううううううううああああああ」
私と違い、彼女の心はまだ生きていて、だからこそ苦しいのか。
心音の絶叫と雨音が混じるって聞こえる。
許さない。
私たちから奪い、嬲り、殺したあいつらを。
心音を苦しめたあいつらを。
殺してやる、同じ苦しみ、理不尽に殺される怒りを。
心が胎動する。
奴らを殺すため。
黒い雨が降っている。