『…では緊張が高まっており、物流への影響が懸念されています。』
『続いては、現在人気急上昇中の…』
「心音はまだ起きてこないのか」
「昨日遅くまで起きていたみたいで…。まだ準備しているみたい」
「まったく、高校生にもなって。お前がしっかりしな…」
ピンポーン
「はいはーい。あら、空ちゃんおはよう」
「おはようございます」
「ごめんねー、今心音呼んでくるから」
「心音、空ちゃん来てるわよー」
ドタドタと心音が降りてくる。
「入学早々寝坊なんて」
「いやいや、空ちゃんが速すぎるだけだよ。まだ全然時間あるじゃん!」
いってきまーす、と元気よく言う心音と一緒に学校へ向かう。
「何が起きるかわからないんだから早め早めの行動」
「はあ~、相変わらずだね。また学級委員とかやるんじゃない」
「他に誰もやりたがらなければね」
心地よい桃色の風が新しい制服を撫でる。
期待と不安が入り混じった歩幅で私たちは歩いていく。
「ねえねえ、私彼氏とかできちゃったらどうしよ~」
「心音はかわいいんだから作ろうと思えばいつでも作れるでしょ」
「白馬の王子様はなかなかいないからね~。空ちゃんはどうなの?入学式にかっこいい人いた?」
「私はそういうのいいから」
そうは言いつつも私も期待していなかったわけではない。新しい環境と新しい出会い。
心音と違うクラスだけど勇気を出して隣の子に話しかけようか。
私は心音と同じように期待に満ちた目をしていたのだろう。
あの頃がずいぶん遠く感じる。
はじめに壊れたのは通信だった。
世界中に張り巡らされていた網はある日突然チリジリになった。
実際にどうなったかわからない。それを伝えるものはもうないのだから。
電波は生きていたみたいで、テレビやラジオはちょっとの間は動いていたけど、それもすぐ止まった。
みんな不安でいろんな噂が出回ったけど、すぐに一つに収束した。
爆発が起きた。
夜中にも関わらず、ものすごい音と光で起きると東京の方が燃えていた。そう見えた。
他国との戦争だとか事故だとかみんながうわさしたが、それもすぐにやんだ。
黒い雨が降った。
たくさんの人が死んだ。
妹が最初に死んで、そのあとは父が死んだ。
心音の家族はみんな死んでしまったみたい。
黒い雨は一週間降り続けた。
あの爆発が核爆発だったとして、黒い雨が降り続けるのも、私みたいに平気な人がいるのもおかしい。
しかしそんなことはどうでもいいことだった。
あまりに多くの人が死んでしまった。
なぜと嘆く人はいても、原因を突き止めようとする余裕は誰にもなかった。
だから、こうして“運ぶ”ことは初めてじゃない。
黙々と運ぶ。心音には私の考えも聞かれているのだろうか。
体育館が大きな棺桶になった。
「ちゃんとお葬式できなくてごめんなさい」
心音に続いて私も手を合わせる。
「…やっぱ行くつもりなんだね」
心音がどこまで考えを読めるのか分からないが、うそをついても仕方がないと頭をたてにふる。
奴らの情報収集と心音の安全確保のためにも、ほかの生き残ったコロニーを訪ねるべきだろう。奴らが荒らして回っているなら大抵のコロニーは残っていないかもしれないが、湖のコロニーならまだ残っているかもしれない。あそこは変異者が守っているとよく噂になっていた。心音の安全も確保できるかもしれない。
「空ちゃん、自分一人で行く気?私も一緒に行くからね」
心音が行っても危ないだけでしょ
「それは空ちゃんも同じでしょ?」
それは、そうだけど…
「とにかく!湖まで行ってみようよ。そのあとのことはまた一緒に考えよ」
みんなを運んでいる間に雨も弱まってきており、私たちは学校を発つことにした。
かつて希望と未来に満ちていた場所だったが、もうここにはいたくない。
「いってきます」
私たちはかつての家を離れ歩き出す。希望と未来ではなく、怨みと過去に背を押され。